中央アジア~中東が舞台のマンガ
日本のマンガにおいて中央アジアが取り上げられることはあまりありません。
この「乙嫁語り」は、ロシアと争う直前の19世紀のウズベキスタンを中心に、カザフスタン、トルクメニスタンなどの中央アジア、アフガニスタンを抜け中東までという、広範囲各地の「花嫁・花婿」をテーマにしています。
基本は12歳のカルルクの元に嫁いだ20歳のアミルの2人と、各地を巡る中で2人に会ったイギリス人のスミスの話が中心となりますが、オムニバス的要素もあります。
花嫁が身に着ける物、結婚式に必要なもの、我々が全然知らない姉妹婚など、中央アジアや中東を知らない人が多い日本において、19世紀という更に知らない世界を、ゆっくりとした時の流れの中を表すように緻密な線で、人々の愛と心と家という切り離せないものが普遍的にあることを描いています。
昔の写真で、山間のカメラがめったに来ないような場所のドキュメンタリー映像で、布地に美しい複雑な刺繍を施され、装身具を身に着けた人の姿をどこかで見たことがあるかもしれません。
その姿がそのままマンガに出てきます。
中東になるとその刺繍や装身具は消え、女性はブルカやチャドルを身に着け、そしてトルコの港町アンタリヤにまで行くと、再び色彩豊かな服を着た人々が現れます。
地域によっての服装や習慣の違い、戸惑いを作中の狂言回し的な存在であるスミスの視点で読者の共感を得、高原や雪原、ヒツジや馬を家畜とするその日常を、作者森薫のその画力を以て示しているマンガです。