ハーモニー(Project Itoh)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『ハーモニー』とは、作家・伊藤計劃(いとう けいかく)による小説、およびそれを原作とした漫画・アニメ映画である。ジャンルはSF。伊藤計劃のデビュー作『虐殺器官』と同世界観であり、『虐殺器官』によって引き起こされた大災害を機に高度医療社会となった世界が舞台となっている。そんな世界で、ある日突然多くの人が同時自殺をする事件が発生。主人公のトァンは世界の均衡を維持する監察官として事件の調査に乗り出すが、そこで彼女が知ったのは、事件に13年前に亡くなった筈の友が関わっているという衝撃の事実だった。

世界同時多発自殺事件

世界同時多発自殺によって、自殺を図った人達の映像。

御冷ミァハが、ハーモニー・プログラムを起動させる為に起こしたテロ事件。零下堂キアンが死んだ原因の事件である。WatchMeにより管理された社会の仕組みを利用して、多数の人間の意識を「自殺する」ように操作した。自殺した人間はランダムに選びだした為、共通点はない。ミァハいわく、キアンが選ばれたのも「ランダムによる結果」とのこと。自殺の仕方も人それぞれの為、やはり共通点はない。後にさらなるハーモニー・プログラム起動への後押しとして、「一週間以内に誰かを殺すこと」「でなければ、自殺に追いやる」といった犯行声明を出した。

次世代ヒト行動特性記述ワーキンググループ

次世代ヒト行動特性記述ワーキンググループが研究していた人間の意識(があるとされる脳)に関する資料。

生府の上層部が所属する非公式組織。大災禍の惨劇をくり返さない為に、WatchMeを利用して人間の意識を制御するハーモニー・プログラムの実験を行っていた。トァンの父・ヌァザも所属していた。作中の事件は組織の実験体となったミァハが、制御するシステムを利用して世界中の人々を「わたし」という個の概念から救おうと考えた為に起こったものとなっている。

ハーモニー・プログラム

次世代ヒト行動特性記述ワーキンググループか生み出したプログラムの名前。WatchMeを利用して人類の意識を制御する事ができる。大災禍のような惨劇が繰り返されなくはなる代わりに、WatchMeがインストールされた人間の「わたし(個としての意思・選択)」を消失させてしまう。

インターポール捜査官

インターポールのマーク。

実在する組織・国際刑事警察機構(International Criminal Police Organization)所属の捜査官のこと。作中では、エリヤ・ヴァシロフがこの捜査官として登場する。インターポールは海外で多用される名称。日本では英名の頭文字を取って「ICPO(アイシーピーオー)」の略称で多く呼ばれている。

トゥアレグ族

実在するトァレグ族の民。

北アフリカの広い地域に古くから住んでいるとされる、ベルベル人の遊牧民。アフリカ大陸サハラ砂漠西部に実在する。『ハーモニー』作中では、WatchMeを拒絶し、反乱を起こしている。だが実際には健康維持の為、オフラインでWatchMeを使っている。

バグダッド

現実のバグダッドの街並み。

イラクの首都として実在する都市。日本では「バグダード」と呼ばれる場合もある。イラク国内最大都市であり、イスラム教を信仰する社会・イスラム世界において主要都市の1つとなっている。
『ハーモニー』作中では、医療の街として発展し栄えている。

チェチェン

チェチェンの国旗。

チェチェン共和国の略称。実在する国の名であり、ロシア連邦の地域管轄区分の1つ北カフカース連邦管区に属している。ロシアがソビエト社会主義共和国連邦(略称:ソビエト連邦, ソ連)であった頃からロシアに属しているが、ソ連解体後はロシアに残る事を主張する勢力とチェチェンの独立を求める勢力との間で対立が続いている。『ハーモニー』作中ではロシアとの紛争が行われている模様。物語後半に、ミァハがトァンを呼び出した場所として登場する。

『ハーモニー』の名言・名セリフ/名シーン

御冷ミァハ「私たちはどん底を知らない。どん底を知らずに生きていけるよう、すべてがお膳立てされている」

少女時代のミァハ。反社会的思想を、トァンやキアンによく説いていた。

高度な医療が社会を支え、他者の優しさが社会を回す日本社会。だがそれは裏を返せば、いつでも誰かに見られ、己の健康状態すら自分一人で自由にする事ができず、自分自身もまた他者の事を気遣わなければならないという義務が生まれた閉塞的な社会だといる。そんな社会に反抗的な意思を抱いていた少女時代のミァハは、トァンやキァンに対して度々社会の理不尽さを説いていた。「私たちはどん底を知らない。どん底を知らずに生きていけるよう、すべてがお膳立てされている」も、その内の1つである。
ここで言う「どん底」というのは、「人生のどん底」という意味だと推測できる。人々が快適で幸せな暮らしを送れるように、さまざまな高度技術で社会は構成されているが、しかしだからこそ本当の「危険」というものを人々は知らずに生きてしまっている。それは裏を返せば、「危険」が迫った時に人々はその危険への対処ができない、という事になる。ミァハのこのセリフは、そんな社会の現状を皮肉っている。むろん「危険」を起こさない為の高度医療社会ではあるが、それでも完璧というものはない。事実大人になったミァハは、高度医療社会の技術を利用して世界同時多発自殺事件を引き起こしている。現状の社会を皮肉っていると同時に、それから先の物語の展開に繋がる伏線も感じられる印象的な名セリフだ。

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