乙嫁語り / A Bride's Story

『乙嫁語り』とは、2008年10月から隔月誌『Fellows!』(エンターブレイン)、2021年4月からは新創刊の『青騎士』(KADOKAWA)に連載された、森薫による時代漫画である。隔月誌であった『Fellows!』は、途中で年10回刊の『ハルタ』に名称変更した。本作は同誌の看板作品である。
物語の舞台は中央アジアのカスピ海周辺の地域で、乙嫁を中心とした厳しい自然の中での生活や文化を描いている。
コミックスは単行本が13巻、愛蔵版が12巻刊行された。外国語版は英語やフランス語、イタリア語など合計9か国語で刊行された。2010年に「全国書店員が選んだおすすめコミック」で第2位を獲得。「マンガ大賞」は2011年と2013年に第2位となり、2014年に大賞を受賞した。フランスの「アングレーム国際漫画祭2012」で世代間賞を受賞し、アメリカの全米図書館協会で10代向けグラフィックノベル・ベスト10に選出された。また原画展が2022年2月から3月まで「ところざわサクラタウン」で開催された。

乙嫁語り / A Bride's Storyのレビュー・評価・感想

乙嫁語り / A Bride's Story
10

何もかも只々美しい中央アジアがテーマの漫画

『乙嫁語り』は森薫(もりかおる)氏の作品で、19世紀後半の中央アジアが舞台となっている作品です。
物語の開始時、町で定住生活を営むエイホン家の少年当主・カルルクの下に嫁いできたのは、遊牧民ハルガル家から嫁いできた乙女アミル。カルルクより12歳年上の彼女を疎ましく思うエイホン家の親族、娘を政略結婚の道具として扱おうとするアミルの実父等々の存在がありながらも、溌溂として誠実な性格のアミルと、年若くも責任感があり夫としての自覚を持つカルルクは徐々に仲を深めていきます。

ここまで書くとこの二人が物語の主役のように映りますが、実は真の主人公は中央アジア一帯を旅し民俗学的、地政学的記録を残しているイギリス人青年スミスです。彼は旅する先々で上記の2人以外にも様々な人物、特に美しい花嫁や乙女、未亡人と出会い、交流を深め現地の文化や情勢を記録することになります(ただし漫画の冒頭で出るアミルとカルルクの出番は作中特に多いです)。

この旅の中でスミス氏が直接知り合う人物たちは女性、男性問わず善良な人々がほとんどです。加えてストーリー中で何か諍いが発生しても、話の区切りは基本的にハッピーエンドよりなので、近代の中央アジアという珍しいテーマの漫画でありながらストレスなく読み進められます。

そしてこの漫画の最大の見どころは、目が痛くなるほど精緻に書き込まれた服や敷物、装飾品、動物の描写です。特にヒロインの婚姻衣装や結納に用いる寝具の類の描き込みは凄まじく、一コマ一コマが芸術作品といって過言ではありません。
これらはどれも中央アジアという、雄大にして美しくも厳しい環境に生きる人々にとって重要な要素であり、作者の絵はそれを文章以上に雄弁に伝えてくれます。

『乙嫁語り』はストーリー構成もしっかりしていて面白いのですが、背景も含めただ美麗な絵を眺めているだけでも癒され、普段は中々触れることがない近代中央アジアの世界に浸ることができます。歴史好き、漫画好きな人は元より、万人が楽しめる作品だと思います。

乙嫁語り / A Bride's Story
9

中央アジア~中東が舞台のマンガ

日本のマンガにおいて中央アジアが取り上げられることはあまりありません。
この「乙嫁語り」は、ロシアと争う直前の19世紀のウズベキスタンを中心に、カザフスタン、トルクメニスタンなどの中央アジア、アフガニスタンを抜け中東までという、広範囲各地の「花嫁・花婿」をテーマにしています。
基本は12歳のカルルクの元に嫁いだ20歳のアミルの2人と、各地を巡る中で2人に会ったイギリス人のスミスの話が中心となりますが、オムニバス的要素もあります。
花嫁が身に着ける物、結婚式に必要なもの、我々が全然知らない姉妹婚など、中央アジアや中東を知らない人が多い日本において、19世紀という更に知らない世界を、ゆっくりとした時の流れの中を表すように緻密な線で、人々の愛と心と家という切り離せないものが普遍的にあることを描いています。
昔の写真で、山間のカメラがめったに来ないような場所のドキュメンタリー映像で、布地に美しい複雑な刺繍を施され、装身具を身に着けた人の姿をどこかで見たことがあるかもしれません。
その姿がそのままマンガに出てきます。
中東になるとその刺繍や装身具は消え、女性はブルカやチャドルを身に着け、そしてトルコの港町アンタリヤにまで行くと、再び色彩豊かな服を着た人々が現れます。
地域によっての服装や習慣の違い、戸惑いを作中の狂言回し的な存在であるスミスの視点で読者の共感を得、高原や雪原、ヒツジや馬を家畜とするその日常を、作者森薫のその画力を以て示しているマンガです。

乙嫁語り / A Bride's Story
10

中近東の歴史ある雰囲気と穏やかな人々の結婚譚

数年前に漫画部門で上位に選ばれた、知る人ぞ知る美しい作品。
描いていらっしゃる作家さんの表現力がとても素晴らしいです。
合間に見える雄大な背景や調度品、並ぶ芸術的な家々の光景の他、毎回描かれていくそれぞれの民族衣装の美しさにも心からうっとりできます。

ストーリーでは、それぞれの登場人物がどうやって大切な人と巡り合い、どういう風に幸せに過ごす事になっていったか、が描かれています。
中には、歴史背景を垣間見せる戦闘についてのお話もほんの一部ありますが、民族間のトラブルといった感じの内容でした。そこにもやはり愛が見える内容で、大切な物語の要素となっています。
ただ、基本的に残虐的なシーンはありません。
ほとんどが、とても雰囲気の良い、和むお話ばかりです。

穏やかな話の中、意外にもけっこう笑ってしまう場面も多く全体的にバランスの良い素晴らしさを感じてしまいました。
少し読むだけで、自然と次々のページを開いてしまいます。
ただし眠る前にも、とても落ち着いて気持ち良く読める作品なのでお勧めだと思います。

また作家さんの心意気なのか、動物の描き方が異常なほど上手です!
生き生きとしていて本当に素敵な姿で表現されています。
ご本人もそうした作業が大好きなそうで、楽しんで描いているのがわかります。
あとがきもかなり楽しく、この方の他の作品まで自然と気になるほどです。

あまりにセンスのよい漫画でしたので、自分は全巻買ってしまいました。
まだ手にした事がない方へは、本当にお勧めしたい作品の一つです。

乙嫁語り / A Bride's Story
8

細密な絵で描かれた異国情緒溢れる日常のお話

このマンガはとにかく絵の美しさと緻密さがすごい。どのページもそのまま飾っておきたくなる程のクオリティです。
物語の舞台は19世紀中頃の中央アジア。学術調査のために旅をするイギリス人の青年スミスの視点で話は進んでいきます。乙嫁語りの名の通り、スミスが行く土地々々で出会うお嫁さんに焦点が当てられており、その時代の堅苦しい婚姻の形式の中にあっても、それぞれの恋愛に奔走する様子が微笑ましく、時に可笑しく描かれています。
場所によって風習や生活様式が異なるのも面白く、スミスと共に旅をしているような気持ちになれます。大きな騒動もあるものの、基本的に物語は穏やかに展開し、遊牧民族、刺繍、馬、弓矢…etcといった物が好きな人には刺さること間違いなしです。
冒頭でも触れた通り、乙嫁語りの魅力の一つはその緻密な絵にあります。この時代の人々はふんだんに刺繍の施された衣服を身に着けているのですが、どのページも、出てくる登場人物の衣装や部屋の装飾品に、びっしりと刺繍の模様が描き込まれており、その細かさに感嘆します。
また、遊牧民族が描かれているため様々な動物が登場するのですが、皆リアルで躍動感にあふれており、物語を彩る要素となっています。話の面白さだけでなく、ただ絵を眺めているだけでも幸せな気持ちになれる作品です。
気軽に海外へ旅行することのできない時勢ではありますが、代わりにこの物語に没入し、異国の空気に触れてみてはいかがでしょうか。

乙嫁語り / A Bride's Story
10

穏やかな恋愛漫画が好きな方、ついでに中央アジアの歴史が好きな人へオススメしたい漫画です。

私が紹介したい漫画は、森薫さん著作、エンターブレイン発行の「乙嫁語り」です。
数々のマンガ大賞を獲得している漫画なので知っている方も多くいると思いますが、私自身が何度も読み返し何度でも愛を伝えたい漫画なので紹介させていただきます。
物語の舞台は、19世紀の中央アジア、主人公のアミルが8歳年下のカルルクに嫁ぐ所から始まります。
乙嫁語りという題名の通り、アミルとカルルクの結婚生活やその周辺の人々の恋愛、時にはアミルとは違った新婚さんを主人公にしてこの時代の生活事情や近代化に向かっていく歴史のキナ臭さなどが描かれているのですが、
なんといっても見どころは時代の背景調査をした上でどのコマも細かく繊細に描かれているイラストです。
漫画を読み進めるにつれ、実際にその地域にいるかのように引き込まれてしまう人々の衣類、動物、小物類の数々。
中央アジア特有の絨毯や衣類の刺繍の描写は、その時代に生きた女性の手先の器用さや損なわれつつある伝統工芸に思いをはせるきっかけにもなります。
(小物類と言えば作中でアミルの友人・パリヤが作る櫛入れが余りにも私の好みにドンピシャのため、自作で作れないか画策中なくらいです。)
登場人物たちも、主人公のアミルとカルルクを筆頭に、嫁ぎ先のエイホン家の人々(とくにおばあさまが素敵!)や下宿している英国人スミス、アミルの友人のパリヤ、スミスが旅先で出会う新たな乙嫁たちなど一人一人が主人公になる魅力を持っています。
2020年9月現在既刊12巻であり、冊数的にも漫画読みの方でしたら多すぎず、少なすぎず(私個人としてはどんどん続きを知りたいという意味でいつだって巻数は少ないと感じてしまいますが)、この物語にハマるには丁度いい冊数だと思われます。
私の拙い文章では、乙嫁語りの魅力全てが伝わらないと思いますが、少しでも多くの方がさらに乙嫁語りという物語を知り、その世界を楽しんでいけたらと思います。

乙嫁語り / A Bride's Story
9

遊牧民好きは必見の「乙嫁語り」

「英国恋物語 エマ」の森先生が描かれた漫画、「乙嫁語り」。乙嫁とは「かわいいお嫁さん」の意味で、その名の通り美しくたくましい遊牧民のお嫁さん「アミル」が主人公です。この漫画の見どころは、とにかくマニアックなアジア、中東の遊牧民の文化を綿密に描ききっているところ。一コマ一コマ書き込まれた刺繍からは作者の猛烈な熱意が伝わってきます。動物のデッサンも最早一コマが絵画のようです。女性が集まってパンを焼くところ、馬上弓で狩りをするところ、結婚式のための衣装を作り上げるところなど、まるでそこで一緒に生活している感覚に陥るほど丁寧に描かれています。逆に、ストーリーは劇的には動きません。主人公アミルやイギリスからの旅人スミス中心としながら、その周りの人々の生活やちょっとした事件の話がゆっくりと続きます。なので、例えば派手な戦闘シーンや、エマのようなドラマチックな恋愛劇を求めるとやや物足りないと感じるでしょう。この漫画の楽しみ方は、いかに遊牧民の生活に溶け込むか、背景に描かれた調度品や食べ物などの細かいところに興味を持てるかにかかっています。もとから遊牧民に興味がある、アジアや中東の文化や服飾が好きという人には、その辺の旅行ガイドよりも生き生きと現地の生活が伝わってきて面白く感じるでしょう。

乙嫁語り / A Bride's Story
8

はよ結婚しろ!ってしてたわw

作者様の絵が美麗&細やか、これに尽きます。そしてその美麗な絵から生み出される個性豊かなキャラクター、風土、料理、そして動物、全てに見入ってしまい、1ページ読むのに、もとい観察するのに10分はかかってるんじゃないだろうか?と体感的には思ってしまうほど作品の中に引き込まれます。細かなイラストや動物を見るのが好きな人にはおすすめです。また、ストーリーの進行具合でメインのキャラクターが変わる為、そこで起きること、出会う人に変化が生まれ、日常や風土をテーマにした作品であっても飽きがこないです。乙嫁とあるように若い妻、あるいは結婚予定の娘さんがたくさん登場します。彼女たちを取り巻く環境的には、恋愛が自由にできるわけではありませんが、結婚からはじまる恋物語として夫婦として愛を深めていく過程や、それが恋だと気づいた描写などは、読んでいてこちらまで幸せな気持ちになります。また、最初のメイン乙嫁の1人であるアミルは、元々狩猟を糧にする民族であるため、その腕前でウサギを狩ったり、そのまま捌いたりとサバイバル力が高めで、年下の夫であるカルルクにいつもびっくりされており、乙嫁それぞれにそういうギャップや魅力があるのも読んでいて楽しいです。2ヶ月に1回の隔月発行のため、コミックスが1年に1度しか発売されない為、続きがすぐに読めないジレンマに襲われますが、忘れた頃に書店に並んでいるのを発見すると、宝物を発見した時のように嬉しい気持ちになります。

乙嫁語り / A Bride's Story
9

時代と国を超えて旅をできる

19世紀の中央アジアを舞台に12歳のカルルクのもとに嫁いできた20歳のアミルを主人公に、話は始まります。普通の漫画というより歴史専門の漫画のように時代背景や衣服、食文化が丹念に描かれているため、容易に世界観に飲み込まれて、その国を訪れたような感覚になります。特にアミルが描かれる地域での嫁ぐ準備のために女性がつくる刺繍された布は多くのシーンで描かれ美しさに引き込まれます。読まなくても、眺めるだけでも楽しい気持ちになります。
また、巻によって主人公を変えながら地域を移動するので様々な文化を楽しめます。どの話も中心は結婚や夫婦をテーマにしたもので、親同士が話し合い、結婚式当日に初めてお互いに顔を合わせることや、結婚前に年頃の男女で出歩くこともできなかったり、10代で結婚することが当たり前だとされたり、多くの親族が同居する大家族など現代の日本とは違う風習や情景も多々あり新鮮で面白いです。また、両家の親族の問題もダイナミックに描かかれ、時には戦闘に発展し、手に汗握る場面も臨場感たっぷりに描かれます。国や地域、また民族をまたいだ壮大な物語ですが、巻ごとに主人公と地域が変わったり、ユーモアも交えながらテンポよく描かれているため、話が広がりすぎて混乱することもなく、とても読みやすい漫画です。

乙嫁語り / A Bride's Story
9

乙嫁って面白いですか。はい、面白いです。

中央アジアが舞台の歴史漫画である「乙嫁語り」。
そう書くとなにやら堅苦しいものを想像しがちですが、これは違います。
そもそも中央アジアってどこ?という知識レベルでも、作者の森薫の巧みな筆づかいで自然に明らかになっていきます。

第一巻は年上の女性アミルと年下の少年カルルクの結婚の儀式からはじまります。
当地の風習や文化がこれでもかというくらい、ふんだんに描かれていきます。
食事のシーンも大変多く、当時はこういうものを食していたのかというのがわかります。その描写のおいしそうなこと。
作者は丁寧に生活のすみずみを描いていきます。そして現代とは違う、人間関係のありかたも。
この漫画のなかでは何度も激しい戦闘シーンが出てきます。
人々は自分の暮らし、プライド、家族などさまざまな理由のために争うのです。
それぞれの立場があり、その数だけ正義があります。
騎馬上の戦いや、武器(弓矢や刀などから、近代的な兵器も登場します)で争うのですが、
この時代は平和そうにみえて、戦闘が身近にあったのだなということを痛感させられます。
各巻ごとに、乙嫁=花嫁さんがそれぞれ登場します。
薄幸、元気、不器用、みんな性格は違います。もちろん彼女たちがたどる人生も。
これほど丁寧に描かれた歴史漫画はなかなかないと思います。