北北西に曇と往け(漫画)のネタバレ解説・考察まとめ

『北北西に曇と往け』とは、入江亜季によるアイスランドを舞台にした探偵活劇の漫画である。17歳の少年で主人公「御山 慧(みやま けい)」は両親を亡くし、祖父の「ジャック」がいるアイスランドで探偵稼業をしている。慧は機械とコミュニケーションが取れる不思議な能力を持っており、その能力を活かして人探しや物を探すという仕事をしている。2016年に『ハルタ』にて連載開始し、2021年からは『青騎士』へ移籍となった。2021年7月より単行本と比べ画面のサイズが大きくなっているワイド版が刊行されている。

『北北西に曇と往け』の概要

『北北西に曇と往け』とは、入江亜季によるアイスランドを舞台にした探偵活劇の漫画である。17歳の少年で主人公「御山 慧(みやま けい)」は両親を亡くし、祖父の「ジャック」がいるアイスランドで探偵稼業をしている。慧は機械とコミュニケーションが取れる不思議な能力を持っており、その能力を活かして人探しや物探しの仕事をしている。慧には「三知嵩(みちたか)」という弟がいるが、両親が亡くなってからは日本の叔父夫婦の家に預かってもらっていた。慧は探偵として様々な人と関わっていく中で、三知嵩に殺人の容疑がかかっていることを知る。三知嵩を探しに日本へと帰るが、叔父夫婦は事故と病気で亡くなったと聞き、三知嵩が行方不明となる。アイスランドに兄を探しに行ったという情報を聞いて、アイスランドに帰って三知嵩を待つことにした慧は、またいつもの仕事へと戻る。アイスランドで偶然にも弟の三知嵩を会うことができたが、三知嵩の周りでは不審な事件がたくさん起きていた。慧は三知嵩が人殺しなんかするはずがないと信じているが、アイスランドの警察に3件の殺人容疑がかけられている三知嵩は、連行されてしまった。
2016年に『ハルタ』にて連載開始し、2021年からは新たに創刊された『青騎士』へ移籍となった。2019年の第12回マンガ大賞にノミネートし、同年6月「第3回みんなが選ぶTSUTAYAコミック大賞」8位に入賞している。2021年7月より、単行本と比べ画面のサイズが大きく迫力のある線画となっているワイド版が、愛蔵版コミックスとして刊行されている。

『北北西に曇と往け』のあらすじ・ストーリー

アイスランドで暮らす日本の青年

17歳の主人公「御山 慧(みやま けい)」は両親を亡くし、アイスランドのレイキャビクに住んでいるフランス人の祖父「ジャック」の元で暮らしていた。生活費を稼ぐという目的と暇が嫌いな性格なため、慧は探偵を生業としている。探偵業では人探しや浮気調査などを行っていた。慧には不思議な力があり、家電などの機械の声を聞いたり、話をすることができた。よく愛車の「ジムニー」の声を聞いて喧嘩をしている。その不思議な声を使って、探偵業をしているのであった。

ある日、慧は「カトラ」という美しい女性から人探しを頼まれた。カトラは女優業をしているが、現在は休養中である。カトラはレイキャビクにある温泉で出会った男性を探していると言う。その男性は、流されてしまったカトラの水着を届け、水着をキツく縛り直した。男性が「ンッフッフ」と笑うところを見て、カトラは恋に落ちてしまったと言う。その男性の特徴的な笑い方から、慧は「例えば…会話の中であんたを花で喩えた(たとえた)。しかも学生で」「名前を言わなかったのは、また会えたら運命だから」と、カトラと男性が話した内容を当ててしまう。「ンッフッフ」と笑うその男性は、慧の祖父のジャックだった。カトラは無事にジャックと再会し、ジャックの恋人になったのであった。それからは慧の面倒も見てくれるようになった。
ジャックにも慧と同じような不思議な力があり、鳥と意思疎通できるというものであった。ジャックがカトラの手を取り、おもむろに目をつぶったと思うと、カトラにたくさんの鳥が寄ってきた。ジャックは「君は今、ブルーベリーの木」と言い「ンッフッフ」と笑った。

行方不明の弟

慧には「御山 三知嵩(みやま みちたか)」という弟がいる。以前は日本で一緒に暮らしていたが、両親が亡くなってからは日本の叔父の家に預けていた。慧がアイスランドに来てからも何度か連絡を取っていたが、急に三知嵩にメールが届かなくなってしまう。三知嵩はかなり気分屋のようで、慧はまた携帯を変えたのかくらいに思っていた。その間に慧は旅人が無くした水筒を探す仕事をしていたが、三知嵩にメールが届かないことが引っかかっていた。三知嵩を預けている叔父に電話をしてみるが、通じない。そのことに違和感を覚えた慧は、三知嵩を探しに日本に行くと言い出した。

ジャックを連れ、日本に帰る飛行機の中で慧は「叔父さんは朝起きる時間も寝る時間も40年間毎日変わらないような真面目な人だ。叔母さんだって何かあるたび速攻で礼状返してくるきちんとした人だ。こんな…俺になんの連絡もなく、電話のつながらないような状態にするわけがない」と叔父夫婦と三知嵩の安否が気になって仕方がない様子であった。日本について、叔父の家を訪ねてみると、家は空き家になって貸家となっていた。看板に書いてあった不動産を訪ね、叔父夫婦に何があったのかを尋ねると、叔父夫婦は亡くなったと聞かされた。空き家に忍び込んだ慧は、三知嵩が使っていたと思われる家電の声を聞いていた。家電は三知嵩に捨てられたと思っていないようで、引っ越したわけではないということがわかった。そこで壊れた三知嵩の携帯電話を見つけた慧は、「連絡が取れないわけだ」と落胆していた。ゴミ箱からレシートを見つけ、毎日同じコンビニでアイスを買っていたことがわかった。慧は三知嵩が通っていたコンビニに聞き込みをしに行き、そこで三知嵩がアイスランドに兄を探しにいったということを知った。ずっと思いつめていた顔が晴れた慧は、ジャックとアイスランドで三知嵩を待つことにした。

不思議な魅力を持つリリヤとの出会い

アイスランドに戻ってきた慧は、愛車のジムニーを綺麗に洗ってドライブへと出かけた。ジムニーの走りたいように走っていると、滝がある綺麗な草原へとやってきた。そこで慧は水浴びをしている綺麗な女性を見つける。慧はその女性を人間ではなく妖精のような何かと思い、じっと見つめていた。女性が着替えを取り、怒ったような顔で慧に近づいてきたところで、慧はやはっと我に返った。裸をまじまじと見たことをごまかそうとした時、慧は足を滑らせて川に落ちてしまった。川からあがると女性の姿はなく、慧は「なんだったんださっきのは」と狐に化かされたようであった。運悪く雨が降ってきたため、慧は車へと戻るが、なぜか積んであったタオルや着替えがなくなっていた。ずぶ濡れのまま帰り路を急いだ慧だったが、帰る途中にあるカトラの家で暖を取らせてもらうことにした。カトラは「これ飲んで!すぐお風呂いれるから」とショットグラス1杯のウォッカを慧に飲ませた。慧はお酒が弱く、少量でも酔ってしまう体質であった。吐き気がしたため、バスルームに向かうと、そこにはさっき会った女性が着替えている途中であった。このことに混乱した慧は、その場で気絶してしまった。
その女性は「リリヤ」というカトラの姪であった。リリヤは音楽をやっていて、コンサートをするためにレイキャビクの街にやってくるという。リリヤは無愛想な顔で慧に詰め寄り、「見られた。2回も」と言って慧のパンツを引っ剥がした。リリヤは裸を見られたことを怒っているようで、「2回見られたから、もう1回あるね。また来て」と言う。ジャックが慧を迎えに来たので経緯を話すと、ジャックは「女の子にパンツ脱がされて、何もないってどういうことだ?」と慧に詰め寄った。女性好きなフランス人のジャックからすると、慧が川に落ちたということよりもそちらのほうが問題であった。これ以降、慧とリリヤは因縁の仲となった。

アイスランドで三知嵩を待っている慧は、いつも通り仕事をしていた。しかし数日間、慧のことをずっとつけまわしていた日本人の男がいた。その男は日本の刑事で、三知嵩のことを探していると言う。三知嵩のことを匿っていると思っている刑事は、逃げようとする慧を抑え込む。そして「御山三知嵩は俺の友人を殺した。その理由が聞きたくて探してるんだ」と言った。慧は刑事の言うことを信じず、三知嵩が人を殺すはずがないと断固として認めなかった。刑事は慧に暴力で三知嵩のことを吐かせようとするが、三知嵩はまだ行方不明で慧も居場所をつかめていない状態だ。刑事と殴り合いになり、慧は気絶してしまった。刑事が去った後、傷だらけの慧を介抱する人物が現れた。それは行方不明だった弟の三知嵩であった。

慧が意識を取り戻すと、三知嵩を連れてジャックの家より近かったカトラの家に行くことにした。そこにはリリヤがおり、慧の傷の手当をしてもらった。慧と三知嵩が日本語で話していると、リリヤは日本語の音が面白いと言って聞いていたいと言う。慧は「なんで俺に連絡しなかったんだ」と三知嵩に聞くと、三知嵩は涙をポロポロと零しながら「ごめんなさい、僕が無くしたんだ。兄さんが叔父さんに渡したメモ、僕が間違って無くしたんだ。兄さんから連絡がくるの、ずっと待ってた」と言う。すると慧と三知嵩の話を聞いていたリリヤは突然怒り出してしまった。慧はリリヤが何故怒っているのかがわからなかったが、三知嵩とそのまま話を続けることにした。三知嵩は叔父夫婦の死は病気と事故で、自分は助けることができなかったと悔やんでいた。慧はそんな三知嵩を「いんだよお前は。子供なんだから」と言って慰める。三知嵩を探しにアイスランドまで来た日本の刑事のことは、面識があるが怖い人だったからあまり近寄らないようにしていたと言う。二人が話しているとジャックが迎えにやってきた。ジャックのところに喜んで飛んでいく三知嵩を見て、リリヤは慧を呼び止めて「ケイ、あの子もう、連れてこないで」と言う。三知嵩は顔立ちが整っており、人懐っこい性格から、人には好かれる傾向にあったが、リリヤは違った。「あの子が話すと汚れた音がして気持ち悪い。日本語だから何話してるかわからないけど、嘘ついてる。聞かないほうがいい。こんなに嫌な気分初めて。変」とリリヤは言った。その後、三知嵩はジャックの家にやってきたが、家事も仕事も勉強もしなかったため、ジャックの知り合いの家に預けられた。

親友とのアイスランド観光

慧は三知嵩と無理やり引き剥がされてから、ジャックに対してずっと怒っていて口も聞いていなかった。そんな慧とカトラを連れて、ジャックは狩人をやっている友人夫婦を訪ねた。友人夫婦は慧とカトラに肉をお腹いっぱいご馳走してくれると言う。大好物の肉を前にした慧は途端に笑顔になり、機嫌も良くなっていた。

慧の幼馴染で親友の「清(きよし)」がアイスランドに観光に来ることになった。清は学生でありながらもアプリ開発者であり、作ったアプリを企業に売ったりしている。慧は清に「そういえばこんな時期に来てよかったのか?受験生だろ」と聞くと、清は「勉強することもなくなってヒマしてたし、なにか新しい見たことをないものを見て、心底びっくりしたくて来たんだ」と答えた。清は慧の不思議な能力のことを知る少ない人物で、そのことを疑ったり気持ち悪がったりしないため、慧にとっては心置きなく話せる数少ない友人であった。

慧は普段見ることのないガイドブックを持って、清をアイスランドの観光名所に連れて行く。アイスランドで一番高い建造物である「ハットルグリムス教会」では、レイキャビクの街並みを一望することができた。その後はチョルトニン湖やジャックの散歩道などを案内した。車は日本車が多く、「TOYOTA」の文字をたくさん見た清は嬉しそうにする。街中を散策していると雨が降ってきた。アイスランドでは傘を使わずに防水の上着のフードを被ることがほとんど。雨宿りができるところを走って探しているうちに、慧と清ははぐれてしまったが、お互いに心配はしていなかった。慧は本屋によって新しいガイドブックを探し、清は銀行で両替をしていた。清は両親からアイスランドでたくさん写真を撮ってくるようにと言われていたため、慧とはぐれてからは街中で積極的に声を掛けて写真を撮らせてもらっていた。そこで清はすれ違った女性に「写真を撮らせてもらえませんか?すごく、綺麗な人だから」と顔を真っ赤にしながら言った。声を掛けられた女性はリリヤであった。リリヤは清のお願いに「いいよ」と快く返事し、満面の笑みを見せた。リリヤは清のことを気に入ったようで、「私にも送って、これメールアドレス」「あなた綺麗な声ね」と言って連絡先を自ら交換した。後に、清のカメラに映る満面の笑みリリヤを見た慧は「誰だこれ。クッソかわいいな」と言っている。リリヤだと知った慧は真っ青になり、「清…騙されているぞ。あいつ中身は悪魔だぞ」と身を震わせながら言っていた。

アイスランド観光中の清はジャックの家で寝泊まりしていた。ジャックは清が素直に自分の話を聞いてくれるところや、肉だけでもなく野菜も美味しいと言ってくれるところが気に入っていた。慧は清を連れてゴールデンサークルへと向かう。ゴールデンサークルはレイキャビク周辺の有名な観光スポット数カ所のことで、アイスランドに来たら誰もが行く観光スポットである。広大な滝の「グトルフォスの滝」や、熱湯が吹き上がる「ストロックル間欠泉」を見た清は「小さいのにスケールの大きい国だなぁ」と驚いていたが、慧は「その感想、まだ早えよ。まだとっとけよ。次を見てから言え」と嬉しそうに清を次の場所へと案内する。慧は清を「シンクヴェリトル国立公園」へ連れて行った。そこは北米プレートとユーラシアプレートが引っ張られてできた場所であり、地球規模の大きさで清は驚きを通り越してポカンとしていた。

次の日はジャックが案内人となり、清をもてなすことになっていた。ジャックは慧と清を連れて「レイキャダールル」へ行き、道中のハイキングとゴールの温泉を楽しんでもらう算段であった。ゴールの温泉は水着で入れるところになっており、慧と清とジャックは温泉に浸かってのんびりしていた。清が「最初は有名なブルーラグーンに行くのかと思いました」と言うと、ジャックは「あれはね、ナンパをするところだよ」と答えた。そこでどの女の子が好みかという話になる。ジャックが「(好みの女の子を)教えたら今夜はステーキにしてやるぞ」と言うと、女の子に興味がない慧は品定めをし始めた。顔は見ていないが、身体がいいという女性を見つけるが、その女性はリリヤであった。リリヤが清を見て「あれ…あなた知ってる」と言うと、慧は「なんで知り合いなんだよ!!!」と大声をあげていた。
清が日本へと帰る前日、レイキャビクでは大きなオーロラが出ていた。綺麗で壮大なオーロラを見て、慧は夜中にも関わらず「ドライブ行こうぜ、清」と笑顔で言う。慧と清は一晩中、車の中で話をしていた。夜明け前には荷造りも終え、空港に向かった清は日本へと帰り、慧の休暇も終わったのであった。

三知嵩の周りで起こる数々の不可解な事件

慧はまた探偵業をして生活費を稼いでいた。今度の依頼は行方不明の弟を探してほしいということであった。依頼主の兄がいくらか調べた資料があったので、弟の居場所はすぐに突き止めることができた。行方不明の弟はセーフハウスという帰る宛もない人たちが集まるところを出入りしていた。そこで会った女の子「シグルーン」が弟のことを匿っており、面倒を見ているようだ。行方不明の弟を依頼主の兄へと引き渡す時、セーフハウスの階段を降りた慧は「この階段以前にも、降りたことないか…?」と違和感を覚えていた。階段を降りる時の軋み具合や角度や手すり、デジャブというよりはっきりと感覚を覚えていることから、慧は「知ってる。この階段を降りたことがある」と確信していた。

この前の依頼で知り合ったシグルーンから連絡が来て、今度は「フレイヤ」という女性を探してほしいと依頼してきた。フレイヤはセーフハウスに出入りしていた赤毛の女性で、何かに怯えているような状態でシグルーンに携帯を預けて姿を眩ました。慧はフレイヤの携帯の中を見るが、不在着信が多いことに違和感を覚える。電源を入れた途端に電話がかかってきたため、落ちていた携帯を拾ったふりをして電話に出た。電話の相手は三知嵩であった。三知嵩にフレイヤのことを聞くと、「フレイヤは僕の友達だよ」と言って、電波がわるかったのか、雑音の後に電話が切れてしまった。思いがけない繋がりがあったことに驚いたが、慧はこの時あの階段のことを思い出した。あの階段とあの家は慧が刑事にやられて怪我をしたとき、三知嵩が慧を連れて行ったところだった。怪我をして意識が朦朧としている中、三知嵩に付き添われてカトラの家に向かったため、慧の記憶は曖昧になっていた。

三知嵩がアイスランドにやってきた時、三知嵩に優しくしてくれたのがフレイヤである。お腹をすかせて道で倒れている三知嵩を、セーフハウスに連れてきたことがきっかけで、三知嵩はフレイヤにとても懐いていた。三知嵩はフレイヤから受け取るご飯しか食べず、ずっと帰りを待っている仔犬みたいと言われていた。それを見かねた「サーラ」という女性が、フレイヤの代わりに三知嵩の世話をするが、三知嵩の異常なまでの執着に疲れ、三知嵩に黙ってセーフハウスを離れようとしていた。このことが三知嵩にバレてしまい、サーラのことを「なんだ…。いい人じゃないのか」と言う三知嵩。そして「さよなら、サーラ」と手を広げる三知嵩にサーラは弁解をしようとしたが、三知嵩が触れたところがまるで刃物に切られたような感覚に陥り、そのままサーラは死んでしまった。それを間近で見ていたセーフハウスの女性が逃げようとするが、三知嵩はそれを見逃さず「さよなら、誰か知らないけど」と言い、首に手をかけた。

慧のための子守唄

慧はフレイヤの携帯から情報を得て、フレイヤの乗っていた車を見つけ出した。車は雪に埋まっていたが、慧の不思議な能力でフレイヤがどこに行ったかを聞き出すことができた。アークレイリにある家にフレイヤがいることを突き止め、フレイヤを見つけ出す慧とシグルーンだったが、フレイヤは自分を追ってきた人物がいることがわかるとすぐに走って逃げてしまう。すぐに慧に捕まるフレイヤだったが、ひどく怯えた状態であった。シグルーンがフレイヤのことを心配していたと伝えると、ようやく正気を取り戻したフレイヤはシグルーンを抱きしめる。慧から逃げている際に足を捻ってしまったフレイヤを抱えて歩き、三知嵩のことを聞いた。するとフレイヤは顔を真っ青にして「ミチタカは私があの家に連れてきた」と言って倒れてしまった。フレイヤを休ませてから改めて三知嵩のことを聞くと、三知嵩は人を殺したと言う。フレイヤは嘘をついている様子もなく、本気で怯えていた。その様子を見た慧は、三知嵩のところに行くと突然言い出した。

三知嵩はジャックの知り合いの「ハンドル」という男性に預けられており、足の悪いハンドルの身の回りの世話をするようにと言われていた。慧はハンドルにすぐに連絡を取って三知嵩に会いに行くと、三知嵩はいなくなっていた。ハンドルの農場を探しても、ジャックに確認しても、三知嵩を見つけることはできなかい。そこで慧はセーフハウスにも行ってみた。しかしセーフハウスはガランとしており、人も物もすべてなくなっていた。近くにいた人に聞いてみると、セーフハウスは近々建て直されることがわかった。三知嵩に繋がるものをすべて失ってしまった慧は、来る日も来る日も三知嵩のことを探しに出かけていた。

自分のことも顧みずに三知嵩のことを探しているうちに、慧はひどい風邪を引いてしまう。出張で居ないジャックの代わりに、カトラとリリヤが慧の世話をしていた。慧はすぐに三知嵩を探しに行くと言うが、リリヤが「何してるの?病人でしょ。大人しくしてて」と立ちふさがる。リリヤは慧の車の鍵を隠し、慧をベッドに戻そうとするが、三知嵩が見つからない焦燥感と熱で加減が効かない慧と取っ組み合いになる。慧が隠した鍵を探す際、リリヤの胸を鷲掴みにしたことで、リリヤが怒って平手を食らわした。その衝撃で倒れた慧をベッドに戻すリリヤは慧の額に手を当てて「ケイ、泣いたら。泣いていいよ」と優しく言う。そのまま眠ってしまった慧に、リリヤは曲を聴かせた。カトラが飲み物を持って様子を見に来て「なんの曲?」と聞くと、リリヤは「今作った、子守唄」と言った。

リリヤの不調

風邪が治り、肉を元気にたいらげる慧を見て、カトラは「弟、探しに行く?」と聞く。慧は「行かねぇよ、仕事しないと。三知嵩の情報ならついでに当たってみる」といういつもの調子であった。そこにリリヤが帰ってきて「ケイ、元気そう」と言う。買い物を済ませてきたリリヤは帰ろうとするが、慧はリリヤを引き止める。慧が珍しく「いや…その、サンキュー。世話になった気がする」と素直にお礼を言うと、リリヤは「…うん。他には?」と怒った様子で聞く。なんのことかがわかっていない慧に、リリヤは「私の胸つかんだ」と言った。慧は「嘘だ!」と言うが、リリヤは嘘が嫌いなため絶対に嘘はつかない。慧はおぼろげな記憶を辿るが、リリヤが「車の鍵を渡しが返さなかったとき」と言うと、「あのとき…?そんな感触しなかったぞ」と慧は言った。そのことに怒ったリリヤは、ジャックや清に慧が泣いていたということを言いふらした。

あれから清とジャックに散々怒られた慧は、リリヤにちゃんと謝りに行くことにした。家から出てきたリリヤは「ケイのせいで楽器が鳴らない。ケイが私をイライラさせるから」と言ってきた。慧は「楽器なんて鳴らせば鳴るだろ」と思っていた慧だったが、リリヤが「鳴らない…」とうずくまってしまったのを見ると、さすがに悪い気持ちになったようであった。そこで慧とジャックは、気分転換にリリヤを連れ出すことにする。3人はリリヤが行きたがっていた、アイスランド南部にある単成火山が連なったラキ火山へと行くことにした。慧のジムニーに食料をいっぱいに詰め込み、普段は載せない後部座席を追加してラキへと向かった。
ラキへ行くときは川を車で渡る必要があり、水の中を走ることのできる車2台以上で向かうことが鉄則である。車が壊れたり、増水で渡れなかったりしたときに他の車で帰れるようにするためだ。ラキへと同行することになった観光ガイドの「グンナル」はたくさんのお客を連れていた。途中、川が増水していて慧のジムニーが渡れなくなったので、山の麓まではグンナルと同行しているフォードに乗せてもらう。ラキの全貌を見るために徒歩で山を登ることになったが、山道の途中でリリヤが足を捻ってしまったため、慧がリリヤをおぶって行くことになった。山道を歩いているとき、慧はリリヤに「楽器が鳴らないってどういう意味だ。音は出るんだろう」とずっと気になっていたことを聞いた。するとリリヤは「…ケイ、車好きよね。車が走らない…ってある?走るけどいつもと同じにしても、調子がわるいときある?」と聞き返した。その言葉に納得した慧は「ああ…あるな。そうか、楽器も同じか」と、リリヤの楽器が鳴らないという意味が理解できたようであった。リリヤは「さっき車に話しかけてたよね」と言うが、慧は「は…話しかけてねぇし」と顔を赤らめて否定する。嘘をついているのがリリヤにバレバレだったが、リリヤは慧のことをバカにせず「笑ってないよ。大切な道具は身体の一部だから」と言う。霜を踏みしめる慧の足音が心地よかったらしく、リリヤが笑って「ケイの足音、喋るよりもずっといい音。こんな風に話してよ」と言った。慧は「意味わかんねぇよ、変なやつ」と言っていたが、リリヤのことが少しわかったようであった。
しばらく歩いていると、火口がたくさん並んでいるところがあった。それがラキであった。広大なラキを見て、リリヤが歌い出す。メロディーはなく、風の音のような歌声で歌ったリリヤは、すっきりした顔で慧に「帰ろう」と言った。また、リリヤをおぶって帰る慧にリリヤが耳元で「ケイ、今日はありがとう」と言う。その言葉に慧はまんざらでもなさそうな顔をしており、二人は仲直りできたようであった。

兄弟での探偵仕事

慧はラキで聞いたリリヤの歌声が忘れられず、リリヤのコンサートに行くことにした。リリヤのチェロと歌はアイスランドでは大人気で、リリヤの歌を聴くためにたくさんの人がバーに集まっていた。そこで聴いた歌が慧の頭の中をずっと巡り、慧はしばらくぼーっとしていた。目を瞑っている慧にリリヤは、自分の歌を聴いて寝てしまったのだと思っていた。リリヤを迎えに来たカトラに「ケイが来てた。…寝てたけど」と報告するが、カトラは「え~~~~~?」と驚きの声を上げる。リリヤは「最後の曲、この間作ったケイの子守唄だったから間違ってない」と少しムッとした様子であった。

慧が家でくつろいでいると、三知嵩が訪ねてきた。三知嵩は泊めてくれるところを転々としてきたと言う。慧になんの連絡もしなかったのは、自分のことを放っておいたからだと言っていた。三知嵩にはすぐ投げ出すくせがあり、慧と一緒に餃子を作っても長続きしなかった。苛立ちを見せる三知嵩だったが、慧はそれに怒ることもなかった。三知嵩が入れたコーヒーを慧は「…うまい」と言った。三知嵩はコーヒーがあまり好きではないが、砂糖とミルクを入れて甘くして飲むと涙を零しながら「やっぱり僕にとっては兄さんのいるところが家だ」と言った。三知嵩にまた人殺しの疑いが掛けられていることを言ったが、三知嵩は「僕じゃないよ。人殺しなんかしない」と言う。ジャックの家で居候するにあたり、仕事をさせようとするジャックだったが、三知嵩は断固として「嫌だ、働きたくない」と首を縦に振らない。ジャックに対して無愛想な態度を見せていたが、慧に言われると素直になる三知嵩であった。
慧は今まで通り探偵の仕事をする。今度の依頼は「イルヴァ」という女性からで、夫の浮気を特定してほしいとのことであった。慧はイルヴァの夫「アーリ」の車や携帯電話から「ソーレイ」という作家の女性と何か関係があることを悟った。慧が家に帰ると、三知嵩はその時の気分で家事をしたりしていなかったりであった。ジャックからは手を出すなと言われているので、慧は三知嵩にうるさく言うこともできなかった。ある日、慧が仕事に出かけようとすると、三知嵩も一緒に行きたいと言いだした。ソーレイにアーリのことを聞こうとするが、慧は「相性が悪い。俺じゃ警戒されるだろうな」と手をこまねいていた。すると三知嵩が「僕が行こうか。適当に話してみるよ」とソーレイの元に言ってしまった。三知嵩は記憶喪失を思わせるような儚げな少年を演じてソーレイに話しかける。見事ソーレイの心を射止めた三知嵩は、話くらい聞いてあげるからコーヒーを飲みに行こうと誘われた。三知嵩の聞き込みでソーレイのことを聞き出すことができ、田舎の一軒家が売れたという情報を得た。ホテル経営をしているアーリはソーレイの小説のファンで、物語の舞台となった家が売りに出されたことでソーレイに交渉を持ちかけ、ゲストハウスにするという企みを考えていたのであった。イルヴァには単に内緒にしていただけであった。
慧の仕事が終わったところで慧と三知嵩は家へと帰るが、そこには警察が来ていた。三知嵩に3件の殺人容疑をかけられているとのことで、三知嵩を連行していったのであった。

『北北西に曇と往け』の登場人物・キャラクター

主要人物

御山 慧(みやま けい)

日本人の17歳の少年で主人公。両親が亡くなってからは祖父の「ジャック」がいるアイスランドで暮らしている。生活費を稼ぐためと暇が嫌いなため、探偵業をしている。肉が大好きで、どんなに不機嫌であっても肉を目にするとたちどころに機嫌が直る。弟の「御山 三知嵩(みやま みちたか)」のことをとても心配しており、三知嵩が人殺しをしていると聞いても絶対に信じなかった。長身で筋肉質な体型で顔も整っているため、女性に言い寄られることも多いが、本人は恋愛に興味がない。ドライブが好きで、ジャックから譲り受けたジムニーを大切にしている。
機械とコミュニケーションがとれるという不思議な能力を持っており、それを使ってよく愛車のジムニーの声を聞いている。携帯電話を頭に当てるだけでメールや写真を見ることができ、探偵業にその能力を活かしている。

御山 三知嵩(みやま みちたか)

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