フラウ・ファウスト(漫画)のネタバレ解説・考察まとめ

『フラウ・ファウスト』とは、ヤマザキコレにより2015年から『ITANコミックス』にて連載されたファンタジー漫画。物語の舞台は、18~19世紀頃のドイツをモデルとした世界。契約していた悪魔から不老不死の呪いを受けたファウストが、悪魔メフィストフェレスと再会するまでの100年の物語である。ファウストがメフィストフェレスを捜す理由とは何なのか、人や悪魔たちの複雑な心情が絡み合う様が魅力的な作品だ。

『フラウ・ファウスト』の概要

『フラウ・ファウスト』とは、ヤマザキコレにより2015年から『ITANコミックス』にて連載されたファンタジー漫画。
『魔法使いの嫁』を描くヤマザキコレの作品として、注目を集めた。本作は全5巻となっており、3巻目からは特装版も発売されている。
物語の舞台は、18~19世紀頃のドイツをモデルにしている。
契約していた悪魔から不老不死の呪いを受けたファウストが、悪魔メフィストフェレスと再会するまでの100年の物語である。
何故メフィストフェレスはファウストに不老不死の呪いをかけたのか、ファウストがメフィストフェレスを捜す理由とは何なのか。
魔法や悪魔の存在する美しい世界観で、様々な人や悪魔たちの心情が複雑に絡み合う様が非常に魅力的な作品だ。

『フラウ・ファウスト』のあらすじ・ストーリー

新たな出会い

父親が商売に失敗したことで学校に通うことができなくなったマリオンは、借金のカタに没収されてしまった本を盗み返して追われているところを、ヨハンナと名乗る女性に助けられる。
ヨハンナは、助けた貸しとして新月の夜にある場所の扉を開けてくれるようにマリオンに依頼する。
そうして新月の日までの数日間、博識で様々な分野に精通しているヨハンナは、マリオンに勉学を教えてあげることになるのだった。
そして新月の夜、教会の扉を開けてヨハンナを呼び入れたマリオンは、ヨハンナから「自分は呪われているから誰かに招かれなければ教会には入ることができない」と明かされる。
動揺するマリオンを連れて、ヨハンナはそのまま教会の地下に向かい、封印された悪魔メフィストフェレスの右腕を見つける。
しかし、ヨハンナがその右腕に手を伸ばすと、後をつけていた異端審問官ロレンツォ・カランドラに剣で刺されてしまうのだった。
重症であるはずの傷が塞がっていくヨハンナの様子に、ロレンツォはヨハンナの正体がかつてメフィストフェレスと契約していたファウスト博士であるとマリオンに告げる。
「何故メフィストフェレスを呼び覚まそうとしているのか」と問うロレンツォに、ヨハンナは「あいつをシメるため」という予想外の答えを返す。
そしてヨハンナが呼びかけると、身体の一部が欠けているメフィストフェレスが現れ、2人を連れて忽然と姿を消すのだった。
無事に逃げ出した2人だったが、ヨハンナはマリオンに迷惑が掛からないように記憶を封じようとする。
しかしそれを察したマリオンは抵抗し、ヨハンナに師事してその旅についていくことを宣言するのだった。

ファウストの娘

強引に旅に同行したマリオンを連れたヨハンナは、隠れ家の1つであるというとある村の孤児院兼薬屋を訪れる。
そこはヨハンナを「お母さま」と呼び慕うニコ・バーンスタインという女性が管理しており、ロレンツォに刺された傷の修復のためにヨハンナが休眠をとる中、マリオンは仕事を手伝いながらニコから話を聞くことになった。
孤児院の子供たちは、ヨハンナが道すがら見込みのある孤児を拾っては連れてきており、ヨハンナは学問を志す者や子供達には優しい人であるという。
そして、ヨハンナはメフィストフェレスと契約はしたが、資料の収集や実験の補助などはさせても学問の習得自体は自身の手で行っていたということが分かった。
話の途中でニコが倒れてしまい慌てるマリオンだったが、実はニコの正体は人造生命であるフラスコの中の小人・ホムンクルスであり、普段は自動で動く人形である自動人形を使い生活をしているのだと知るのだった。
自動人形である以上は手入れが必要であり、ヨハンナはニコの手入れのために定期的にこの地を訪れていたのだ。
そしてこの地には、ニコが居るという理由以外にもヨハンナが気遣う理由が存在していた。
かつてまだ呪われる前のヨハンナが、当時の村長に頼まれてとある麦を譲り渡したことがあった。その麦はどこに撒いても実をつける代わりに、時折変異種が生まれて生き物の身を蝕んでしまうことがあるのだという。
稀にあるかもしれない1人や2人の犠牲よりも村の存続をとった村長の意思に負け、また飢饉で多くの人が苦しむことを避ける為にヨハンナはその麦を渡したのだ。
そして、マリオンとともにヨハンナが訪れたこのタイミングで、孤児院の少女にその変異種の発芽が確認されてしまった。
ヨハンナは変異種の対処法も見つけており、自分が少女を介抱している間に、薬の素材を採ってくるようにマリオンとニコに頼むのだった。
しかし、そこにヨハンナを追っていたロレンツォが現れ、ニコたちに襲い掛かる。
ニコの奮闘と、マリオンの「病人を治療しているのだ」という説得によってロレンツォを退けることに成功し、薬によって少女は無事助かるのだった。

ファウストの過去

かつてファウストは、とある小さな村の少女ヨハンナ・ファウストとして生を受けた。
「どうやったら知らないことに耐えられるのかわからない」と言うほど幼い頃から好奇心が抑えられずにいたヨハンナは、村でも浮いた存在として気味悪がられていた。
親からも気味悪がられる中、ヨハンナをかいがいしく世話する幼馴染のマルガレーテだけが唯一心許せる相手であった。
ある日、いつものように森で本を読んでいたヨハンナの元に、悪魔であるメフィストフェレスが声をかける。
その場はマルガレーテがヨハンナを捜しに来たことで言葉を交わすこともなく終わったが、その夜に月明かりの中本を読んでいたヨハンナの元にまたメフィストフェレスが現れるのだった。
「知りたがりのお前に、おまえが欲する知識を全て一瞬でくれてやる」というメフィストフェレスに、ヨハンナは「実感の無い知識なんていらない」と一蹴する。
契約を断られたメフィストフェレスは、ヨハンナが自身に手を伸ばすまで見届けると言い姿を消すのだった。
そして月日は流れ、村から出る為にお金をためていたヨハンナは、いつものように森で作業に夢中になっており、いつの間にか夜になってしまっていた。
心配したマルガレーテがヨハンナを迎えに来ると、その背後から森に迷い込んでいた魔獣が襲い掛かってきたのだった。
マルガレーテを庇い怪我をしたヨハンナはこの窮地を脱するため、メフィストフェレスの誘いに乗り契約をすることにしたが、「欲しいのは知識ではなくおまえ自身だ」とメフィストフェレスにヨハンナの手足となるように契約を望むのだった。
そうしてメフィストフェレスによって魔獣を倒した後、気を失ってしまっていたマルガレーテを送り届けたヨハンナは、誰にも何も告げることなく村を後にしたのだ。

悪魔の血の利用方法

メフィストフェレスの不老不死の呪いは、傷を負うとその身を削って修復が行われるために、ヨハンナは徐々に若返っていき最後には消えてしまうのだという。
そのことを告げられて動揺するマリオンを薬で眠らせたヨハンナは、自身のことを忘れるように術で暗示をかけてしまう。
そして悪魔が関係していると思われる怪しい情報があるのだと、かつて共にニコを作り上げた男のひ孫であるヴァーグナーから知らせを受けたヨハンナは、1人その街へ向かうのだった。
ヨハンナが街でヴァーグナーと合流する中、目を覚ましたマリオンは薬草の採取時にできた手の爛れを見て暗示を解いてしまい、ニコと共にヨハンナを追いかけることになった。
同じ時、メフィストフェレスの封印された一部の護送をするために、ヨハンナが訪れた街の主教と対面していたロレンツォとその相棒のヴィートは、主教が協力的でないことを不審に思い調査を開始していた。
巡礼の旅人に寝床の提供をしてくれる司祭館に、旅人を装って探りを入れようとしたヴィートは、偶然宿を借りるために訪れたニコとマリオンに居合わせる。
部屋に案内された3人だったが、突然背後から何者かに襲われてしまうのだった。
一方、ヴィートを心配し様子を見に行こうとしていたロレンツォは、ヨハンナにこの街の怪しい情報を知らされていた。
最初はヨハンナに切りかかったロレンツォだったが、それを警戒していたヨハンナは実態のない幻影を向かわせていたため、とりあえず話を聞くことにしたのだ。
そしてロレンツォは、教会の周辺で人が消えていること、おそらく主教が悪魔と契約してメフィストフェレスの血を使っていることを聞かされ動揺してしまう。
「ありえない」と信じようとしないロレンツォだったが、そこに逃げ延びてきたニコから教会の者にマリオンたちが捕らえられたことを聞かされて、一時的にヨハンナと手を組むこととなった。
ヴァーグナーの作成した自立式人形であるモグラ型のゴーレムを借りて教会に潜入したヨハンナたちは、間一髪のところでマリオンとヴィートの元にたどり着いた。
ことの犯人は主教であり、彼は悪魔イーノーと契約して死に向かいかけていた娘レアをメフィストフェレスの血を使って生き返らせようとしていたのだ。
だが、メフィストフェレスの血によって人の理から外れたレアは、人としてではなく悪魔として生き返ったのだった。
悪魔として人を襲い始めるレアだったが、応戦しているロレンツォを囮にしてレアの背後をとったヨハンナが、剣で心臓を一突きにしたため再びその生を終えることになる。
そしてレアとの戦闘に皆の注目が集まっている間に、マリオンがメフィストフェレスの右足を回収できたため、後始末をロレンツォに押し付けたヨハンナたちはそのまま逃走に成功するのだった。

人形師のサラ

ヨハンナは不老不死の呪いをかけられる前、大学で研究をしていた頃に人形師のサラとルームシェアをしていた。
悪魔のアスに契約を持ち掛けられて断り続けているサラとは、悪魔憑き同士として友好を深めており、ヨハンナがホムンクルスの製造に成功して教会から追われた際にもその手助けをしたほどだ。
それから100年経ち、司祭館で襲われた際に壊されたニコの体のためにサラの元を訪れたヨハンナたちは、自由都市でしばしの羽休めをすることになった。
ヨハンナとヴァーグナーはそれぞれ街を見て回る中、初めて街を訪れるマリオンはサラに案内されながら、サラとヨハンナの過去を聞かされるのだった。
100年経っても若々しい見た目のサラは、「さみしいだろうから同じ分だけ生きてあげようって思うくらいには」ヨハンナのことを大事に思っており、首から下は全て人形に変えて生き永らえているのだという。
サラは、アスにその想いの成就のために契約を唆されても、「恋われたいのではなく、愛したいの」と言うほどにヨハンナのことを愛していた。
ホムンクルスの製造がばれて教会の者に襲撃をされたヨハンナを逃すために右目を潰されて殺されかけても、サラはヨハンナが嫌がるからという理由でアスと契約をしない選択をした。
アスは、最後まで契約をせずに「愛してる」と言うサラを助け、それ以降共に居るのだという。
ホムンクルスの共同制作者であるダニエルは、ニコがヨハンナと共に居ることを望むと自身は故郷に帰って血を繋げることを選択し、今そのひ孫であるヴァーグナーがヨハンナたちと共にいる。
懐かしい過去を語りながら、サラは2万547回目の「愛してる」をアスに送るのだった。

100年ごしの再会と別れ

異端審問局局長で大主教でもあるオルガは、ロレンツォとその妹であり大主教であるアナスタシアの叔母にあたる。
兄妹は互いを人質とされ、オルガの従順な駒として育てられたのだ。
そんなオルガによってアナスタシアはイーノーとの契約を強要され、ヨハンナをオルガの元へ連れてくる契約を結ばされたのだった。
メフィストフェレスの封印された一部を捜すためにわざと捕まったヨハンナは、瀕死で意識の無い状態ではあったがメフィストフェレスによって牢から救い出されていた。
一方、アナスタシアとヨハンナを救うために手を組んだロレンツォとマリオン、ニコたちは、サラがヨハンナを連れ帰ることを条件に契約したアスの力によって教会に潜入することに成功する。
無事に合流したヨハンナたちは、メフィストフェレスの頭部が封印された場で、オルガやアナスタシア、イーノーと対面することになった。
イーノーをメフィストフェレスが抑える中、初めてオルガの命令に反したアナスタシアはヨハンナがメフィストフェレスの頭部に駆け寄るのを止めなかった。
ヨハンナが封印された頭部の元までたどり着くと、メフィストフェレスは「思ったよりも早かったな」と、自ら封印を破り復活するのだった。
そうして100年ぶりの再会を果たしたヨハンナとメフィストフェレスだったが、宣言通りにメフィストフェレスを殴りつけるヨハンナに皆茫然としてしまう。
共に行こうと手を伸ばすメフィストフェレスに、ヨハンナは「もう自分は契約者ではない」と、何故こんなゲームをし始めたのかと詰め寄る。
メフィストフェレスが返答を返す前に、「ヨハンナを捕まえると契約したから、自分も連れていってくれないとずっと付いていく」とイーノーが発言すると、メフィストフェレスは自分の邪魔をするイーノーの契約者であるアナスタシアを殺そうと襲い掛かり始める。
メフィストフェレスの攻撃から身を挺してアナスタシアを守ったオルガは、「悪いと思っていないから謝れないけれど、私も自分の地獄へいく」と言い残してその命を終えてしまう。
それでもなおアナスタシアを狙うメフィストフェレスの前に、マリオンが立ちふさがる。さらに庇うようにヨハンナが前に出て攻撃を受けると、ついに不老不死の呪いに限界が来てしまうのだった。
再びの死を前に、ヨハンナは100年の孤独を語り、メフィストフェレスに何かを伝えようとした。
しかし1度目と同じ最期の愛の言葉は聞きたくないと、ヨハンナの言葉を遮るメフィストフェレスに、ヨハンナは口づけをして「ざまぁみろ!今度はお前の番だ」と笑いついに消えてしまうのだった。
ヨハンナが消え、他の皆が未来へ歩み始める中、最後はメフィストフェレスの「おまえが過ごした100年とはこういうことか」という独白で物語は幕を閉じる。

『フラウ・ファウスト』の登場人物・キャラクター

悪魔と関わりがある人物

ヨハンナ・ファウスト

かつてメフィストフェレスと契約し、そして殺された後に不老不死の呪いを受けた女性。
五体を切り刻まれて封印されたメフィストフェレスを捕らえられたらヨハンナの勝ち、ヨハンナが立ち止まったらメフィストフェレスの勝ちというゲームを勝手に始められてしまう。
一人旅の期間が長く、身の安全のために男装をしていたために、後世にはファウスト博士は男であると伝わっている。
小さな村でそのまま死に行くはずだったのを、メフィストフェレスのおかげで死ぬまで「何か知ること」に命を使い続けることができた。
その数十年の間にメフィストフェレスに情が移っており、その礼に魂を渡してあげようと思い死を受け入れた。
しかし、死んだと思ったらメフィストフェレスに不老不死の呪いをかけられ、勝手なゲームによって100年の孤独な道を歩まされたことに怒りを覚えている。
最初に死んだ時、死の間際にメフィストフェレスに「おまえを愛していたよ」と伝えており、2度目の死を前にしても何かを伝えようとしたところをメフィストフェレスに遮られてしまう。
その代わりのように口づけを送り、笑顔で「ざまぁみろ」と言葉にして最後は消えていった。

マリオン

ヨハンナがメフィストフェレスの右腕を取り戻す際に、教会に入るための招き要員として利用した少年。
博識で様々なことに精通しているヨハンナに師事することを選び、少し強引ながらもその旅に同行することとなった。
腕っぷしは強くないが、ヨハンナからは正しい倫理観と学問を志す様を気に入られている節がある。
ヨハンナの最期を見届けた後、代筆屋として世界を回り、自分の目で知見を広める度を続けている。

ニコ

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