カムイ伝(Kamui Den)のネタバレ解説・考察まとめ

『カムイ伝』は、白戸三平による日本の劇画(漫画)であり、第一部は『月間漫画ガロ』にて1964年から1971年まで連載された。その後1988年に『ビッグコミック』で「第二部」が連載された。従来の漫画には無い重厚なストーリーが描かれており、高く評価されている。徳川家によって作られた幕藩体制、その絶対的階級社会の中で、「カムイ」「正助」「竜之進」が権力、身分制度、運命など様々な苦難に遭い、絶望しつつも、それを克服しようとする物語である。

『カムイ伝』の概要

『カムイ伝』は白戸三平による劇画(漫画)で『月間漫画ガロ』にて1964年から1971年まで連載された。その後1988年から2000年まで『カムイ伝 第二部』が『ビックコミック』にて連載される。『カムイ伝 第三部』は作者構想中という話だったが、 2021年に白土が死去した為、事実上の未完となった。

『カムイ伝』は三人の主人公がおり、非人部落出身の「カムイ」、下人(百姓)の「正助」、日置藩次席家老嫡男(武士)の「竜之進」を中心に物語が進展していく。話が進むにつれて「カムイ」は傍観者の様な立場となり、物語は下人(百姓)の「正助」の話が中心となる。三者三様の人物は生い立ちから、いくつもの困難に合い、絶望を味わうことになる。江戸時代の幕藩体制を最下層(非人部落)又は権力者(武士)の立場から見つめ、その矛盾に絶望し、そして抗いながら己の人生を切り開いていこうとする壮大な物語である。重厚なストーリーは小説、映画と肩を並べたと話題となる。当時のキャッチコピーは「ヴィジュアルは映画を凌ぎ、ストーリーは小説を越えた」である。
ちなみに『カムイ外伝』は『カムイ伝』のスピンオフ的な位置づけで、主人公「カムイ」の目線で展開される。抜け忍として旅をしながら追っ手を倒し、新しい忍術を編みだし、身分を変え、行く村々で問題を解決していく物語である。

『カムイ伝』のあらすじ・ストーリー

3人の主人公

主人公「カムイ」は非人部落で生まれながらも、その差別を甘んじて受けている他の村人とは違い一人で抵抗をする。自由を求め村を出るも、自由になるには力が必要であると悟った「カムイ」は師匠となる赤目(あかめ)に誘われ公儀隠密(下忍)になる。しかし、下忍になった「カムイ」はそこでも掟に縛られることに疑問を持つのである。師匠である赤目が抜け忍になったことを知った「カムイ」は赤目を追う内に自身の境遇にも疑問を感じ、幕府存亡の秘密を知ったのをきっかけに自身が抜け忍となる。抜け忍となった「カムイ」は自分自身が追われる身になるのである。
二人目の主人公「正助」は下人の子として生まれ、いつか本百姓になるのが夢の少年。「正助」は父から母の出自、自分の生い立ちを聞き、当時の社会では決して下人から百姓へなる事が出来ない事実を知りながらも、諦めずに切磋琢磨し、幕府権力と闘い、しいては社会変革をもなそうとする人物になるのである。
三人目の主人公「竜之進」は武士の子として生まれるも、権力争いに巻き込まれ、一家断絶という不遇にみまわれる。浪人となり、時に非人部落に身を置き、そこで最下層の人間の生活を目の当たりにして世の中の矛盾に目覚めていくのである。

立ちはだかる厳しい現実

舞台は七万石の外様、日置藩である。小藩でありながら徳川家康の出生に纏わる秘密を握っており、幕府は手が出せずにいた。その秘密を探し出すために多くの公儀隠密が暗躍しており、それは、当時の身分制度の根幹を覆してしまうものであった。その秘密とは徳川幕府生みの親である家康が賤民の出自である事が書かれた古文書であった。徳川幕府は身分制度によって、少数の武士が多くの百姓を統治してきたが、家康の出自が賤民となれば、身分制度そのものが矛盾してしまい封建制度が崩壊してしまうのである。徳川幕府の秘密を知った者は当然の如く全て抹殺、事故死によりいなくなり、その秘密は守られるのであった。それ故に「カムイ」は抜け忍となるのである。
「正助」は人間的にも成長し花巻村の若頭となり農機具の開発、新しい農作物の栽培などを行う。新田開発では非人との交流も頻繁に行っていた。「正助」の理想は村を豊かにし、百姓も非人も幸せになる事である。「正助」が身分制度にとらわれないのは、父が百姓の下人として働いていた事、母の出自が非人であった事を知っている為であり、妻になるナナが非人である事も一向に構わないのである。順調にみえた花巻村の農業開発であったが、天候不順による飢饉が発生し村は逃散してしまう。日置藩の秘密が幕府の手(隠密)により処分され、日置藩は取り潰し天領となる。逃散した人々は村に戻り、農業を開始するのである。
「竜之進」は草加一門誅殺の復讐の為、日置藩の藩主、目付けの暗殺を試みるも結局断念する。幾多の試練を乗り越え、「竜之進」は日置藩の代官として舞い戻り、日置の百姓と共に農村の復旧を目指し、たくさんの成果を上げる。しかし、藩の作物を独占しようとする商人により、幕府に手を回され代官を罷免されてしまうのである。作物を買い叩かれ、納得のいかない百姓達は、検地を機に一揆(日置大一揆)を起こす。多くの村人を殺されるが、一揆は成功し検地十万日延期の証文を得ることに成功した。しかし、首謀者である「正助」は仲間と共に過酷な拷問を受け、更には江戸のお白洲にて商人の不正を訴えたが相手にされなかった。しかも「正助」だけが処刑されず、舌を抜かれ村に戻されるのである。一揆の首謀者は処刑されるのが決まりであり、戻ってきた「正助」を見た百姓たちは舌を抜かれ喋れないのを知らずに裏切り者して石をなげるのであった。

『カムイ伝』の登場人物・キャラクター

主要人物

カムイ(兄)

出典: bigcomicbros.net

『カムイ伝』シリーズ一人目の主人公。序盤に登場したカムイ(弟)とは双子である。常に冷静沈着であり、感情は表に出さない。並外れた身体能力、何事にも動じない精神力を持ち、忍者としての才能は群を抜いている。忍者としての才能は師匠である赤目(あかめ)からも一目置かれている。忍術に長けており、特に剣術では変移抜刀霞斬り、十文字霞崩し、体術では飯綱落としなどの必殺技を持っている。強さと自由を求め下忍になったが、厳しい掟に疑問を感じ始める。「正助」「竜之進」がピンチの際には、変装、若しくは本人の姿で現れ救うこともある。

カムイ(弟)

主人公カムイの双子の弟で瓜二つである。非人部落の夙谷(しゅくだに)が出身。他の村人とは違い、百姓らの嫌がらせに我慢せず、真っ向から対立する。曲がったことが嫌いな熱血漢である。物語序盤に出てきたが、非人の子供が百姓らによって惨い死に方をした際、復讐の為立ち上がったが、捕らえられ斬首刑にされる。

正助(しょうすけ)

出典: asa8.com

『カムイ伝』シリーズ二人目の主人公。花巻村の下人の子供として生まれたが、下人であるが故の差別、同じ村の百姓が受けた城主からの惨い仕打ちなどに納得がいかず、本百姓になる事を決意する。足が速く、勤勉であり、何事にも負けない強い意志をもっている。当時百姓は読み書きは禁止されているにも関わらず、隠れて必死に勉強する事により、年貢米などに不正な仕組みがあることを知る。読み書きが出来なければ、盲目と同じではないか、権力者から良いように搾取されるだけではないか、という事に気づき更なる精進をするようになる。

草加竜之進(くさかりゅうのしん)

『カムイ伝』シリーズ三人目の主人公。日置藩次席家老の嫡男として生まれる。幼少より剣術を学び、次第にその才能を開花していく。前途有望であったが、藩内で権力争いが勃発した際、巻き込まれ負傷し、更には父である家老草加勘兵衛が失脚し、草加一門が誅殺される。浪人となり復讐する機会を狙っていたが、様々な人物との交流、世の中の動静を目の当たりにするうちに、社会の体制に疑問を抱くようになる。非人部落に身を置いた際は、部落民が生きる為に様々な差別を甘んじて受けている状況に驚愕している。武士を捨て百姓として暮らそうと本気で考えた事もあったが、自分に対峙する相手が剣術家「草加竜之進」を求めていることに宿命を感じ、自分は死んでも武士であることを悟る。

日置藩武士

笹一角(ささいっかく)

日置藩剣法指南役で竜之進の師匠。道場破りに来た水無月右近に勝負で負けたことで脱藩。修行を積み、右近への復讐を誓っていたが、日置藩の目付役である橘軍太夫の策で弟が切腹をしたことで一門の復讐を果たす決意を固める。

橘軍太夫(たちばなぐんだゆう)

keeper
keeper
@keeper

目次 - Contents