旅(入江亜季作品集)のネタバレ解説・考察まとめ

『旅』とは2022年3月KADOKAWAから発売された、入江亜季による旅をテーマにした短編を集めた漫画作品。母の墓参りのために師匠と山を登りながら修行する少女・トキを描いた「トキの旅」などの短編他イラスト約30頁を収録している。各作品に対して語った書き下ろしのあとがきが見どころである。B6版、連載誌と同じサイズのワイド版の2種展開で発売された。

多朗(たろう)は病に伏せる母の代わりに行方知れずの父を探して、父の愛犬・多由良(たたら)と旅をしていた。父は絵を描いて全国を旅して回っている。唯一の手がかりは父の描いた絵であったが、多朗は路銀のため売り払ってしまう。多朗は父の絵をすべて記憶しているが、画力が足りず人々に尋ねても参考にならなかった。

ある春の日、多朗は富士山を背景に満開の桜が咲き誇る場所に立ち寄る。時を同じくして、木を挟んだ隣でまさに多朗の父が景色に感銘を受け、絵を描き始めた。多朗の父の存在に気付いた多由良は戸惑ってしまう。なぜなら、多朗の父は絵を描いている時、どんなに吠えても気付かない。また多朗も最近そうなりつつあることから、せっかく再会したのにお互い認識できないままなのだ。多由良は結局焦らず待つことにした。

後日、多朗の母は一通の手紙を病床で受取る。そこには「もうすぐ帰ります」と多朗と多由良、そして多朗の父の似顔絵が描かれていた。

トキの旅

トキは母の墓参りをするために、師匠のサンガと共に山を登ることになる。術を駆使し、軽々と岩場を登るサンガに対し、術の使えないトキはひたすら手足を使って登るしかない。散々苦労し、登った先にはサンガが味噌汁とおにぎりを作って待っていてくれるのだった。

時にトキは手を滑らせ落ちてしまい落ち込むが、その都度サンガが食事を用意し、「明日また頑張れば良い」と励ますのだった。見かねた通りすがりのトカゲが、サンガの術を使ってトキを安易に登らせるよう叱責する。サンガはそれを拒絶し、自分の仕事とは弟子を見守り、彼女が成長するのを待つのだと答える。その言葉通り、翌日トキの爪は鋭く固く変化していたのだった。
トキは爪が鋭く固く伸びたことで、「竜の鱗」と呼ばれる尾根へと到達する。元気洋々とトキは足を踏み出すが、そこは「竜の背」と呼ばれる針の道であった。足を貫かれながら、なんとか先行く師匠の元にたどり着いた彼女の足は血まみれになってしまう。サンガに手当てしてもらうと、挫けずトキは先へと進む。そんな彼女を待っていたのは、「竜の肩」と呼ばれる立ち上がれない程の砂嵐が巻き起こっている地帯であった。
砂で目を潰されつつも、なんとかサンガに追いついたトキは、師匠から目が見えないのにどうやって辿り着けたか問われる。彼女自身もそれを不思議に思っており、耳からではなく額のあたりから音が聞こえたからだと答える。サンガはそこにコブのようなものが2本できていることを発見する。その夜、トキは足裏の激しい痛みにより、高熱を出して寝込んでしまう。

翌朝目を覚ますと、トキの目は回復し、足の裏は皮が厚く鱗状に変化していたのだった。トキとサンガは遂に頂上である竜の頭頂部へと到達する。生前かけた魔法のおかげで、トキは母の目が開くのを目撃する。
母親が巨大な竜であったことを知ったトキは、サンガに「私も竜になるんですか」と尋ねる。サンガは「好きにすればいい」と答えるが、他人から「なれ」と言われた場合は拒絶しろとも言う。竜はなろうとしてなるものではなく、その者が歩んだ道が竜になるからだ。サンガに「好きに生きろ」と言われ、「はい」と答えたトキの頭には角がすっかり生えていた。

『旅』の登場人物・キャラクター

春駒

主人公

一国の王女。内乱のため、弟の手引で国を逃れるが、その弟自身から追われることとなる。誰も信用できなくなっており、毎晩眠る際は剣を抱いて眠っている。

タキオン僧侶

顔に傷があり、低身長の僧侶。毎日ニタニタしながらメモをしたためており、風と共に吠え、歌を作る日々を送っている。人と話すことは苦手のようで、歌以外では声が出ず聞き取れない。

松の木は時折目覚める

少女

吹雪の夜に迷子になってしまった少女。松の木のそばにあった松葉の布団で暖をとっていたが、眠ってしまう。松の木に松ぼっくりで攻撃され、何度か目覚めるも眠気に勝てず、眠りこけてしまう。

松の木の精

季節に関わらず、新緑のマントを身にまとっている。琥珀色の瞳で瞬きはしない。素足で歩き、血は黄金色である。自分の根本で眠ってしまった少女のために、身を傷つけ樹脂を流し、捜索隊へ狼煙を上げた。

王子の旅

タイロン王子

次期国王だが、自分は王宮に向いていないと感じ、ある日脱出。職を転々とし、自分に合う仕事は何か模索している。

大編隊の人々

riza
riza
@riza

目次 - Contents