魔法使いの嫁(まほよめ)のネタバレ解説・考察まとめ

『魔法使いの嫁』とは、ヤマザキコレによるマンガ作品。2014年1月号から9月号まで「月刊コミックブレイド」で連載された後に「月刊コミックガーデン」へと移った。この物語は、夜の愛し仔(スレイ・ベガ)である「チセ」が異形の魔法使い「エリアス」に買われるところから始まる。人ではない者が見えることにより、たくさん傷ついてきたチセは、その能力により様々な出会いを繰り返し自分と向き合っていくのであった。

エリアスとチセの関係性の変化

完全にエリアスの「ママ」となったチセ。

死にたいと思いながら生きていたチセと、好奇心からチセを買い取ったエリアス。
エリアスはチセを家族として迎え、チセはエリアスと程好い距離を保ちながら、エリアスに捨てられないよう都合の良い人で居ようとする。
エリアスは何もしなければチセの死期はあと数年と知っていたがそれを本人に言わなかったり、何かと言葉が足りない。
始めはエリアスが大人(父親)で、チセが子供(娘)のような関係性であった。
死にたいと思っていたチセは、エリアス達との関わりから次第に生きたいと願うようになっていく。
そしてエリアスも始めは人間やスレイ・ベガに対する好奇心だけであったが、段々とチセ本人に惹かれ、チセが掛け替えのない存在になっていく。
人間の感情が分からないエリアスは、チセを人間の先生と呼び、人間らしい事をチセから学んでいく。
始めは家族は要らないと思いながら家族を求めてしまう子供のようであったチセは、精神的な成長を経て、エリアスを歌で寝付かせるなど母親のようになって行く。
それと同時に始めは大人ぶっていたエリアスの、子供がそのまま大人になってしまったかのような人物像も次第に明らかになっていく。
父と娘のような2人であったが、次第に母親と息子のようになっていくのであった。

ネヴィン「我々の一族は空を捨てたが、いつだってこの空の下で生きてゆく運命だ。その名にある鳥のように、君も生きるためにこの空の下を飛びなさい。」

古竜が夢の中の空の上で、綺麗な太陽に向かって飛んでいる智世に向かって言った言葉。俯いた智世に「世の中は広い。前を向いて生きてみなさい。下を向いていたら綺麗な世界が見えなくてもったいないよ。羽鳥智世という名前を持って生まれのであればその名前の通りに羽を広げて飛んでみなさい」と智世を励まして言っているとても深いセリフである。

エリアス・エインズワース「君のいる世界は君の味方じゃなかったかもしれない。でも、敵ではない。君の鍵はもう銀の錠に差し込まれている。あとは開けるだけさ」

智世が穢れに向かって行こうとする時「世の中は敵ばかりではない。心を開いてみてごらん。智世が開ければ、きっと答えてくれるよ。」と、これから初めて魔法を使おうとする智世に助言をするエリアスの言葉である。智世は愛されるということを知らないで育ってきた。だから愛するということを覚えて欲しい。世界を愛してほしいというエリアスの願いでもある。

チセの過去

チセの首を締めてしまった母親。真っ暗な部屋と、吸い込まれるような青空が印象的。

チセはスレイ・ベガという体質のために周りの人々から疎まれ、自暴自棄になって命を投げ出そうとし、セスに声を掛けられイギリスの闇オークションに自分から出る決意をした。
チセが覚えていた家族に纏わる過去は断片的であったが、少しずつ思い出し、そしてカルタフィルスに見せられた夢から詳細が明らかになる。
チセの母親は人ならざるものが見える体質で、父親はそんなチセの母を守る存在であった。
母親の体質が受け継がれ、さらに強い魔力を持ったスレイ・ベガとして生まれたチセは、母親と同じく人ならざるものに脅かされ、父親はチセと母親を守った。
しかしある日父親はチセの弟を連れて失踪し、母親は一人で生きるには困難な体質を抱えたまま、一人でチセを育てる。
母親は普通の人間達から気味悪がられ、仕事もなく、追い詰められていく。
ある日、魔が差した母親は生まなければ良かったと言ってチセの首を締め、ベランダから投身自殺した。
この出来事はチセにとって深いトラウマとなる。
チセは家族が大好きであったが、父親にも母親にも置いていかれてしまい、もう家族は欲しくないと思うようになった。
トラウマばかりが頭に残ってしまっていたチセであったが、家族との楽しかった記憶も存在していたのであった。
チセの母は実際には幸せそうに笑う人で、チセを大事に思い、だからこそ病んでしまったのでもあった。
チセはずっと自分を攻め立てていた記憶の中のチセを恨む母親に決別する。
そして、母を許さないし忘れたりしないが、自分を生んでくれた事と殺してしまう寸前で留まり手を離してくれた事に感謝し、そのお陰で沢山の人、そして自分の事よりも放っておけない人(エリアス)に会えたと言う。
記憶の中の母は花弁となって消えて行くのであった。
家族が欲しくないと思っていたチセであるが、エリアスが自分の事を家族だと言ってくれて、自分を含む未来の話をすることに心地よさを感じるようになった。
エリアスとの出会いがチセを成長させ、抱えていた家族へのトラウマを自分の力で解消したのであった。

エリアスの過去

リンデルが遊牧の旅をしていた頃、森でまだ名前のなかった頃のエリアスに出会う。
エリアスは自分が何者かも分からず、気づいたら森を彷徨っていたと語る。
リンデルは自分の師匠「ラバブ」の元へエリアスを連れて行く。
エリアスが覚えているのは「赤い」という記憶だけであった。
ラバブはこの時にエリアスに「エリアス」と言う名を与え、エリアスがいつもつけている緑の宝石がついたループタイをあげた。
その後エリアスとリンデルは一緒に行動するが、ある村でリンデルが病気の子供の治癒をしようとした時、リンデルの影に潜んでいたエリアスを発見されてしまい村人から攻撃される。
怪我をしたリンデルを見たエリアスは村人を襲おうとするが、リンデルが止め、2人は村人を巻いて逃げた。
エリアスはリンデルが使っていた魔法を使い、見よう見真似で食事を作ってリンデルを看病した。
そして自分はきっと人間を食べた事があり、そのため時々無性に食べたくなるのだとと打ち明けるのであった。
リンデルはチセにこの話をし、どう思うかと問う。
チセは人間を食べる人ならざるものは沢山見てきたが、エリアスは怖くないと言う。
リンデルは、聞いた人が怖がるからエリアスになるべくこの話をしないよう言うが、そのためかチセにもこの話を自分の口からしなかった。
ちなみにラバブがあげたループタイをエリアスはずっとつけていたが、チセからループタイを貰うとチセから貰った物へ付け替えた。

エリアスがリンデルに作ったスープは激マズだった。

ルツとイザベル

ルツがまだブラック・ドックになる前の「ユリシィ」だった頃、ユリシィには妹「イザベル」がいた。
しかしユリシィは自分を犬だと分かっておらず、人間の兄だと思いこんでいた。
イザベルは赤い毛と緑の瞳を持ったチセそっくりの少女で、赤毛である事で苛められていた。
ある日、イザベルは虐めっ子から追いかけられたのが原因で馬車に引かれ、帰らぬ人となってしまう。
死を理解できなかったユリシィは埋葬されたイザベルの帰りを墓地で待ち続け、ユリシィもまた亡くなってしまう。
ブラック・ドックとなった後、イザベルと良く似たチセと出会い、チセの側に居たいと思いチセと「結び」の約束をし「ルツ」の名を貰う。
イザベルの遺体はカルタフィルスによってキメラにされ冒涜されてしまう。
ルツはチセと力を合わせキメラを倒し、イザベルを解放し看取った。
イザベルはキメラにされる前から既に亡くなっているが、キメラから解放された後意識があるように見え、ルツは「おやすみ、イザベル」と声をかけ、イザベルは安らかな眠りについた。
この時のイザベルの魂はカルタフィルスに作られた偽りの魂であったが、ウィル・オー・ウィスプは偽者でも魂であるとし、イザベルの魂を黄泉へ送った。

シルキーの過去

妖精の塗薬を作って魔力を消耗しきって倒れたチセは、一時的に妖精の国へ連れて行かれ治療を受ける。
その間エインズワース家はシルキー一人きりになり、シルキーはチセたちの帰りを待って家を模様替えする。
しかし妖精の国の時間と人間の住む場所の時間の流れ方は違い、シルキーは長い間一人でチセたちの帰りを待ち続ける。
シルキーは元々は妖精バンシーであった。
しかし憑いていた家は途絶えてしまい、家のあった場所で行き場も無く、もっと皆(人間)の側にいたいと一人泣いていた。
「小さきモノを守る」役目を持つ丘の防人は、そんなシルキーに声を掛け、新しく憑く家を探して導いた。
それは現在のエインズワース家に良く似た家で、住んでいるのはエリアスとは別人であり、恐らくエリアスの前の住人と思われる。
この時にシルキーはバンシーからブラウニーに変わり、同時に現在の「シルキー」の名を与えられた。
シルキーは現在の家の住人であるエリアス・チセ・ルツを大事に思い、特に人間のチセの事を一際大事にしていた。
チセたちが妖精の国に行ったのは紅葉の始まった秋で、帰ってきたのは帰ってきたのは雪振る冬であった。

リャナン・シーとジョエル

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