夏目アラタの結婚(漫画・映画)のネタバレ解説・考察まとめ
『夏目アラタの結婚』とは乃木坂太郎によって『ビッグコミックスペリオール』(小学館)上に2019年14号から2024年4号にかけて連載されたサスペンス漫画、およびそれを原作とした実写映画作品。実写映画の主演は柳楽優弥、黒島結菜が務めた。連続殺人犯である品川ピエロと児童相談所職員である夏目アラタの結婚が描かれる。サスペンス的おもしろさに加え、緻密な心理描写も魅力。
『夏目アラタの結婚』の概要
『夏目アラタの結婚』とは乃木坂太郎によって『ビッグコミックスペリオール』(小学館)にて2019年14号から2024年4号にかけて連載されたサスペンス漫画、およびそれを原作とした実写映画作品。12巻で完結している。「次にくるマンガ大賞 2020」U-NEXT特別賞コミックス部門を受賞した。乃木坂太郎は『医龍-Team Medical Dragon-』や『幽麗塔』によって知られる人気漫画家。『医龍-Team Medical Dragon-』で小学館漫画賞青年向け部門、『幽麗塔』でセンスオブジェンダー賞大賞を受賞。
本作は2024年9月に柳楽優弥、黒島結菜主演で映画化された。監督は堤幸彦、脚本は「翔んで埼玉」シリーズの徳永友。配給はワーナー・ブラザーズ。
ピエロの扮装をし死体をバラバラに切断する女性連続殺人鬼品川ピエロが日本を震撼させる。児童相談所に勤務する夏目アラタ(なつめあらた)は、連続殺人犯に殺された被害者の遺体の場所を聞き出すため犯人である品川ピエロ、本名品川真珠(しながわしんじゅ)と面会する。面会を続けるうち真珠の口から驚くべき事実が語られ、事件の真相が明らかになる。スピード感のある展開で読者を引き込むとともに、各登場人物の心理を緻密に描き、人間の心の暗い部分に切り込む。
『夏目アラタの結婚』のあらすじ・ストーリー
アラタと真珠の出会い
児童相談所職員である夏目アラタ(なつめあらた)は、交流のあった中学生山下卓斗(やましたたくと)から連続殺人犯品川ピエロとアラタの名前で文通をしていると告げられる。品川ピエロは都内で周防英介(すおうえいすけ)、山下良介(やましたりょうすけ)、相沢純也(あいざわじゅんや)という30代の男性3人を殺害し遺体をバラバラに解体し遺棄した容疑で逮捕されている女性連続殺人犯である。逮捕時にピエロの扮装をしていたことからピエロの名前がついた。
文通の目的は品川ピエロによって殺されバラバラにされて埋められた卓斗の父親の遺体のうち未だ発見されていない頭部の場所を探ることであった。文通を続けるうち品川ピエロから直接会いたいと要求された卓斗に自分の代わりに会ってきてほしいと頼み込まれたアラタはこれをしぶしぶ引き受ける。
テレビで報道されていた太ったピエロの姿を想像していたアラタは、面会の場で似ても似つかない痩せた少女、品川真珠(しながわしんじゅ)を目にし衝撃を受ける。アラタは文通相手であるかのように振る舞うが真珠は疑いを持ち面会室から立ち去ろうとする。アラタは真珠の気を引くため自分との結婚を提案する。自分への愛を証明するよう要求する真珠と遺体を見つけたいアラタの心理戦が繰り広げられる。様々な態度を使い分け心理操作に長けた真珠との駆け引きにアラタは苦戦を強いられる。
アラタは面会を行う拘置所で死刑囚のアイテムコレクターで、死刑囚と文通や面会を行うのが趣味という男藤田信吾(ふじたしんご)と出会う。死刑囚との交流をいつでも関係を絶てる都合のいいストレス解消とみなす藤田に嫌悪感を覚えるアラタだったが、結婚するつもりもないのに自分の目的を達するために結婚を提案した自分も真珠を監獄からでられずいつでも関係を絶てる相手とみなしていたことに気づく。
アラタと真珠の結婚
真珠の巧みな駆け引きによりアラタは婚姻届を出さざるを得ない状況に追い込まれる。面会に婚姻届を持って行くと真珠は子供のようにうれしそうな泣き顔を見せる。真珠が自分に一瞬でも心を開いてくれたことや、真珠が母子家庭で育ち母親の虐待も疑われることから、児童相談所の職員であり虐待されて心を閉ざした子供たちをいつも相手にしているアラタは真珠にある種の同情を感じ始める。
そしてアラタは真珠の弁護士宮前光一(みやまえこういち)の協力の下真珠の事件について調べ始める。
また真珠の裁判の傍聴にも赴くようになり、そこで同じく傍聴に来ている藤田と交流を深める。
裁判では逮捕現場である真珠のアパートから3人の被害者と異なる血痕が検出される。それは母親の品川環(しながわたまき)の内縁の夫で真珠の父親とされる男性三島正吾(みしましょうご)のものであった。真珠はこの三島省吾こそ真犯人であり自分はその罪をかぶるつもりで今まで黙秘していたと主張し始める。
真珠の秘密
真珠には多くの謎があった。真珠が8歳で施設に保護された時と21歳の逮捕時で知能指数が大幅に上昇したこと、母親の品川環が真珠を決して歯医者に行かせずパックのご飯とツナ缶を大量に食べさせ太らせていたこと、1審で真珠が早く起訴されたがっていたことなどである。
これらの謎を追うアラタは、真珠が大事なものが埋まっているとほのめかした真珠の母親の実家の裏山で、トランクケースをみつける。その中には幼児の死体が入っていた。この幼児は真珠の姉で、彼女こそが本物の品川真珠であることがDNA鑑定で明らかになった。環と三島が事故で殺してしまったのであった。娘を死なせてしまったことを隠すため、真珠の母環は娘の死後すぐに子供をもうけ品川真珠として育てていたのだった。環は真珠が二人目の子供であることがばれないように歯医者に行かせず、年齢に比して小さいと思われないように太らせていた。真珠は環の死後にトランクケースを発見し母親の故郷に埋めたのだった。
逮捕時は21歳と思われていたが真珠は本物の「真珠」の死後に生まれており、本当の年齢は18歳未満である可能性がある。そしてその場合少年法により死刑にはならない。また、未成年者を起訴する場合は家庭裁判所を経由しなければならないため、これをなさずにされた真珠の起訴は違法なものとされ、真珠を死刑とした原判決は控訴審で破棄されることになる。
真珠の逃走
控訴審で原判決が破棄されたといっても手続上の手違いによるものであるため、被告人は一度拘置所に戻され再び逮捕されるのが通常である。しかし、裁判所により逮捕状が発布されるまでは検察も被告人を逮捕することはできない。このわずかな隙を突いて真珠とアラタはバイクに乗って逃走する。逮捕状はその後すぐに発布され真珠とアラタは警察に追われることになる。
そんなアラタたちをかくまったのが、藤田だった。藤田の家で一夜を明かした後アラタたちはさらに逃走を続ける。
真珠の実の父親に会いに行きたいという希望に従い、二人は真珠の母環の携帯に残されていた画像をもとに捜索を始める。その画像にはいくつもの予備校が写っており、二人は真珠の父親は予備校の教師あるいは生徒だと当たりをつける。さらに画像を調べるうちに見覚えのある人物が写っていることに気づく。それは真珠を自費で弁護している弁護士宮前の若き日の姿だった。真珠とアラタは宮前を呼び出して問い詰める。すると宮前は環との過去を語り出す。中学生当時宮前は偶然知り合った環に恋をしており、一度だけ関係をもったと告白する。事件が発覚した後、真珠が自分の娘ではないかと思い、自腹で弁護を買って出たのであった。連続殺人犯である真珠との関係を公にされたくないから伏せておいてほしいという宮前に、真珠は自分がこの世に生まれた責任を取れ、自分を殺せと詰め寄る。真珠は自殺願望をずっと抱いていた。そして真珠は姿を消す。
死を願う真珠
自分をもっとも憎んでいるであろう、被害者周防英介の義妹周防紗菜(すおうさな)に自分を殺させるつもりではないかとにらんだアラタと宮前は、周防家に連絡を取るが紗菜は今出かけたと告げられる。アラタと宮前は真珠のいそうな場所を探し回り最終的に真珠が環と住んでいたアパートにたどり着く。
そこでは真珠は周防紗菜に自分が紗菜の兄を殺した理由を語ろうとしていた。
周防と真珠の出会いは、熱中症で倒れている周防を看護学生だった真珠が助けたことだった。しかし救急車に運ばれながら周防が放った「放っといてくれよ」という叫びに真珠は周防が死のうとしていたのではないかと感じる。その後お礼を言いに来た周防と真珠はときどき会うようになり、肉体関係を持つにいたる。真珠は周防が自分と同様に生きることに絶望しているのではないかと感じていた。真珠は周防にことあるごとに尋ねる「本当は死にたいんじゃないの?」。周防が死を願っていたことを確信した真珠はついに周防を殺害する。
真珠が本心では周防を愛していたことを察したアラタは、このことを見抜いた周防紗菜に指摘されて真珠が自身の最愛の人を自ら手にかけたということに気づくことを恐れ、真珠をアパートから連れ出す。そして車に真珠を乗せて、真珠がこの事実に気づく前に、死を願う真珠と一緒に死のうと決意し、中央分離帯に突っ込む。
真珠とアラタ
車が激突する寸前に真珠がブレーキを踏んだことで二人は一命を取り留める。自分が周防を愛していたことに気づき、自分はアラタと一緒に死ぬ権利はないと思ったためだった。
再逮捕されもうアラタとは面会しないという真珠にアラタはプロポーズした理由を教えるといって最後に一度だけ面会をとりつける。面会でずっと一緒にいたいというアラタに真珠は、周防のためにみんなを利用した自分のようなクズはアラタと幸せになる権利はないといい、ひとりで苦しみながら死ぬつもりだと告げる。真珠は周防を殺した後自分も死のうと考えていたが、周防を「10代の少女と心中した気持ち悪い30男」にしたくなかったため、猟奇的殺人犯として振る舞うことを決意したのだった。この決意にしたがって真珠は周防と同じく死を望んでいた相沢純也、山下良介の二人を同意の下殺害し、またこれに気づいた三島を口封じと自分が生まれる原因を作ったことへの恨みから殺害したというのであった。
これに対しアラタは、自分が真珠に結婚を申し込んだ理由を明かす。それは「愛情に飢えた承認欲求モンスター」の女に対する殺し文句だと知っていたからというものだった。これに罪の意識を抱いて真珠に優しくしたこと、さらに自分が弱い人間だったこと、大切な人と別れるつらさをごまかし続けてきたきたことを真珠に打ち明ける。さらに死にたいと思うほど苦しみながら周防のために計画をやり遂げた真珠の強さに憧れたこと、そんな真珠を好きになっていくのを止められなかったことを告白する。真珠を愛していることを認めた上で、アラタは「さよなら」という言葉を絞り出す。
がっくりとひざまずいたアラタを見た真珠は、赤とんぼの歌を歌い始める。それは真珠が母環から教えてもらったもので、真珠が大切な誰かのためにしてあげられる唯一のことであった。歌を歌い終わった真珠は言う。「何年かかるかわからないけどここから出たらボクと結婚しよう」。
結末
真珠は結局周防英介、山下良介、相沢純也3件の自殺幇助、三島正吾の殺人の罪で懲役12年の刑が確定する。被害者3人はいずれも人生に絶望しており死に同意していたことが彼らが残した動画により証明されたためである。真珠は三島正吾殺害については認め、自殺幇助を感づかれ口封じをするため、また三島が真珠の姉を殺したことで自分が生まれることになったことを恨んでいたため殺したと供述した。
9年後仮釈放された真珠はアラタとともに暮らし始めるのだった。
『夏目アラタの結婚』の登場人物・キャラクター
主要人物
夏目アラタ(なつめあらた) / 演:柳楽優弥
CV:小野友樹(ボイスドラマ)
児童相談所の職員。小学生の時父親を亡くし、奔放な母親に育てられていたこともあり、子供時代はかなり荒れていた。
子供を虐待する親たちを強く憎むとともに、戦おうとしない弱い人間にも嫌悪感を持っている。
来る者は拒まずで今まで多くの女性と付き合うが、相手にほとんど執着せず、毎回相手に振られている。
強い人間として振る舞っているが、父親の死とうまく向き合えなかったことから傷を抱えている。
真珠の気を引くため結婚を持ちかける。最初は本当に結婚する気は微塵もなかったが、結局婚姻届を出すことになる。
同情から真珠のために行動するようになるが、次第に真珠が持つ強さに惹かれるようになる。
真珠が周防を愛しておりその愛する人を自分の手で殺したことに気づく前に真珠とともに死のうと自動車で中央分離帯に突っ込む。
真珠のことを自分が本気で愛した唯一の相手と語っている。最後の面会で真珠にこの思いを伝える。
品川真珠(しながわしんじゅ) / 演:黒島結菜
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目次 - Contents
- 『夏目アラタの結婚』の概要
- 『夏目アラタの結婚』のあらすじ・ストーリー
- アラタと真珠の出会い
- アラタと真珠の結婚
- 真珠の秘密
- 真珠の逃走
- 死を願う真珠
- 真珠とアラタ
- 結末
- 『夏目アラタの結婚』の登場人物・キャラクター
- 主要人物
- 夏目アラタ(なつめあらた) / 演:柳楽優弥
- 品川真珠(しながわしんじゅ) / 演:黒島結菜
- アラタ関係者
- 藤田信吾(ふじたしんご) / 演:佐藤二朗
- 桃山香(ももやまかおる)/ 演:丸山礼
- 大高利郎(おおたかとしろう)/ 演:立川志らく
- 寺井綾子(てらいあやこ)
- 真珠関係者
- 宮前光一(みやまえこういち)/ 演:中川大志
- 品川環(しながわたまき)/ 演:藤間爽子
- 三島正吾(みしましょうご)
- 被害者関係者
- 周防英介(すおうえいすけ)
- 相沢純也(あいざわじゅんや)
- 山下良介(やましたりょうすけ)
- 周防紗菜(すおうさな)
- 山下卓斗(やましたたくと)/ 演:越山敬達
- 裁判関係者
- 神波昌治(かんなみまさはる)/ 演:市村正親
- 桜井健(さくらいけん)/ 演:福士誠二
- 『夏目アラタの結婚』の用語
- 品川ピエロ
- 田中ビネー検査
- 赤とんぼ
- 『夏目アラタの結婚』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
- 宮前光一「会いに行けばよかった…!!会いに、行けば…!」
- 周防英介「あの時、やっと消えてなくなれると思ったのにな…やっと…って思ったのに、おまえのせいだろ。」
- 品川真珠「歌を一緒に歌いたかった。好きだから、歌うの。」
- 品川環「お母さんね、真珠の歌声大好き。」
- 夏目アラタ「俺の結婚は悪くなかったっす。」
- 品川真珠「つらいことを我慢してきたんじゃなく、つらいことじゃないってごまかしてきたんだね。」
- 夏目アラタ「あれみんな、俺だったんかな…?」
- 夏目アラタ「好きになるのを止められなかった!!」
- 夏目アラタ「さよ…なら」
- 品川真珠「何年かかるかわかんないけど、もしボクがここから出たら、ボクと結婚しよーぜ!!」
- 品川真珠「子供をほしいと思ったことはないけど、昔、大事な人が傷ついてとてもとても小さくなったときにもう一度ボクが生まれかわらせてあげたいと思ったことはある。今は歌とか絵とか言葉とか自分から何かが生まれるのはすてきだってのは、今はわかる。いつかこの気持ちは「毒」になってボクの身体中にまわるよ。ボクを一生苦しめるから、、、ね?」
- 『夏目アラタの結婚』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
- 原作者乃木坂太郎は夫婦円満
- 連載開始時最終回は未定
- 映画版で品川真珠を演じた黒島結菜は3時間かけてピエロに変身
- 『夏目アラタの結婚』の主題歌・挿入歌
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