零〜濡鴉ノ巫女〜(Fatal Frame V)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『零~濡鴉ノ巫女~』は任天堂発売の和風ホラーゲーム『零』シリーズの第6作目(通算9作目)である。キャッチコピーは「死の山、幽婚、神隠し すべては水でつながっている。」。不来方夕莉、雛咲深羽、放生蓮の3名が操作キャラクター。日上山という水をご神体として崇める霊山が舞台。夕莉は消えた恩人や依頼人を、深紅は母を、蓮は死者を写した弔写真を追い、それぞれの事情から怨霊が徘徊する日上山へ踏み込んで怨霊との戦闘や探索をくり広げる。映画さながらの美麗グラフィックと陰鬱な雰囲気がファンを集めている。

『零〜濡鴉ノ巫女〜』の概要

『零~濡鴉ノ巫女~』(ゼロ~ぬれがらすのみこ~)とは任天堂から発売された和風ホラーゲーム『零』シリーズの第6作目(通算では9作目)。コンセプトは「Wii Uで体感する濡れる恐怖」でキャッチコピーは「死の山、幽婚、神隠し すべては水でつながっている。」。国外版名は『Fatal Frame: Maiden of Black Water』『Project Zero: Maiden of Black Water』などがある。日本版とは異なり一部の限定版を除いてダウンロード販売であり、重要コンテンツの基本プレイ無料版が配信されている。
家族を亡くし天涯孤独となった霊媒体質の少女・不来方夕莉、第1作目『零』の主人公・雛咲深紅の一人娘でもある芸能人の雛咲深羽、射影機の製作者でもある神秘科学者・麻生邦彦の分家の子孫にあたる作家の放生蓮の3名が操作キャラクターにして主人公。
夕莉は自分の後見人である黒澤密花や依頼人を、深羽は幼い日に失踪した母を、蓮は死者を写したと噂される花嫁の弔写真を追い求めて独自の信仰が伝わる日上山に分け入っていく。
視点はフロントビュー(後方視点)方式でWii U GamePadを射影機に見立てるなどオリジナリティに優れた操作方法が特徴。ストーリーは本編16章と外伝4章の構成になっている。

バトル面の特徴としてシリーズ従来のシャッターチャンスがデフォルトの判定制ではなくなり、怨霊の撮影時に飛散する度に「霊片」という欠片をファインダーに収めた回数が多いほど敵へのダメージが大きくなる仕様に変更された為、敵に大ダメージを与えられる至近撮影時のフェイタルフレームを狙い、怨霊が特定の行動パターンに移行するまで身構える「待ち戦法」が基本の過去作と異なり、アグレッシブな撮影の手数で押す「攻め戦法」が重視された。
本作では章の区切りがミッションモードと同じ役割を果たし、フィルムや消耗アイテムは次章に持ち越しできない使い切り方式となった。なおセーブは自動的に行われる通過ポイントチェック制に変更された。
ゲームクリア後の特典としてTeam NINJA監修による3D対戦格闘ゲーム『DEAD OR ALIVE 5』以降のキャラクターデザインをベースにしたあやねが登場するミッション「綾」が実装された。
『DEAD OR ALIVE』シリーズの人気キャラクターであるくノ一・あやねが『零』の世界に実在している設定として、日上山で怨霊とのバトルを繰り広げる。『刺青ノ聲』の天倉螢の固有能力に似た、隠れることを主体としたスパイ風のアクションが楽しめる。追加コスチュームやアクセサリーはエンディング曲と関連する白無垢、ウサギ耳と尻尾、日本版限定のグラビア水着、国外版限定の任天堂コラボ系など豊富。

エンディング曲はAnJuの『HIGANBANA』及び夕莉が白無垢でクリアした際の天野月の『鳥籠-in this cage-』の2種が存在する。

『零〜濡鴉ノ巫女〜』のあらすじ・ストーリー

序 水籠(操作キャラクター:雛咲深羽)

雛咲深羽は漆黒に染まる水面に浮かんでいるところで目を覚ます。
そこは真っ暗闇に包まれた古色蒼然たるお堂のような場所で、周囲には長い黒髪を揺蕩わせた女性の水死体が大量に浮かんでいる。戦慄の光景にここがどこかもわからず二の腕を抱いて立ち竦む深羽。彼女は濃霧が立ち込める日上山で神隠しに遭い、消息を絶っていたのだ。呆然とする深羽へと周囲の水死体が起き上がり襲いかかる。彼女たちはすっかり怨霊化し、怨嗟の声を上げながら迫ってくる。全身濡れそぼって呪詛を呻く不気味な女達に囲まれた深羽は、掴みかかってくる女達を必死に振りほどいてなんとか逃げ出す。
逃げ出した先は木造建築の建物で入り組んだ廊下が続いていた。しかし前方に見えてきた出口とおぼしき扉が閉まり、扉に触れた瞬間黒髪を振り乱した巫女らしき装束の女の形相がフラッシュバック。
閉め出されてしまった深羽は仕方なく別の通路を進む。先程は閉まっていた為に通過した扉が開いているのに気付いた深羽はその中へ飛び込むが、そこもまた水浸しの空間であり、中央には豪華な彫刻が彫られた物々しい箱が鎮座していた。

箱に近付くと蓋の隙間から夥しい黒髪がうねりだし、驚く深羽の四肢を絡めとろうとしてくる。
箱から這いだした謎の幽霊に襲われたところで場面は暗転、雛咲深羽が日上山で消息を絶った旨を伝えるナレーションが入る。

一ノ雫 残影(操作キャラクター:不来方夕莉)

夕焼けの断崖にたたずみ自殺を図ろうとした夕莉は密花に止められる。

日上山という霊山の近くにのみ伝わる影見の力。この力を持った者は、捜索対象の髪や所持品を頼りに神隠しに遭った人物を追えるのだ。
その日、不来方夕莉は後見人の黒澤密花と共に日上山の廃旅館を訪れていた。
自分と同じ霊媒体質の夕莉に影見の萌芽を感じた密花は、自立の為にも早く能力のコントロールを覚えてほしいと望み、彼女を同行して知人である作家・放生蓮の依頼に赴く。蓮の依頼とは、死人を撮影する事でその魂を弔う弔写真の現物を捜して欲しいというもの。
彼が現在所持する弔写真はこの旅館で発見された物で、ものぐさな自分に代わって他にも残ってないか調べてほしいというのだ。
密花は夕莉に怨霊を封印する射影機を渡す。これは神秘科学者・麻生邦彦が製作した物で、現世と幽世を繋ぐ貴重なアイテムだった。
密花と夕莉は二人で旅館を探索する。建築は朽ち果てて足場が悪く、床には何故か水が溜まっている。奥まで来た時、夕莉は残照を背にたたずむ謎の影と遭遇。覚束ない足取りで近寄ってきたその人物は醜悪な怨霊となりはてた旅館の経営者だった。
怨霊に歩み寄ってこられた夕莉は思わず息を呑み密花に助けを求めるが、彼女の背後には既にその霊が回りこんでいた。
どす黒い血管が浮いた男の霊に怯えてあとじさる夕莉だが、男はすぐに消えてしまった。密花も霊の気配を感じてると言い、今のは対象者の所持品・寄香(よすが)を通して影見の力で見れる過去の残像であり、寄香の対象者の残留思念が焼き付いた残影(ざんえい)だと告げる。残影に導かれて更に奥へ進む二人。
途中で拾った紙片には日上山が日本有数の霊場として崇められていた事、山頂の彼岸湖から流れ込む豊饒な水が大地を潤して人々に恵みを与えてきた史実が綴られていたが、大きな地滑りを境にすっかり寂れはて今では誰も寄り付かなくなってしまったそうだ。
この旅館もその自然災害で従業員と経営者一家が死亡し、廃墟と化してしまったのだ。夕莉は従業員や経営者の怨霊との戦闘を経て、どうにか弔写真の残りを入手する。怨霊との初戦闘に疲労困憊する夕莉を密花は背後から優しく抱き締めて癒す。
密花は射影機の扱いに慣れてほしい一心で夕莉を同行したのだが、予想以上に多く、そして凶悪な怨霊が徘徊しているのに驚き、安易な判断で彼女を引き入れてしまった事を後悔していた。
密花はやっぱり自分一人でやるべきだったと夕莉に詫び、一旦骨董・喫茶「くろさわ」に戻る。

二ノ雫 日上山(操作キャラクター:不来方夕莉)

数日後、別件で単身日上山に赴いた密花が消息を絶った。独り残された夕莉は彼女の身を案じながら「くろさわ」の留守を守っていたが、そこへ氷見野冬陽という少女が訪れ、密花に人捜しを依頼していた事を話す。密花は冬陽の依頼を受け、夕莉をトラブルに巻き込まないよう家において日上山へ向かったのだ。
冬陽が捜しているのは一週間以上前に行方不明になった親友・百々瀬春河。冬陽と春河は高校時代他の仲間と共に心中を企てたが、冬陽と春河だけが生き残ってしまった。それ以降冬陽の自殺衝動は鳴りを潜めたが春河は違ったらしく、自殺の名所と噂される日上山付近で姿を目撃された。冬陽は再び過ちを犯そうとしている親友の身を案じ、影見ができる密花に縋ったのだ。
彼女の話を聞いた夕莉は密花の失踪と春河の消息が関係していると推理、密花の部屋を調べ始める。そこで冬陽が密花にあてた手紙を発見、密花が二人と面識があり、二人の思い出の写真を捜しだした事で非常に頼りにされていたのを知る。
夕莉が店に戻ると冬陽は既にいなくなっていた。どこいるかわからない密花の続報を待ちきれず、ひとりで春河を探すことに決めたらしい。
行方不明の密花に続き、無謀にも夜の日上山へ一人で向かった冬陽を心配した夕莉は彼女が密花にあてた手紙を寄香に追跡。白く光る冬陽の残影に従って進む途中、水場で密花が持ち出した射影機を拾うがどこにも彼女の姿はない。射影機が上流から流れてきたなら密花もそこにいるはずだと推理する夕莉。

夜の日上山は不気味な闇に包まれて、滝から身投げをくりかえす霊や旅館の主の霊がさまよっていた。途中で拾った冬陽のメモには、春河が自分に何も言わず一人で死ぬ訳ないと親友の裏切りを疑い煩悶する心情が書かれていた。彼女は独自に日上山について調べており、この山は昔から死に近く死に誘われやすい人が訪れていた事、勘がよく神経質な人や身寄りがない人、気が弱く優しい人が特に感応しやすいとあった。続いて入手したメモには冬陽と春河が幼稚園の頃から一緒の幼馴染であり、春河がいなくなったら息もできないと思い詰めた冬陽の苦悩が記されている。
道中拾った文献には日上山の来歴が記述されており、この山には全てが水から生まれ水に還るとされる夜泉信仰が伝わり、人の最期の念を写し取った夜泉が溜まる黒キ澤を守る巫女たちの存在に言及されていた。この巫女たちは水を介して参拝者の最期を看取る役目から常に全身を濡らしていなければならず、故に濡鴉の巫女と呼ばれていた。

冬陽と春河の共依存に近い濃密な友情に思いを巡らせて歩む夕莉を、日上山で死んだ自殺者の怨霊が襲撃。彼らを射影機で撃退した夕莉は冬陽の残影に導かれ、沢山の人形が祭られた形代神社へ迷い込む。神社の境内では神隠しで消えた子供たちの霊が無邪気に遊んでいた。
神社を後にした夕莉は遂に冬陽に追いつくが、振り返った彼女は放心状態で目の焦点が合わない。春河の姿は見ていないが絶対にここにいるの一点張りで譲らない冬陽を不審がり、その身体に触れた夕莉の中に過去の記憶が流れ込んでくる。
それはセーラー服を着た五人の少女が横広がりに手を繋ぎ、沼の深みへ入り込んでいく光景だった。少女の一人は冬陽で場所は日上山の水場であり、在りし日の冬陽らはこの山を自殺の場所に選んだのだ。しかし入水自殺は失敗し冬陽と春河だけが生き残り、皆で死ぬ約束を破ってしまった。この時点で冬陽は自殺への意欲を失っていたが、春河は諦めきれず次の予定日を聞いていた。
冬陽は春河に依存しており、自殺はもう嫌だったが親友においていかれるのも容認できず怯えていた。心ここにあらずな冬陽を一人にはしておけず、夕莉は彼女を連れて一旦山を下りることにする。
下山中、橋を渡った夕莉は密花の蜻蛉玉が落ちているのを発見。耳飾りを通して見た光景は、射影機を構えた密花が腰まで湖に浸かっていたが、水面に映った自分の顔を突き破って黒い濡れ髪の女が現れ、成す術なく引きずり込まれるというものだった。射影機はこの時に落としたに違いないと確信する夕莉。
その時鼻歌が聞こえ、冬陽がいつのまにかいなくなっている事に焦った夕莉は大慌てで捜しだす。道を引き返して形代神社に戻ると、神隠しに遭った子供たちの霊が襲ってくる。この子たちは洋服と着物とりまぜてばらばらで、それぞれ消えた時代が異なる背景が窺えた。
「春河はここにいる」
子供たちを退けた夕莉は、神社の朽ち果てた扉の前でうわ言を呟く冬陽を保護して連れ帰る。
折悪しく雨が降り始めて夕莉の全身を濡らす。慣れない山歩きに加え篠突く雨に体力を消耗した夕莉は、後ろについてきているはずの冬陽を見失って狼狽するも、沢で見つけた彼女は幼稚園の卒園式の日に春河と唄った思い出の歌を抑揚なく繰り返すばかりで完全に常軌を逸していた。しかも手には小刀が握られており、駆け寄ろうとした夕莉の眼前で自分の喉を掻き切って絶命する。
凄惨な光景に反射的に目を閉じてしまった夕莉だが、おそるおそる目を開けると冬陽がいない。

幻覚だったのかと怪しむ夕莉の背後に怨霊と化した冬陽が迫り、闇雲に襲いかかってくる。射影機で倒した後に霊の残滓に触れて記憶を覗く「看取り」を行う夕莉。
夕莉とはぐれた冬陽は水辺で小刀を発見し、不思議に思って拾い上げた瞬間対岸の巫女の霊が刀で首を切った。
驚愕する冬陽だが、何故か手が言う事を聞かない。それでも必死に抗うが先程まで対岸にいたはずの巫女が背後に瞬間移動し、春河の幻を見せられた瞬間心に隙ができ、操られて自殺を強制されたのだった。冬陽が見た春河は怨霊が化けたまやかしだった。
看取りを行った夕莉に、今度は冬陽を不本意な自殺に追い込んだ巫女の怨霊が襲い掛かる。
顔を黒い布で覆った巫女はもうこの山からは出られないと告げ、苦戦しながらどうにか退けた夕莉は死に物狂いで下山するが、その際通過した禊ヶ淵に自分が倒したはずの巫女が流れ着いて戦慄を禁じ得ない。
結局密花の無事は確認できず、依頼人の冬陽にも目の前で死なれてしまったショック冷めやらぬ夕莉は無力感に打ちひしがれて骨董・喫茶「くろさわ」に帰るしかなかった。

三ノ雫 弔写真(操作キャラクター:放生蓮)

作家・放生蓮は幼い頃からくり返し見る悪夢に悩まされていた。夢の中の自分は着物を着た子供であり、見知らぬ祭りの光景が広がっている。蓮の視線の先には白髪を肩で切り揃えた少女がおり、蓮はその背中を短刀で刺し、黒い水で満たされた箱に突き落とす。少女を飲み込んだ箱の中からは黒い水が懇々と溢れだして周囲に広がっていく、不吉な夢だ。
ソファーで目覚めた蓮は、少年助手の鏡宮累が密花から託された弔写真を受け取る。弔写真とは写真が発明された初期に流行ったもので、死者の姿を映す事で魂を弔うとされた。元々は西洋発祥だが日本にも伝わっており、一部が今も現存しているらしい。
次回作で弔写真をテーマに取り上げる予定だった蓮は現物が欲しいと考え、ずぼらで探し物に向かない自分に代わり密花に調査を依頼したのだった。累から写真帖を受け取った蓮は、中から滑り出た一枚の写真に魅了される。それは白無垢の花嫁を撮った写真で、儚げな容貌に妙に惹きつけられた。

「一緒に終わってくれますか?」
ふいに花嫁が顔を上げ、まっすぐ蓮を見て囁く。硬直する蓮だが、累はまるで異変に気付かず綺麗だけどなんだか哀しそうだと素朴な感想を漏らす。蓮は例の夢のせいもあって異性が苦手な為に、女性の写真に見とれるのは珍しいことだった。もっと花嫁の事が知りたくなった蓮は、累を伴い発見場所の廃旅館へ行く。
蓮は麻生邦彦の分家筋の出身で複眼射影機を所持していた。それを廃旅館に持参し、累と共に調査を開始する中で射影機を使い霊を撃退する。旅館には相変わらず従業員や経営者の家族の霊が徘徊し、荒廃した空気が漂っていた。蓮達は密花が写真帖を発見した部屋で黒く汚れたノートを入手、そこには遺書ともとれる内容が書かれていた。
最期は屋上の展望室がいい、あそこなら夕日が美しく見えるという文章を読んだ蓮は展望室へ移動する。途中射影機が反応した小さい整備扉を写し、黄色いキーホルダーの付いた展望室の鍵を手に入れる。鍵を入手してさらに進むと、首吊りの縄が巻き付いた経営者の妻が襲ってくる。彼女を躱して展望台に辿り着くと、既に霊となった経営者の飛び下りを目撃する。経営者が飛び下りた後には遺書があり、土砂崩れに旅館が半分飲み込まれ復興の見通しが潰えたこと、父から相続した被写体が誰かもわからない弔写真だけが家族の唯一の寄香になったと自殺の動機が綴られていた。
射影機を使って展望台を撮ると一冊の本が姿を現す。蓮が夢中で本を読み耽っている間、何者かに誘われるように累が離れていく。

展望台の柵が破れた突端に立った累は、上からぶらさがる縄で首を括って飛び下りようとしたが、それは経営者の妻の祟りだった。
射影機で経営者の妻を退けた蓮は、様子のおかしい累を連れてとりあえず山を下りようとするが、二人の背後に黒い目隠しをした巫女が召喚され「ここで融けるのです」と襲ってくる。巫女を退治した後、蓮は彼女が消えた場所で一冊の本を入手。そこには写真帖の出所が記されていた。経営者が父から受け継いだ弔写真は、元々は日上山に庵を結んだ民俗学者・渡会啓示の収集物だったそうだ。渡会は英国出身だったが日本の民俗学に魅了され、外国人の民俗学者を珍しがった先代が弔写真の収集に協力した。ところが渡会はある時期を境に行方不明となり、先代も彼の痕跡を追ううちに消えて、息子の手元にはミステリアスな弔写真だけが遺された。
ひとまず花嫁の手がかりを得た蓮は、怨霊に唆され危なく殺されかけた累を支えて下山する。

間ノ雫 影見(操作キャラクター:不来方夕莉)

密花が行方不明になったまま、焦慮に苛まれて無為な日々をやり過ごす夕莉。
日上山での体験を警察に相談し密花の捜索を乞うも、怪現象を現実のものとして取り合ってもらえない。怨霊に憑依され自殺した冬陽や禊ヶ淵に流れ着いた大量の巫女の亡骸を思い出した夕莉は、日上山で続く凶事に密花の身を案じ、自力で捜索を行う決断をする。
少しでも手がかりが欲しい夕莉は射影機を点検し、水面にたたずむ怪しい人影の写真を入手。密花の消息を追う上でヒントになりそうな写真はこれ一枚きり、残りは感光してしまったのか真っ黒に塗り潰されていた。
外では大雨が降っていた。夕莉は新しい密花の寄香を求め、彼女の部屋を調べる。密花の部屋に入ると何か言いたげにした彼女の幻が出迎える。自分に何か伝えたい事があるのかもしれないと感じた夕莉が机を撮影すると、抽斗の鍵があるとおぼしき第一倉庫の光景が写真に浮かぶ。

第一倉庫へ向かった夕莉は、途中第二倉庫の扉の前に立ち尽くし謝罪を繰り返すセーラー服の少女の霊を目撃する。第二倉庫に入った夕莉は、密花が影見として依頼を引き受けたものの、様々な事情から捜索を断念した対象者の資料を発見。殆どの情報は黒く塗り潰され判読不可能だったが、中に成海あかりという女子高生の資料があった。依頼者は母親らしい女性。資料に綴じられた写真はくしゃくしゃに握り潰された痕跡があり、あかりの顔は掠れていた。あかりは密花の眼前で崖から飛び降りて自殺し、止められなかった密花は深く悔いているようだ。
密花のトラウマの一端を垣間見た夕莉は続いて第一倉庫へ向かい小さな鍵を拾うが、同時に埃を被った資料を発見。そこには日上山で失踪した雛咲深紅の資料があった。依頼者は知人の女性。深紅は兄と二人家族だったが、ある事件で最愛の兄を失い、その後写真家の助手を務めた後に妊娠・出産。父親不明の娘が3歳の時に忽然と消息を絶っている。密花は寄香を頼りに追跡を試みたが、存在が弱くなりすぎて跡を追えず捜索を打ち切らざるえなかった。他に終了案件と題されたファイルがあり、夕莉自身の来歴が載っていた。夕莉は学生時代に他の家族を事故で失ってから幽霊が見えるようになったが、医者はおろか周囲の誰も彼女の言い分を真に受けず孤立し、絶望から身投げしようとしたところを密花に救われたのだ。密花は経過観察を兼ね、天涯孤独で情緒不安定な彼女を家に住まわせることにした。
倉庫で手に入れた鍵で密花が愛用する抽斗を開けた夕莉は別の資料を入手する。抽斗の中には冬陽が出した百々瀬春河の依頼書がおさめられていた。それによると元々二人は「くろさわ」の常連だったが、高校時代のある時期を境にぱったり来なくなったらしい。

別のファイルは雛咲深紅の娘にあたる雛咲深羽という少女の依頼書で、芸能活動をしていたが自ら失踪したとの事。写真の少女は深紅とよく似ていたが、今にも消えてしまいそうに儚げな彼女と違い気が強そうな印象を受けた。蓮に依頼された榊一哉という男性の資料も保管されていたが、堅物な蓮と違いホストよろしく軽薄な人柄に疑問を呈した密花は、付き合いを控える忠告をすべきか悩んでいた。
同時に発見した密花の手帳には彼女の個人的な心情が綴られており、夕莉を一人にするのは心配だが待っているだけでは何も解決しない、自分から動かなければと奮起している。
春河の写真を新しい寄香にした夕莉は射影機を持って「くろさわ」を出るが、そこで自分を導くような密花の幻と遭遇。
以前崖から身を投げようとした時は密花が止めてくれた。今度は自分が後見人にして恩人である彼女を救い出す番だと決意し、怨霊が巣食う夜の日上山へ赴く夕莉。

四ノ雫 神隠シ(操作キャラクター:不来方夕莉)

密花の机から人探しの依頼書を発見した夕莉は、密花の後任として人捜しを再開する。自殺した冬陽が追っていた少女、春河。冬陽は自殺の直前、形代神社の扉の前をさして春河はここにいると呟いていた。
途中の祠で春河が落としたメモを発見する。そこは冬陽のところに戻るなら今が最後である事、泣きたくなる位夕陽が綺麗だからここまで来たとある。どうやら春河は神々しい夕陽に魅了され、過去に集団自殺に失敗した日上山を再び自殺の場所に選んだらしい。支離滅裂な文面から春河も何かに憑かれていたのではと感じる夕莉。

山裾に広がる不知ノ森に足を踏み入れた夕莉は、以前首吊りの霊を見た木にひっかかっている袋に触れる。すると巫女殺しの犯人であろう男が、人々を無差別に殺戮していく光景が甦る。昔、日上山の巫女に懸想した男がいた。男は巫女に言い寄るも神に仕えているのを理由に断られ逆上、巫女を殺して川に流すも死体の目に呪われ、松明と鉈をひっさげ数日後に再び入山。残りの巫女も全て惨殺し目を潰して回った後、己の首をはねて自害した逸話が残されていた。以来日上山には男に惨殺された巫女たちの怨霊が屯し、夕莉が先日楔ヶ淵で目撃したのも彼女らの霊だった。狂人に殺害された巫女たちは全身濡れそぼった霊となり、禁忌の山に迷い込んだ人間を死へ誘い、冬陽もまた巫女の霊に魅入られて自害したのだ。
形代神社に辿り着いた夕莉は、春河の残影が中へ吸い込まれていくのを見、裏口を通って拝殿廊下から侵入。神社内には等身大の不気味な少女人形が散乱していた。障子を開けて進むと、大小の人形に埋もれた一間があり、冬陽との思い出を回想するメモが落ちていた。春河も幼稚園の頃が一番幸せだったと言い、最期を目の前にして当時に戻りたがっている心境が綴られていた。
人形だらけの部屋の雛段の下に隠された階段を発見した夕莉だが、階段の入口は木製の格子で固く閉ざされている。なんとか先へ行く手段はないものか模索する夕莉に、何者かが鈴を鳴らすような声をかけてくる。

振り返った夕莉が目撃したのは、日本人形を抱き、白髪を肩で切り揃えた着物の少女・白菊だった。白菊は自分が抱く人形は夕莉の人形見(ひとがたみ)だと言い、今からこれを隠すから探すのだと持ちかける。人形見とは人の身代わりとして人柱などの儀式に使われるが、生きている人を模して作られた人形見にはその人の魂が宿り、壊されると本人にも同じ害が及ぶと言われた。日上山に伝わる人形を隠す遊びは、昔口減らしで山に捨てられた子供達と遊びながらあの世へ送る風習が元になったとされ、一説には人柱を隠す儀式が関係しているとも囁かれる。
問い詰める暇もなく少女は姿を消し、射影機で写真を撮った夕莉は、そこに浮かび上がった首吊りをした女性の場所を探す事になる。女性が首を吊った場所に人形見があるに違いないと射影機で透視した夕莉は、別所からも地下へ下りる通路を見かけるが、どうやら地下は水没しているようだ。そこかしこに放置された不気味な人形に襲われながらも形見回廊に行くと、大量の人形見が棚に飾られている。途中で拾った資料には日上山には水帰りと呼ばれる信仰があり、山で死ぬことをさすと書いてある。日上山信仰において、人々は水より生まれ水に帰る輪廻を信じ、山の水に濡れて死ぬことは魂を水に戻す「正しい死」として「水帰り」を神聖視したのだ。故に日上山には自ら死を選んだ者だけが入山を許され、山中で自害する風習があった。命を粗末にする行為と忌み嫌われる自殺も、日上山の水に浄められる限りにおいて正しい死として扱われた。
目的の場所をさがし神社の内外をさまよう夕莉は、神隠しで消えた子供の霊に遊び相手と見なされ引き込まれそうになるがどうにか巻き、無事人形見を手に入れて雛段に戻そうとする。ところが白菊が人形を操ったり突進を仕掛けるなどして攻撃し、手こずりながらも彼女を撃退した夕莉が人形見を雛段に飾ると、からくりが作動して階段の格子戸が開く。
階段の先は胎内洞窟と呼ばれる溶岩洞窟であり、注連縄があちこちに張られている事から神聖な場所であるのが窺えた。

大量の水で満たされた胎内洞窟を進んでいた夕莉は、奥に浮かぶ箱から白い手が一本突き出ているのを見、まさかと思って蓋を開ける。箱の中にはぐったりした春河がいたが、命に別状がないのを悟って安堵する夕莉。春河は夕莉に縋って、ここに来るまでに自分の身に起きた出来事を回想する。曰く、高校時代の集団自殺に失敗して生き残った春河は目覚めた直後に恐ろしく綺麗な夕陽を見た。彼女の記憶の中でその夕陽は死の誘惑と深く結び付き、日上山を再び訪れた春河の前に巫女が現れ、彼女を形代神社の地下深くの胎内洞窟へ導いた上、生きたまま箱に詰めてしまったのだ。
回想から戻った春河は恐怖のあまりパニックに襲われる。抱き締めて宥めようとする夕莉だが、その時周囲の箱が開いて、次々と巫女たちの怨霊が襲い掛かる。春河を庇い苦戦しながらも巫女たちを撃破した夕莉は下山を決める。ところが帰り道、冬陽との思い出の歌の幻聴を聞いた春河が勝手に道を逸れていく。春河は冬陽が自殺を遂げた脚曳き沼にいた。放心状態の春河の前に怨霊化した冬陽が出現、親友が既に死んでしまった残酷な事実を突き付けられる。
冬陽を撃破した夕莉はまだ心ここにあらずの春河を引っ張って「くろさわ」に帰還、自分一人では不安なのと何をしでかすかわからない春河の監視を兼ねて蓮と累を呼ぶ。どうしてあそこにいたのか尋ねる蓮に、春河は夕陽が綺麗だった、夕陽に誘われて山に行ったと言葉少なく答える。
救出されたものの、自分が原因となった親友の自殺にショックを隠せない春河を休ませる事にした一同。蓮と累は一旦帰り、全身が濡れて冷えきってしまった夕莉は風呂に入る。湯舟に浸かってうとうとまどろんでいた夕莉は、後ろから伸びてきた黒髪に絡めとられて沈み、箱のような狭苦しい空間に閉じ込められた。そこへ下方から青褪めた女の顔が浮かび上がり「閉じました」と告げる。
それは春河が話した体験をなぞるような光景だった。風呂から上がった夕莉は春河に詳しい事情を聞こうとするが、部屋に行くと姿がない。店内の監視カメラの映像を確認した夕莉は、冬陽の霊に付き添われて出ていく春河を目撃する。

五ノ雫 マヨイガ(操作キャラクター:放生蓮)

弔写真の調査の過程で日上山に移り住んだ民俗学者の存在を知った蓮と累は、その人物・渡会啓示の遺した文献にヒントを求める。しかしどうしても渡会の家の現在地が掴めない。行き詰まった二人だが、渡会の家の存在に繋がる一本のビデオテープを入手し道が開ける。自殺した冬陽、展望で首を吊りかけた累、夕莉と蓮達が共通して目撃した巫女の霊、そして春河の閉じ込められていた黒い箱。蓮は一連の怪異に自分が固執する弔写真、さらには箱に少女を突き落とす悪夢が関連しているのではないかと考察する。
問題のビデオテープは累が手に入れてきた物だ。タイトルラベルには「マヨイガ」と記されていた。ビデオに収録されているのは日上山中にある古ぼけた廃屋の光景で、中は無人で荒れ果てていた。撮影者が階段を経て二階へ上ると、男性の霊が左隅にたたずんでいたが次に見たら消えている。撮影者はどうやら肝試しに訪れた若い女性のようで、廃屋の内部の様子をレポートしながら進んでいくが、突然血塗れの男性が這い寄ってきて映像が途切れる。ノイズに呑まれたビデオが暗転するのを見届けた後、蓮は累の解説に目を通す。なんでも渡会は日上山に家を建て住んでいた変人として、一部オカルト系の本では有名だったそうだ。彼の家はマヨイガと称され、このビデオテープはマヨイガに迷い込んで行方不明になった者が撮影したらしいのだが、日上山の川を流れてきたので詳細は不明との事。
蓮の書斎に一本の電話がかかる。それは友人・榊からの、突然の結婚報告だった。蓮は驚きながらも友人の無事に安堵し結婚を祝福するが、榊の返答は要領を得ず、自分が知っている相手かと聞く蓮に「写真を見た時から」と呟く。

突如として通話の背景にノイズが入りこみ、「一緒に終わってくれますか?」と女性の声が響いて回線が切れる。
友人の様子に尋常ではないものを感じた蓮は不安を覚え、書斎を徘徊中に偶然累の手帳を見る。手帳における累の一人称は「私」で、よくうなされている蓮を心配し、女性にじっと見詰められることを嫌い密花や夕莉と話す時ですらたまに視線を逸らす彼が、自分ならば大丈夫だと書かれていた。

夜、蓮は累を連れて日上山へ行きマヨイガを探す。
途中で山道を歩く榊を見かけた累は、先生の友人でもある彼の無事を喜ぶが、覚束ない足取りで闇に消えていく榊の姿に蓮は不吉な予感を禁じ得ない。
形代神社を探索中に蓮とはぐれた累は、人形に埋もれた一間で白菊と出会うが、彼女は胸の上で手を組んで仰向けて死んでいるのだから話しかけるなと命令。彼女は死体のふりをして遊んでいるらしい。夜の神社に場違いな子供の出現に累は驚くが、「おにいちゃんは…おねえちゃん?」と聞かれさらに動揺する。思わず「私は」と返した累を白菊は「うそつき」と罵る。
累によく似た人形を抱えた白菊に「これはあなたのヒトガタミ!いえ、あなた自身がヒトガタミになるの」と言われ、その後彼は行方不明に。いなくなった累を捜して神社をさまよう蓮は浸水した本殿で彼の手帳を拾い、これを新しい寄香とする。累の残影を追って進んだ蓮は、本殿廊下東の狭い部屋で膝を抱え蹲る彼を発見。累の無事を確認して安堵した蓮は、夕莉に教えられた胎内洞窟への格子戸を目指すが、拝殿で白菊と遭遇。

夢の中の少女と瓜二つの白菊の容貌に蓮はびっくりする。そんな蓮を白菊は「どうして私の寄香を持ってきてないの?」と責め、哀しそうに消えてしまった。
途中で入手した文献には形代神社の来歴が記されている。形代神社とは元々人形見を奉納する神社だった。参拝客によって納められた人形には固有の名前が刻まれており、中には小さな歯、骨、小さく束ねた髪の毛などが入っている。これらは子供たち息災を祈る、形見や寄り代としての人形なのだ。
神社で子供達の霊がしていた遊びは神隠しと遊婚の2種である。神隠しとは互いの人形を隠し、各々が自分の人形を探し、最期まで見つけられなかった人形は神隠しされたとして、それ以降探してはならない。遊婚とは一人を除いて全員の人形を隠す。マレビトと称される鬼が最初に選んだ異性の人形を探し、見つけたらその人形の持ち主と「契る」、即ち婚姻が成立するのだ。ただし他の人形を見つけると、その場で鬼は交代となる。
文献の記録者はある奇妙な夢を見ていた。それは神社の地下深くに黒い箱を沈める夢で、箱の中には白髪の少女が眠っており、彼女は誰かを待ち続けているのだ。この白髪の少女が白菊なら彼女はずっと蓮を待ち侘びていた事になるが、その本人は以前託した彼女の寄香すら持っておらず、故に裏切られた表情で消えたのだ。
拝殿から格子戸をくぐり胎内洞窟に行くと、累が「先生待ってたんです」と謎めいた発言をする。行方不明になっていた間に何かが起きたのだろうか、どうも先程から様子がおかしい。累の言動を訝しむ蓮だが、胎内洞窟には沢山の箱が沈められており、そこから湧き出した怨霊と戦闘に突入。怨霊の中には「くろさわ」を出た春河も含まれていた。春河は夕莉が助けたはずではと疑問を呈すもぐずぐずしていたらまた窮地に陥ると判断、怨霊を倒した場所で渡会邸の鍵を入手し、道中の隠し扉を開けて地上へ出る。

蓮と累が出たのは渡会邸、通称マヨイガの前だった。それは板葺き二階建ての古風な民家で、渡会の希望で不知ノ森の外れに建てられた。
近年、心霊スポットとして有名になった日上山で霧の中に現れるマヨイガが噂となった。マヨイガには日上山の歴史に関する大量の蔵書が眠り、山から出られなくなった民俗学者がいまだ研究にのめりこんでおり、彼と出会うと儀式の研究のために生贄にされてしまうと恐れられた。
マヨイガに着いた二人は早速探索を始める。家の中で見つけた文献には渡会が日本の自然の豊かさや民間信仰の不思議さに惹かれ、日上山の研究を極める為には山に移り住まねばならないと考えていた事、ある時手に入れた弔写真の花嫁に一目惚れし、彼女の正体を突き止めようと血道を上げていた事が綴られていた。
探索中に廊下の電話が鳴り響く。受話器をとると榊に繋がるが、彼は「もう遅い…遅い」と繰り返すばかり。困惑して電話を切った蓮の足元に、例の花嫁の写真が舞い落ちる。蓮ではなく別の誰か……おそらくは榊が落とした物らしい。渡会と榊は異なる経緯で同じ弔写真を手に入れ、この世のものとは思われぬその美しさに一瞬で心奪われてしまったのだ。
渡会の手記によると、この写真は神秘科学者にして射影機の製作者でもある麻生邦彦が撮ったものらしい。彼は死に魅入られた者だけが入る事を許され、二度と出られない日上山から唯一生還した人物だった。若き日の麻生は写真に魂を宿す事に執着し、各地を行脚して弔写真を撮っていたのだ。
そして花嫁の正体は日上山の濡鴉ノ巫女の一人で、最も強い人柱とされる女性だった。渡会は幽婚の儀式にも触れ、それは死者の魂を慰める為に死後に結婚する事を意味する。弔写真を見、美しいと思った瞬間に契りは交わされる。渡会と榊は弔写真の花嫁に魂ごと取り込まれてしまったのだ。
天井裏と二階を調べ終えた二人は、一階の仏間におかれた黒い箱から渡会の怨霊が這い出てくる現場を目撃。周囲には白い霧が立ち始め視界が急激に悪化していく。渡会を撃破したあと、続けざま襲ってくる巫女の霊も倒した蓮と累は、大急ぎでマヨイガを後にしケーブルカーで下山する。二人が出て行った後、マヨイガは濃霧に包まれて姿を消したのだった。

六ノ雫 永久花(操作キャラクター:不来方夕莉)

春河は冬陽の霊に誘われ姿を消した。密花もどこにいるかわからないまま、焦燥に駆られた夕莉は今できることを捜す。手元に残された寄香は、春河と同じく日上山で消息を絶った雛咲深羽の写真。彼女は母親を捜すと言い残した後に現地へ向かったらしい。深羽と会えれば密花や春河の手がかりも得られると信じ、夕莉は射影機と深羽の寄香を持って日上山へ行く。
夜の登山は危険だと思った夕莉は、麓に存在するケーブルカーの駅に寄る。ケーブルカーの受付に入ると深羽のメモを発見、そこには幼い自分を置き去りにした母親への恨みと寂しさ、それでももう一度会いたいと願う複雑な葛藤が記されていた。ケーブルカーの電源パネルを操作した夕莉はケーブルカーで山を上り幽ノ宮駅に到着後、鬱蒼と雑木が茂った深山道へ入っていく。
道なりにずっと進んでいくと頂上に荘厳な社が見えてくる。ここは幽ノ宮(かくれのみや)といい、かつて日上山信仰の中心地とされていた。ケーブルカーが廃線となった現在では閉鎖され訪れる者もいない場所だ。社の奥には日上山信仰を開いた巫女の即身仏が祭られているとも言われ、霧の深い日に灯篭に火を入れると、入り口に佇む濡鴉ノ巫女の霊が見れるらしい。
社の中へ入った夕莉を巫女の霊が出迎える。敵を撃破してさらに進むと、灯篭がたくさん飾られた灯篭堂へ出る。深羽の残影を追って扉を開けると、板敷の廊下が奥に続いている。

夕莉が今いる廊下は中庭の池を囲むように配置されており、廊下に面した部屋には一冊の本がある。

「巫女は看取りにより水帰りし者たちの最期の感情をその身へと引き受ける。
想い、痛み、罪、それらの秘密を共にした巫女は水帰りし者に寄り添いその死を安じる。
多くを引き受け、心が溢れし巫女は、柱として匪に入りその役割を終える。
引き受けた秘密たちもまた巫女と共に匪に封じられ外へと融け出すことはない。」

濡鴉ノ巫女は死に逝く者を看取り、その想いを抱えたまま箱へ封じられる事で生涯を閉じたのだ。それが日上山信仰の中核だった。
廊下の途中で地下へおりる階段を発見、下りると周囲は水没しており船着場がある。船着場を回り込んだ部屋で、夕莉は新しい文書を手に入れる。その古文書には黒い水に触れると肌が爛れて鎖落ちる、その激痛に耐えられるのは死にゆく者のみ。触れた巫女はその身が腐り落ちるまで夜泉へと沈み続ける、夜泉を溢れさせてはならないとあった。
さらに深羽の残影に導かれて迷路のような廊下を進むと、突き当たりに扉がある。扉を開けた夕莉は中庭と同じく水没した裏庭に出、その中央に常花が咲いているのを見る。一旦引き返した夕莉がまだ調べていなかった最後の扉を開けると、先には黒い水を湛えた広大な空間があり、中央に箱が安置されている。この箱の中に深羽がいるのではと考えた夕莉は射影機で撮り、天井を操作して光を取り込まなければ箱は開かないと知る。
天井を開く方法を模索し引き返した夕莉は、永久花に言及する文献を手に入れる。それによると日上山において一際強い霊媒体質の巫女は柱とされ、夜泉に満たされた箱へ入れられる。その箱の中で夜泉に包まれて眠りに就く。巫女が閉じ込められた箱は柩籠(ひつぎかご)といい、幽婚を行う際に伴侶となる男が入るため通常の箱より大きい。伴侶を得て孤独を慰められた巫女は永久花(とこしえばな)と呼ばれる不老の存在に昇華し、より長く柱の役目を果たすことができるのだ。
射影機で周囲を撮って回ると封印が解け、マガツヒの鏡が獲得できる。マガツヒの鏡を介して天井から光を取り込むらと箱がひとりでに開く。中には雛咲深羽が押し込められていた。深羽の救出に成功した夕莉は、ひとまず社を出る事にする。無事幽ノ宮から脱出した夕莉と深羽はケーブルカーで下山し、工事中に胎内洞窟と繋がって大量の水が流れ込み多数の犠牲者が出た日上トンネルを通って帰る。日上トンネルには事故の犠牲者の他に巫女の霊も徘徊していたが、なんとか切り抜けて「くろさわ」へ到着。
憔悴の激しい深羽を部屋で休ませる事にするが、彼女はまだ深紅の捜索を諦めてないらしく次こそ母親を助けられる気がすると抱負を語る。
ベッドで仮眠をとる間も深羽はうなされていた。夢の中で恐怖体験を反芻しているのだろうか、顔色の悪い深羽を案じる夕莉。蓮と累も応援に来て、深羽の容態を心配そうに見守る一同。

夕莉が寝ている深羽に触れた瞬間、彼女の記憶が一気に流れ込んでくる。
深羽はグラビアアイドルとして活動していたが、肌の露出面積が極端に大きい白いビキニと白いマフラーというきわどい格好で、言われるがままポーズをとる態度は自暴自棄にも感じられた。深羽が行方不明の母親を追って消えた背景には扇情的なコスチュームで売り出す芸能事務所との軋轢や、これもまた母から受け継いだ霊媒体質への無理解があった。
次の瞬間目を覚ました深羽が記憶を覗かれた事を悟って「最低」と吐き捨てる。実は深羽にも影見の力があり、逆に夕莉の記憶を読んでいたのだ。

七ノ雫 逢世(操作キャラクター:不来方夕莉)

深羽の救出には成功したが結局密花の行方はわからなかった。彼女の手がかりは先日山中で拾った蜻蛉玉から霊視した光景と、射影機に残された一枚の写真だけ。川の上流に密花がいると縋るように信じた夕莉は、山頂に存在する日上山の水源・彼岸湖(ひがんこ)を目指す。
今度夕莉が寄香にしたのは、射影機に残されていた水上の影の写真だった。密花自身が撮ったものなら残影を追えるはずと夕莉は判断、深山道を通って幽ノ宮手前の道から黄泉路を抜けて、大量の無縁仏が葬られた忌谷へ行く。忌谷とは山頂付近の窪地に作られた墓地で、墓石には名前も一切刻まれていない。しかも地滑りにより水が流入し、墓地全体が水没していた。

墓地を抜けた山頂側の出口付近には密花の手帳が落ちていた。自分の推理は間違っていなかったと確信する夕莉。墓地の先には大禍境(おおまがきょう)という火山岩で覆われた地帯が広がり、火山性のガスが間欠的に噴き出している。その荒涼とした光景が地獄を彷彿とさせるため、奥の彼岸湖と合わせて幽世に近いとされていた。
探索中の夕莉は奇妙な老婆の霊と遭遇。老婆は鏡を持っており、それが光り出したのを見るや夕莉は催眠状態となって箱へ近付いていき、あっというまに中へ閉じ込められてしまった。間一髪、射影機で老婆を撃退して逃げ出すものの一歩間違えば柱にされていた。

老婆を撃破した後に入手した黒い表紙の本では、もうすぐ大柱が潰えて夜泉が溢れる為、それを少しでも阻む為に沢山の柱を作らねばならないと老婆が述懐していた。この人物は濡鴉ノ巫女の纏め役のような人物だったらしい。同時に入手した流水紋の手紀には大柱となった巫女の独白が綴られており、大水で生き残った時から人には見えないものが見えるようになったせいで、巫女になるより他なかったと書いてあった。
そのまま歩き続けると遂に彼岸湖に到着する。この湖は日上山山頂に位置するカルデラ湖で、白砂に覆われた美しい砂浜と湖面が乳白の霧に包まれる幻想的な光景があの世を思わせるのが命名の由来だった。湖の奥には幽世があり、年に数回、湖面に夕陽が沈む時は霧が晴れて隠世と現世が繋がる。その日は向こうへ誘われる為家から出てはいけないと、日上山周辺の村人が言い伝えていた。密花の残影は構わず湖の沖へと進んでいく。夕莉は湖に下半身が浸かりつつ懸命に追いかけるも、密花の残影を遮るように大柱の巫女が立ち塞がる。

彼女こそ幽ノ宮で深羽を箱に閉じ込め、彼岸湖で密花を襲い、入浴中の夕莉を引きずりこもうとした張本人であり蓮や渡会が所持する弔写真の花嫁その人だった。
黒い影の女には何故か射影機が利かず、ただ逃げるしかない夕莉。彼岸湖に立ち込める霧の向こうには神寂れた鳥居が聳えていた。あの鳥居の先に密花がいるのだろうかと考えながら射影機すら無効にする大柱の巫女に手も足も出ず、無念の撤退を余儀なくされる夕莉だった。

八ノ雫 大禍刻(操作キャラクター:放生蓮)

日上山から逃げ戻った夕莉は、極度の疲労と緊張が続いたせいで昏倒する。深羽も依然眠り続けており、彼女達を放っておけない蓮と累は店内の監視の強化を急ぐ。
監視カメラを操作し二人がそれぞれ眠る部屋を確認していたところ、突如として窓がうるさい音をたて揺れ始める。直後に夕莉と深羽が苦しみだす。二人の容態と音に関係があるのだろうかと懸念する蓮。
カメラ越しに苦悶する二人と連動するように、蓮に付き添っていた累ももがき始める。その場は「大丈夫です」と累が持ち直し、やがて夕莉と深羽も落ち着く。夕莉と深羽、それに累は日上山に足を踏み入れてからおかしくなった。三人同時に起きた異変はやはり日上山の怪現象が原因だと疑った蓮は、解決への糸口を欲し「くろさわ」の資料を調べる事に。
邸内を探索した蓮は、日上山のある水籠地方の風習を記した歴史書を紐解く。全て民俗学者、渡会啓示が執筆した本だ。死後に行われる結婚は外国でも見られる風習だが、日上山におけるそれは箱に入れて沈められた巫女と、生きた男性に契りを結ばせる儀式だった。即ちここでの幽婚は柱となった濡鴉ノ巫女の魂を鎮める為にマレビトを招聘し、ともどもに一対の柱とするのだ。
違う文献には日上山の名前の由来が記述されている。日上山は文字通り太陽を上に頂く山と考えられ、昔は陽神山と書かれていた。その為か周辺には夕陽に紐付く伝承が多く残されており、山で夕陽を見てはいけない、この禁忌を破ると死に取り憑かれてしまうとあった。春河が日上山に迷い込んだのは一度目の自殺の失敗の折に夕陽を目の当たりにし、心が囚われてしまったからなのだ。

再び監視カメラを確認した蓮は、冬陽の霊が「くろさわ」の入り口を抜け夕莉の部屋へ来たのを目撃。カメラの映像にノイズが走って中断された為、自分の目で直接確かめに行く。

夕莉の部屋で冬陽の霊と鉢合わせた蓮は射影機で撃退。再び監視カメラをチェックすると、いなくなった春河が戻ってきていた。春河が使っていた部屋へ行くと彼女の姿はなく、ベッドの上に水に濡れたメモが残されている。そこには「あの夕陽がここにも来たらもう少しで終わりです」と書かれていた。もう一度監視カメラを見た蓮は、深羽の部屋にいる春河に気付く。慌てて深羽の様子を見に行くが春河はおらず、蓮はすっかり翻弄される。
今度は累の様子がおかしくなった。蓮が右往左往している間事務所で休んでいたはずの累が、膝を抱えて塞ぎこんでいるではないか。監視カメラは入口から続々と入ってくる幽霊の姿を映す。庭には巫女が徘徊し、「くろさわ」は怨霊の巣窟と化す。監視カメラの映像が終わり、周囲を見回すと累が消えている。蓮は消去法で唯一映像が映っていなかった夕莉の部屋へ馳せ参じるが、扉を開けた途端渡会邸へ強制移動。
いかなる経緯からか夕莉の部屋の空間が歪んで渡会邸と繋がってしまったと推理した蓮は、とにもかくにも目の前を通り過ぎる累を追いかけて三階にへ行く。累に触れた途端、蓮は「くろさわ」の事務所に戻っていた。
どうやら机に突っ伏して眠っていたらしい。今までのは全部夢だったのかと訝しむ蓮。大急ぎで仮眠中の監視カメラ映像をチェックすると、累が春河の霊に誘われて部屋を出て行くところが映っていた。累を捜そうと扉を開けた蓮は深羽と遭遇する。深羽は母親を諦めきれず山へ行く意志を告げ、一緒に連れていってくれ蓮にと乞うが、危険に巻き込みたくない蓮は即座に拒否。だが深羽は夕莉の射影機を借り、これさえあれば彼女を捜せると発言。累の一件で蓮がごたついている隙に、迎えに来た春河と冬陽によって夕莉も山へ連れ戻されていたのだ。射影機を抱いて飛び出していく深羽を引き止めんと手を伸ばす蓮だが、その華奢な後ろ姿に昔殺めた白菊が重なって硬直。深羽は彼の制止を振り切って、雨が降りしきる外へ駆け出していくのだった。

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