路傍のフジイ〜偉大なる凡人からの便り〜のネタバレ解説・考察まとめ

『路傍のフジイ〜偉大なる凡人からの便り〜』とは、2023年5月より『週刊ビッグコミックスピリッツ』で連載を開始した鍋倉夫による漫画作品である。一見冴えない中年男性の藤井守は40代独身で非正規雇用。周囲からはつまらない人間だと思われているが、周囲の価値観にとらわれずマイペースに暮らす彼の生き方は、周囲の人々の価値観にも影響を与えていく。『週刊ビッグコミックスピリッツ』のほか、ビッコミなどの電子漫画サイトでも配信され「マンガ大賞」なども受賞している。

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小学校の頃からずっと藤井を見守ってきた成田。藤井にとって馬場が良い友達だったことは成田にも伝わっていた様子。

第24話で転校する藤井を見送った成田が馬場に伝えた言葉。小学校から同じ団地で、家族ぐるみで藤井と仲良くしていた成田は引っ越す藤井一家を見送る。その場に現れたのは、不登校気味で学校には来ていなかったが、他の生徒の代わりに自分の家に来てくれた藤井と仲良くなった馬場。藤井に貸していた漫画の続きを餞別として渡しに来た馬場と成田は、2人で町を去る藤井を見送った。
藤井がいなくなった後、成田の方から馬場に「仲良かったんだね、マモルちゃんと」と声をかける。自分が藤井と仲が良いと言っていいのか戸惑っていた馬場が「話すようになったのは最近で」と答えると、成田は「時間は関係ないんじゃない? マモルちゃんは友達だと思ってるよ、きっと」と伝えた。藤井は考えていることが表に見えにくいことから、馬場は自分が友達だと思われていたかはわからなかったが、小学生の頃から藤井を密かに見守ってきた成田は藤井が馬場のことをどう感じていたかはわかっていた様子が窺える。その後、成田と馬場も高校進学後に時々会って話す仲になっていたことが作中でも描かれている。

馬場「お前が本当に冷たいやつだったら、こうやって知らせに会いに来てないって。」

学生時代の友人で、唯一藤井が大人になってから繋がることができたのが馬場である

仲の良かった成田が亡くなったことを知らず、葬式に行くこともできなかった藤井。馬場が藤井に知らせにこなければ、成田が亡くなったことをずっと知らなかったままだった。藤井にとって、とても良い友達だった成田とは、自身の転校後一度も会っていなかったことで藤井は、自分の人間関係が希薄かもしれないと馬場にこぼす。自分は冷たい人間なのかもしれないと悩む藤井に対し、自分も昔の友人とはほとんど連絡をとっていないと話す馬場。そして亡くなった成田も、同窓会や成人式には顔を出していなかったことを藤井に伝える。それぞれ大人になり、それぞれのその時の関係を優先していく中で、昔の友人と会う機会が減るのはよくあること。そんな意味も込め、馬場は「俺達のことなんかすっかり忘れてたりして」と話し「それならそれでいいんです」と藤井は返す。
だが、馬場は「お前が本当に冷たいやつだったら、こうやって知らせに会いに来てないって。」と藤井に伝える。成田の墓に来た2人は、大人になってからの成田の人生を何も知らなかった。だが、成田が幸せだったことを願いながら墓前で手を合わせた。

成田の訃報に涙する藤井

大切な友人・成田の訃報を聞き、自室のベッドで1人涙を流す藤井。

第30話では、普段無表情な藤井が珍しく涙を流す場面がある。いつものカフェで田中と過ごしていた藤井に声をかけたのは、中学時代の友人・馬場だった。藤井の転校後、実に25年ぶりの再会を喜ぶ馬場と藤井を気遣い、田中は少し席を外す。田中が振り返って様子を見た時は、同級生との再会を嬉しそうにしている藤井を見たはずだった。だが、田中が席に戻る時には既に馬場は席を立ち、帰ろうとしていた。
自分に会いにきてくれた馬場に礼を告げ、馬場と別れた藤井だったが、なんとなく心ここにあらずな様子になっていることを田中は不思議に感じていた。
その帰り、藤井はずっと俯きながら家へ向かい、途中で楽しそうな男子学生たちとすれ違うが、表情は呆然としていた。
自宅に戻った藤井は、電気もつけず、ゴミ箱を倒したことも気に留めずベッドに寝転がった。馬場が自分をわざわざ探して会いに来てくれた理由は、友人・成田の訃報を知らせるためだったのだ。転校する前日、成田が話した「一生会えないわけじゃないか。」という言葉が思い出された。だが、藤井は転校後に成田と会うことはなく、永遠の別れとなってしまった。
成田のことを思い出す藤井は1人、ベッドの上で涙を流した。

田中と新年を祝う藤井

病み上がりの年始、藤井は自分を見舞ってくれた田中と共にベランダで年始の挨拶を交わす。

年末、高熱を出し寝込んでしまった藤井。冷蔵庫の中の食材は少なく、やむなく自分で買い出しへ行き、スポーツドリンクやレトルトのお粥を買いつつ、布団の中で年を越す。そんな中、田中からメッセージが届く。「風邪をひいた」と返信したその朝、田中は食事と薬を持って見舞いに来てくれる。風邪がうつるから近づかない方がいいという藤井を寝かせ、キッチンでお粥を作る田中を眺めているうちに、藤井はいつの間にか眠りについていた。
目を覚ますと必要なものを揃えて置手紙を残し、田中は帰宅していた。自分を心配して見舞いに来てくれた田中、そして作ってくれた温かいお粥を食べながら藤井はひっそり目を潤ませた。次の日、熱はすっかり下がっていた。再び藤井を見舞いに訪れた田中に、藤井は感謝を告げた。数年前の高熱の時は治るまでずっとひとりだったという藤井にとって、今回田中が来てくれたことがとても心強かったことがわかる。仲の良い人と祝う新年はお互いにとって良い一年の始まりとなった。

父との最期の別れ

無表情で感情が見えにくい藤井だが、父のことをとても大切に想っていたことが伝わる。

長らく病を患って入院していた藤井の父が51話で亡くなる。52話では、父の葬儀が執り行われる。東京で1人暮らしを始めるために実家を出た藤井は、両親が見送る新幹線の乗り場でも振り返ることはなかった。子育てがひと段落した、と安堵する母に対し、父はそんな息子の様子を淋しがっていた。実家へ向かう途中、子供の頃に父と遊んだ公園が目に入るが、藤井は目を潤ませながら家へと急ぐ。自宅へ戻ってきた父の顔を黙って見つめる藤井は、病気で苦しむ時期のあった父の表情が安らかなことを確認し、いつも通り落ち着いていた。葬儀でも変わらず、涙も見せることはなかった。花を手向ける時も、周囲では涙ぐむ人たちもいる中で藤井はいつも通りの表情で俯いていた。いよいよ棺の蓋を閉めるというときになり、初めて「ちょっと待って下さい」と声をかけた藤井は、父の最期の姿をじっと見つめる。それまでは母も息子の様子を横目で気にしているだけだったが、この時だけは静かに目を潤ませた。ずっと父の傍を離れない息子にそっと母が声をかけ、葬儀は終わった。
台詞もなく、表情もいつもと変わらないシーンだが、藤井の父に対する想いが読者にもはっきり伝わる場面となっている。

『路傍のフジイ〜偉大なる凡人からの便り〜』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

藤井がなりたいものは「不老不死」

ありえない夢だが、本人は大真面目。

藤井のなりたいものは「不老不死」である。第1話で田中に「なりたいものとかなかったんですか?」と聞かれた際に回答している。趣味は多いがどれも趣味の範疇を超えることはなく、田中からもプロを目指したりしないかと問われたが、そういうわけでもない。藤井が不老不死になりたい理由は「やりたいことも知りたいこともたくさんあるから」というシンプルなもの。だが、藤井自身も不老不死は叶うものではないことを知っており、だからこそ価値があると思っている。それを理解しているからこそ、藤井は他人軸ではなく常に自分軸の人生を楽しんでいる。

実は営業向きの藤井

同期の辻から見て、意外にも藤井は営業に向いている要素を持っていた。

新卒で入社した会社で藤井と同期だった辻からは「営業向き」だと言われている。入社当時は営業に向いていないと悩む辻と、笑顔を作るのが苦手な上に、取引先が注ごうとした酒を断り先輩を怒らせた藤井。その後会社がつぶれてしまい、結局2人とも営業ではない仕事に就いている。事務作業がメインと話す藤井に対して、辻はもったいないと言う。辻から見た藤井は「人の話をよく聞く」「真面目で嘘がない」「意外と図太い」人間。途中からは取引先からも信頼されていたことが辻との会話で明らかになっている。
なお、入社当時の辻が自分は営業に向いていないと悩んでいた時、確かに藤井も「無理に笑顔を作るのは苦手」としながらも、「営業が向いていない」という発言はしていなかったことから、藤井自身は向き不向きは気にしていなかった様子。

意外に涙もろい藤井

中学時代、馬場の部屋で「月下の剣士」を読んで涙ぐむ藤井。

表情に乏しい藤井だが、作中では意外にも涙もろさが見える場面を見ることができる。それも1度ではない。中学生の頃には馬場の部屋で漫画「月下の剣士」を読んでいる最中に涙ぐんでおり、大人になってからも田中と一緒に部屋で観た映画では、全然感動する場面ではないところで涙ぐんでいた。また、風邪をひいて寝込んだ際に見舞いに来た田中が作り置きしてくれたお粥を食べながら、1人目を潤ませる場面も描かれている。表から見えづらいが、実は感動屋でもあることがわかる。

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