夏目アラタの結婚(漫画・映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『夏目アラタの結婚』とは乃木坂太郎によって『ビッグコミックスペリオール』(小学館)上に2019年14号から2024年4号にかけて連載されたサスペンス漫画、およびそれを原作とした実写映画作品。実写映画の主演は柳楽優弥、黒島結菜が務めた。連続殺人犯である品川ピエロと児童相談所職員である夏目アラタの結婚が描かれる。サスペンス的おもしろさに加え、緻密な心理描写も魅力。

104話。真珠との別れに際し涙を流すアラタが「親父が死んだときも、女に振られたときも泣いたことはなかった」といったときに、真珠はアラタが強がっていたことに気付き「つらいことを我慢してきたんじゃなく、つらいことじゃないってごまかしてきたんだね。」という。

つらいことが起きたときに「たいしたことじゃない」と自分に言い聞かせていたアラタに対して、つらいことに正面から向き合ってきた真珠の強さがわかる。恵まれない環境で育った可哀想な真珠と、強くて優しいアラタという構図に変化が生まれる印象的なシーン。

夏目アラタ「あれみんな、俺だったんかな…?」

104話。児童相談所で面倒を見ていた子供たちと自分が似ていることにアラタが気づいたアラタは「あれみんな、俺だったんかな…?」という。
うまく笑えない子供たちにそれでも笑ってほしいと思いながら児童相談所で働いていたアラタ。「本心では戦わない弱いやつを見下していた」とも言っているが、戦えない子供やうまく笑えない子供たちへの思いは、つらいことに正面から向き合うことから逃げ泣くことができなかった小さい頃の自分への思いの裏返しだったことに気づく。
心に傷を抱えた子供たちに笑ってほしいという、長年自分が抱いてきた思いの正体にアラタが気づく名シーン。

夏目アラタ「好きになるのを止められなかった!!」

104話。
車で突っ込むときまでは同情から真珠に寄り添っていたアラタだが、愛する男のために犯行をやり遂げた真珠の強さをみて気持ちに変化が起こる。そしてアラタは真珠に「好きになるのを止められなかった!!」告白する。自分にない強さを持つ真珠に心を惹かれるようになり、そんな自分を止められなかったと告白する。終始真珠が虐待されていたことへの同情から行動していたアラタの心情の変化が起こる名シーン。

夏目アラタ「さよ…なら」

104話。真珠への自分の思いに気づいたアラタが、そんな真珠との永遠の別れを受け入れるシーン。アラタはひざまずき「さよ…なら」と口にする。
最愛の父親との別れに向き合えなかったアラタが、真珠との出会いを通して大切な人との別れに向き合えるようになったことを表している。アラタの変化が感じられる名シーン。

品川真珠「何年かかるかわかんないけど、もしボクがここから出たら、ボクと結婚しよーぜ!!」

105話。自分の弱さを吐露し、強い真珠を好きになるのを止められなかったと告白し別れを告げたアラタ。崩れ落ちたアラタに真珠は「何年かかるかわかんないけど、もしボクがここから出たら、ボクと結婚しよーぜ!!」という。
アラタが真珠を幸せにするといったときは結婚を拒否した真珠だが、アラタが弱さを抱え自分を必要としていると知って結婚したいと思ったよう。
自分のことしか考えず要求するだけだった真珠が、アラタの幸せを第一に考えるようになっていることがわかる名シーン。姉の身代わりとしてでなく、自分自身が誰かに必要とされたのは、真珠にとってはじめてのことだったかもしれない。
アラタの不純なプロポーズから始まった二人の関係は一度破綻し、この真珠のプロポーズによって再び始まることになる。

品川真珠「子供をほしいと思ったことはないけど、昔、大事な人が傷ついてとてもとても小さくなったときにもう一度ボクが生まれかわらせてあげたいと思ったことはある。今は歌とか絵とか言葉とか自分から何かが生まれるのはすてきだってのは、今はわかる。いつかこの気持ちは「毒」になってボクの身体中にまわるよ。ボクを一生苦しめるから、、、ね?」

最終話。仮釈放後にばったり会った周防紗菜に「自分には子供ができた。お前に命の重みがわかるか。一生苦しめ、つぐなえ」といわれた真珠は、「子供をほしいと思ったことはないけど、昔、大事な人が傷ついてとてもとても小さくなったときにもう一度ボクが生まれかわらせてあげたいと思ったことはある。今は歌とか絵とか言葉とか自分から何かが生まれるのはすてきだってのは、今はわかる。いつかこの気持ちは「毒」になってボクの身体中にまわるよ。ボクを一生苦しめるから」という。
大事な人というのはアラタのこと。傷ついた人がもう一度立ち上がって生きられるように優しく包み込むことを「生まれかわらせる」と表現している。
そしてそんな気持ちが人の命を奪った自分に「毒」のようにまわっていずれ自分を苦しめるはずだといっている。
命を奪った真珠に、命を大切に思う気持ちが芽生え始めていることがわかり、希望を感じさせる。

『夏目アラタの結婚』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

原作者乃木坂太郎は夫婦円満

コミックス第1集の中で「自由がなくなる」、「換気扇の下でタバコを吸わないといけなくなる」などネガティブなイメージを持っているような描写が多いが、そういった思いを自身も抱いているかという質問に対して、原作者の乃木坂太郎は「自身の結婚生活は円満で、結婚にポジティブな印象しか持っていない」「結婚っていいなあと思っているところ(笑い)」などと語っており、アラタとは対照的なポジティブな結婚観を示している。

連載開始時最終回は未定

本作は、途中の絶望感と比べるとハッピーといっていい結末を迎える。
しかし作者の乃木坂は最終回はきめていなかったそう。連載当初のインタビューで
「大雑把な話の流れはあるが、そこにどうたどり着くかとか、たどり着いた時にどんな気持ちになっているかとか、そういうところは僕もまだ全然分からないし、むしろそれが大事かなと思う。」
「すごくハッピーなことが起きるとしても主人公たちはネガティブな気持ちでいるかもしれないし、何かネガティブなことが起きるかもしれないけど主人公たちは満ち足りているのかもしれない。最終回は決めちゃうと気持ちが『作業』になっちゃう場合があるので、どう締めるのかは最初にあまり考えないし、そこにたどり着いた時に、最適な最終回があるのかなと思っている」
と語っている。

映画版で品川真珠を演じた黒島結菜は3時間かけてピエロに変身

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