ダーウィン事変(漫画)のネタバレ解説・考察まとめ

『ダーウィン事変』とは、2020年8月号の『月刊アフタヌーン』より連載された、うめざわしゅんによる漫画。アメリカを舞台に、半分ヒトで半分チンパンジーの「ヒューマンジー」チャーリーを主人公とした「差別とテロ」を題材とした物語である。15歳のチャーリーは人間の両親のもと高校に入学し、人間の女の子ルーシーと出会い友情を育む。一方で、「ALA(動物解放同盟)」と名乗るテロ組織はチャーリーを仲間に引き込もうと画策する。数々の賞にランクインし、海外でも話題となっている。

『ダーウィン事変』の概要

『ダーウィン事変』とは、2020年8月号の『月刊アフタヌーン』より連載された、うめざわしゅんによる漫画である。2021年宝島社『このマンガがすごい!2022』のオトコ編第10位にランクインから始まり、2022年マンガ大賞の受賞、文化庁メディア芸術祭部門の優秀賞を受賞している。
生物化学研究所がテロ組織「ALA(動物解放同盟)」により襲撃された際に保護された妊娠中のチンパンジーから、半分ヒトで半分チンパンジーの「ヒューマンジー」が産まれる。チャーリーと名付けられた少年は、人間の両親に育てられ高校生活を送ることになる。好奇の目に晒される中、陰キャ(ナード)と揶揄されながらも頭脳明晰である少女ルーシーと出会い、友情を育む。しかし、チャーリーを仲間に引き入れたいALAによる新たなテロ事件により、街の住人や警察からの偏見が強まっていく。周りの人間たちにより掻き回される高校生活を、ヒューマンジーならではの感性で突き進むチャーリー。その側で、友人としてチャーリーの為に奮闘するルーシー。テロや差別、炎上とあらゆる問題に対峙する2人の高校生を描いたヒューマン&ノン・ヒューマンドラマである。

『ダーウィン事変』のあらすじ・ストーリー

高校生活編

オジーに対して不穏な質問をするチャーリー

「ALA(動物解放同盟)」による生物学研究所テロ事件により、妊娠中の雌のチンパンジー「エヴァ」が発見され、コーンバーク研究所へ運ばれた。エヴァから産まれた子供は人間とチンパンジーの交雑種「ヒューマンジー」であり、チャーリーと名付けられた。チャーリーはチンパンジー研究の権威であるG・スタイン博士の夫妻に引き取られた。15年の月日が過ぎ、チャーリーは高校入学初日を迎える。好奇の目を向けるものの、誰一人として話しかける者がいない中、周りから陰キャ(ナード)の優等生と言われるルーシーが、猫の救出劇でチャーリーに助けてもらった事を機に話しかける。他の生徒達も話しかけに来るが、彼がヴィーガンであることが分かると、男子生徒オジーが揶揄し、質問をぶつけてくる。チャーリーはそれに淡々と返答し、不穏な空気を残して去っていくのだった。
その数日後、ALAによる爆破テロ事件が起こる。彼らは次のターゲットにチャーリーを挙げ、仲間に引き入れようと画策する。この事件は15年前の事件に紐付けて報道され、チャーリーは保安官に監視され、高校生活にも支障をきたすようになる。ルーシーはチャーリーを気に掛けて町を出るよう促すが、「学校に通い出してから初めてのことばかりだし来れなくなるとつまらない」と言い、彼女は大笑いするのであった。
ルーシーが帰宅途中、コーンバーク研究所に勤めているという黒人の男からチャーリーについて質問をされる。気になったルーシーはチャーリーにその事を連絡するが、心当たりはないという。しかし男の言うコーンバーク研究所は実在し、定期的に検診に通っているということだった。ルーシーも検診に同行させてもらえることとなり、そこでチャーリーの担当医ファウラー所長と養父スタイン博士、生物学上の母エヴァと会う。エヴァはかつて天才だったが、出産のダメージで脳に重度の障害を残していた。去り際、彼女がカードで何かを伝えようとしていると気付いたルーシーだが、ファウラー所長に「意味はないよ、もう彼女とコミュニケーションを取るのは不可能だ」と言われる。ルーシーは何かを感じとるが、その場を去った。
その後、スタイン家で夕食をとり親交を深める夫妻とルーシー。そこに3人のALAが奇襲をかけるが、チャーリーの圧倒的強さで撤退を余儀なくされる。これを機に、ルーシーの母親はチャーリーとの接触禁止を告げ、ルーシー自身も強く不安を感じていることをチャーリーは知る。チャーリーは鋭い分析能力で、昨夜のALAの潜伏先を探し当て突入する。そこには先日ルーシーに接触した黒人の男リヴェラもいた。チャーリーは両親やルーシーの不安を取り除くため、「警察に行って捕まってくれる?」と提案し、断った場合は「大怪我をしてから警察に捕まることになるかな。それってすごく損じゃない?」と告げる。リヴェラは笑顔で了承する。警察に向かう車の中、リヴェラはチャーリーに様々な質問をする。そして最後に「君はきっと逃げられないだろう、君の半分が人間(ヒューマン)であることから」と言い放ち、運転席の男を刺してもう一人と逃走する。車は横転し、瀕死の男とチャーリーのみが現場に残された。現場に駆け付けた警察は、男を助けようと刺されたナイフを抜くチャーリーに銃を向ける。潜伏先不明だったALAの元へ行き、一人の命を救い、残る二人は逃亡という状況に、警察はALAメンバーと何らかの関係があるとし、チャーリーを留置所に拘束した。警察に怒りを抑えられないルーシーだが、そこでスタイン夫妻からチャーリーの法的立場の問題と10年前の事件を明かされる。チャーリーのアメリカ市民権を勝ち取ることが夫妻の目標だと知り、ルーシーは協力したい旨を伝えた。
警察に着いた夫妻とルーシーは、チャーリーに対し批判的なグラハム保安官補に拒否される。チャーリーはテロ犯罪の証拠品であるため面会は出来ず、後々、州の保有物となるとのことだった。強行突破しようとするルーシーがチャーリーの名を叫ぶと、檻を破ったチャーリーが目の前に現れる。あわや発砲されるところでナヴァロ保安官が登場し、チャーリーと一緒に帰るように伝えるのだが、グラハム保安官補は納得できずにいた。その裏には、10年前の事件の際も尻拭いをし、すべての動物を包含する権利と法を打ち立てようと考えるリナレス下院議員の存在があったのだ。再び高校生活を送れることになったチャーリーは、ルーシーが考えた「ヒューマンジーの権利獲得のために学校でうまいことやる作戦」を言われるがまま遂行するのだが、上手くいかずにいた。

銃乱射事件編

ある日、ルーシー達は高校の敷地内で「すべての動物のために正義を」と書かれたパネルを持つゲイルを見つける。ゲイルはヴィーガンを良く思わないオジー達と口論となるが、その側で全く関心を示さないチャーリーを見て「なぜそんなに無関心なフリができるんだ!?」と抗議する。しかし「ボクはなんの代弁者でもない」と一蹴される。失望したゲイルが自身の運営する「レッドピルチャンネル」を開くと、リヴェラからコンタクトを取られる。リヴェラは「スパルタカスが必要だ」とし、チャーリーを目覚めさせられるのは君しかいないとゲイルをコントロールする。そしてゲイルは、言われるがまま人種差別をしたダイナーの主人を殺害してしまう。
その翌日、リヴェラの指示のもとゲイルは学校内で銃乱射事件を起こし、その様子が「レッドピルチャンネル」で配信されて校内は大混乱となる。並外れた聴覚で事件を察知したチャーリーは急ぎ犯人のもとへ向かう。現場に到着したフィル達警察が校内に突入すると、数人の負傷者を抱えたチャーリーと遭遇する。「緊急度が高くて助かりそうな個体を先に持ってきた」と伝え、再び校内へと戻る。そして教室でうずくまるルーシーと合流し、共にゲイルを追い詰める。殉教者として自死するよう指示されていたゲイルだが、ぎりぎりのところでチャーリーに阻止され逮捕される。多数の死傷者を出す事件となった。
事件後、国内のヴィーガンレストランや活動家を狙った傷害事件等が多発するようになる。リナレス下院議員はスタイン宅を訪れ、当面の間はチャーリーを敷地外に出さぬよう伝える。また、シュルーズ警察はFBIのモリスとカイルと共に、ALAが関与していると思われる一連の事件について捜査をすることとなった。ある夜、町の顔役であるロニーが住人達を連れてスタイン宅へ訪れ、町を出て行くよう脅す。チャーリーに会いに来たルーシーは強く反論し、住人に手を上げられそうになったがチャーリーが阻止する。近くで監視していたFBIによりその場は事なきを得るが、住人の不満が収まらない。ロニーはグラハム保安官補(以降フィル)を呼び出し、住人の抑えが利かなくなる前にチャーリーを殺害するようほのめかす。フィルは、チャーリーが一連のテロ事件に無関係であると主張し、町から立ち退かせることを約束する。そしてスタイン宅を訪れ、スタイン博士に町から出るよう伝えるが、危険を承知の上で出て行く気はないと断られるのだった。
その夜、ルーシーと連絡を取り合っていたチャーリーだが、異変に気付き彼女に電話を掛ける。出たのはリヴェラだった。彼は「ここを去る前にもう一度君たちと会いたくて」と言い、一人で来るように指示する。チャーリーはルーシーを傷つけないことを約束させ、送られた地図を頼りに救出に向かう。見知らぬ山小屋で目覚めたルーシーは、目の前にいるリヴェラとレスリー少佐に目的は何なのか問いただす。少佐は「動物の解放」と答えるが、リヴェラは「人間をもっと早く進ませることだよ」と答える。一方その頃、チャーリーは少佐の部下たちが待ち受ける山中へとたどり着く。いとも簡単に包囲の網をくぐり抜け、着実にルーシーの元へと近づいていた。リヴェラはなぜルーシーがチャーリーに特別視されるのか不思議でいた。そして彼女について調べ、変わった経歴を持つことを知ったと聞き、ルーシーは戦慄する。「君らはともにアイデンティティを巡る旅をしている」とリヴェラは関心するのだった。その頃、チャーリーは少佐と対峙し、圧倒的な力の差で少佐を抑えつけ、ルーシーとリヴェラの待つ小屋へと入る。リヴェラは15年前のことについて語り始める。初期のALAがチャーリーの生物学上の父親グロスマン博士と出会った時の話だった。リヴェラはグロスマン博士を追っており、父親に会いたいチャーリーに協力し合わないか提案する。そこにルーシーの背後から少佐が現れて彼女を人質にとり、「チャーリーは危険な存在だ」と殺すようリヴェラに迫る。
GPSを使って助けに来たフィル率いる警察によって彼らは取り押さえられるのだが、事件はまだ終わっていなかった。リヴェラの本当の目的はスタイン夫妻で、チャーリーを家から離れさせることであった。急ぎ家に戻ったチャーリーだが、家は燃え盛り、スタイン夫妻を救出するため炎の中へと飛び込む。しかし時すでに遅く、夫妻は火が回る前に死んでいた。チャーリーは、彼を捕獲しようとする警察らの前から逃げ去る。そしてリヴェラも逃げ去ったのだった。

逃亡生活編

放火事件後、スタイン宅は全焼し、残ったものは何一つなかった。FBIは、今回の放火は不満を持った住人によるものだったが、火事以前に夫妻が何者かに殺害されていたことを確認する。そして懸賞金をかけられたチャーリーは、FBIのみならず州内外の人間から捕獲されようとしていた。
コーンバーク研究所のファウラー所長に呼び出されたルーシーは、フィルと共にリナレス下院議員と会う。夫妻が亡くなったことでチャーリーの所有権が不明となったため、新たな里親へと受け渡す必要があるという。ルーシーは、チャーリーの気持ちを配慮していないと怒り席を立った。研究所を出たルーシーは、いつも2人で会っていた秘密の公園でチャーリーと合流する。議員との話を聞いたチャーリーは、生みの親であるグロスマン博士を捜すためにストラルド研究所に行くつもりであることを伝える。その時、ルーシーを尾行していたフィルが現れる。逃げようとするチャーリーを引き留め、フィルの里子になることを提案した。「それなら隠れることもシュルーズから離れる必要もない」と言う。2人は提案を飲み、フィル宅を訪れ、彼の妻グレイスに快く迎え入れられる。しかしこの事はシュルーズ警察で問題となり、チャーリーを自身の私物として引き渡そうとしないフィルに、ナヴァロ保安官は無期限停職処分を伝える。その夜、ロニーがフィル宅を訪れチャーリーは大きな火種であると忠告する。しかしスタイン夫妻の死に、住人の暴走を抑えられなかった自身にも責任があるとし、取り上げらればかりの保安官バッジをフィルに渡して去った。
コーンバーク研究所に定期検診に訪れたチャーリーは、急激に筋力が増強していることが分かる。ファウラー所長は、チャーリーが思春期を迎えたことをフィル達に伝えた。その夜、ルーシーはフィル宅を訪れていた。チャーリーは、ALAとグロスマン博士が組む前に博士を見つける必要があるとし、「実際に会って確かめたい ボクはなんなのか ボクはどうして生まれてきたのか」と話す。それを聞いたルーシーは自身が人工授精で産まれたことをチャーリーに明かす。チャーリーは少し考え、自分と同じ「不自然な生殖技術」の仲間だから友達になったのか聞くが、ルーシーは否定し「私はきみに興味があるってだけ」と伝える。「ならボクと交尾しない?」とチャーリーは提案する。ルーシーは驚きながらも「いいよ」と答えた。しかし「そうしたいって積極的に思えないと嫌かな けどいまはそう思えない」と伝えると、「それってボクがヒトだったら違ってた?」と聞かれる。その問いに「きみがヒューマンジーであることはきみ自身から切り離せることなの?」と返し、考える彼の頬にキスをして帰ったのだった。後日、チャーリーとルーシーはグレイスに率いられ、近所のスーパーへと買い物に行く。周りの客から白い目で見られる中、幼い少年がチャーリーに話しかける。チャーリーを少年のチームの団員にしてあげようと兄のところへ連れて行くが、兄や周りの大人達が騒ぎ出す。騒動を聞きつけ、ルーシーとグレイスが現場に向かうが、集まった客たちのチャーリーへの非難は止まない。弟を助けよう玩具を振りかざす兄に、チャーリーは「友達になろう」と声をかけた。弟はぎゅっとその手を握り「いい宇宙人もいるよ 兄ちゃん」という言い、その場は笑いに包まれて沈静した。帰り際、「ショッピングはどうだった?」と聞くグレイスに「楽しかった」とチャーリーは答えた。
カナダ国境近くのある歩道上に、無断停車された大型トラックがあった。通報を受けた警察が中身を調べると、大きな冷凍室の中に豚肉(ポーク)のように吊るされる人間の死体が大量に発見された。この事件をきっかけに、FBIは指示があり次第、超法規的にチャーリーを捕獲できることとなる。フィル宅へマスコミからの電話が鳴り止まない中、ファウラー所長からエヴァの危篤を知らせる連絡が入る。急ぎコーンバーク研究所に向かうと、そこには寿命を迎え救急措置を受けるエヴァの姿があった。ルーシーは、チャーリーを見る彼女の指が微動したことに気付き、単語カードを渡すよう懇願する。エヴァは死の直前「I am a mother of 2(私は二児の母)」という言葉を残し、この世を去る。その頃、リヴェラはある地下室で椅子に座る謎の男と会話をしていた。リヴェラは、猿にも似たその男をオメラスと呼び、なぜチャーリーの養父母を殺害したのか尋ねた。「知恵の実を食べておきながら 兄さんだけのうのうと『楽園』に暮らし続けるなんてズルいだろ?」とオメラスは答えた。

『ダーウィン事変』の登場人物・キャラクター

主要人物

チャーリー

半分ヒトで半分チンパンジーの「ヒューマンジー」の15歳の少年。「ALA(動物解放同盟)」による生物学研究所テロ事件により発見された妊娠中のエヴァから産まれた。生物学的父親はデイヴィッド・グロスマン博士。15年間実質的に育ててくれたスタイン夫妻を本当の両親だと思っている。非常に高い知能と身体能力で、チンパンジーや人間を凌駕する素質を持つ。10年前のある事件がきっかけで、10年間自宅での謹慎生活を余儀なくされていたが、15歳となり高校入学を果たす。周りの人間からは良くも悪くも特別視されるが、本人は自身をただの1(ONE)だと述べ、「なんでみんなボクをボク以上の何かだと思うのかなぁ」と理解できないでいる。ルーシーを友人として大切に想い、思春期を迎えて異性としても関心を持っている。

ルーシー・エルドレッド

チャーリーと同じシュルーズ高校に通う少女。同級生からは陰キャ(ナード)と揶揄されるが、頭脳明晰で芯がある優しい性格の持ち主。厳格な母親に育てられ、考えを押し付けられることにうんざりし、よく喧嘩をしている。母親の「子供を作るのに男は必要ない」という考えから人工授精で産まれており、父親はいないが本人はたいして気にしていない。高校では同級生のつまらない会話にうんざりし、自ら友人を作らないでいる。チャーリーとの会話は楽しいらしく友人として好いており、性行為に誘われた時も、嫌ではないと答えている。スタイン夫妻からもいい子だと気に入られており、親交を深める。度々非難されるチャーリーの為に、どんな状況でも立ち向かう。

ギルバート・スタイン

チャーリーの養父。チンパンジー研究の権威で、妊娠中のエヴァが運ばれてきた時に帝王切開を施している。ヴィーガンであり、リベラリストでもある。何かと問題の起きやすい立場だが、いつも冷静に物事を見ている。

ハンナ・スタイン

チャーリーの養母。情に厚く、少しでもチャーリーの住みやすい場所に移るため、ミズーリ州の弁護士資格を新たに取っている。少し心配性で過保護なところがあり、取り乱すことが多いが、いつもギルバートに静められる。彼女もヴィーガンである。

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