SIDOOH―士道―(漫画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『SIDOOH―士道―』とは、髙橋ツトムの歴史漫画で、2005年6月から2010年11月まで『週刊ヤングジャンプ』に連載された。幕末の動乱期に入る直前の江戸時代を舞台に、両親を亡くした雪村兄弟が剣術を身につけながら侍として生き抜く物語であり、幼少期と青年期の2つの部分に大きく分けられ、特に幼少期の悲惨さは他の歴史漫画には無いと評されている。時代の混沌と修羅の世界を背景にした兄弟の成長と彼らが直面する試練を描いており、読者に深い感銘を与える。

『SIDOOH―士道―』の概要

『SIDOOH―士道―』とは2005年6月から2010年11月まで『週刊ヤングジャンプ』に連載された、髙橋ツトムによる歴史漫画である。単行本は全25巻で、幕末の動乱期に入る直前の江戸時代を舞台にした作品だ。両親を亡くした雪村兄弟は、剣術を身につけて侍として生きる道を選ぶ。兄の翔太郎(しょうたろう)と弟の源太郎(げんたろう)は、坂本龍馬や新選組などの歴史的人物や事件に巻き込まれながら、時代の激流に挑んでいく。
物語は、天保13年(1842年)の江戸から始まる。雪村翔太郎と雪村源太郎という二人の兄弟がたった二人で生きる決意を誓い、容赦なく降りかかる時代の混沌、修羅の世界を描いている。その後、兄弟は様々な人々と出会いながら、江戸から京都へと旅立つ。途中で、坂本龍馬や新選組のメンバーとも交流するが、彼らとは敵味方の関係になってしまう。兄弟は、自分たちの信念を貫きながら、幕末の歴史の中で生き抜いていく。
物語は、江戸から京都へと移るとともに、幕末の歴史の節目に立ち会う。兄弟は桜田門外の変や安政の大獄、桂小五郎の暗殺などの事件に関わりながら自分たちの道を探していく。翔太郎は、坂本龍馬と親交を深めていくが、その一方で新選組とも対立する。源太郎は、新選組の隊士として活躍するが、その中で沖田総司や土方歳三とも友情を育む。兄弟は、それぞれの立場から幕末の動乱に巻き込まれていく。
物語は、激動の幕末を舞台にしながらも、雪村兄弟の人間ドラマを描いている。兄弟は、互いに想い合いながらも、時代の流れに翻弄される。彼らは、様々な人々との出会いや別れを経験しながら、成長していく。作品は、歴史的な事実に基づいて描かれており、登場人物や背景も細かく描写されている。髙橋ツトムの画風は、リアルで迫力あるもので、読者を引き込む。『SIDOOH―士道―』は、幕末の歴史を知ることができるだけでなく、雪村兄弟の感動的な物語を楽しむことができる作品だ。

この作品は、雪村兄弟の成長と冒険を描くとともに、幕末の歴史をリアルに再現している。髙橋ツトムの緻密な画力と迫力あるストーリーが魅力で、第11回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞した。コミックスは集英社から発売されており、電子書籍版も配信されている。

『SIDOOH―士道―』のあらすじ・ストーリー

白蓮隊(びゃくれんたい)に加入

物語は上総国出身の兄弟、雪村翔太郎(14歳)と雪村源太郎(10歳)がコロリという流行病で亡くなった母の「腕を磨け」という言葉に従い、父の形見の剣を取り強くなるために江戸へ向けて旅立つところから始まる。
上総国から江戸へ向かう途中で朝倉清蔵(あさくらきよぞう)と出会い、「剣術を学び、強くなりたい」という翔太郎に「ついてこい」といい、白心郷(びゃくしんきょう)という邪悪な組織に売られてしまう。
白心郷は上総の大領主である瑠儀(るぎ)が率いる秘密結社で、人間の臓器を薬として売りさばき、大規模な私兵を持っている。瑠儀は、日本を自分の支配下に置こうとする野心家で、薩長と同盟して倒幕を目論んでいる。
翔太郎と源太郎は白心郷に捕らわれた後、牢屋に監禁され文字通り”生かされている”状態になる。それは、白心祭(びゃくしんさい)と呼ばれる殺し合いの儀式に出すためでそこで死合(しあい)を行うためだった。
白心道は白心郷で教えられている剣術で、その目的は勝利にのみ焦点を当てている。この剣術では、弱者には容赦なく斬り込むことが求められている。そこで一番の強者、川窪朝路(かわくぼあさじ)と対峙する。
翔太郎は、命を賭けて勝ち抜き、白心郷の刺客集団である白連隊(びゃくれんたい)に加わった。白連隊は、朝倉清蔵(あさくらきよぞう)、伊能謙之助(いのうけんのすけ)、鮫島太助(さめじまたすけ)、百舌(もず)、そして雪村兄弟から成る秘密の部隊。彼らは隠密行動を得意とし、世の中を変えるための先駆けとして活動し、黒船・ワシントンなどを襲撃した。

江戸での出会いと数々の試練

雪村兄弟が白心郷を離れ、自分たちの力を試すため、そして強くなるために江戸へと旅立つ。雪村兄弟が江戸に着いた直後に大火事が発生し、その原因が幕府による異人船の焼き討ちだと明らかになる。
異人船(黒船)撃墜の命が下った白連隊は黒船の中からの襲撃も必要と考え、百舌をスパイとして潜伏させる。
一方、異国の技術や異人たちの姿に驚嘆する源太郎。彼らの持つ銃に特に興味を抱く。スパイとして芸者として働く百舌と再会した翔太郎は、彼女の計画に巻き込まれる。百舌は異人船に潜入し、情報を集めることを企てていた。翔太郎は彼女の計画の危険性を理解しつつも、彼女の魅力に惹かれてしまう。そして、彼女とのキスが二人の関係に新たな複雑さをもたらすことになる。
百舌が潜入した異人船は襲撃され、彼女は捕虜になってしまう。翔太郎は彼女を救出するために、白連隊の仲間たちとともに異人船に乗り込む。しかし、幕府のスパイであった瑠儀による裏切りにより、異人船は火災に見舞われる。兄弟は異国の兵士たちとの死闘を繰り広げつつ、生死を賭けて脱出を試みる。
最終的に翔太郎は百舌を見つけられなかったが、兄弟は海中での戦いを乗り越えて無事に脱出する。その一方で、百舌は実は異人船に救助されており、翔太郎の子供を身ごもっていることが判明する。この秘密は周囲には明かされない。脱出後ほどなくして兄弟は、堀彦五郎(ほりひこごろう)という幕臣に拾われ、彼の家で働くことになる。
堀は日本地図の制作に情熱を捧げる伊能忠敬(いのうただたか)の弟子であり、雪村兄弟も地図制作の技術を学び、成長していく。
彼らの日々の生活は、堀の娘である小春(こはる)との交流を通じても豊かなものとなる。兄弟と小春はお互いに心を通わせ深い絆を築いていくが、平穏な日々の一方で幕府と攘夷派の対立が激化していく。
この混迷する時代の中で、兄弟は攘夷派のリーダーである川畑大吾(かわばただいご)と出会う。川畑は幕府に不信を抱き、自身の信念を貫く人物であり、その思想に共感を抱く兄弟も彼との出会いが運命的だった。
一方で、幕府と攘夷派の対立は次第に激化し、堀は反逆の罪により切腹させられる。その死によって兄弟は幕府への復讐を誓う。
さまざまな試練に立ち向かい兄弟は堀の信念に触発されつつも、自分たち自身の信条を見つめ直し成長していく。
兄弟の地図制作の腕前も徐々に向上し、彼ら自身の個性が地図に反映されていく一方で、時代の動乱は兄弟の生活に影響を及ぼし始める。幕府と攘夷派との衝突が激化し、兄弟は川畑と共にその渦中に巻き込まれていく。信念と現実との間で葛藤しながらも、雪村兄弟は自分たちの道を見つけようと奮闘する。

会津藩での活躍

江戸での事件後、さらに力をつけるべく会津磐明館(あいずばんめいかん)に剣術を学びに会津にやってきた雪村兄弟は、新たな仲間たちと出会う。彼らは幕府に忠誠を誓う武士たちであり、兄弟もその仲間に加わり、戦いの舞台へと身を投じることになる。初めは異なる環境に違和感を感じながらも、兄弟は武士としての誇りと覚悟を胸に、日々の訓練と戦闘に情熱を注ぎ込む。
雪村兄弟は飛躍的に成長し、厳しい訓練と戦闘を通じて次第に強さを身につけた。特に源太郎の剣技は確かなものとなり、その刀が敵に向けられるたびに魂を込めた一撃が放たれる。彼の勇気と剣の腕前は武士たちから尊敬された。翔太郎もその俊敏な身のこなしで戦場を駆け巡りその動きは広く会津藩内で注目を浴び、彼らの勇気と決断力は多くの人々に影響を与え続けた。幕府と新政府の対立が激化するなか、戦況が一層過酷になり、兄弟は何度も戦いに身を投じる。源太郎はその優れた剣術で多くの敵を打ち破り、その武勇は会津藩内外の武士たちに称賛された。翔太郎もその機敏な動きで戦場を駆け巡り、彼の存在は会津藩の中で大きな影響を持つことになる。
会津藩内で、片岡鶴太郎は剣術の達人として雪村兄弟と剣を交え、その実力と信念を試した。その後、片岡鶴太郎と兄弟は共に戦う仲間として結びつく。また、薩摩のリーダーで愛で出来ていると評される、西郷隆盛と出逢う。兄弟は薩摩と会津、異なる立場から来る戦いの意味について深く探求する。
戦闘の中で兄弟は友情や信念をさらに深めていき、幕府と新政府の対立が激化する混迷した時代において兄弟自身と周囲の人々に勇気と希望をもたらす重要な存在となる。しかし、会津藩も次第に窮地に立たされ、戦局は一層厳しさを増していく。

新撰組との交流

兄弟は会津藩の命を受け、京都守護職である松平容保(まつだいらようほ)に仕えるために京都へ向かう。やがて、兄弟は尊王攘夷派の組織である新選組と接触する。
そもそも新撰組とは、幕府の特殊部隊で、幕末の動乱期に活躍した武士たちだ。
雪村兄弟と新撰組の関係性は敵対と協力の両面があり、白連隊は倒幕を目指していたので、新撰組とは幾度となく戦闘を繰り広げた。しかし白心郷の裏切りや薩長の野望に対しては一時的に共闘することもあり、特に翔太郎と土方歳三は、剣の腕を認め合って互角の戦いをした。また源太郎は佐川官兵衛に師事して剣術を学び、新撰組の中でも近藤勇や沖田総司などが兄弟にとって重要な役割を果たした。源と沖田の間には友情も芽生え、最終的には親友のように接する。
京都での出来事を通じて、兄弟は尊王攘夷派の志士たちや異なる藩士たちとも交流し、彼らは自らの立場や使命、そして時代の流れに対する新たな理解を得ていくことになる。一方で、幕府と尊王攘夷派の対立がますます激化するなか、兄弟はその立場や信念に疑問を抱くようになる。
彼らは、ただ単に敵対するだけでなく、自身の信念や立場を深く考えることを迫られる瞬間が訪れる。
幕末の情勢がますます緊迫していく中、兄弟は幕府と尊王攘夷派との間で葛藤する立場に立たされることとなる。彼らは京都の街での様々な出来事や選択を通じて、最終的な決断を下すために自らの信念や使命を見つめ直す。

長州の変革最終決戦

翔太郎が百舌との結婚に向けて新たな人生の一歩を踏み出す瞬間から始まる。一方、坂本龍馬と中岡慎太郎は倒幕の志を抱き、白心郷の支配者である瑠儀と運命的に出会う。そのころ翔太郎と源太郎は、白心郷の那鴨(ながも)から坂本龍馬と瑠儀の密会の情報を得る。この情報をもとに雪村兄弟は近江屋への襲撃を計画する。この襲撃は、坂本龍馬と瑠儀に対する絶好の機会となり、のちに大事件を起こすこととなる。
雪村兄弟を含む会津藩は瑠儀の野望を知り、彼の計画に反対する。この反乱の行動は白連隊に追跡され、翔太郎と中岡は彼らによって追い詰められる。しかし、翔太郎は百舌や仲間たちによって救出される。
翔太郎は江戸に向かう途中で新撰組の土方歳三との運命的な対決に立ち向かう。この剣の闘いの中で、土方は翔太郎に武士道の本質を説く。それはつまり「見返りを求めず死ぬ覚悟」ではなく「死ぬ覚悟を内に秘め恥じないように生きる覚悟」であった。
一方、源太郎は佐川官兵衛に敗北し命を救われる。官兵衛とは、会津藩の家老で、剣の腕前は超一流。彼は周囲の人望も厚く直情的な性格で人情に厚い。そこに喧嘩早い源がこれを機に、武士道と忠義について学び始める。翔太郎は相馬主計(そうまかずえ)との壮絶な戦いを通じて、相馬兄弟が過去に白心郷とつながっていたことに触れる。翔太郎らに助けられつつも、相馬主計は自身の過去と朝路への復讐のために白心郷に留まるが、刺客たちに敗北する。
また、水面下で計画していた「坂本龍馬暗殺」を成すべく近江屋への襲撃を行う。源太郎は力花火と空飛ぶ駕籠を武器に、大空飛び交う気球から襲撃を試みる。一方近江屋に潜入した翔太郎は、ついに坂本龍馬、中岡慎太郎と遭遇を果たした。最先端のピストルを構える坂本に対し翔太郎の剣が刺さる。ここで坂本、中岡、両名は死亡した。
息つく暇なく第一次長州征討が勃発し、翔太郎たちが会津藩の一員として戦闘に加わる。激しい戦闘の中で、翔太郎が高杉晋作との激闘を制した。
第二次長州征討では、白心郷も力を合わせて戦う決戦が始まる。この戦闘で翔太郎と源太郎は瑠儀との壮絶な対決に挑む。彼らは連携し瑠儀の弱点を突き、その野望を打ち砕く。瑠儀の死により白心郷は崩壊し、その支配が終わりを告げる。
白心郷を滅びへと導いた会津軍。深傷を負った翔太郎と共に源太郎は一路、会津を目指した。やがて眺望が開けると、そこには夢にまで見た磐梯山(いわきさん)が目に入る。家族を想い、友の存命を願い続けた翔太郎が、静かにその瞳を閉じた。

『SIDOOH―士道―』の登場人物・キャラクター

主人公

雪村翔太郎 (ゆきむら しょうたろう)

雪村翔太郎は、上総国出身で、愛称は「翔(しょう)」。彼はコロリで亡くなった母の「腕を磨け」という言葉に従い、父の形見の剣を取り、弟と共に強くなるために旅立つ。途中で出会った朝倉清蔵により源太郎と共に白心郷に売られ、生贄に捧げられるも見事朝路を打ち破り瑠儀に認められる。以降は白心郷の童連として剣の修行を積む。二年後、立派に成長した翔は白心郷の刺客集団(白連隊)として黒船・ワシングトンを襲撃。黒船を撃沈した後、白心郷に裏切られ処刑された清蔵に変わり、白連隊の長となる。さらに一年後、各々の武士道を見つけ瑠儀を討ち取るべく江戸、会津では佐川官兵衛の元にて修行を積む。その腕前は新撰組の土方歳三と互角、怪我をしていた高杉晋作と対峙するときには、わざと自分も傷を負いながら打ち倒すほど成長した。根は優しい性格で武士としての礼儀を重んじる。目的であった瑠儀を討って白心郷を崩壊させることに成功したが重傷を負った後、源太郎に遺言して死去。

雪村源太郎(ゆきむら げんたろう)

雪村源太郎は、雪村翔太郎の4歳下の弟で、愛称は源(げん)。破天荒な言動によって問題を起こすことも多々あるが、人情に厚い面も持っている。10歳のときに両親を失い、兄と行動を共にする。剣は人物同様「型」にとらわれない自己流であるが、長州藩の桂小五郎に実質勝利する程の腕前である。 最後は土方歳三と共に函館まで戦い続けたが生き残り、妻や百舌の待つ会津に帰った。

白連隊

百舌 (もず)

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