九龍ジェネリックロマンス(漫画)のネタバレ解説・考察まとめ

『九龍ジェネリックロマンス』とは、眉月じゅんが雑誌『週刊ヤングジャンプ』(集英社)に2019年49号より連載中のSFラブストーリーである。物語の舞台は、近未来の香港に存在する「第二九龍寨城」。その上空には建設中のコロニー「ジェネリック地球(テラ)」が浮かんでいる。不動産会社に勤務する過去の記憶を持たない女性・鯨井令子が様々な秘密に翻弄されていく中、先輩の工藤発との恋愛模様を描く。恋愛漫画でありながら、SF要素やミステリー要素が混じっているのが本作の魅力となっている。

本家の大旦那に呼ばれたみゆきは、彼とやり取りをする中でグエンの存在を仄めかされる。大旦那の元から帰った次の日、みゆきはグエンの荷物をまとめて彼に関係を解消することを告げる。急な別れ話に納得できないグエンは、大旦那から何か言われたことを見抜く。みゆきの復讐を知るグエンは、「復讐に生きるのはみゆきちゃんの本当の人生じゃないだろ」と訴えるがみゆきは「何が私の人生かは私が決める」と頑なに返す。グエンはみゆきの腕を掴み、真剣に「みゆきちゃん、俺を選べよ。自ら未来を奪うな…!」と復讐だけに生きないよう説得する。しかしみゆきの決意は固く、グエンは拒絶を受ける。拒絶されたグエンはみゆきに噛みついてキスをすると「愛してる…」と告げて出ていく。
グエンを大切に想いながらも、大旦那に生まれ故郷である第二九龍など大切なものを奪われた過去を持つみゆきにとって別れ話は苦渋ゆえの決断だった。そこには「これ以上大旦那に大切な存在を奪われたくない」という苦悩が隠されている。そしてみゆきの苦悩をグエンも理解しているからこそ、「復讐だけが人生じゃない」とみゆきに訴える。大旦那が原因で別れを迎えた二人が、今後どうなるか目を離せない。

真の第二九龍の姿

第二九龍へ向かうグエンを見送るタクシーの運転手。彼には第二九龍は瓦礫の山と化した廃墟としか映っていなかった。

みゆきから一方的な形で関係を断たれてしまったグエン。みゆきへの想いを秘める中、大切な存在のためにグエンは第二九龍へ向かう。ここで、遂に第二九龍の真の姿が浮き彫りになる。グエンには第二九龍は取り壊される以前の姿として映っていたが、グエンを案内したタクシーの運転手には「瓦礫の山と化した廃墟」としか映っていなかった。その中で、普通に生活をする鯨井・楊明・工藤をはじめとした第二九龍の住民達。現在の第二九龍が、人によっては「目に見えない存在」であることがはっきりと判明したシーンである。

汪先生「人が生まれ、生きることに意味などない。あるのは理由であり、その理由を何とするかは自分次第だ」

「半陰陽」で自分の性別がどちらか分からず、生まれ故郷の第二九龍を蛇沼グループに奪われたみゆき。母親を喪ったあと自分を育ててくれた汪先生の元を訪れたみゆきは、その苦悩を先生に打ち明ける。「生きる意味が欲しい」と苦悩するみゆきに、汪先生は「人が生まれ、生きることに意味などない。あるのは理由であり、その理由を何とするかは自分次第だ」とアドバイスする。そのアドバイスに、みゆきは「…なら、復讐が俺の生きる理由だ。唯一自分で選んで決めた…生き方だ」と複雑な表情で返す。みゆきは大旦那への深い恨みから復讐という道を選び、ジルコニアンやジェネリック地球の研究も全て復讐目的で動いていた。みゆき自身も汪先生の言う通りだとは分かってはいるが、それでも復讐という道を完全に捨てられなかった。

「心」と返事をする汪先生

蛇沼グループへの恨みから、「復讐」の道を選んだみゆき。「復讐が唯一自分で選んで決めた生き方だ」と話すみゆきに、汪先生は「お前は自分に生産性が無いと思っているフシがあるが、そこで復讐を選ぶのは悪手なんじゃないのか?」と告げる。汪先生はみゆきに、「復讐しても、みゆきの人生が変わるわけではない。怒りだけで人生を満たしてはならない」と諭す。複雑な表情を浮かべるみゆきだったが、「この世に生産性の無い人間などいないのだよ」と言う汪先生の言葉に「…俺にも何かを生み出せると?」と尋ねる。頷く汪先生に「例えば?」とみゆきは尋ねる。汪先生は少し考えたあと、「心」と答える。その言葉に、みゆきは「医者のくせにありもしねー器官挙げてんじゃねーよっ!」と照れくさそうに言う。復讐ばかりが生き方ではないと、汪先生なりにみゆきを案じる優しさが伺える。

グエンから現在の第二九龍の真実を聞かされる鯨井

グエンから現在の第二九龍の真実を告げられた鯨井は、自分が「人によっては目に見えない存在」だと知ってしまう。

鯨井は自分がクローン人間ではないかと苦悩しながらも、「鯨井A」としてのアイデンティティを積み上げていき自信をつける。ある日楊明に香港への買い物を誘われたことで、第二九龍から出ようとしたところグエンに引き戻されてしまう。そのあと鯨井は、ピザ屋の配達が第二九龍を「瓦礫の廃墟」と言いさらに自分が見えていないのを目の当たりにする。
ここでグエンは、「第二九龍は取り壊されて廃墟となっており、現在の第二九龍は見える人と見えない人がいる」という真実を鯨井に明かす。さらにグエンは本物の陳さんを第二九龍へ招いた実験のことも話し、「オリジナルが現在の第二九龍に入れば、第2の存在は消えてしまう」と告げる。
ついに鯨井は、今の自分が人によっては目に見えない「幽霊」のような存在だということを突きつけられる。第二九龍内でしか存在できない上、かつオリジナルがいれば自分は消滅することも。それは「鯨井A」として自分に自信を持ち、鯨井Bとは違う道を歩もうとしていた彼女にとってあまりにも残酷すぎるものだった。

『九龍ジェネリックロマンス』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

魅力的な食べ物の描写

レモンチキンに目を輝かせる楊明

『九龍ジェネリックロマンス』の魅力として、食べ物が美味しそうに描かれているという点が挙げられる。作中では、鯨井や工藤達が食べ物を美味しそうに食べる描写が頻繁に盛り込まれている。水餃子・レモンチキン・トマト飴・スイカジュースなどといった食べ物の描写もまたリアルで、緻密に描かれている。

「鯨井令子」とは何者なのか

「鯨井令子は何者なのか?」も、物語の魅力の一つ。

『九龍ジェネリックロマンス』の一番の謎は、「主人公である鯨井令子は一体何者なのか」という点である。鯨井は工藤の引き出しから彼が鯨井Bと写っている写真を見つけたことで、記憶が無いことや自分が何者なのか分からないことに気づく。鯨井は自分が「クローンかも知れない」という不安を抱きながらも、「鯨井A」として生きていくことを決意する。初めはクローン人間かと思われた鯨井だったが、蛇沼みゆきは今の彼女を「クローンではない」と後発的(ジェネリック)な存在だと関心を寄せる。
やがて第二九龍が物語開始の三年前に取り壊されており、現在の第二九龍も鯨井も人によっては「目に見えない存在」であることが判明する。他の第二九龍住民達は以前住んでいた住民達がそのまま再現されているようだが、何故か鯨井だけは容姿は瓜二つでも鯨井Bとは性格も嗜好も全く異なっている。過去編では鯨井Bと工藤の交流が描かれているが、鯨井Bもまた謎の多い人間であることが少しずつ明らかになっていく。鯨井Bは一体何者だったのか、鯨井には何故鯨井Bの記憶が無いのかなどまだまだ不明な点が多く、彼女の辿る運命に目が離せない。

世界観のモチーフはゲーム『クーロンズゲート』

作者の眉月じゅんは中学生の頃にゲーム『クーロンズゲート』にハマっており、さらに当時の九龍城砦をドキュメンタリーで観たことからモチーフとして好きだったと述べている。そのため前作『恋は雨上がりのように』の後は「九龍城砦を舞台にした作品を描きたい」と構想していたという。作中の第二九龍は、九龍城砦の写真集や『クーロンズゲート』を参考にしている。
『クーロンズゲート』は、1997年2月28日にソニー・ミュージックエンタテイメントより発売されたアドベンチャーゲーム。物語は、現実世界とは別世界に位置する「陰界」から出現した「九龍城」の風水を正して世界の崩壊を防ぐというものである。2017年10月26日には前日譚にあたる『クーロンズゲートVR Suzaku』、2019年11月10日には続編『クーロンズリゾーム』の製作が発表された。ちなみに『九龍ジェネリックロマンス』の登場人物・グエンや小黒は、『クーロンズゲート』にも同名のキャラクターがいる。ちなみに作者は、『クーロンズゲート』自体最後までクリアできなかったとのことである。

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