旅(入江亜季作品集)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『旅』とは2022年3月KADOKAWAから発売された、入江亜季による旅をテーマにした短編を集めた漫画作品。母の墓参りのために師匠と山を登りながら修行する少女・トキを描いた「トキの旅」などの短編他イラスト約30頁を収録している。各作品に対して語った書き下ろしのあとがきが見どころである。B6版、連載誌と同じサイズのワイド版の2種展開で発売された。

『旅』の概要

『旅』とは2022年3月KADOKAWAから発売された、入江亜季による旅をテーマにした短編を集めた漫画作品。本作は2006年刊行『コダマの谷』に次ぐ、読切漫画を集めた作品集の第2弾となる。「第15回 マンガ部門 審査委員会」推薦作品である『乱と灰色の世界』の番外編や、雑誌『ハルタ』の帯裏にて連載していた「多朗と多由良」を収録している。加えて『青騎士』の連載告知や森薫『乙嫁語り』の応援ペーパーなど、イラスト約30頁を掲載している。作者は短編を描くことが好きで「短い話で大きなものを描く楽しみがある」のだと、あとがきにて語っている。

『旅』のあらすじ・ストーリー

春駒

主人公は一国の王女であるが、内乱のため弟夫婦の手によって国外へ逃亡する。だが信頼していた弟の妻に襲撃・殺されかけたことで、王女は疑心暗鬼になり逃亡の途中で世話になった人々をも信用できなくなってしまう。ある日、王女は1人の醜い僧侶と出会う。彼は何かをメモしてはニタニタと笑い風と共に吠える、一見不気味な男であった。だが王女は何度か僧侶と出会ううちに、彼が歌を作っていることに気づく。王女は、深夜に襲撃を決行、自分のことばかり喚く弟も手にかける。泣きながら彷徨う王女の耳に、また、風のように僧侶の歌が聞こえた。歌は最初、風音のようだったが、やがて闇が歌っているようにも聞こえる。王女は人の美しい行いがあることを思い出し、感涙する。歌い終わると、王女は感謝のキスを僧侶に送り、素晴らしい人だと称賛する。周りの者から、彼が「タキオン」という名だと紹介された王女は、清々しい気持ちでその場を後にするのだった。

松の木は時折目覚める

吹雪の夜、藁傘を被った少女が松葉を布団にして眠っていた。そんな少女の上に松ぼっくりが降り注ぐ。一瞬目覚めるも、再び眠ってしまう少女に呆れる者がいた。それは少女が眠っていた松の木の精であった。松の木の精が少女から少し離れると木の枝で己の手を傷つけ、樹脂を流し着火した。着ていた新緑のマントを着火元へ投げ入れる。それはみるみる大きな炎となって、少女の場所を知らせる狼煙となった。遠くから少女を捜索しに来た大人たちの姿を見つけると松の木の精はいつの間にか姿を消していたのだった。

王子の旅

タイロン王子は自身が王宮に向いていないと感じ、気球で王都を脱出する。自分にピッタリな仕事を探すべくラーメン屋やウェイターの職に就くも、王子を探しに来た城の者に見つかり、その度逃走していた。30歳で見つかった際には機転を利かせ、捜索しに来た大編隊に紛れ込むことに成功する。隊の中でも活躍し、40歳にして隊長に昇格する。港の海賊や山賊を追ううちに、城内の守りが手薄となりクーデターが発生する。現国王は倒され、結局タイロン王子が次の王座に就くのであった。

半年間の休暇

たか江が海で遭難して5日経った。獲った魚を骨まで食べながら、浮き輪で漂っていた。10日後には人魚の友人ができ、20日後には新たな遭難者を発見する。日を追うごとにたか江は新たな人々と出会いながら海を放浪する。そして200日後、たか江は自分の家に近いことを漂流物から察する。自分の生存を知らせるためだけに家に挨拶しに行くが、家の者たちに引き止められ、漂流仲間たちとはその場で別れることとなった。たか江は海を見ながら、漂流した思い出を時々思い出すのだった。

水中国の娘

男は市で古い水瓶をメダカでも飼うつもりで購入する。数日後、水を入れて庭に放置していたところ、水瓶の中に娘がいることを男は発見する。覗き込むと娘は隠れてしまうので、男は怖がる必要はないと、交流のつもりで麺を1本水瓶に落としてやる。翌日、水瓶には大きなお腹を抱えて満足そうに浮かぶ娘の姿があった。あまりの姿に男が思わず吹き出してしまうと、目覚めた娘はその後男が麺を与えても出てきてくれなくなってしまった。男は笑ってしまった詫びに苺を水瓶に落とす。いつか挨拶くらい出来れば良いと考える男を、食べかけの苺を抱えた水瓶の娘が庭から眺めていた。

奥さまの起こし方

メイドは奥さまに昨夜頼まれた通りの時間に起こしにやって来た。編集者からの電話が鳴りっぱなし、ワープロには数日触れた跡もないにも関わらず奥さまは起きようとしない。仕方なくメイドは眠ったままの奥さまの身支度を行い、はるか東方の国・日本から取り寄せた「神秘の実」を奥さまの口に突っ込んだ。「神秘の実」のあまりの酸っぱさに奥さまは堪らず目を覚ます。そこにはきっちりと仕事着に着替えた奥さまの姿があった。仕事の準備もメイドによって万全に整えられており、奥さまは「仕方ねえ やるか」とバリバリ仕事に打ち込むのであった。出来上がった原稿をメイドは早速読ませてもらう。その姿に奥さまは「あんたも よくこんな ベタ甘恋愛小説好きだねえ」と呆れながら、また眠るのであった。

会長の眼鏡伝説

生徒会の会長はしょっちゅう眼鏡をなくす。しかしそれは、会長のファンクラブの女子たちの仕業であった。彼の瓶底眼鏡を憎み、会長の素顔を愛するファンクラブの女子たちは、隙を見つけては会長の眼鏡を盗んでいたのであった。会長はそれを露ほど知らず、眼鏡をなくすのは自分の不注意だと考えており、スペアを持ち歩いている。ファンクラブの女子たちと会長の攻防は続いた。あまりの紛失ぶりに友人からコンタクトレンズを勧められるも、会長は目に指を入れることの恐怖でできないと拒否する。今日も今日とて、会長は大量の眼鏡を無くしながらも、大量の眼鏡を発注するのであった。

えるのお留守番

えるは7歳であるが、両親が1ヶ月帰ってこなくとも平気なくらい家事ができる。えるはある日、両親の部屋からコック帽を被ったロボットを発見する。その容貌から料理ロボットだと推察したえるは、ロボットに様々な料理を作るようリクエストする。しかし、ロボットは一向に動く気配がない。えるは仕方なく、いつも通りにパンケーキを作る準備を始める。すると、それまで無反応だったロボットはえるの「パンケーキ」の言葉に反応し、突如料理を開始する。そして出来上がったパンケーキをえるに手渡すとロボットは爆発してしまうのだった。後日、帰宅した両親と共にパンケーキを食べながら、えるは「あんなのを作る暇あったら フツーに家にいてほしいのよね!」と苦情を言うのであった。

砂漠の田崎くん

田崎は1人砂漠に住むこととなる。不満はないが、寂しくはある。ある日、田崎家の近くの木の上に、郵便局の飛行機が荷物を落とした。木にかかった荷物の中身を探したが、田崎は見つけることができない。しかし1週間後、田崎は砂漠の地に何かが芽吹いているのを発見する。気まぐれに水を与えると、その植物たちは徐々に成長した。田崎は嬉しくなって、毎日遠い水場に通って、植物たちに水を与え続けた。やがて、田崎の家の周りはたくさんの植物ガ実る地となった。その日は、旅人が蜃気楼かと思いながら、田崎家にやってきた。久しく人と話していなかった田崎は実った果実をもって喜んで彼をもてなした。そこから田崎家は人がやってくるようになる。その女性はそんな旅人の1人であった。よく働く彼女を田崎は大変好ましく思った。その町が地図に載るようになるのは、それから8年後、田崎の手には幼い子どもの手が握られていた。

乱と灰色の世界 番外編

漆間 乱(うるま らん)は誕生日の祝いに欲しいものと尋ねられ、スカートをねだる。彼女の服は兄・漆間 陣(うるま じん)のお下がりがほとんどで、乱は自分だけの可愛い服が欲しいと考えていたのだった。了承を得た乱と陣は街へと繰り出す。試着室で履いたヒラヒラのスカートを気に入り、兄に購入すると宣言するが、陣から待ったがかかる。そんな彼が取り出したのは古びたスニーカーで、それを履くと乱は大人の女性へと変身してしまうのだった。少女から大人の女性となったため、スカートは短くなってしまい、兄からはNGが出る。その後も様々な服を試着するも、変身後は全て露出の激しい服装となってしまうことから、どれも兄の眼鏡に適わない。しまいには泣き出してしまった乱に、最終的に陣は可愛い帽子をプレゼントする。喜び、小躍りしながら乱は帰宅する。乱をうまく手懐けたことに父は感心し、陣は「喜んでいるからいいだろ」と困り顔なのであった。

多朗と多由良

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