うちのちいさな女中さん(漫画)のネタバレ解説・考察まとめ
『うちのちいさな女中さん』とは、長田佳奈による漫画作品。
昭和初期の東京を舞台に、かつて女性の一大職業であった女中の日常を描く。
14歳の少女、野中ハナが女性翻訳家蓮見令子の家に女中としてやってきたところから物語がはじまる。昭和初期のモダンな文化住宅造りでの住み込み女中の仕事や、主人との関係、そして東京での暮らしが優しいタッチで描かれている。大きな事件が起こるわけではないが、主人と女中という関係の2人が、姉妹のように仲良くなり、ハナの変わっていく様子を微笑ましく読むことができるところが魅力。
『うちのちいさな女中さん』の概要
『うちのちいさな女中さん』とは、長田佳奈による日本の漫画で『月刊コミックゼノン』(コアミックス)にて、2021年1月号より連載されている。
昭和9年立夏ころ、女性翻訳家の蓮見令子(はすみれいこ)のもとに、14歳の女中、野中ハナ(のなかはな)がやってきたところから物語がはじまる。想定より若い女中に驚く令子だったが、もともと、令子のおじの元で3年ほど女中として務め、家事を先輩女中からみっちり仕込まれていたハナの家事能力の高さに信頼し始める。
ハナは、生まれは東京だが、東京での生活の記憶はほとんどなく、東京での暮らしやモダンな令子宅での家事に慣れないところも多々あったが、令子や近所の婦人たち、お店の人々と交流しながら、女中として成長していく。生真面目な性格と生い立ちから感情を前に出すことも苦手だったが、徐々に喜怒哀楽をみせるようになる。そんなハナと令子の主従関係にとどまらないシスターフッドを描いている。
『うちのちいさな女中さん』のあらすじ・ストーリー
14歳の女中初めての東京暮らし
昭和9年の立夏のみだり、東京の未亡人、蓮見令子(はすみれいこ)のもとに14歳の少女の野中ハナ(のなかはな)が女中としてやってくる。
翻訳家として多忙を極め、家事など一切手がつけられない令子のもとには当初トメという通いの女中である派出婦がいたが、トメが引っ越してしまったため、おじである、有田毅(ありたつよし)を頼り、住み込みの女中を紹介してもらったのが、ハナである。
もともと、ハナの先輩にあたる、佐竹 フヨ(さたけ フヨ)が令子のもとにいく予定だったが、ハナが自ら志願し、令子のもとにやってきたのだ。聞いていた話と異なり、想像より若い女中に驚く令子だが、10歳の頃から女中として働き、家事全般に確かな腕をもつハナの働きぶりに、徐々に信頼をしていく。
一方ハナは、初めての東京での生活に戸惑い、瓦斯コンロ、水道、冷蔵庫など昭和初期の台所としては珍しいモダンな住宅である令子の家になかなか馴染めずにいた。便利な道具の使い方に悪戦苦闘していたものの、慣れない洋服の洗濯方法を令子に聞くなどしながら、持ち前の生真面目な性格を発揮して、淡々と令子宅で女中としての仕事をこなしていく。
初めての洋食づくり
令子宅で働き始めてから、有田邸で磨かれた家事をこなしていたハナは、ある日台所で『家庭の洋食』という洋食の本を見つける。ハナの前に令子宅で派出婦をしていた、トクが置いていったもので、この本を参考にしながら、ハナは洋食やスイーツ作りに挑戦していく。
初めて作ったのはライスカレー。洋食の本を見つけたハナに令子は、小さい頃に初めてライスカレーを食べて以来、ライスカレーが大のお気に入りとなった思い出話を聞かせ、2人でライスカレーを作ることを提案する。現代とは違い、カレー粉や小麦粉(作中ではメリケン粉と呼ばれている)から作るため、手間がかかったが、その美味しさに、ハナと令子は無言でうなずき合ってしまうのであった。
また、夏の暑さで夜眠れない令子のためになにかできないか悩んでいたハナが簡単服(アッパッパ)の作り方を聞いたことをきっかけに、ハナは近所のご婦人方と仲良くなっていた。その御礼に、と令子は果物の缶詰を渡す。その際、御婦人から、暑い時期に食べたくなるフルーツ・ゼリーを教えてもらう。初めてパイナップルゼリーを作り、その美しさに感動、令子とともに、その味にもうっとりするのであった。
女中の休日
ハナが、令子宅で女中として働きはじめてから少し経って、東京での生活にも慣れた頃、令子はハナに休みを与える。それは、新聞で女中の悩み・主人への要望を掲載した「お女中さんの聲」というコーナーで休日が欲しいという希望を目にした令子がハナに月2回の休日を与えることにしたのだった。しかし、10歳の物心つくころから働いていたハナにとって、休日に何をするべきものなのかわからないものだった。やりたいことはないのかと、令子から聞かれても、冬物の寝具の手入れや、夏支度がしたい、と答え余暇を楽しむ、という発想がなかったことがわかった。そこで令子はハナに一緒にお出かけすることを提案し、2人は初めて映画を見に行き、デパートでの買い物、お茶を楽しんでいた。動く絵や、デパートのエレベーター、そしてカフェのクリームソーダと、たくさんの刺激的な体験を楽しんだ。
その後ハナには、月2回隔週土曜日に休日を与えられたが、ひとりで過ごす休日は用事がないとすぐに何をしたらよいかわからなくなってしまった。ゆっくりと、近所に自分用の便箋を買いに出かけたり、喫茶店Cafe ミチクサにランチを食べに行くことで、少しずつ余暇の楽しみ方を覚えていく。
東京の文化住宅の夏支度
今も文化として残っている衣替えは、当時衣服だけでなく、ふすまや障子を取り外し簾戸に変える、畳の上に網代などを敷く、などの家具調度類を改めることも夏と冬に向けた衣替えとして行われていた。もともとハナが勤めていた山梨の有田邸は令子宅と比較すると大きな屋敷で、和室が多く、衣替えは使用人総出で1日がかりの仕事だった。しかし、和室が少ない令子宅では令子とハナの2人での作業にもかかわらず、あっと今に衣替えは終了し、驚くハナだった。
それでも、衣替えが終わる頃には汗だくになった2人は、終わりったあと2人で銭湯に行く。銭湯の帰り道、夏の風物詩ともいえる風鈴が売っているのを見つけ、音が綺麗なものを買って帰るのだった。
夏本番寝苦しい夜の簡単服
向暑の候、夏のはじめにもかかわらず蒸し暑い日が続いていた頃、令子は暑さで寝不足になってしまった。寝不足を解消し、暑い夜に快適に眠る方法を思案していた頃、ハナは近所のご婦人方に出会う。ご婦人方に、いわゆるワンピースの形の洋服である簡単服(アッパッパ)が涼しく楽に過ごせる上に、夜もよく眠れると教えてもらい、令子用に仕立てることにした。洋服の仕立て・裁縫もみっちり仕込まれていたため、ハナはその日のうちに令子に簡単服を仕立てた。
ハナが仕立てた簡単服を見た令子は嬉しそうに喜びその場ですぐに着替えた。着物と比べ、とても楽で涼しく過ごせる簡単服でその晩は、ぐっすり眠ることができ、翌朝はすっきりとした笑顔を見せている。
初めての御中元の買い物
明治以降、仕事関係やお世話になった人に送る文化ができた御中元は、昭和初期の頃には百貨店から配送されるようになっていた。令子宅にもたくさん御中元が届き、令子も自身の分を用意し始める。御中元・贈答品のカタログから注文することもできたが、実物を見て決めたいという令子の要望で2人は百貨店に出かける。日持ちするハム・ソーセージ・缶詰や羊羹、家庭用魔法瓶などを見て周り、仕事関係の方や有田邸や、令子の夫で故人である蓮見肇(はすみはじめ)の姉へのプレゼントを決めていく。買い物をしながら、御中元は、お世話になった人への感謝の気持ちを伝えるための贈り物であると教えてもらったハナは、自分も有田邸へ御中元として贈り物を送りたい、と思うのであった。有田毅にはお菓子、先輩女中のフヨやタカには犬の形をした、陶器の蚊取り線香を送った。
ハナ初めての海水浴
令子を慕う吉田萬里(よしだまり)は、突然現れたハナが女中として令子の近くにいることに勝手ながらライバル心を燃やしており、彼女との距離を縮めるべく、海水浴に誘う。令子は、ハナには同年代の友人と接する機会がないため、萬里とハナが同年代の友人として仲良くしてくれたらという思いで3人での海水浴を提案する。2人きりで出かけたかった萬里だが、令子からハナと仲良くして欲しいと、憧れの令子からの頼みに応えるよう張り切るのだった。
山梨で過ごしてきたハナはこれまで海を見たことがなく、これが初めての海だった。令子、萬里に連れられ初めて海をみたハナは、その大きさ、雄大さ、美しさに見惚れている。しかし、いざ海に入ろうとするものの、波に驚いてしまってなかなか海に入れない。萬里に手を引かれながら海に入り、水に顔をつけたり、浮かんでみたりしながら、少しずつ海に慣れていく。波に飲まれてしまったりしながらも海で綺麗なフォームで泳げるようになるも何故か沈んでいってしまい、なかなか泳ぐことができないハナ。令子と萬里が休憩している間もハナは熱心に練習するが、結局泳げるようにはならなかった。ハナが上達しないことに、萬里は喫茶室での休憩中令子に謝るが、泳げないことは全く気にせずこのような休日をあげられていることが嬉しく、萬里に感謝の気持ちを伝えた。憧れの令子に感謝されただけでなく、2人きりで浜辺でお茶をすることに成功した萬里は、とびきりの夏の思い出ができたととても喜んでいる。
『うちのちいさな女中さん』の登場人物・キャラクター
主要人物
野中 ハナ(のなか はな)
蓮見令子宅で働く14歳の女中。10歳の頃から、山梨県甲府の有田邸で女中として働きはじめる。普段は、編み込んだおさげ髪。フレームの大きな丸メガネをかけている。14歳という若さながら、有田邸で先輩女中に家事・裁縫などの家内仕事の全般をみっちり叩き込まれ、確かな腕をもつ。作法や躾も施されており、来客への対応もそつなくこなしている。また、若い女中としてはめずらしく読み書きができる。
東京に生まれるが、物心がつく前に両親は他界。10歳まで遠縁の家に身を寄せた後、有田邸で働き始めた。そのため、同世代の子と比較し、他人に甘えることや、感情を全面に出すことが苦手で、令子からノートをもらった際、何を書いたらよいかわからない、休日の過ごし方がわからない、などの様子がみられたが、日記を書くよう勧められたり、令子とともにデパートに出かけたり徐々に令子に心を開き感情がでるようになっている。
ほとんど自分のものを持っていないハナだが、令子の童話集を上京時に持参しており、大事に女中部屋に保管されている。
蓮見 令子(はすみ れいこ)
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目次 - Contents
- 『うちのちいさな女中さん』の概要
- 『うちのちいさな女中さん』のあらすじ・ストーリー
- 14歳の女中初めての東京暮らし
- 初めての洋食づくり
- 女中の休日
- 東京の文化住宅の夏支度
- 夏本番寝苦しい夜の簡単服
- 初めての御中元の買い物
- ハナ初めての海水浴
- 『うちのちいさな女中さん』の登場人物・キャラクター
- 主要人物
- 野中 ハナ(のなか はな)
- 蓮見 令子(はすみ れいこ)
- 東京の人々
- みっちゃん
- 吉田 萬里(よしだ まり)
- 蓮見 肇(はすみ はじめ)
- トクさん
- 肇の姉
- ご婦人方
- 吉田 万太郎(よしだ ばんたろう)
- 有田家の人々
- 有田 毅(ありた つよし)
- 佐竹 フヨ(さたけ ふよ)
- タカ
- 『うちのちいさな女中さん』の用語
- 女中仕事に関わる用語
- 女中
- 派出婦
- 衣替え
- アッパッパ(簡単服)
- 当時の暮らしに関する用語
- 文化住宅
- 簾戸(すど)
- 網代(あじろ)
- 乳バンド
- メリケン粉
- お子さん洋食
- その他
- Cafe ミチクサ
- 有田邸
- 『うちのちいさな女中さん』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
- はじめて映画鑑賞とお茶を楽しんだハナと令子初めてのおでかけ
- ハナ・令子・萬里の海水浴
- 休日にハナが初めてお子さんランチを食べたシーン
- 野中ハナ「あっあっあっ…~~~~~ありがとうございます…!!」
- 『うちのちいさな女中さん』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
- コミックス収録時まるまる書き直された第一話
- ハナのメガネは必須
- 今も我々の生活を支えるブランドの登場