憂鬱な朝(漫画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『憂鬱な朝』とは日高ショーコによるボーイズラブ漫画作品。全46話、8巻。明治時代を舞台としており、主人公は10歳にして子爵家を継ぐことになる久世暁人(くぜあきひと)。暁人と、久世家の家令で暁人の教育係でもある桂木智之(かつらぎともゆき)との恋愛を描く。中心人物二人の恋愛だけではなく、明治時代の華族世界などに触れられる歴史大河ロマンでもあり、登場人物の複雑な人間模様も魅力のひとつである。

『憂鬱な朝』の概要

『憂鬱な朝』とは日高ショーコによるボーイズラブ漫画作品。CharaSelection(徳間書店)に2008年から2018年に掲載された。全46話、8巻。ドラマCD化もされた。明治時代を舞台とする。主人公は、子爵家唯一の直系嫡男の久世暁人(くぜあきひと)。10歳で父親を亡くし、爵位を継ぐ。暁人は、自分の教育係で久世家分家の三男、桂木智之(かつらぎともゆき)に幼い頃から尊敬や憧れを抱くが、やがてそれは恋愛感情へと変わっていく。久世家への強い忠誠心を持つ智之は、当初、自分から次期当主の座を奪った暁人を憎んでいたが、真摯でひたむきに愛情を捧げようとする暁人を大切に思うようになる。主人公、暁人と智之との恋愛だけではなく、暁人の久世家当主としての成長も描かれており、智之の出自についての謎も次第に明らかになっていく。人物造形も重厚で、暁人や智之と、石崎家や森山家との関係など、複雑な人間模様も読み応えがある。『このBLがやばい!』2017年度版で1位を受賞、『第4回BLアワード2012』コミック部門で第1位を受賞、『第10回BLアワード2019』BESTシリーズ部門で1位を受賞している。また、永久保存版スペシャルブック『憂鬱な朝 NOBLE COLORS』は、『コミコミオブザイヤー2019』コミック部門において第5位を受賞している。

『憂鬱な朝』のあらすじ・ストーリー

暁人が智之への思いを募らせ、智之が自分の気持ちに気づくまで

久世子爵家の嫡男である久世暁人は、病弱な母親と幼い頃から別邸で暮らしていたが、10才のときに母親が亡くなり、その半年後に父親も亡くして子爵を継ぐ。そして、父親の遺言通りに久世家本邸で暮らすことになり、本家の家令である桂木智之から教育されることになる。暁人は、優秀で人々の注目の的である智之に憧れるが、智之は暁人に厳しく冷たく接する。智之は、久世家の家格を上げるためには、色仕掛けも厭わない。自らの身体も利用し、家柄の良い西園寺重之(さいおんじしげゆき)や、有力者の夫人である森山侯爵夫人(もりやまこうしゃくふじん)と関係を持っていた。
高等科に上がると、暁人が智之と過ごす時間は減ったが、暁人は智之に惹かれる気持ちを募らせる。しかし、智之の暁人に対する態度はあいかわらず、憎んでいるかのように冷たかった。桂木家当主、桂木高正(かつらぎたかまさ)が危篤になった際、暁人は、桂木家の長男である桂木高之(かつらぎたかゆき)に会い、自分が誕生するまでは智之が久世家を継ぐはずだったと知る。やがて、桂木の冷ややかな態度に業を煮やした暁人は、智之を叙爵させられると言い、取引と称して無理に智之と身体の関係を結ぶ。それに対して智之は、暁人に久世家のために陞爵してほしいと言う。

その後、暁人は智之との関係に溺れて学院を休んでばかりいた。暁人の友人の石崎総一郎(いしざきそういちろう)は暁人が智之に執着しているのを心配して、智之に暁人を受け入れるなと言う。いっぽう智之は、暁人が学院卒業後に英国留学する前に、暁人を婚約させるつもりだった。また智之は、兄の高之が暁人に会って、自分のことを話したことへの腹いせに、桂木家が筆頭株主である鐘本紡績(かねもとぼうせき)の株を、交流のある華族に買わせて影から相場を操り、桂木家に損をさせる。暁人の婚約相手については、森山侯爵夫人や他の華族を通じて決めようと考えるものの、これまでの情事相手とは違って、暁人の真摯な愛情に自分の気持ちが引きずられているのを感じる。桂木高之は、森山家の夜会に出席していた智之に詰め寄り、株で桂木家に損をさせたことや、智之の出自のことで責めてつかみかかる。しかし、その場に暁人が現れ、分をわきまえろと言って高之を抑える。
しだいに暁人は、銀行からの書簡や資産目録を、智之まかせではなく、自分で見るようになり、森山侯爵家や大河内男爵家(おおこうちだんしゃくけ)への挨拶にも自ら足を運ぶ。また、暁人は、佐条公爵家(さじょうこうしゃくけ)の六女、俔子(ちかこ)との婚約の媒酌人を自分の後見である森山家ではなく、石崎家に頼む。石崎家当主の石崎総右衛門(いしざきそうえもん)は、暁人の後見をする代わりに、智之を石崎家によこすようにと暁人に要求する。
智之は、先代の久世子爵、久世暁直(くぜあきなお)になかなか嫡男が誕生しなかったため、桂木家から迎え入れられた。そのため、幼い頃から暁直に認めてもらえるように勉学に励み、精進してきたという経緯があった。智之は、暁人が本家で暮らすようになった当初は、暁人からすべてを奪うつもりで計画も立てていたことを、あらためて思い起こす。
暁人は自分を殺して佐条俔子との婚約に備える決意をし、佐条家の俔子に会いに行くようになる。その頃、久世家の元書生で十年ぶりにアメリカから帰ってきた雨宮林三郎(あまみやりんざぶろう)は、心酔している智之に子爵を襲爵させるために、久世家の元女中頭、りくを訪ね、智之の出生について調べていた。智之は、久世家の先々代、久世直弥(くぜなおや)が、妾である芸者に生ませた子だった。そのことを雨宮は、智之を久世家の当主にする目的を果たすために桂木家に訴えに行く。やがて、暁人は、桂木高之から智之の出自のことを教えられ、智之を信用するなと言われる。暁人は、智之が久世家を継ぐために暁人を排除することを考えていたと知り、智之のことが信じられないと智之に告げる。しかし、それは、暁人当人もすでに忘れていたような計画だった。智之は図らずも暁人を傷つけることになって、自分を責める。智之は暁人に、他の誰からも守ると断言する。しかし、暁人は、森山侯爵に佐条俔子との婚約を破棄し、自分は隠居して久世家は智之に継がせると申し出る。

相思相愛のはずなのに、久世家の跡継問題ですれ違う暁人と智之

暁人は、石崎総一郎が芸者の小ふさ(こふさ)との密会のために借りた、元女中用の部屋で寝起きするようになり、久世本邸にも帰らず、学院にもあまり行かなくなる。暁人は爵位を捨て、智之に久世家を継がせて、居場所を与えるつもりでいた。暁人は雨宮を久世家の家令として迎え、智之に爵位を継がせるための証拠を集めさせる。いっぽう、智之は、石崎家に入り、総一郎の助けを借りて、外から暁人を支える決意を固める。
暁人は、総一郎から借りた部屋で暮らす自分を諫めに来た智之に、佐条家との婚約を白紙に戻すと言う。暁人は智之に、智之以外に気持ちを向けることはできないから跡継ぎも残せないが、智之なら当主として家のためだけに生きられるはずだと言う。智之は暁人の一途な気持ちに飲まれ、忘れようとしていた気持ちを抑えられなくなっている自分に気づく。智之は、暁人を守るために、智之を久世家の当主に据えるという暁人の計画を阻止する決意を固め、暁直の異母弟、直継(なおつぐ)に久世家を継がせることを思いつく。そして、その計画を暁人に伝えると共に、初めて自分の暁人への思慕を言葉で伝え、側に置いて欲しいと言う。しかし、互いに話し合わないまま、暁人は智之のためを思って行動し、智之は暁人を思って行動するため、行動はいっこうに噛み合わない。
森山侯爵邸での夜会で、智之が手配して暁人は久世直継と会う。しかし、暁人は直継と話した結果、直継は久世家の当主にふさわしくないと感じる。直継自身も久世家を継ぐつもりはなく、むしろ、暁人に息子、直矢(なおや)の庇護を頼む。結局、土壇場になって、久世家を直継に継がせるという智之の計画は頓挫する。

久世家の跡継問題の決着と暁人の留学、そしてその後

暁人は、世間的には病気療養中として、そのあいだに智之に石崎家と久世家の間を行き来させながら、東京から久世家旧藩までの鉄道の施工を進める。暁人は国元に鉄道会社を興すつもりだった。石崎総右衛門からは、鉄道関連の手助けをする代わりに、智之には生涯、石崎家で働いてもらうと言われていた。また、暁人は雨宮に、久世家の書生にする候補者を地元で選ぶように命じる。そのいっぽうで英国留学の準備を進めるが、そのことを、最後まで自分の口から智之に言えない。智之のほうは、自分と暁人の関係が久世家の為にならないのではないかと悩んでいた。
智之は石崎総右衛門に、生涯をかけて尽くすのは暁人だけだと言い、石崎家を首になる。智之が社長をしていた石崎紡績は社員がストライキを起こし、株価が大暴落する。智之は兄の高之を説得して、紡績工場を潰さず、経営権を得るために石崎紡績の株を桂木家に買わせる。石崎紡績は桂木家の所有となり、智之が社長となる。
暁人は、鎌倉で一夏を過ごした後に英国に二年間留学することになる。その後、鎌倉の久世家の別荘を訪れた智之に、暁人は、古いしきたりに捕われない新しい久世家についての計画を話す。暁人は自分の留学の際に、雨宮に選ばせた久世家の書生十名も留学生として伴うつもりでいた。将来、久世家の旧領地で産業を興させるためだった。石崎家に頼っていては、いずれ石崎家に会社も土地も奪われると考えたからだった。暁人は、智之も英国留学に誘うが、智之は日本に残る。暁人は留学前に、桂木高正から聞きだした智之の父親についての真実を智之に伝える。じつは智之は、桂木家の先々代と、後に久世家先々代の妾になった知津(ちづ)との間にできた子だった。二年後、英国から帰った暁人は、直継の息子、直矢を養子として迎え、智之と共に久世家の次期当主として育てていく。

『憂鬱な朝』の登場人物・キャラクター

主要人物

久世暁人(くぜあきひと)

久世子爵家の唯一の直系嫡男。10歳で爵位を継いだ。1巻当時は10歳で最終巻では20歳。母親である寿美子(すみこ)が病弱であったため、鎌倉にある久世家の別邸で育った。10歳のときに、母と父を相次いで亡くし、10歳にして久世家の当主として爵位も継いだ。その後、久世家の家令であり、教育係でもある桂木智之から、厳しい教育を受けて成長した。素直でまっすぐな性格だが、賢く計算高い面もある。学院での成績は優秀。智之に幼い頃から憧れており、その気持ちはやがて恋心にかわる。父親の暁直は、身分や家を重んじる、古い考えの持ち主だったが、暁人は家柄にこだわらず、考え方も柔軟。自然に人が従うような人物に成長していく。

桂木智之(かつらぎともゆき)

久世家の家令。久世家の分家である桂木家の三男。九歳のとき、長いあいだ嫡子ができなかった久世暁直に、久世家の跡取りとして引き取られた。その後、暁直から当主になるための厳しい教育をうける。11歳のときに、暁人が誕生したため、久世家の跡継ぎ候補ではなくなるが、そのまま久世家で冷静沈着で優秀な美貌の青年に育つ。母親が妾である芸者であることを暁直に知られてからは、暁直からは冷たい仕打ちを受けていた。自分が継ぐはずだった久世家の当主を、幼い暁人が継いだ当初は、暁人を憎んでいた。取引というかたちで、17歳の暁人から久世家を子爵から陞爵させることを約束する代わりに肉体関係を強いられるが、その後、次第に暁人を想うようになる。やがて、暁人の自分に対する思慕が、若さ故の一時的なものではないとわかり、暁人のまっすぐな愛情に応え、深く愛するようになる。1巻当時は21歳で、最終巻では31歳。

石崎総一郎(いしざきそういちろう)

石崎財閥の嫡男。暁人とは同級生。無骨だが誠実な人柄で暁人の親友。暁人の智之に対する執着を心配して、最初は反対していたが、やがてふたりの関係を応援するようになる。

久世家の関係者

久世暁直(くぜあきなお)

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