着たい服がある(漫画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『着たい服がある』とは、常喜寝太郎(つねき ねたろう)によるロリータファッションを題材にした日本の漫画。『Dモーニング』で2018年から連載された。
主人公の小林マミはクールな顔立ちに高身長というモデル体型だ。周囲から「かっこいい」「クールな女性」と評価され、それを求められるがマミの好きな服はロリータファッションだった。本当の自分と周囲からの期待の差に悩んでいる時、派手で奇抜なファッションを堂々としている小澤と出会う。小澤に憧れ、周りとぶつかりながらマミが「本当の自分」を見つけていく物語。

老人ホームでの介護体験を終え、最終日には出し物としてロリータを着てファッションショーを行ったマミ。
数日後、カヤと再会した際にマミは「ファッションショーが成功してよかった」と喜んでいた。カヤはそんなマミに「あんたがロリータを着たからみんな喜んでくれたんだよ」と肩を叩いて褒めた。

カヤと出会った当初、マミは「家族にもロリータのことを話せていない自分がロリータを着ていいのか」「周りから似合っていないと思われているのではないか」という不安から、堂々とロリータを着ることが出来ていなかった。ロリータを着てもどこか自信がなく、ロリータに着られていたマミ。そんな時、小澤の「海外で服を買い付けて、自分の好きな服を広める」という大きな夢を聞いて、マミは「自分には大きな夢も何もない、ロリータを着ていい人間なんだろうか」とも思っていた。
しかし、老人ホームでの介護体験で利用者一人一人と接することで、利用者からも「ただの若い子」ではなく「優しくて可愛い小林さん」と認めてもらえるようになった。マミの人柄ごと好きになってもらえたからこそ、マミがロリータを着たことに利用者も大いに喜んだのだとカヤはマミに教えた。
ようやく「自分」を持ったままロリータを着ることができるようになったマミに、カヤがかけた一言である。
ロリータが周囲に受け入れられたのは、マミ自身の良さを知ってもらえたからである。今までロリータを着ているだけで白い目で見られてきていたが、マミ自身が成長し、ありのままの姿でいたからロリータというファッションを着ていても人に受け入れられる。
マミがようやくマミらしく生きられていると勇気をもらえる名セリフである。

マスター「俺もカヤちゃんを好きだ」

カヤへ「俺もカヤちゃんを好きだ」と答えるマスター。

マスターは目立つことが苦手なため、目立つロリータを着ている女性は好きではない。マスターのことが好きなカヤはそのことを知っていたため、カヤは「いつかロリータをやめる」と思っていた。
しかし、好きな人のために自分の好きなものを変えることに対して抵抗があり、ロリータを着たままマスターのバーを訪れていた。

ある日、カヤはマスターに「私これからもロリータ着ていく」と宣言する。突然の宣言にマスターは「何急に?」と首を傾げた。
カヤは「でもマスターの前で着るのは今日で最後にする。マスターのことが好きだから。マスターはロリータ着てる女の子駄目なんでしょ」と告白し、店を出ようとする。マスターは慌てて店を閉め、カヤと共に外へ出た。
ロリータを着たカヤと並んで歩くマスター。マスターは「俺もカヤちゃんが好きだ」と告白に答える。そしてマスターは「正直、ロリータを着ている人と歩くことには抵抗があるけど、カヤちゃんには好きな服を着ていて欲しい。俺もヘタレなところ変えられないし…」と今の気持ちを告白。
気が利かないマスターはいつも女性と歩いても歩道側を歩いてしまうが、ロリータを着たカヤは女性らしいためか自然とマスターも車道側を歩いていた。カヤはロリータが好きで、マスターもヘタレなところや気が利かないところは変えられない。しかし、マスターもカヤ自身が好きであるため、ロリータが好きなカヤも少しずつ受け入れ、それに伴いマスターも少しずつ無理なく変化していく。そのきっかけが車道側を歩いたことでもある。
マスターは「俺たちはこんな感じでいいんじゃないかな」とロリータを着ているカヤを受け入れ、お互いのペースに合わせながら交際しようと宣言。2人は恋人同士になった。
苦手なロリータというファッションも、カヤ自身を受け入れて愛情があれば壁にならないと感じさせる名セリフ。

本堂「自分のために一歩踏み出すことの意味をわかっている人」

マミに対しネットで「自分のために一歩踏み出すことの意味をわかっている人」と書き込む本堂

本堂は冷めた高校生だった。
所属しているバスケ部の練習もそこそこでしか行わず、「普通の俺が真面目にやったって意味がない」と思っていた。
そのためボランティアとして部活の指導に来ていたマミから「本堂くん!しんどいけど走ってボール取ろう!」と言われると「勉強疲れで走れません」などと本気で受け止めることもなかった。また、老人ホームでロリータファッションショーを行ったマミの動画がSNS上で拡散されており、その動画に対しても本堂は匿名で「この人ボランティアで来てるけど、無駄に熱血でうざいよ」などの悪口を書き込んでいた。
とにかく今さえなぁなぁにこなせられるならいいと思っているような性格で、一生懸命なマミを邪険に扱っていた。

ある時、マミがスフレソングのロリータを着て、インタビューを受けている映像を目にする本堂。マミはインタビューの中で「自分を普通や特別などという曖昧な言葉でいつも測ろうとしていた。だけどロリータが好きという個性は変えられないし、それを大切にしていきたい。また背伸びすることを恥ずかしいと思っていたけど、そんなことはない。これからの子供達にもそれを伝えていきたい」と語った。
それを見た本堂は「綺麗事だ」と吐き捨てるも、マミの言葉が心に引っかかっていた。

迎えたバスケ部の他校との練習試合。本堂もチームメイトも勝とうとは思っておらず、適当に済ませようと思っていた。
しかし試合中、本堂の頭にはマミの言葉やこれまでの考えが渦巻いていた。実のところ本堂本人こそが「普通を脱却したい」と思いながらも「どうせ自分は普通だから」と諦めている節があった。「頑張るなんて寒い奴がすること」と思ったその時、マミの「背伸びすることは恥ずかしいことじゃない」という言葉を思い出す。
そこで本堂は初めて、今までの自分の生半可な態度を改め、必死にボールを追いかけた。本堂は「勝ちたい」としか思わず、ただ目の前のボールにかじりついた。しかし残念ながら試合結果は負けで、「やっぱり俺は普通で、頑張っても何もないモブなんだ」と思っている本堂に、マミは「試合中、本堂くんは本物のプレイヤーだったよ」と励ましの言葉を送った。

本堂は帰宅後、SNSに書き込んだマミの悪口を削除した。その上で、「俺は俺のこと単なるモブでしかないと思っていた。だけどこの小林マミって人は、自分のために一歩踏み出すことの意味をわかっている人。俺もそうなりたい」と涙ながらに書き込んだ。
本堂は「自分に何もないこと」を「自分は単なるモブだから」という逃げ道を使い、一生懸命に取り組まないことで自分が傷つかないようにしていた。しかしマミの傷つくかもしれないのに、一歩踏み出す勇気を目の当たりにし、自分が逃げていただけのことに気づく。そして今まで努力もせずに諦めていた自分を情けなく思い、涙して悔しがった。最後はマミに憧れ、いつかマミのように「自分には何かある」と思えるように努力を重ねたいと思っていた。
今まで「頑張ることはダサい」と逃げ続けてきた本堂。ようやく自分の本心に向き合った本堂の人としての成長を感じさせる名セリフである。

小林マミ「私はどこにも行きません」

小澤へ「私はどこにも行きません」と宣言するマミ。

自分が買い付けた服が客に受け入れられず、馬鹿にされたことからバイヤーとしての自信を無くした小澤。
さらには、街中で偶然、昔小澤をいじめていたクラスメイトと遭遇するがクラスメイトはそのことを覚えていなかった。いじめの辛さから逃れるために、奇抜な服を着て自分を強く保っていた小澤にとってそれは辛く、「俺は今までなんのために服を着ていたんだ」と落ち込む。
そして自分のファッションに自信を持てなくなり、意味も分からなくなった小澤は派手で奇抜な服を全て捨てる。それを知ったマミは、その服を全て回収し小澤へ「この服を着ていたときの小澤さんはとても素敵だった。そんな小澤のお陰でなりたい自分になれた」と説得し感謝を述べた。

小澤の家の前で話し込めば、近所迷惑になると小澤と共に街へ繰り出すマミ。
そこで小澤は「小林さんが俺の服に救われたのなら俺は孤独じゃないかもしれない。でもそれは奇抜な服を着た俺であって、本当の俺はダサい」とまだ落ち込んでいる。そして「誰にも心を開いたことがない。開いて離れていくのが怖い」と小澤が言うと、マミは靴を脱いで「私はどこにも行きません」と小澤に自分の意思を見せた。
この言葉を受けたことで、小澤は奇抜な服を着ていない「ありのままの自分」を曝け出す勇気をもらい、「ありのままの自分」を見せてもマミはどこにも行かないという優しさに心打たれ涙を流している。
マミが小澤の「好きな服を着ている時が1番気持ちいい」という言葉で、自分が本当に好きなロリータを着て外に出るようになったように、小澤もマミの言葉で本当の自分を曝け出すきっかけとなった。固く閉ざされていた小澤の心に寄り添い、開くきっかけになった感動の名セリフ。

『着たい服がある』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

『着たい服がある』の連載のきっかけはTwitter

作者は当初、クロムハーツの財布が欲しいがためになんとしてでも買おうとする貧乏な男の漫画『ファッションモンスター』という読み切りを描いていた。そこからファッションについて少しでも発信したい気持ちから、Twitterで『着たい服がある』の読み切りを掲載する。
それが好評だったことから、担当と「連載用に描き直して上に提出しよう」という話になり連載に至った。
ちなみに『着たい服がある』で主人公にロリータファッションを着せた理由として、作者が高校生の時にV系バンドが好きだったことや、大学の友人が『KERA!』を持っていたことからロリータファッションを選んだ。

登場人物達のモデルは作者自身

マミは真面目で周りからの評価や目を気にするタイプ。作者も同じタイプで、他人の事がなんでも気になり何事にも真面目に答えてしまう性格であると語っている。
その反面、心のどこかでは「やりたいことを好きなだけやればいい」「着たい服は周りの目を気にせず着ればいい」と思っている。この部分は『着たい服がある』の小澤のキャラクターに投影されている。また、小澤がいじめられていたという過去も作者のものである。

フッションが好きな作者

作者自身もファッションが好きで、どれだけ忙しくても好きな服のブランドの最新情報は欠かさずチェックしている。
単行本の作者コメントでも「その昔、男性が友人と釣りに行き着ていた服が凍って凍死しかけたことから、ダウンジャケットが発明されたという話を聞いて素敵だ!と感銘し、ダウンジャケットを買いました」や「春に向けてセットアップが欲しい!」や「アクセサリーをゴテゴテにつけることにハマっています」など、自身のファッションのこだわりをみせた。

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@uzawak0111o4

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