こむぎびよりのコッペパン(漫画)のネタバレ解説・考察まとめ

『こむぎびよりのコッペパン』とは、漫画家・魚田 南によって2020年5月12日より『マンガJam』にて連載された女性漫画である。不器用な青年と一匹の犬が出会って始まる日常生活が描かれている。主人公・甲斐田 一虎はバイト帰りに、河川敷に捨てられている犬・コッペ・パンを見つける。コッペ・パンはパンが大好きで、好き嫌いが激しいことで前の飼い主に捨てられてしまった。複雑な家庭環境によって愛情を知らない一虎と、人間に心を開かないコッペ・パンの2人が共に過ごし、信頼関係を築いていくストーリーである。

『こむぎびよりのコッペパン』の概要

『こむぎびよりのコッペパン』とは、漫画家・魚田 南(うおた みなみ)によって2020年5月12日より『マンガJam』にて連載された女性漫画である。
インターネット上で約3年に渡って連載された。祥伝社から、紙媒体の単行本として3冊が発行されている。

本作では、不器用な青年と一匹の犬が出会って始まる日常生活が描かれている。
京都に一人で暮らす主人公・甲斐田 一虎(かいだ いちご)は、バイトからの帰り道、鴨川の河川敷に捨てられている一匹の犬・コッペ・パンを見つける。コッペ・パンはパンが大好きな犬で、食べ物にこだわるあまり「手に負えない」と前の飼い主に捨てられてしまっていた。一虎はそんなコッペ・パンを拾い自宅で飼い始める。そして彼はコッペ・パンを通して周りと関わり自分の世界を広げていく。孤独に生きていた一虎と、人間に心を閉ざしていたコッペ・パンの2人が、少しずつ歩み寄っていくハートフルなストーリーとなっている。

『こむぎびよりのコッペパン』では”人との関わりによって変化する心”が一貫して描かれている。
家族の愛情を知らない一虎は、大学やバイトのため外出はするものの、自ら線引きし他人を近寄らせようとしなかった。そしてコッペ・パンは元飼い主以外には懐かず、食べ物にこだわる頑なな態度を疎まれて捨てられてしまう。そんな周りを拒絶していた2人は、共に暮らす中でことでお互いを気遣い始め少しずつ心を開いていく。そして2人は周りの人間・動物にも関わっていき、周りの人間の心にも影響を与えていく。一虎とコッペ・パンの心の成長が繊細に描かれた、胸がほっこり温まる魅力的なストーリーとなっている。

『こむぎびよりのコッペパン』のあらすじ・ストーリー

コッペと一虎の出会い

この春に大学生になった甲斐田 一虎(かいだ いちご)は、バイトに明け暮れる毎日を送っていた。
ある日の帰り道、小雨の降る中、鴨川(かもがわ)の川沿いに捨てられた1匹の犬を見つける。犬は段ボールに入れられており、近づいてみると毛が伸び放題でみすぼらしい姿だった。
一虎は犬が入っている段ボールの中から一通の手紙を見つける。手紙には「舌の肥えた犬です、手に負えません…。パンが好きらしいです。与えてください。名前はコッペ・パン」と書かれていた。一虎が犬に対して「コッペ・パン」と呼ぶと、犬・コッペが元気よく返事をしたため、情が湧いた一虎はコッペを自宅に連れ帰ることにした。


自宅に帰った一虎は、まずコッペの身体の汚れを落とすべく、風呂場でコッペの全身を洗う。水に濡れて毛が萎んだコッペは、脂肪がついていないガリガリの身体つきだった。
コッペの痩せた身体に驚いた一虎は、風呂上がりにコッペのご飯を用意する。手紙の通りに好物であろう食パンをそのまま与えるも、コッペは顔を背けて食べようとしない。そしてコッペは台所に歩いていき「パンを焼け」と言わんばかりにトースターの台を前足で引っかく。一虎が焼いた食パンを与えると、コッペは先程の無関心さが嘘のように喜んで食パンを食べる。一虎はコッペにパンの好みがあることに驚き、手紙にあった「舌の肥えた犬」とはこのことかと納得する。
コッペが幸せそうにパンを食べる姿を見てホッとした一虎は、自分も久しぶりの空腹を感じた。実は2週間前、一虎は自分を京都へ引き取り育ててくれた大切な人・伯母を亡くしていた。生前の伯母と「学校へは通い続ける」と約束していたため、一虎は一人暮らしをしながら大学に通う毎日を送っていたのだ。そして彼は伯母の遺産を残しておくため、自ら生活費と学費のために毎日バイトに明け暮れ、自身の生活を蔑ろにしていた。一虎は久しぶりの香ばしいパンの香りを嗅ぎ、昔が懐かしくなる。
一虎はふとコッペを洗うときに外した首元のリボンを裏返してみた。リボン裏には飼い主の住所が記載されていたが、文字がかすれて住所を読み解けない。ただコッペに迷子札のようなリボンを付けさせていたことから、一虎は「飼い主がきっとコッペを探しているだろう」と考えた。一虎はコッペの飼い主を必ず探しだすこと、そしてそれまでコッペを自分で世話することを決めた。

新しい友と新生活

一虎はコッペを動物病院へ連れて行くことにした。コッペの体調が心配だったのと、迷子犬の届けが出ていないか尋ねに行くためだ。診察の結果は「問題なし」で一虎は一安心したが、コッペの捜索願は出ていなかった。
帰宅後、一虎はコッペにドッグフードを与える。獣医から、パンばかり食べるコッペの食生活を指摘されたからだ。しかしコッペはドッグフードをまったく食べようとしないため、一虎は仕方なく、上に目玉焼きを乗せたトーストをコッペに与える。そして一虎はコッペに「パンは朝昼合わせて1枚。そして一緒にタンパク質を食べること」とルールを決める。さらに自分も見本となるべく、栄養のある食事を心がけることにしたのだった。

一虎は買い出しの途中、ペットサロン「らぶり〜ペットチャーミー」を見つける。コッペのボサボサの毛が気になっていた一虎は、思い切って店に入った。するとお店でトリマーとして働く青年・ともやすが気さくに声をかけてきて「何かの縁だ」とトリミングのタダ券をくれたため、翌日一虎はコッペを連れて再度お店を訪れる。
店内で受付した後、コッペをトリミングスペースに連れて行ったのは、店で共に働くともやすの母だった。現在ともやすはカットを担当していないのだという。実は彼は1年前、客の犬が暴れたことにより客と揉め、トラウマで施術できなくなっていたのだ。しかし一虎がともやすにコッペの施術をお願いすると、彼は緊張しながらもコッペを整えてくれた。
毛をカットされたコッペはとても可愛く、一虎は綺麗になったコッペの姿に感動する。一虎に感謝され、そして満足そうなコッペの顔を見て、ともやすはトリマーとしての自信を取り戻した。そして3人は友達になったのだった。

一虎とコッペは2人で京都市内のパン屋巡りをしていた。先日のトリミングに行く報酬として、コッペに「京都のパン屋巡りをしてパンを買う」と約束していたのだ。
歩き始めると、コッペは自分の行きたい方向へ引っ張り進路を変えようとしない。一虎がコッペに従うと、コッペが目指す先には必ずパン屋があった。その後もコッペに連れられてパン屋を何店か周り、一虎はたくさんのパンを買った。
パン屋巡りに疲れた2人は鴨川の河川敷に腰掛け、パンを分け合って食べることにした。コッペが見つけた店で買ったパンはどれも美味しく、そして一虎は今日訪れた数々の店を思い出し、今までの暮らしでは知らなかった京都が知れたことを感動する。友達もおらず毎日1人で過ごしていた一虎だが、コッペとともに過ごしている中で新しい発見ができ、自分の見識を広げてくれたコッペに感謝したのだった。

懐かしい友との再会

一虎はともやすの店で、よく雑談をするようになった。
2人がいつものように話していると、突然かつての友人・杣山 大吾(そまやま だいご)が肩を怒らせて入店してきた。大吾は一虎に向かって一方的に捲し立てる。そして彼は、最後に「俺は待ってたのに」とこぼし、来たとき同様突然その場を去ってしまった。ともやすは大吾の素性を一虎に尋ね、一虎は「中学からの腐れ縁だ」と返す。
一虎は中学生の頃関東から京都へ越してきたが、周りに馴染めない転校生だった。そして京都の名家出身である大吾も、公立校のクラスの中で浮いた存在だった。そんな一虎と大吾は馬が合い、中学から高校まで共に過ごした。しかし2人が高校三年生になった夏、一虎の伯母に末期がんが見つかり、一虎は学校へ行かなくなった。そして一虎は大吾に会わないまま高校を卒業し、2人は今日久しぶりに再会したのだった。
一虎は大吾の「俺は待ってたのに」という言葉に、かつて大吾と交わした「高校を卒業したら同じ大学に行こう」という約束を思い出す。一虎が連絡を断ったことから、2人は別々の大学へ進んでいた。一虎は約束を破ったことに顔を青くする。
項垂れる一虎を見て、コッペが一虎を前足でポンとたたき「これから大吾に会いに行こう」と励ます。コッペの行動に背中を押してもらった一虎は、これから大吾に会いに行くことに決めた。

一方、一虎に突撃した大吾は自宅に戻り、昔を思い出していた。
大吾は小さい頃から親の言いなりだったが、初めて反抗して家系が通う私立ではなく公立の中学へ進学した。家や自分のことを誰も知らない環境へ身を置きたかったのだ。しかし大吾は公立でも遠巻きに見られ、落ち込んでいる時、大吾は自分と同じく周りと馴染めていない一虎に出会った。2人は友達になり、大吾は一虎のそばに心地よさを感じていた。しかしやがて一虎が学校に来なくなり、連絡も途絶えた。その後大吾は親の言いつけどおりの大学へ進学し、一虎との繋がりを完全に無くしてしまったのだった。
しかしある日、大吾は鴨川の河川敷で一虎とコッペを見つけた。一虎がまだ京都にいたことに驚いた彼は、SNSで一虎のアカウントを探し出し、ともやすの店を突き止めて一虎に会いにきたのだった。

コッペと一虎は大吾の家に到着した。沈みこんだ大吾の様子に一虎は怖気付くが、コッペが突然大吾に向かって突撃し、話しかけるきっかけを作ってくれる。
一虎は大吾に「学校に行かなくて、連絡しなくてごめん」と頭を下げる。そんな一虎に、大吾は一方的に縁を切られたショックと頼って欲しかった怒りをぶつける。一虎は「実は伯母さんの病気がわかる少し前、母親の葬儀があった。そして母親の葬儀のすぐ後、ずっと昔に家を出て行った父親が自分に会いに来た。母の死、父との再会、伯母の病気発覚で、気持ちに余裕がなく自分のことしか考えられない状態だった」と、今まで大吾に話せていなかった自分の事情を話す。
一虎が事情を話し再度頭を下げると、大吾は理解し2人は和解する。翌日、一虎と大吾はともやすに会い騒がせたことを謝罪し、皆は友達になったのだった。

前飼い主との出会い

一虎とコッペが一緒に暮らし始めてからもうすぐ3ヶ月になる。ガリガリに痩せていたコッペも適正体重になり、動物病院での定期診断でも問題ないと診断された。
しかし相変わらずコッペの元の飼い主は見つからない。一虎はコッペの飼い主が見つからない場合、今後もコッペを飼うことも視野に入れていたが、自分に飼いつづけられるのか不安だった。
実は一虎は、コッペを"家族"として迎える覚悟ができていなかったのだ。一虎は複雑な家庭環境で育ったため、"家族"というものが自分の中でうまく理解できていなかった。一虎は、家族の愛情を知らない自分がコッペをこれからもちゃんと愛せるのか、と悩んでいたのだ。

そんな一虎の前に、コッペのことを「チョコちゃん」と呼ぶ少女・田村 伊与(たむら いよ)が現れる。共にいた伊代の父親に事情を聞くと、実はコッペは以前田村家族に飼われていた犬だと分かる。コッペは伊与が拾ってきて家族になったが、母親が勝手にコッペを捨ててしまったのだという。コッペとともに段ボールに入れられていた手紙は、伊与の母親が入れたものだった。
伊与はコッペとの再会を心から喜ぶが、父親は「一度捨てた身なので連れ戻すなんて気は一切ない」とコッペの引き取りには消極的だ。しかし「コッペと一緒にいたい」と駄々をこねる伊与のため、一虎は一晩だけコッペを伊与の家にお泊まりさせる提案をする。
一虎は翌朝コッペを迎えに来ることを約束して、コッペを伊与の家に預けて1人で帰宅した。
自宅で1人過ごす一虎はモヤモヤが晴れず、ともやすに電話で「自分がコッペを飼っていていいのか」と相談をする。しかしともやすから「コッペくんの新しい飼い主探しなんて必要ないと思う。君たちは既に家族みたいに仲良しや」と励まされ、一虎はついにコッペを飼い続ける覚悟を決める。


翌朝、実はコッペの様子が心配だった一虎は、朝早くに伊与の家を訪ねる。チャイムを鳴らすとコッペを抱き抱えた伊与が出てくるが、コッペはみるからに元気がない。
実はコッペは昨夜から大好物であるはずのパンも食べないのだという。コッペは昨夜夕ご飯に差し出されたパンを見て、いつも世話をしてくれていた一虎を思い出し、寂しくなってしまったのだ。
うずくまるコッペを心配した一虎が手を差し出すと、コッペは一虎に向かって精一杯前足を伸ばし、もう離さないというように一虎にしがみつく。一虎はコッペのそんな姿を見て、コッペの自分への愛情を感じ、コッペを優しく抱きしめて頭を撫でる。
田村家からの帰り道、一虎はコッペを抱き抱えたまま話しかける。「コッペ、きっと俺たちこの先もっと喧嘩するぞ。使える金は少ないし、俺はバイトばっかで家にいないこともある。お前のパンも買い忘れるけどそれでもいいか?」と聞くと、コッペは「わふっ!」と一言、了承するように吠えたのだった。
そして一虎がコッペを引き取り、コッペは正式に一虎の飼い犬となった。

飼い主としての覚悟

一虎とコッペはともやすの店で、初老の男性・櫻井(さくらい)と、飼い犬・こうめを見かける。同じ犬種のこうめを見たコッペは、彼女に興味を持つ仕草を見せたため、一虎は後日ともやすに櫻井とこうめの素性を尋ねる。ともやすから櫻井とこうめが常連の客だと教えてもらった一虎は、頻繁にともやすの店に訪れ1人と1匹を待った。
数日後、一虎とコッペはやっと櫻井とこうめに再会し、一虎は犬同士の挨拶を願い出る。櫻井が了承してくれたため、コッペは初めてこうめに挨拶したのだった。
櫻井とこうめはとても友好的で、一虎たちは櫻井たちと散歩をする仲になった。その中で一虎がコッペがパン好きなことを話すと、櫻井はコッペの元飼い主に繋がる重要な情報を教えてくれる。櫻井の妻は以前高校職員を務めており、その高校の購買に毎日犬を連れてパンを売りに来る老人がいたというのだ。その犬はコッペような蝶ネクタイをつけたシュナウザー犬だったという。


一虎はその情報を元に、櫻井の妻が勤めていた高校へ1人で足を運ぶ。職員に話を聞くと、パン屋の老人は古部(こべ)という名前で、毎週犬を連れて購買のパンを卸しに来ていたという。古部は犬を「パンくん」と呼んでいたそうで、一虎は古部の犬こそコッペだと確信する。
一虎は教えてもらったパン屋へ向かうも、パン屋はすでに閉店していた。
一虎は現在この店に住む古部の孫・安達 淳一(あだち じゅんいち)に詳しい話を聞くため、店の前で彼が帰るのを待つことにした。店に帰ってきた安達に一虎は自己紹介をし、コッペの写真を見せる。すると安達は、コッペが自分の祖父・古部が飼っていた犬だと認める。
コッペは古部が入院したことで、安達たち家族の自宅で預かっていた。しかし古部が亡くなった後、コッペが逃げ出してしまったという。安達からはコッペへの愛情は感じられず、一虎はなぜコッペがこの家族の元から逃げ出したのか分かった気がした。一虎が安達にコッペは自分が引き取ったことを伝えると、安達はホッとしたような表情で頭を下げたのだった。

一虎はやり切れない気持ちのまま自宅に帰る。そしてコッペに、安達と会ったことを伝えると、コッペは怒りの態度を見せる。困った一虎はともやすに相談すると、ともやすは「怒っていると言うより不安なのかもしれない。今度はイチ君に捨てられてしまうと思ってるのかも」と言う。その言葉にハッとした一虎は、ギュッとコッペを抱きしめ「今さら捨てるなんてことあるわけないだろ」と自分の気持ちを伝える。するとコッペは泣きそうな顔で、安心したように一虎にすり寄ったのだった。
仲直りした2人は数日後、古部のパン屋へ線香を上げに行った。一虎は仏壇に手を合わせ、コッペは元気に暮らしていることを古部に伝えたのだった。

父親との和解

一虎とコッペが日課の散歩をしていると、一虎の前に過去に母親と付き合っていた男が現れる。彼は金の無心をしながら「母親の居場所を教えろ」と一虎に迫り、一虎がたじろぐと、男の腕をひねり上げる別の男性が現れた。それは一虎の実の父親・ノリだった。一虎に迫った男はノリの圧力と腕の痛みに耐えられず、その場から逃げ出す。男が逃げ出した後、ノリは一虎に「自分の姉である伯母の墓参りに来た」と言う。一虎は怒り「伯母さんの墓の場所を教える気もない。お前を許すこともない」と言い捨て、コッペを抱えてその場から逃げるように去った。
一虎の父親・ノリは、一虎が生まれてすぐ家を出て行った。そのため一虎は小さい頃から母親と2人暮らしで、母は父親の代わりの彼氏に夢中で一虎の世話をせず、一虎は小さい頃から1人で過ごしていた。一虎は自分と母を捨てた父をずっと許せなかったのだ。

先の一件の後、ノリは頻繁に一虎の前に現れるようになった。ストーカーのように後をつけてくる父親の行動に一虎は頭を悩ませ、ともやす・大吾に相談していると、一虎のスマートフォンに父親の再婚相手・サイラスから着信が入る。
翌日、一虎がサイラスと約束した待ち合わせのカフェに向かうと、サイラスは一虎の顔を見るなり「伯母さんが亡くなった事を知らずお葬式にも伺えず、申し訳なかった」と頭を下げる。そして彼は、なぜ今になってノリが一虎に会いにきたか、事情を話した。
実はサイラスとノリは、以前伯母から「自分に何かあったとき一虎の力になってほしい」と頼まれ、一虎の連絡先を教えてもらっていた。そして伯母が亡くなったと知り、サイラスは一虎を心配しノリに日本に行くように迫った。しかしノリは「自分には一虎に会う資格がない」と言い張り2人は喧嘩になり、そしてノリは当てつけのように1人で日本に行ってしまったのだという。ノリから連絡が来たサイラスは驚き、自分も慌てて追いかけるように来日したのだ。
事情を話してくれたサイラスに、一虎は「俺には今コッペも友人もいる。だから俺は大丈夫です」とはっきりと伝えると、サイラスは納得する。一虎とサイラスと長く話し込んでいると、繋いでおいたはずのリードが解けて、そばにいたはずのコッペがいなくなっていた。話し合いは一旦中断となり、後ろの席で一虎を見守っていたともやす・大吾を加え、4人でコッペを探す。
一方コッペは、案の定一虎の後をつけてきていたノリの目の前にいた。コッペを探しにきた一虎はノリを見つけ、コッペを彼から引き離そうとするがコッペはその場から動かない。追いついてきたサイラスがノリを引き離し、その場はお開きとなった。
帰宅後、一虎はコッペに「コッペは、俺が親父と話したほうがいいって思ってんのか?でも俺、やっぱ許せない」と弱音をこぼす。コッペは一虎の膝の上に乗り「大丈夫」というように一虎にすり寄る。コッペの行動に元気をもらった一虎は、父親と話すことを決意しサイラスに連絡をとったのだった。

後日、一虎とノリは伯母の墓参りに来ていた。伯母の墓前に花を供えたノリは、真剣な表情で手を合わせ頭を下げる。
そんな父親の後ろ姿に、一虎は「あんたの事は苦手だし怖い。理解をしてはやれないかもしれないけど、話だけは聞く」と自分の気持ちを打ち明ける。するとノリは珍しく無表情をくずして「俺は昔からお前が傷つくことを心配していた。母親は、お前を俺を呼び出すための道具として利用していた。俺が近寄るとまたお前が母親に利用されてしまうから、遠くからずっと見守っていた」と真実を伝える。初めてお互いの気持ちを伝え合えた2人の間には、以前のような張り詰めた空気は無くなっていた。
別れ際、小さい子供のように過剰に接してくる父親の姿に、一虎は溜飲も下がった気がした。

コッペの成長

一虎とコッペは、コッペのダイエットを始めた。コッペが肥満気味だと診断されてしまったためだ。食生活を考え直し、一虎はコッペを痩せさせるために様々な努力をする。
このダイエットは、コッペに自信を持たせる目的もあった。コッペは先日行ったドッグランで、自分から他の犬のそばに寄らず、恥ずかしがって一虎から離れようとしなかった。一虎はコッペの引っ込み思案な性格を心配し、このダイエットを機会に自分に自信を持ってほしいと思ったのだ。

そんな一虎の元に、突然伊与の父親から連絡が入る。内容は、最近飼い始めた愛犬・ナンについての相談だった。ナンは警戒心が強く、なぜか伊与にだけ懐かず困っているという。父親は「ナンとコッペくんを会わせてくれないか」と一虎に頼み、一虎はこれを了承したため、後日両者は久しぶりに会うこととなった。
一虎と伊与たちは、京都の鴨川公園で会うことにした。いざナンをお披露目しようとするが、ナンは初めての場所に怖がり、キャリーバッグから出ようとしない。一虎はナンの気を引くためおもちゃのボールを鼻先に寄せ、興味を持ったナンに見せるようにボールを少し遠くに投げる。するとナンはバッグから飛び出し喜んで遊び始めた。
しかしその後のナンは、伊与が投げたボールを無視し、伊与からのみオヤツを受け取ろうとしない。ナンは、コッペと遊ぶ伊与に対して拗ねていたのだ。さらにナンは嫉妬から、伊与の手からボールを奪い取り、遠くへ放り投げる。
ついに伊与は我慢ができなくなり「なんでナンちゃんはこんなことばっかりするの。ナンちゃんは悪い子だよ」と泣き出してしまう。ナンは伊与の言葉にショックを受け、その場から逃げてしまい、一虎・伊与・父親は慌ててナンを追いかける。
3人が必死にナンを探している間、その場にとどまっていたコッペのもとに、項垂れたナンが帰ってくる。勢いよく逃げたはいいものの、知らない場所が怖くなって戻ってきたのだ。それから一虎たちが戻ってくるまで、コッペはナンを守るように寄り添い、飼い主達を待った。
ナンがコッペと一緒にいることに気づいた面々はひと安心し、伊与は先ほどの自分の言葉を後悔していた。そんな伊与に、一虎は「ナンちゃんの今までの行動は試し行動って言うんだ。ナンちゃんは自分のことまだ好きでいてくれるかなって不安だから、伊与ちゃんと仲良くしたくて確かめているんだよ」と伝える。一虎は先ほど遊んでいるときに、ナンの行動が試し行動だと気づいたのだ。それを聞き、伊与はナンをギュッと抱きしめて「伊与はナンちゃんのこと好きだよ。今までごめんね、仲直りしよう」と優しく伝える。するとナンは初めて、自分から伊代に擦り寄ったのだった。

態度が変わったのはナンだけではなかった。一虎とコッペがドッグランに行くと、コッペは初めて犬たちの前に自分から立ち、他の犬と遊びはじめる。ナンとの出会いでコッペも成長し、コッペに社交性が芽生えたのだ。
一虎はコッペの成長に感動し目を潤ませる。そんな一虎も他の犬の飼い主たちに話しかけ、一虎の交友関係輪が広がった。一虎は、コッペを通して周りと関わって生きることができるようになったと実感するのだった。

悲しい別れと将来の夢

一虎とコッペは、春休みで京都に来ていた伊与と公園で遊んでいた。そこへ伊与と同学年くらいの男の子・アキが駆けてきて、伊与にぶつかり、2人は喧嘩を始める。一虎とコッペが仲裁に入るが、アキは逃げてしまった。
翌日、伊与がアキに泣かせたことを謝りたいと言うため、一虎は彼女を連れてアキの元へ向かう。一虎は、アキが同じアパートの住人の甥っ子だと突き止めていたのだ。アキに会い伊与が謝り、2人は仲直りする。
そこへ突然アキの父親が現れると、アキは「家には帰らん!ナナの死ぬとこなんか見たくない!」とまた逃げ出してしまう。一虎と伊与は彼を追いかけ、河川敷で1人でいじけているアキを見つける。そして一虎は、アキが泣いて逃げ出したのは、彼の愛犬・ナナの出産が理由だと知る。
ナナはアキの愛犬で、母親がおらず父親と2人暮らしの生活で、アキにできた大切な家族だった。しかしそんなナナが妊娠し出産すると聞かされたアキは、自分を産んで母親が亡くなったように、ナナも子供を産むことで死んでしまうと思ったのだ。
一虎はアキの気持ちを酌み、連れ戻すことなくその場でゆっくり話をすることにした。一虎・伊与・アキの3人で、家族や愛犬の話をする。お互いの家族について話し、落ち着いたアキは、ナナを応援し赤ちゃんを受け入れようと決意したのだった。
その後アキは父親のもとに戻り、ナナが入院している病院へ向かった。アキは出産間近で苦しそうにしているナナを前に、目に涙を浮かべながらもナナを応援した。その後ナナは無事出産を終え、母子共に無事だったことにアキは喜んだのだった。

数日後、一虎は自宅で、父親・ノリとビデオ通話をしていた。実は一虎は、ノリからイギリスに来ないかと誘われていたのだ。
しかし一虎は、ノリに「俺はこっちに残る。ブリーダーになりたいんだ」と初めて自分の夢を明かす。一虎は様々な犬たちと出会う中で、人間と犬の関係に強く惹かれ、犬のブリーダーという職業につきたいと考えるようになったのだ。一虎は「コッペが生まれて自分と出会ってくれたことで人生が変わった。彼らと関わる仕事がしたい」と思った。
ノリはそんな一虎の夢を応援し認めてくれる。自分の気持ちを打ち明けられた一虎は自分の両頬を叩き、気合を入れ直す。そして自分の人生の目標となるブリーダーへの道を進むことを、改めて決意したのだった。

アキからナナの出産報告を受けた数日後、一虎は櫻井から、こうめの訃報を受けた。
一虎とコッペはこうめの墓参りに行き、元気のない櫻井と対面する。彼はこうめを失った喪失感に立ち直れていない様子だったが、いつものように笑顔を絶やさず、墓参りを感謝してくれる。
櫻井と別れた一虎は、鴨川の河川敷で、コッペを抱きしめながら物思いにふけっていた。こうめを亡くした櫻井を見て、コッペがそうなったとき自分がどうなるかわからないと思ったのだ。そこへ心配したともやすが来て、愛犬を無くした経験を語り、一虎を慰めてくれる。そして「彼ら1匹の代わりはいないから、いつだって大事だって伝えていくしかないんだ」と続けたともやすの言葉に、一虎は深く納得する。パートナーと別れる将来を後悔しないよう、今を精一杯大事にして生きていくしかないと覚悟が決まったのだ。
一虎はコッペを大事そうに抱きしめ「コッペのことが大好きだよ」と心を込めて伝える。するとコッペは照れたように笑い、一虎にすり寄ったのだった。

数ヶ月後、一虎はブリーダーのバイトを始めていた。バイトからの帰り道、一虎は鴨川の河川敷を眺め、コッペとの出会いを懐かしむ。家に帰るとお土産のパンを催促するコッペが待っていた。一虎は、これからもコッペを大切にしながら生きていこうと決意したのだった。

『こむぎびよりのコッペパン』の登場人物・キャラクター

主人公

甲斐田 一虎(かいだ いちご)

コッペの飼い主。大学1年生で19歳。
京都で独り暮らしをしている中、河川敷に捨てられていたコッペと出会う。
自身の大学学費と生活費を稼ぐために、毎日バイトに明け暮れている。
母親と二人暮らしをしていたが、中学生のころ母親が精神病院に入院したため、伯母に引き取られ京都に来た。
父親は自身が小さい頃に家を出たため、父に対する記憶がほとんどない。
小さい頃から周りに頼れず、孤立し周りを突き放していた。
コッペと暮らし始め、犬のブリーダーになるのが将来の夢となる。

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