幽麗塔(漫画)のネタバレ解説・考察まとめ

『幽麗塔』とは、乃木坂太郎によるサスペンスミステリー漫画。『ビッグコミックスペリオール』(小学館)にて、2011年12号から2014年22号まで連載。2014年度第14回センス・オブ・ジェンダー賞の大賞を受賞している。
主人公天野は幽霊塔と呼ばれる時計塔で何者かに襲われ死の寸前、謎の美青年・テツオに救われる。太一はテツオの「幽霊塔の財宝探しを手伝えば、金も名誉も手に入る」という言葉にのせられ財宝探しに乗り出す。謎解きのおもしろさと、幽霊塔にすくう怪物「死番虫」とのスリリングな対決が魅力。

『幽麗塔』の概要

『幽麗塔』(ゆうれいとう)とは、乃木坂太郎によるサスペンスミステリー漫画。『ビッグコミックスペリオール』(小学館)にて、2011年12号から2014年22号まで連載。単行本9巻で完結している。1899年黒岩涙香(くろいわるいこう)が書いた『幽霊塔』という小説を下敷きにしている。黒岩涙香の『幽霊塔』もイギリスの作家アリス・マリエル・ウィリアムソンの小説『灰色の女』を翻案して書かれている。
本作は老婆がその養女に時計塔に磔にされて殺されるという事件を軸に、殺人事件が相次ぐ屋敷、通称幽霊塔に隠された財宝を巡る戦いが繰り広げられるホラーミステリー。主人公天野太一(あまのたいち)は幽霊塔と呼ばれる時計塔で何者かに襲われ死の寸前、沢村鉄雄(さわむらてつお)と名乗る謎の美青年・テツオに救われる。天野はテツオの「幽霊塔の財宝探しを手伝えば、金も名誉も手に入る」という言葉にのせられ財宝探しに乗り出す。謎解きのおもしろさと、幽霊塔にすくう怪物「死番虫(しばんむし)」とのスリリングな対決が魅力。背景となっている戦後の神戸のハイカラな雰囲気にも引き込まれる。
また多様なジェンダーやセクシュアリティを持つ登場人物が登場し、彼らの抑圧や葛藤も描かれる。2014年度第14回センス・オブ・ジェンダー賞大賞を受賞。

『幽麗塔』のあらすじ・ストーリー

はじまり

時計塔に磔にされた太一(右)を助けに来たテツオ(左)

下宿に引きこもって探偵小説やカストリ雑誌を読みふけっている無職で童貞の青年天野太一(あまのたいち)はふとしたことから妖艶な雰囲気をまとう沢村鉄雄(さわむらてつお)と名乗る謎の美青年・テツオと出会う。
テツオと探偵小説の話で意気投合した太一は、テツオに幽霊塔に連れて行かれそこの管理人になることを提案される。幽霊塔とは2年前藤宮たつ(ふじみやたつ)という老女が養女であった藤宮麗子(ふじみやれいこ)に時計塔に磔にされて殺された屋敷であった。
幽霊塔を探検していた太一は突如後ろから白いぼろのような者をまといマスクで顔を覆った人物に鈍器で殴られ意識を失う。意識を取り戻した太一は自分が2年前藤宮たつが磔にされていた時計塔に磔にされていることに気づく。太一は藤宮たつと同様上半身を短針に下半身を長針に固定されており、縄をほどくことができなければそのうちに腰骨が砕け死んでしまう。そんな中再び現れたテツオが時計を停止させ太一の命を救う。しかし時計塔の動かし方を知っているのは藤宮たつと藤宮麗子だけであり、テツオがその動かし方を知っているのは不自然であった。テツオは太一に、幽霊塔には莫大な財宝が眠っており自分が幽霊塔について独自に調べていることをあかし、一緒に財宝をみつけないかともちかける。
太一は下宿までテツオに送ってもらうが、下宿が火事で全焼していることを発見し、住む家をなくした太一はテツオの家に転がり込む。
丸部道九郎(まるべどうくろう)という資産家が幽霊塔を購入したことを知り、テツオは太一に丸部に近づき様子を探ってほしいと頼み込む。太一とテツオは丸部の娘丸部沙都子(まるべさとこ)を恐喝して協力させ太一は雇われることに成功する。
太一は丸部に雇われ幽霊塔について調べていることを長年の思い人である花園恵(はなぞのけい)に話してしまう。その翌日花園が裸で磔にされ死亡しているのが発見される。天野は花園を殺したのが自分を襲った人物と同じ人物であると考え、この人物に死番虫(しばんむし)と名付け対決を決意する。
神戸市警の陣羽笛(じんばぶえ)警部と山科(やましな)刑事も捜査に乗り出してくる。

財宝争奪戦

太一は雇われることになった丸部から2年前幽霊塔で起こった藤宮たつ殺しについて聞かされる。たつを殺したのはその養女藤宮麗子である可能性が高いが、藤宮麗子の顔写真はほとんど残っておらず藤宮麗子の婚約者であった本城志郎(ほんじょうしろう)がもっていたものが唯一である。丸部は太一にその写真を探してこなければクビにすると通告する。
婚約者本城志郎の行方を追って彼の本籍地広島県呉市の離島へ向かう。そこで二人は同じく本城の行方を追っていた神戸市警の山科刑事と出会う。本城の母親の部屋からテスラ研究所という謎の名刺が発見されたことを山科刑事から教えられた太一とテツオは山科刑事とともにテスラ研究所へと向かう。テスラ研究所でテスラ博士につかまり病人への臓器移植のために命を奪われそうになる。テスラ博士はひとりの人間を殺してその臓器で3人の人間の命を救うことができるならそのひとりを殺すべきであるという思想の持ち主であった。テスラ博士の魔の手からなんとか逃れた太一とテツオは、山科刑事と別れ幽霊塔に戻る。
幽霊塔に戻った太一とテツオは、太一を襲った男と同じ格好をした本城志郎に出会う。同じ格好をした男がもう一人あらわれ志郎はその男に殺される。
死番虫による一連の殺人の罪を着せられた太一とテツオは指名手配され逃亡を余儀なくされる。逃亡する中でテツオは自分こそが藤宮麗子であり、男性の服装をしホルモン注射を打って体型も変化しているが自分は性別的には女性であることを告白する。テツオは自身の性別と性的自認が一致しない今でいう性同一性障害であった。発見された藤宮麗子の死体は何者かが偽装したものだったのである。
テツオは警察の目を欺くため天野を女装させて逃亡する。ふたりは酒井不変木(さかいふへんぼく)という覆面作家が幽霊塔の事件と酷似した小説を書いていることを知る。幽霊塔と何らかのつながりがあるとにらんだ二人は酒井不変木のいる東京へおもむくが、東京には丸部も到着していた。丸部が酒井のもとを訪れたのは酒井がもつ幽霊塔の地下迷宮への鍵となっているスカラベを手に入れるためであった。スカラベは幽霊塔の所有者に代々伝えられているもので、フンコロガシの形を模した装飾品であり、これを地下迷宮の入り口の壁にはめ込むとその扉が開かれるのだった。死番虫も東京に姿を現しスカラベの争奪戦が繰り広げられる。
スカラベを手にし、殺人の疑いも晴れた太一とテツオは丸部とともに神戸に帰還し、幽霊塔で丸部、沙都子と一緒に暮らすことになる。丸部の画策によって太一とテツオの関係に亀裂が生まれる。そんな中、丸部は地下迷宮の罠の盾にするため実刑が確定している囚人達を巻き込んで財宝探しを開始する。テツオは丸部と、太一は山科刑事とペアを組んで地下迷宮へと向かう。沙都子も財宝探しに参加することを決意。陣羽笛警部も市民である沙都子の身を守るため地下迷宮に向かう。
丸部はテツオが藤宮麗子であることを見破り、藤宮たつ殺しの真相を問い詰める。テツオは自分が性同一性障害を抱えており義母のたつと日々衝突していたこと、死番虫がたつを時計塔に磔にしたとき時計塔を止めて助けることができたにもかかわらずあえて見殺しにしたことを告白する。
太一は迷宮を進む中で山科と徐々に仲を深める。そんな中山科は自分が少年に性的欲望を感じることを告白し、自分が財宝を手に入れたら出版社を作り自分たちのようなマイノリティーが理解される社会をめざすという思いを語る。その後地下死番虫も姿を現し、太一と山科刑事は襲撃を受ける。ふたりは一度はなんとか襲撃を逃れ財宝に続く道を見つけるが、財宝に達する直前山科刑事は死番虫の手にかかり命を落とす。死番虫の正体は陣羽笛警部であった。太一は山科刑事の拳銃を使って陣羽笛警部を殺害し、財宝を手に入れる。

その後

丸部の正体はテツオの父親であった。
また丸部は女性への憧れを持っており、男性の身体を望むテツオに脳移植によってお互いの身体を交換しないかともちかけ、脳移植手術のためテスラ博士と丸部の研究施設「幽麗塔」へ向かう。
太一も幽麗塔に向かい、成功の可能性がほとんどない脳移植手術をやめるようテツオを説得する。テツオは「生きよう、僕と一緒に」という太一の言葉で脱出を決意する。二人は幽麗塔の発電機を爆破し幽麗塔は崩れ去る。

その後太一は手に入れた財宝を使い、山科刑事の遺志を継いでマイノリティの人々が理解される社会を作るため、出版社を立ち上げるのだった。

『幽麗塔』の登場人物・キャラクター

主要人物

天野太一(あまのたいち)

本作の主人公。友達のいない無職童貞の青年。
家に引きこもって探偵小説やカストリ雑誌を読みふける。
外出した際にテツオと知り合い幽霊塔の財宝探しに協力することになる。
謎解きは得意で、地下迷宮での財宝探しの際は何度も暗号を解いている。
指名手配された際は女装して逃亡する。
テツオが女性であることを知った後にはその美しさから単なる友人として見ることが難しくなる。しかし自分は男性であるというテツオを理解し、固い友情を結ぶ。
自身が襲われたこと、思い人であった花園恵(はなぞのけい)を殺されたことから死番虫の正体を追い始める。最終的には財宝の隠し場所で死番虫と対面して殺害し決着をつける。
手に入れた財宝を使って出版社を設立する。マイノリティーが当たり前に理解される社会をつくるために尽力する。

沢村鉄雄(さわむらてつお)/ 藤宮麗子(ふじみやれいこ)

沢村鉄雄(さわむらてつお)と名乗って太一に近づき幽霊塔の財宝探しを持ちかけてきた美青年。
女性として生まれるが心は男性。ホルモン注射を打っているため、少年的な体つきや声音になっている。
輪田お夏(わだおなつ)と丸部道九郎(まるべどうくろう)の娘。
藤宮たつの養女として育てられるが、たつを殺害した容疑をかけられている。たつは男性の心を持つテツオを理解しようとせず諍いが絶えなかった。実際にたつを殺害したのは死番虫であったが、テツオはたつを救うことができたのに日頃の確執からあえてそれを放置した。そのことに強い罪の意識を感じている。
財宝発見後、女性の身体になりたい丸部に脳交換を持ちかけらるが結局拒否。自身の身体で生きることを選ぶ。

花園恵(はなぞのけい)

学園のマドンナで天野の思い人。
記者をしており、太一から幽霊塔の話を聞いて幽霊塔におもむいたところ、死番虫に襲われ幽霊塔の時計塔で磔にされ死亡。これを機に太一は死番虫との対決を決意する。

死番虫(しばんむし)

幽霊塔に潜む怪物。
白いマスクをつけロングコートを着ている。
財宝に近づく者を無差別に殺害。
その正体は神戸市警の陣羽笛警部。

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