九龍ジェネリックロマンス(漫画)のネタバレ解説・考察まとめ

『九龍ジェネリックロマンス』とは、眉月じゅんが雑誌『週刊ヤングジャンプ』(集英社)に2019年49号より連載中のSFラブストーリーである。物語の舞台は、近未来の香港に存在する「第二九龍寨城」。その上空には建設中のコロニー「ジェネリック地球(テラ)」が浮かんでいる。不動産会社に勤務する過去の記憶を持たない女性・鯨井令子が様々な秘密に翻弄されていく中、先輩の工藤発との恋愛模様を描く。恋愛漫画でありながら、SF要素やミステリー要素が混じっているのが本作の魅力となっている。

『九龍ジェネリックロマンス』の概要

『九龍ジェネリックロマンス』とは、眉月じゅんによるSFラブロマンスである。雑誌『週刊ヤングジャンプ』(集英社)に2019年49号より隔週連載され、宝島社が主催する「このマンガがすごい!2021」のオトコ編では第3位にランクインした。

物語の舞台は近未来の香港にある「第二九龍寨城」。「第二九龍寨城」の不動産会社に勤務するOLの鯨井令子(くじらいれいこ)は、先輩である工藤発(くどうはじめ)に密かに恋心を抱いていた。しかしある日、鯨井は工藤が自分と瓜二つの女性と写っている写真を見つけてしまう。鯨井は自分がクローンではないかと疑問を抱き苦悩するが、自分のアイデンティティーを掴むことを決心する。その中で先輩・工藤の過去や美容整形外科の院長・蛇沼みゆき(へびぬまみゆき)率いる蛇沼グループの思惑が絡んでゆき、恋愛模様は複雑な雲行きを見せていく。

物語のメインは鯨井と工藤の恋愛模様だが、クローンをはじめとしたSFガジェットや緻密な伏線を盛り込んだ一筋縄では行かないラブストーリーが魅力である。さらに自身がクローンかも知れないことに葛藤する鯨井が、苦悩しながらも自らのアイデンティティーを掴んでいく姿が見どころである。

『九龍ジェネリックロマンス』のあらすじ・ストーリー

第二九龍寨城

九龍で暮らす令子。

舞台は近未来の香港のとある場所に存在する「第二九龍寨城」。第二九龍城砦に暮らす鯨井令子は不動産会社に勤務するOLで、同じ会社の先輩である工藤発や上司の李(リー)、友人の小黒(シャオヘイ)と共に賑やかな日常を送っていた。鯨井は先輩の工藤に密かに好意を寄せていたが、一方の工藤は鯨井に対し時折意味深な発言や表情を見せていた。
ある日、鯨井は工藤に誘われて喫茶店「金魚茶館」を訪れた。工藤の友人だというボーイのグエンは、鯨井を見て「また彼女さんを連れて来たんですね」と工藤に言う。鯨井は喫茶店に来たのは初めてだったので、グエンの言葉に引っ掛かりを覚えるのだった。
工藤と喫茶店にいった後日、鯨井は居眠りする工藤を起こそうとすると彼にキスされる。突然のキスに驚く鯨井だったが、工藤は「悪い。間違えた」と言ってその場から立ち去っていった。工藤とのキスに、鯨井はドギマギしてしまう。次の日工藤が食事で出かけたあと、彼のデスク周辺が汚れているのが気になった鯨井は引き出しから写真を見つけた。工藤が誰かと写っているらしいその写真に、鯨井は好奇心から引き抜いてしまう。その写真を見た鯨井は、驚きを浮かべる。その写真には、工藤の隣に自分と瓜二つの女性が写っていたのだった。「金魚茶館」を訪れた鯨井は、グエンから「その写真は、アナタと工藤さんの婚約祝いに取ったものだ」と告げられる。

もう一人の「鯨井令子」

工藤は今から4年前、第二九龍城砦の支店へ異動してきた。その支店には鯨井令子という日本人女性が勤務しており、工藤は彼女から仕事や第二九龍城砦での生活について色々アドバイスをもらう。彼女は第二九龍城砦に住む様々な住民達と親しく、第二九龍城砦に深い愛着を持っていた。彼女と交流を深めていく中、工藤は彼女に惹かれていく。
工藤が自分と瓜二つの女性と写っている写真を見た鯨井は、最近知り合った女性・楊明(ようめい)に自分に過去の記憶が無いことを打ち明ける。楊明は鯨井と瓜二つの女性を「鯨井B」と名づけ、鯨井と彼女は果たして同一人物なのか考える。楊明は「もしかしたら工藤は鯨井の記憶が戻るのを待っているのかもしれない」と推測する。鯨井Bの存在を知ってから、鯨井は工藤のことがますます気になる。工藤は自分に対して「懐かしさ」を感じると言うが、彼が見ているのは果たして今の鯨井なのか鯨井Bなのか分からない。鯨井が鯨井Bを意識して似たような行動を取ると、工藤は冷たい態度を示すなど彼女に対してギクシャクした対応を見せるようになる。
ある日、第二九龍に大手グループ「蛇沼グループ」のクリニックがオープンする。蛇沼グループの健康診断に出かけた鯨井は、蛇沼グループの無料カウンセリングを提案される。鯨井は、日頃から工藤に小ジワのことでバカにされていたため予約することにした。カウンセリング当日、鯨井はクリニックの院長で蛇沼グループの代表である蛇沼みゆきと対峙する。そこで、みゆきから家族構成などについて質問を受けるが記憶の無い彼女には答えられない。鯨井は自分が記憶喪失であることをみゆきに告白する。みゆきは興味を持ったようで、鯨井に小ジワについて「あなたのシワは、まるで初めからあったかのような、そういう型であるようなただの溝だ」と指摘した。
ある日、第二九龍に仮面をつけた一人の男が現れる。仮面の男は金魚茶館に務めていたグエンという男を探していた。工藤もグエンが突然金魚茶館を辞めたので、彼のことを心配していた。仮面の男はみゆきの元へ戻ると、グエンが行方不明になっていることを告げ仮面を脱ぐ。なんとその男の正体は「グエン」だった。グエンは第二九龍の元住民で、現在はみゆきの元で居候していた。だが容姿は同じものの、彼は金魚茶館にいたグエンとは別人だった。
グエンは第二九龍内を捜索する中、鯨井に接触した。鯨井は、グエンに「あなたは鯨井令子と工藤について知っているんですよね?」と尋ねる。その問いに、グエンは「アンタのことは知らない。俺の知っている鯨井令子は、既にこの世にいない」と冷たく言い放つのだった。
グエンとの再会後、鯨井は「私は工藤の知っている鯨井令子ではないんでしょう」と工藤に思い切ってぶつけた。そして、自分の人生は「鯨井B」の借り物かもしれないが工藤への想いは本当だと告げる。しかし、工藤は「お前のその気持ちは、錯覚だ」と静かに否定する。だが鯨井は「錯覚で、自分を触れて欲しいなんて思わない」と言い切り、その場で倒れてしまった。その後、鯨井は自分の部屋で目を覚ます。そのそばにいた工藤は、「俺が知っている鯨井令子のことを話そうか?」と告げる。鯨井は少し考えるが、尋ねるのを断った。工藤が帰った後、外に出た鯨井はおじいさんに誘われておみくじを引いてみる。鯨井はおみくじをしてみるが、中々良い結果が出ない。おじいさんは「鯨井がどうなりたいか願ってごらん」とアドバイスする。鯨井は自分がどうなりたいのか考え、そして「絶対の私になりたい」と願いを見つけるのだった。

謎の多い第二九龍

グエンは、第二九龍や鯨井についてみゆきに報告した。鯨井は鯨井Bとホクロの位置まで同じだったことを告げると、みゆきは「クローンはホクロまで再現されない」と話す。その言葉にグエンは、「今の鯨井はクローンではないのか」と驚く。
楊明を部屋に招待した鯨井は、グエンと会ったことを話し彼の言葉から「鯨井Bは既に亡くなっているらしい」と告げた。楊明は驚きながらも、「今ここにいる鯨井は一体どこから来たのか」と疑問を口にする。そこで、楊明はネットで見かけた「ジルコニアン」というクローンの噂を思い出す。さらに、鯨井はグエンについても「まるで別人のようだった」と楊明に話した。楊明は「つまり、鯨井のようにグエンも二人いる」と驚く。
グエンとみゆきは、第二九龍について調査するべく再び訪れた。みゆきは鯨井のことだけでなく第二のグエンにも興味を持ち、ジルコニアンの研究に利用しようと考えていた。後日みゆきは第二九龍住民の陳さんをクリニックへ呼び出し、部下に連絡してある人物を第二九龍内へ連れてきてもらう。その人物は、なんと陳さんだった。陳さんが第二九龍へ踏み込んだ途端、クリニックにいた陳さんは消滅してしまう。
ある日鯨井は工藤・楊明と共に書店を訪れた。そこで「踊り場の事件簿」というミステリー小説の下巻を見つけた鯨井は、ページをめくるうちに文章が文字化けしているのに気づく。さらに鯨井は朝の来ない夢に悩まされる。
一方楊明は、実の母親である女優・楊麗(ヤンリー)の映画が第二九龍でも上映されたことをきっかけに自身のトラウマを思い出してしまう。トラウマを思い出してしまった楊明は整形する以前の元の姿に戻ってしまうという現象に遭遇し、部屋に閉じこもってしまうが鯨井の言葉でなんとか立ち直る。この奇妙な現象に、楊明は第二九龍の様子がどこかおかしいことに気づく。
そんな中、みゆきは本家の大旦那に呼び出された。大旦那は、ジルコニアンとジェネリック地球の計画の進捗について蛇沼に尋ねる。大旦那は「みゆきの計画が頓挫するようなら、自分にも考えはある」と告げる。さらにグエンがみゆきにとって大切な人であることを知っており、何かあれば彼を人質にすると脅迫してきた。大旦那の元から戻ったみゆきは次の日、グエンに関係を断つことを告げた。大旦那が関係していることに気づいたグエンは、「復讐に走ることだけがみゆきの生きる道じゃないだろう」と訴えるがみゆきに拒絶される。そして、グエンは第二九龍へ戻るのだった。

第二九龍の秘密を知る鯨井

グエンとの破局後、みゆきは香港にある「汪診所」というクリニックを訪れる。そのクリニックには、みゆきと長い付き合いのある医師・汪(おう)先生と幼馴染のユウロンが住んでいた。ユウロンはジェネリック地球とジルコニアンの開発に携わっており、第二九龍の調査にも協力していた。
みゆきとユウロンは第二九龍の正体について考察し合う。現在の第二九龍は幻のような場所で、みゆきには認識できるがユウロンには認識できなかった。取り壊された第二九龍がなぜ出現したのか、なぜ認識できる人間とできない人間がいるのかなど二人は色々話し合うが、はっきりしたことは分からない。ここでユウロンは、「現在開発中のジェネリック地球が香港の気脈を乱し、「何か」に共鳴して幻の第二九龍を出現させた」と仮説を述べる。
一方鯨井は再会したオリジナルのグエンから今の自分を認めてもらい、「鯨井A」としての自分に自信を持つ。しかし、自分は工藤にとって偽物の存在に過ぎないということもますます痛感していた。鯨井は工藤に「自分は工藤のそばにいない方がいいと思う」と気持ちを打ち明ける。その言葉に工藤は鯨井の腕を掴み、「どこへも行くな。ずっと傍にいろ」と必死な表情で告げる。そこへ突然爆発音が響き、工藤は鯨井を残し爆発が発生した場所へ向かうがそこでグエンと再会する。グエンは「すぐにこの第二九龍から出よう」と工藤に告げる。グエンはみゆきの為に第二九龍の謎を解くべく戻ってきたのだが、彼のもう一つの目的は工藤を連れ出すことだった。だが、工藤はグエンに「俺は第二九龍から出られない」と意味深に言った。
後日鯨井は、楊明に誘われて一緒に香港へ買い物に出かけることになった。だが、鯨井は外へ出ようとしたところをグエンに引き止められる。そこへグエンが注文したピザ屋の配達がやって来た。「こんな瓦礫の廃墟でも受け付けているのはウチくらい」とグエンに話す配達の青年の言葉が気になった鯨井は話しかけるが、青年は彼女に全く反応しない。楊明は青年に「鯨井を何で無視するのか」と抗議するが、青年は怪訝な表情で「鯨井とはお客さんのことか」とグエンに尋ねる。こんなに至近距離にいるのに、全く気づかない青年に鯨井は不安を抱く。ここで、グエンは鯨井と楊明に「鯨井のことも第二九龍のことも青年には見えていない」と告げる。さらに彼は続けて「第二九龍は三年前に取り壊されており、住民達も現在は他所で暮らしている」と真実を話す。そして、グエンは以前第二九龍の住民だった陳さんを使った実験のことも話す。その実験から、「オリジナルが現在の第二九龍に足を踏み入れば今この第二九龍に住んでいる住民は消滅する」とグエンは告げる。彼の話を聞いた鯨井は「自分も今の第二九龍の住民達もこの世に存在していない」と衝撃を受ける。
一方ユウロンは、鯨井について調べるべく汪先生の部屋に入り込んでいた。そこで鯨井Bのカルテを見つけたユウロンは、汪先生が彼女の主治医だったことを知る。鯨井Bは自ら命を断ち、汪先生の元へ運ばれた時は既に手遅れだった。ユウロンからの電話でみゆきは、鯨井Bの死因が薬物の過剰摂取だということを知る。死亡の原因となった薬品名については削除されており、みゆきは鯨井Bの死に蛇沼グループと大旦那が関わっていることに気づく。
グエンに第二九龍の敷地から出ない方が良いと忠告された鯨井は、香港へ出かける楊明と別れて引き返す途中で工藤と出会う。グエンから聞かされた真実にショックを受けていた鯨井は、「どこにも行かないと約束してほしい」と工藤に縋る。泣き出す鯨井を抱きしめた工藤は「約束する」と答えるのだった。

『九龍ジェネリックロマンス』の登場人物・キャラクター

主要人物

鯨井令子(くじらいれいこ)

本作の主人公。第二九龍城砦にある不動産会社「旺来地産公司」に勤務するOL。32歳。工藤と小黒からは「鯨井」、友人の楊明からは「レコぽん」と呼ばれている。
タバコとスイカが好物。先輩の工藤に想いを寄せている。ある日、工藤のデスクにあった鯨井Bの写真を見つけたことをきっかけに過去の記憶が無いことに気づく。さらに、自身がクローンではないかと疑問を抱くようになる。鯨井Bの存在に苦悩するが、「絶対の私になりたい」と決意して「鯨井A」としてのアイデンティティーを積み上げていく。蛇沼製薬の目薬を差したことで何故か視力が回復したため、裸眼にしている。鯨井Bと異なり、新しいものを好む。

鯨井B(くじらいビー)

工藤の回想に登場するもう一人の「鯨井令子」。享年34歳。工藤と出会った時の年齢は32歳だった。工藤からは「令子」、グエンからは「令子さん」と呼ばれている。
ミステリアスな雰囲気を纏う女性。先輩として工藤に九龍での生活や仕事面で色々アドバイスを送り、今の工藤に多大な影響を与えている。本人曰く、強運に恵まれているらしい。元々不眠症を患っており、汪先生から睡眠薬を処方されていた。姉御肌で明るい性格だが、時折生きることに対して後ろ向きな発言を取る。上下巻のある小説の下巻は読まないタイプ。
工藤と婚約していたが、自ら命を絶つ。死因は薬物の過剰摂取だが、彼女の死には蛇沼グループが関わっているらしく謎に包まれている。

工藤発(くどうはじめ)

第二九龍にある不動産会社「旺来地産公司」に勤務する。34歳。第二九龍にやって来た時は30歳だった。
鯨井Bの元彼で、婚約していたが彼女に先立たれる。第二九龍に異動した頃、先輩だった彼女から色々教わっており深く影響を受けている。現在の鯨井に対しては面倒見の良い先輩として振る舞っているが、鯨井Bに関する深い闇を抱えており時折狂気的な一面を見せる。鯨井と違い、新しいものを嫌っているところがある。
亡くなった鯨井Bを今でも想い続けており、彼女の癖を受け継いでいるほど。現在の鯨井のことは彼なりに大事にしているようだが、真意は不明。理由は不明だが蛇沼グループを嫌っており、蛇沼みゆきに対して突っかかった態度を取る。
三年前に取り壊されたはずの第二九龍に戻って来ている。本人曰く夏から住んでいるとのことだが、具体的な時期についてははぐらかしている。現在の第二九龍が幻であることも知っているが、何やら事情があり離れずにいる。

蛇沼みゆき(へびぬまみゆき)

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