仏ゾーン(武井宏之)のネタバレ解説・考察まとめ

『仏ゾーン』とは、武井宏之による仏教を題材とした少年漫画、及びそれを原作とするメディアミックス作品である。『週刊少年ジャンプ』で1997年に連載。千手観音のセンジュが、弥勒菩薩の生まれ変わりである少女サチをインドに送り届ける為仏像に憑依し、現世に降り立つ。人間の欲望を糧とする魔羅(マーラ)、人間を憎むアシュラと戦いながら、センジュたちは旅を続けるのだった。話数こそ少ないが、仏教と少年漫画要素のミックスが独特の魅力となっており、連載終了後も根強い人気を誇る。

『仏ゾーン』の概要

『仏ゾーン』とは、武井宏之による漫画作品である。『週刊少年ジャンプ』1997年12号から31号にて連載。

1975年の日本。西岸寺に住む少女サチは、千手観音(せんじゅかんのん)のセンジュから、自分が弥勒菩薩(みろくぼさつ)の生まれ変わりであることを聞く。悟りを得て人々を救う為、サチはセンジュと地蔵菩薩(じぞうぼさつ)のジゾウ、狛犬のコマなどと旅に出る。道中、人間の欲望を糧とする仏敵魔羅(マーラ)の他、釈迦を崇敬するあまり欲に溺れる人間を憎むアシュラが立ちはだかる。

物語はサチが修行地のインドに着く前に終わっており、「打ち切り漫画」と称されることもあるが、仏教における救済に少年漫画的な要素を絡めた独自の作風から今なお根強い人気を誇っている。
武井の次回作に当たる『シャーマンキング』では、悟りを開いたサチ(作中の名はサティ)やダイニチと名を変えたセンジュが登場する。

TVアニメ化はしていないが、CDドラマやゲームの他、ジャンプフェスタでの上映アニメ、武井の後続作品である『シャーマンキング』特別編集DVDのアニメといった形でメディアミックスも果たしている。

『仏ゾーン』のあらすじ・ストーリー

「ミロク」の旅立ち

時は1975年。日本の西岸寺に住む少女サチは、寺の千手観音像から現れた千手観音のセンジュに、自分が弥勒菩薩(みろくぼさつ)の生まれ変わり「ミロク」であると聞く。ミロクの役目は全ての衆生の救済である。センジュはサチを仏教発祥の地、インドへ送り届ける使命を大日如来から仰せつかり、仏国土(ぶっこくど)から現世に降り立ったのだ。現世での活動の為、仏像に憑依した仏を「仏ゾーン」と呼ぶ。
仏ゾーンは合掌することで天衣(アーマー)と呼ばれる武具にして防具を身に纏う。千手観音を名乗るセンジュに腕が2本しかないことをいぶかしがるサチだったが、センジュは西岸寺の土地を地上げしようとしていたヤクザの前で40本の腕を持った千手天衣を展開。ヤクザたちを「千手パンチ」という技で叩くセンジュだが、目的は彼らを排除することではなく、地獄に落ちる罪を成す前に救うことだった。
「もれなく救う」仏であるセンジュの護衛により、サチはミロクとなるべく西岸寺を後にする。道中、狛犬のコマ、地蔵菩薩のジゾウといった仲間に出会い、共にインドへと向かうのだった。

センジュの試練

センジュ一行は、仏の味方である七福神と共に宝船でインドへと向かおうとしたが、七福神は既に人間の欲望を糧とする仏敵魔羅(マーラ)に倒されていた。のみならず、かつて釈迦に心を救われ、仏になったはずのアシュラも敵としてセンジュたちの前に立ちふさがる。元インドの鬼神で戦闘のエキスパートであるアシュラは、天衣にチャクラと呼ばれるエネルギーを効率よく流し、巧みに操り攻撃してくる。
センジュたちは一度日本に戻り、修行をする。ジゾウとの手合わせの最中、千手天衣が破損してしまう。取り憑いた像自体が古かった上、戦いにより無理が来ていたのだ。ジゾウは、青森の恐山へ行くことを提案する。センジュの憑依像を作った仏師をイタコに呼び出してもらう為だった。そんなセンジュたちの前に、今度は馬頭観音(ばとうかんのん)のバトウが現れる。「怒りの観音」と称され、戦闘面ではセンジュよりもはるかに高い能力を持つバトウは、センジュに代わって自分がミロク様を護衛すると言い出した。
一度は破損した天衣と共に仏国土へ戻ろうとしたセンジュだが、既にサチとの間に芽生えていた絆から彼女を守りたいと思う。「天衣が直ったら勝負をし、勝った方がミロク様をインドへお連れする」とバトウに宣言し、センジュはジゾウ、サチと共に青森へ向かう。
そこで出会ったイタコの少女・恐山(きょうやま)アンナにより、センジュの憑依像を彫り上げた仏師純慧(じゅんけい)が呼び出される。純慧により修繕、強化された天衣でセンジュはバトウに戦いを挑む。片方の20本の腕で相手の攻撃を受け、そのチャクラを倍加させてもう片方の腕からカウンターを放つ技「因果応報(いんがおうほう)」によりセンジュはバトウに劣らぬ戦いを見せた。
バトウは喝を入れる為、敢えてセンジュと戦ったと言い、改めてミロク護衛の旅に加わると口にした。
頼もしい味方の参入に喜ぶセンジュたちだが、そこにアシュラ率いる天竜八部衆(てんりゅうはちぶしゅう)が現れた。アシュラは「人間が憎い」からとセンジュたちに敵対し、元鬼神の八部衆の面々もまた彼に従っているようだった。

アシュラとの戦い

元々インドの鬼神である八部衆の面々は天衣も強力だったが、バトウにより半数以上を倒すことに成功する。それでも不意を突かれ、バトウは磔にされてしまう。アシュラは、「愛する者を奪われた時、その者を奪った相手を許せるか」とセンジュに問い、コマを殺しバトウを痛めつける。
アシュラは、過去に愛する女性を奪われたことがあった。怒りが元で修羅界に堕ちたアシュラは釈迦に救われたものの、釈迦を尊敬すればするほど欲に溺れる人間たちが許せないと語る。バトウは、そんなアシュラの真意を救われたがっていると看破する。
バトウは倒され、捨て身の自爆技でアシュラとの心中を図ったジゾウの目論見も失敗。バトウの遺体を盾にして命拾いをしたアシュラに対し、センジュは涙を流しながら因果応報の構えを取る。慈悲深いセンジュでも憎しみには勝てなかったと攻撃を仕掛けるアシュラだが、センジュはカウンターを撃たなかった。
センジュの目的はアシュラを救う為、彼の憎しみを受け止めることだった。そうした理由を、自身がもれなく救う仏であるだけではなく、アシュラの「人を心配する優しい顔が見たいから」だと言い、センジュは倒れ込む。
夢の中で、センジュはアシュラの悲しみと憎しみを目の当たりにする。センジュの目の前にミロクが現れ、釈迦と同じく「天上天下唯我独尊」のポーズを取り、アシュラの憎しみ、悲しみを浄化した。目が覚めると、センジュは西岸寺にいた。
センジュは、サチが倒れた自身をずっと看病していたこと、改心したアシュラが天竜八部衆と共にマーラを退けていたことをアンナから聞かされる。
ジゾウ、バトウ、コマはアシュラに倒されはしたものの、魂が仏国土へ帰っただけであり、新たな仏像に憑依して改めてセンジュと共にミロクをインドへと送り届けることとなる。

『仏ゾーン』の登場人物・キャラクター

主要人物

センジュ / 千手観音(せんじゅかんのん)

西岸寺の本尊として安置されていた千手観音像に憑依し、現世に降り立つ。ミロクをインドまで送り届ける役目を持っている。性格は純粋で真っすぐであり、慈悲の仏としての優しさを持つ。一方で、仏なのに仏師や釈迦の後継者たる弥勒菩薩を知らないなど、天然ボケの面もある(ミロクの護衛を仰せつかった時に「ミロクって何?」と聞いている)。
天衣は、40本の腕。弾丸の動きを見切り、全てつかみ取ることはできるが、チャクラをうまく扱えずアシュラなどの格上の相手に対しては腕を持て余していた。
刺客や、アシュラとの連戦の影響で一度天衣が破損してしまう。ジゾウの提案で青森へと向かい、イタコのアンナによりセンジュの憑依像を作った仏師を呼び出し、像を作り直してもらった。新たな天衣は澄み切った爽快な装着感で全部の腕にチャクラが行き届いており、「千手千眼観世音菩薩」の正式名称通り全ての掌にセンサーが付いたことで、飛んでくる武器などの動きを分析。より正確で精密な動きが可能になった。バトウとの戦闘時には、3本の腕だけで全ての攻撃を防いでいる。
見た目には10代前半くらいの少年だが、センジュ(の取り憑いている像)を作った仏師の妹、おせんの面影もある。
ジゾウが言うにはセンジュの憑依像は木造なので、湯につかると浮いてしまうらしい。

主な技は40本の腕による連打「千手パンチ」。左半身の腕で相手の攻撃を受け、そのチャクラを吸収して右半身の腕でカウンターを放つ「因果応報」という技もある。相手の攻撃によっては山をも砕く力を発揮するが、アシュラ相手にこの構えを取った時にはアシュラの憎しみや苦しみを全て受け止めることが目的だった為、カウンターを撃たずに倒れ込んだ。

「もれなく救う」仏であり、西岸寺を地上げしようとしていたヤクザたちが殺生の罪で地獄に堕ちることから救うなど、戦うにしても救済に重きを置く。倒れている間、アシュラの精神世界に迷い込みアシュラの苦しみを垣間見る。そこに現れた人物が悟りを開いたミロクだと認識し、目を覚ました。

西岸サチ / ミロク

出典: chansoku.com

西岸寺の娘。赤ん坊の頃、寺の鐘の近くに捨てられていた。その正体は、悟りを得て衆生を救う救世主、ミロク(弥勒菩薩)の生まれ変わり。伝承では弥勒菩薩が悟りを開いて現世に降り立つのは釈迦の入滅後56億年後とされるが、『仏ゾーン』では年を念、つまり人々の感情としてカウント。世界人口が56億人に達した(1975年当時)ことにより、ミロクとなるべきサチの誕生となった。

仏ゾーンではなく生身の人間である。センジュからは「サッちゃん」と呼ばれるが、他の仏からは「ミロク様」と呼ばれ敬語を使われる。これは、弥勒菩薩が釈迦如来の後継者だからである。背負っている運命を除けばごく普通の少女だが、センジュらとの旅の中、悟りを開き衆生を救う使命に目覚めていく。
アシュラとの戦いで倒れたセンジュをずっと看病していた。
武井の後発作品『シャーマンキング』にもミロクとして登場している。この時の名はサティ。

コマ

仏国土でセンジュがペットにしていた狛犬。センジュを追って現世に来た。天竜八部衆に捕らえられ、アシュラによって切り刻まれる。
最終話ではジゾウ、バトウと共に仏国土でセンジュたちの旅を見守っており、改めてセンジュらの旅に加わった。

ジゾウ

出典: chansoku.com

読み切り版にも登場。
小坊主姿で錫杖を持つ、典型的な「お地蔵様」の姿をしている。伝承では慈悲深い地蔵菩薩だが、ジゾウ本人はクールで敵には容赦のない攻撃を与える。釈迦如来の入滅(死亡)後、ミロクが現れるのを現世でずっと待っていた。旅先で食料を得る必要が生じた時は路傍の「お地蔵様」に扮してお供え物をもらう。サチの誕生前から現世にいる(弥勒菩薩が降り立つまでの間、地蔵菩薩が衆生を救う「地蔵信仰」というものがある)。
印を結び、仏の教えで衆生の迷いを打ち砕く印ビームを得意技とする。
地蔵天衣は全身を防御する鉄壁の鎧。装着時の姿は路傍で見かけるお地蔵様のそれで、サチやセンジュから「そのまんま」「お地蔵様そのもの」と言われた(ジゾウとしてはあまり「出したくない」らしい)。ジゾウ自身が「俺以上に石頭」と評する通り刀を簡単に折るなど防御面では非常に優れているが、全身を重い鋼の鎧で覆っているため機動性に欠け、アシュラの動きについていけなかった。
相打ち覚悟で無数の地蔵を操る「あやつり地蔵」という技を仕掛けアシュラを巻き込み自爆するが、アシュラがバトウの体を盾にした為心中とはならなかった。「死んだ」ことにはなるが魂が仏国土に帰っただけであり、最終話で再登場し、センジュたちの旅に同行している。
『シャーマンキング』のアニメ特典にて、サチ、センジュ、天竜八部衆らとともに登場。センサーが内蔵された地蔵天衣を着こみ、アシュラたちと戦った。しかしこれは『シャーマンキング』の主人公麻倉葉(あさくら よう)の妄想であり、同作品のヒロインであるアンナに「地蔵が動くわけないでしょ」と言われた。

バトウ / 馬頭観音(ばとうかんのん)

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