金の国 水の国(漫画・アニメ映画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『金の国 水の国』(きんのくに みずのくに)とは、戦争寸前の2つの国に生まれた男女が、偶然の出会いから手を取り合い、それぞれの故国と自分たちの未来を切り開いていく岩本ナオの漫画作品。2023年にアニメ映画が公開された。
1000年前から断絶と戦争を繰り返してきたアルハミト国とバイカリ国。ある時、アルハミトの王女サーラはバイカリの技師ナランバヤルと出会い、新たな戦争を避けるため彼に協力を乞う。これを快諾したナランバヤルは、アルハミトとバイカリの本格的な和平のために水路を作ろうと思い立つ。

『金の国 水の国』の概要

『金の国 水の国』(きんのくに みずのくに)とは、戦争寸前の2つの国に生まれた男女が、偶然の出会いから手を取り合い、それぞれの故国と自分たちの未来を切り開いていく岩本ナオの漫画作品。
2016年には『このマンガがすごい!2017』オンナ編1位を受賞し、翌年の「マンガ大賞2017」で第2位となるなど、その壮大にして優しくも愛らしい物語は各方面から絶賛される。2023年には原作の最初から最後までをアニメ化した長編映画が公開された。

富と広大な砂漠を有する商業国家アルハミト国と、貧しくも豊かな自然に恵まれたバイカリ国は、1000年前から断絶と戦争を繰り返してきた。ある時、アルハミトの王女サーラはバイカリの技師ナランバヤルと出会い、新たな戦争を避けるため彼に協力を乞う。これを快諾したナランバヤルは、アルハミトとバイカリの抱える問題を改めて認識し、本格的な和平のために両国の間に水路を作ろうと思い立つ。
サーラという後ろ盾を得たナランバヤルの情熱は少しずつ国を動かしていくが、戦争を望む者たちはそれを快く思わず、2人を排除するべく暗躍。共に過ごす内に想い合うようになっていったサーラとナランバヤルは、その手を取り合いながらアルハミトとバイカリの未来を懸けて試練と困難に臨んでいく。

『金の国 水の国』のあらすじ・ストーリー

金の国と水の国

“金の国”こと富と広大な砂漠を有する商業国家アルハミト国と、“水の国”こと貧しくも豊かな自然に恵まれたバイカリ国は、昔から断絶と戦争を繰り返してきた。ある時は「お前のところの雑草が自分の領土に生えてきた」と言って諍いを起こし、ある時は「布団の音がうるさい」と言って争いを始める。そうやって幾度も戦争を繰り広げた末に、両国の間には1つの条約が結ばれることとなった。
“アルハミトは国で1番美しい娘をバイカリに嫁に出し、バイカリは国で1番賢い若者をアルハミトに婿に出す”

この条約によってついに平和がもたらされた、などということはなく両国は争いと諍いを続け、気付けば1000年もの年月が流れる。いつしかアルハミトとバイカリの国境には巨大で長大な壁が建設され、両国の往来は完全に閉ざされる。
アルハミトに流通ルートの大半を塞がれたバイカリは貧しくなり、族長のオドゥニ・オルドゥは「今度こそアルハミトを滅ぼしてやる」と敵意を募らせる。一方のアルハミトも、商業的には成功するも人口の増加によってもともと少なかった水資源が枯渇し、「完全に水が尽きる前にバイカリを攻め滅ぼして水資源を奪おう」と国王ラスタバン三世は軍備増強を進めていく。

愚かな戦争の歴史を経て、一見平和そうに見えるアルハミトとバイカリは、しかし互いに命運尽きかけた状態にあった。

のんびり王女と技師の青年

アルハミトの第93王女サーラは、バイカリからやってくる「国で1番賢い若者」と結婚することとなっていた。「どんな人が来るのだろう」と不安を感じていたサーラだったが、“婿が入っている”として屋敷に運び込まれた籠の中にいるのが子犬だったことに仰天する。「何か手違いがあったのだろう、バイカリがこんな無礼を働いたことが公になったらまた戦争になる」と考えたサーラは、侍女と相談して子犬のことは秘密にしようと決める。
同じ頃、バイカリの青年技師ナランバヤルは、アルハミトから送られてきた「国で1番美しい娘」を嫁として押し付けられていた。先だって手に入れた古代水路の設計図のことで頭がいっぱいだったナランバヤルだったが、オドゥニから授かった嫁ともなれば無視はできず、これを丁重に迎え入れる。しかし“嫁が入っている”はずの籠の中から出てきたのは愛らしい子猫で、ナランバヤルはこれを「アルハミトはわざと外交非礼を働いて戦争の口実にする気だ」と見抜き、周囲には黙ったまま子猫を飼い始める。

子犬をルクマンと名付けてかわいがるサーラだったが、父から宛がわれた屋敷を姉たちが訪れ、「バイカリで1番賢いというお前の婿を見てみたい」と言い出す。これを断れず、「今日はお疲れだから日を改めてほしい」と誤魔化すサーラだったが、ならばと別の日に会わせることを約束させられてしまう。頭を抱えたサーラは、誰も来なくてお気に入りのバイカリとの国境を遮る壁の近くで考えをまとめようとするが、老朽化で空いた壁の穴を通ってルクマンがバイカリの領地に入り込んでしまう。
慌ててこれを追いかけたサーラは、ルクマンが深い穴に落ちているのを発見し、これを助けようと悪戦苦闘。そこにオドンチメグと名付けた子猫と一緒に散歩していたナランバヤルが現れ、「なぜここにアルハミトのお嬢さんがいるのか」と不思議に思いつつルクマンを穴から助け出す。お礼に一緒にお弁当を食べようとサーラに誘われたナランバヤルは、彼女の純粋さと優しさに惹かれ、照れ隠し交じりに「困っていることがあれば力になる」と申し出る。ここでサーラは姉たちとの約束を思い出し、「新たな戦争を避けるため、自分の婿のふりをしてほしい」と彼に頼み込む。

アルハミトの窮状

ナランバヤルを連れてアルハミトに帰還したサーラは、姉たちとの約束を守るため、彼と共に王都に向かう。その途中で一行は右大臣のピリパッパという男と出会い、ナランバヤルは彼が今この国で国王に次ぐ権力を握っていること、バイカリを攻め滅ぼす戦の準備をしていること、アルハミトの水資源がもう数十年ほどで尽きようとしていることを知る。
王女たちとの面会の場には、第1王女のレオポルディーネや彼女の愛人かつ左大臣のサラディーンまでもが顔を出した。レオポルディーネとサラディーンはナランバヤルが偽物の婿であることを察して揺さぶりをかけるも、彼はこの追及をなんとか誤魔化す。2人はアルハミトから送られた「国で1番美しい娘」が子猫であることまで知っており、この話題を持ち出してナランバヤルの反応を見ようとするも、サーラが頑として「父がそんなことをするはずがない」と言い張って話を終わらせる。

かくしてサーラとナランバヤルは王女たちの好奇心を無事に満たし、新たな戦争の危機はとりあえず回避される。しかしサーラの屋敷に帰ろうとしたところで、ナランバヤルが「サラディーンと飲んでくる」と言って街中へと姿を消す。
アルハミトとバイカリが思っていた以上の緊張状態にあることを知ったナランバヤルは、より確実に末永く戦争を回避するために「バイカリからアルハミトに水路を作る」ことを考えていた。水資源さえあればアルハミトが戦争を急ぐ理由も無くなり、現在の国力の差を理解すればバイカリも戦端を開く愚を悟り、水資源の共有による運命共同体となれば両国がいたずらに戦火を交える可能性も低くなる。ナランバヤルはサラディーンを熱心に口説き落とし、彼から協力を引き出すことに成功。戦争以外の形でアルハミトとバイカリが未来を紡いでいく第1歩を踏み出す。

しかしこのやり取りは、ピリパッパの手下のバウラという男に盗み聞きされていた。両国の間に水路を作ることで戦争を止めるという2人の計画を聞いたバウラは驚くも、レオポルディーネの配下のライララという女性に「他言すれば家族を殺す」と脅されて身動きが取れなくなる。

バイカリの貧困

その後ナランバヤルはサーラの屋敷で世話になりながら、サラディーンと共に水路作りに奔走していく。いきなりよく知らない国に来て、自分のために様々に尽力してくれたナランバヤルのことをサーラも深く信頼し、水路作りについては詳しく教えられることもないまま「好きなだけこの屋敷に滞在してください」と彼に伝える。サラディーンから「水路を作るとなれば、戦争を仕掛けたい派閥の者たちから命を狙われる危険もある」との注意を受けたナランバヤルは、これについてますますサーラに話せないまま事業に奔走する。
そんなある日、オドンチメグがサーラの屋敷から姿を消す。ルクマンと一緒にこれを探しに出掛けたサーラは、オドンチメグがバイカリに向かったことを知り、「ナランバヤルから預かっている大切な子猫だから」とこれを追いかける。やがてサーラはナランバヤルの家でオドンチメグを見付けるも、ここでオドゥニが「アルハミトで1番美しいという娘の顔を見てやろう」と彼の村に押し掛け、迂闊に出ていくこともできなくなってしまう。

ナランバヤルの父であるサンチャルから「息子の嫁のふりをしてくれ」と懇願されたサーラは、“ナランバヤルには妻がいる=もう結婚している”と勘違いして強いショックを受ける。しかし「彼がそうしてくれたように、自分も彼の立場と名誉と祖国のために力を尽くすべき」と考え直す。
“ナランバヤルの妻”という立場を演じながらのオドゥニとの対面を終えたサーラは、ルクマンとオドンチメグを連れてアルハミトへと向かう。そんな折、以前に手に入れた水路の設計図を取りにバイカリに戻ってきたナランバヤルと対面し、彼がすでに誰かと結婚しているという話を思い出して涙ぐむ。これを見て慌てたナランバヤルは、不器用に一生懸命に彼女を慰め、「アルハミトとバイカリの間に水路を作る」計画について説明。サーラが生きている間にアルハミトを水に困らない国にしたいとの本心を打ち明ける。

ナランバヤルがアルハミトと自分のために働いてくれていることを知ったサーラは、それを喜ぶと共に「自分が彼の心を手に入れることはできないのだ」との思いを新たにする。「いつでも難しい方の道を選んでください、あとで良かったと思えます」との言葉をナランバヤルに送り、早く水路の設計図を取りに戻るよう勧めると、サーラはルクマンやオドンチメグと共に屋敷に戻るのだった。

ナランバヤル暗殺計画

ナランバヤルとサラディーンの水路建設の計画は少しずつ形になっていき、アルハミトの議会もこれに前向きな姿勢を見せ始める。レオポルディーネを筆頭とする王女たちもほとんどが戦争を望んでおらず、彼女たちの後押しもナランバヤルたちの大きな力となった。しかし開戦派であるラスタバン三世とピリパッパはこれを快く思わず、計画の中心人物にして王宮内の権力争いにおいては弱い立場であるナランバヤルの暗殺を企てる。
これを知ったバウラは、サラディーンやピリパッパとの会談に向かおうとするナランバヤルの前に現れて「行けば殺される」と告げる。実のところバウラもまた水路を作る計画に内心で賛同しており、「これから先の未来で自分の家族が平和で幸せに暮らすためにも、今ここでナランバヤルを死なせるわけにはいかない」と考えていたのだった。

バウラの裏切りを悟ったピリパッパ指揮下の兵士たちが殺到する中、ナランバヤルは「こんなところで死ぬわけにはいかない」と王宮内を必死で逃げ回る。暗殺部隊の剣士であるライララも加勢し、サラディーンやレオポルディーネの手の及ぶ場所までナランバヤルを連れていこうとするも、兵士たちの動きは予想以上に早く逃げ場を失っていく。
しかし、ここに「王宮内の様子がおかしい」と気付いたサーラが駆け付ける。王族しか知らない秘密の抜け道に案内するという彼女の言葉を信じ、バウラは囮となる覚悟で“ナランバヤルの上着”を羽織って兵士たちの前に飛び出す。「あなたたちにこの国の命運がかかっている」と言い残してライララもこれに続き、ナランバヤルは自分の身代わりになろうとしてくれている2人に向かって「怪我をしないでくださいよ」と訴える。

2つの国の未来へ

秘密の抜け道に辿り着いたサーラとナランバヤルは、「一緒にこの運命を乗り切ろう」と誓い合い、2人で手をつないでそこを進んでいく。しかしラスタバン三世に追いつかれ、剣を持って迫る彼に追い詰められる。
バイカリとの和平を進めようとして失敗した900年前の国王ラスタバン二世は、アルハミトでは嘲笑の対象となっていた。その名を継がされることとなったラスタバン三世は、自分の死後の名声を極端に気にするようになり、バイカリ攻略を急ぐのもそれが大きな理由の1つだった。

「お前が本当にバイカリで1番賢いなら、どうして私が父からこの恥ずべき名を与えられたのか説明してみろ」とラスタバン三世に迫られたナランバヤルは、「ラスタバン二世は決して愚かな王ではなかった、バイカリ側の記録がそれを証明している。その真実を知っていたからこそ、あなたの父親はあなたにその名をつけたのだ」と分析し、戦争ではなく水路の完成という1000年先までも残る偉業で名を残すべきだと訴える。
ここでラスタバン三世が「我が国1番の美女」としてバイカリに子猫を送った話が取り沙汰され、ナランバヤルが誰かと結婚しているわけではないと知ったサーラは「父が国王で良かった」と涙する。経緯はどうあれ、自分を父として国王として認めてくれる娘の姿を目の当たりにしたラスタバン三世は、“戦争する以外の道”について改めて思いを馳せ、ついに刃を収める。

ラスタバン三世も水路を作る計画に賛同したことで、ナランバヤル暗殺計画は中止。ピリパッパはこれまでの功績もあって軽い罪を負わされるに留まるも、意外にももともとかなりの忠臣だったがために特に不平も漏らさずラスタバン三世に仕え続ける。ラスタバン三世はオドゥニを国に招き、国力の差に度肝を抜かれる彼に「国で1番賢い若者だといって子犬を寄越した」ことをチクリと指摘しつつ正式に和平の話を進めていく。政争に勝利して平和を勝ち取ったレオポルディーネは、愛するサラディーンと静かな時を楽しむ。バウラとライララもなんとか無事で、それぞれ元の職場で活躍を続ける。
サーラとナヤンバヤルは正式に結婚し、やがて水路作りが本格化する頃には2人の娘に恵まれていた。成長したルクマンとオドンチメグを引き連れた娘たちがお弁当を届けに向かった先には、仲睦まじく水路の視察を行うサーラとナヤンバヤルの姿があった。

『金の国 水の国』の登場人物・キャラクター

主要人物

サーラ

CV:浜辺美波

アルハミトの第93王女。おっとりとした優しい性格で、多少嫌なことがあってもじっと耐えて自分の中で消化するタイプ。
母国とバイカリとの戦争回避のためにナランバヤルに助力を求めることとなり、彼の紳士的な振る舞いと2つの国を想う高潔な意志に心惹かれていく。

ナランバヤル

CV:賀来賢人

バイカリの青年技師。頭の回転が速く口も達者で、技師としても確かな腕を持つ。しかし貧しいバイカリではまともな職も無く、国の行く末についても案じている。族長から押し付けられた子猫に「星の輝き」を意味するオドンチメグという名をつけるなど、リアリストに見えてかなりのロマンチスト。
即物的なところもあるが、女性に対しては非常に紳士的。優しさや心の強さといったサーラの内面の美しさに好意を抱き、彼女の力になろうとしたことがきっかけで「アルハミトとバイカリの間に水路を作る」という壮大な計画に関わっていく。

アルハミト

YAMAKUZIRA
YAMAKUZIRA
@YAMAKUZIRA

目次 - Contents