十次と亞一(漫画)のネタバレ解説・考察まとめ

『十次と亞一』とは、2019年9月からコドモペーパーがwebサイト『note』などで公開している漫画。新書館より単行本が出版された。漫画家の小林十次は、ある日売れっ子作家の一川未生こと大江亞一に出会う。彼は十次と同じ下宿に住み始めるが、どこか恨むような目で十次を見ていた。亞一の態度に興味が湧いた十次は、彼の謎を探っていく。下宿「緑館」を中心に、どこか歪んだ2人の運命が絡み合うミステリー。大正期のノスタルジーを醸し出すペン画と、文豪作品を取り入れた独創的な物語が多くの読者を惹きつけている。

『十次と亞一』の概要

『十次と亞一』とは、コドモペーパーがwebサイト『note』などで公開している漫画。noteが主催するコンテストで入賞し、コンテンツ配信サイト『cakes』で連載された。cakesのサービス終了後は、noteなどでの作品公開を続けている。2023年、新書館より同名の単行本が出版された。作者のコドモペーパーは、コミックレーベル『路草』にて、漫画『ブブとミシェル』を連載している。
売れない漫画家の小林十次(こばやし じゅうじ)は、急ぎで任された原稿を新聞社に届ける途中、橋の上である男と衝突する。当たった拍子に男は手に持っていた何かを川に落としてしまったらしい。急いでいる十次は、男に名刺だけ渡すと目的地へ走った。十次が帰る頃になっても、男はまだ橋の上にいた。女に絡まれているのに、どこか頓珍漢な受け答えをする男を見兼ねて助けたことで、彼らはその後も付き合いを続けていくことになる。男は大江亞一(おおえ あいち)と名乗り、その正体は売れっ子作家の一川未生(いちかわ みせい)だった。亞一は十次と同じ下宿に住み始め、なぜか十次の殺害を企て始める。「あなたを殺して、僕も死にます」と話す亞一に興味が湧いた十次は、次第に彼の秘密に近づいていく。『一川未生小説集』の献辞「Mには感謝を 千鳥には愛を込めて」とは何を意味するのか。なぜ十次を殺そうとするのか。大正時代の下宿「緑館」を中心に、愛しくも何処か歪んだ2人の運命が奇妙に絡み合うミステリー。

江戸川乱歩の『屋根裏の散歩者』や『お勢登場』をオマージした仄暗い雰囲気ながら、好奇心が強く何事も面白がる十次と、空想と現実が混ざった世界を見ている亞一の会話がテンポよくストーリーを転がしていく。

『十次と亞一』のあらすじ・ストーリー

十次と亞一の出会い

十次(右)と亞一(左)が出会ったシーン。

日にち日報の隅で漫画を描いて暮らしている小林十次(こばやし じゅうじ)は、急遽頼まれた原稿を届けようとしていた。自室の時計が遅れていたことで電車に乗り損ね、大慌てで道を走る。橋に差し掛かったところで、川を眺めていた見目麗しい男に衝突。男は手に持っていた何かを川に落としてしまった。急いでいる十次は男の手に名刺を押し付けて「何かありましたらここに連絡を!」と言い残して走り去った。
日にち日報に着いた十次は、筆が早いことや〆切を必ず守ることをアピールして、なんとか連載をもらおうとする。健闘虚しく連載の件は流されて、少し拗ねながら帰路に着くと、なんと出掛けにぶつかった男がまだ橋の上にいた。相変わらず川を眺めている男は、左から犬、右から女に懐かれていた。十次は少し様子を見ることにして橋の上に座り込む。
女は客引きで、なんとか男を客にしようとしていた。あれこれ話しかけてみるが、男はどこかズレた返答ばかりする。会話を諦めた女は、今度は男の袖に留まっているカフスボタンに目をつけた。ボタン1つで泊めてあげると女は提案するものの、男が断り2人はしばらく問答する。そこで十次が2人の間に割り込む。男と待ち合わせしていた知り合いのように振る舞い、女を追い払った。ついでに、女がこっそり男からくすねたカフスボタンも取り返した。
十次が財布の件を謝るが、男は「気にしないでください」とあっけらかんと告げる。帰りの電車賃を出そうとするが、男は丸二日かかる距離のO市から来て昼に着いたばかりだと話した。今から帰るのは難しい。十次が男の軽装を指摘すると、汽車にカバンと帽子を忘れてきたのだという。呆れた十次は「これも失くしてたぜ」と言って、先ほどの女から取り返したカフスボタンを手渡した。男は少しばかり動揺して途切れ途切れに言葉を紡ぐ。「まぁちゃんが僕にくれた…」と口籠る男に、十次は「君の恋人かい?」と尋ねるが要領を得ない。男はカフスボタンを着けることに苦戦しているようだった。「毎朝どうやって着けてるんだよ」と言いながら、仕方なく十次が着けてあげた。
1度は「さようなら」と言って別れたものの、男がすぐ別の女に捕まったのを見て、十次は仕方なく自分の下宿に泊めることにした。家賃をしばらく滞納している十次はこそこそと部屋に向かった。しかし、階段で足を滑らせた男が咄嗟に十次を掴んだことで2人は一緒に落ちてしまう。すぐに怒った下宿のおかみさんが出てきたが、ハンサムな男を見た途端機嫌が良くなり、2人は事なきを得たのだった。
十次の部屋を見て、彼が絵描きだと気づいた男は「てっきり記者の方かと思った」と名刺を取り出す。十次の名刺には「日にち日報」と書かれているのだ。言ってみたら作ってくれたと答える十次に、男は「僕も作ってもらおうかな」と言いながら、不便だという自分の名刺を取り出す。半紙を埋めるように「大江亞一(おおえ あいち)」と大きく書かれていた。十次は「船頭の掛け声のような名前だ」と感想を抱く。
亞一の素泊まりにもなかなかお金がかかるらしい。十次は金がなく、亞一も財布を落としたのでお金がない。そこで、亞一は着けたばかりのカフスボタンを差し出して、下宿に泊めてもらおうと提案した。無事泊まれることになり、十次の空の押し入れを見つめる亞一。「空の押し入れが珍しいかい」「質屋に行ったばかりだから」と笑う十次に、亞一は顔を見せないまま「僕の箱に似ています」と呟く。
その夜、亞一は彼の名前を叫びながら激しく揺れる箱と、十次とぶつかった事で落としたとみられる鍵の夢を見ていた。十次も十次で、橋の上から飛び降りようとする亞一の夢を見ていた。なぜか十次の右手親指と、亞一の左手薬指が紐で結ばれている。「別に止めやしないが 待ってくれこれを外すから」と十次が紐を外そうとするうちに、亞一は川に飛び込んでしまい、紐で引っ張られた十次の親指が強く引っ張られてしまう。そこまで見たところで、十次は自分の名前を呼ぶ亞一の声に気づいて目が覚めた。
亞一は切羽詰まった顔で「出ます!」と叫ぶ。「手伝っていただけますか」「ほらもう出てしまいます」と口を押さえる彼に十次は慌てるが、灯りをつけて原稿用紙とペンを用意するよう指示された。そうして「書いてくださいね」と言った亞一は物語を語り始め、十次はそれを原稿用紙に書き留めた。物語は途中で終わってしまうのだが、亞一は「お終いです」と締め括ってしまう。物語を書いたのだからと十次は寝ようとするが、亞一が筆名も書いてくれと懇願する。「自分で書けばいいだろ」と十次は嫌がったが、亞一は「書けません。僕は文字が書けないので」と俯いた。名刺を書いていただろうと指摘すると、名刺は書き写したのだと亞一は気恥ずかしそうに答える。十次は「君は面白い。僕を動かす力があるよ」と再びペンを持つ。亞一は筆名を「いちかわみせい。一つ川に未だ生まれず」と告げた。

翌朝になって、十次は何処か聞き覚えのある筆名を下宿の女中である花(はな)に尋ねてみる。なんと、先月花から借りた本の作者名だったのだ。「早く返してくださいね!」と言う花に苦笑しながら『一川未生小説集』のページを捲ると、初めに「この本を Mには感謝を 千鳥には愛を込めて」と献辞が記されていた。
その頃、おかみさんは宿を去った亞一を追いかけていた。一晩の部屋代として受け取るにはカフスボタンが高級すぎると返却しようとしたが、亞一が「そのカフスはとっておいてください」と切り出す。彼は、下宿に部屋を借りることにしたのだ。「あの人がよく見える場所を」と口にする亞一は、何処か恨みがましい表情をしていた。

屋根裏の散歩者

亞一が借りたのは、十次の部屋から十数歩の部屋だ。亞一は十次を見るたび睨みつけたり、嫌そうな顔をする。理由を問うと「あなたを見ていると、あれが出てきそうで」と亞一は答えた。「あれ」が小説であると察した十次が筆記してやろうとするが、亞一が興奮した様子で止めてくる。「僕は小説も全部やめたいのにあなたのせいで」「あなた邪魔なんですよ」と亞一は項垂れる。十次は呆れて「僕が嫌なら僕の側に来るな。倒錯してるぜ」と返したが、亞一には計画があるのだという。亞一は「あなたを殺して僕も死にます」と告げたのだった。嫌がる十次の横で、また話を思いついてしまった亞一はやはり筆記を手伝ってくれと頼む。十次は思わず「でかい赤ちゃんだな」と言葉を溢すのだった。
亞一の小説を筆記したことで、彼の稿料の半分を手渡された十次。稿料の封筒に、日にち日報の社員で顔見知りの田貫(たぬき)の印があった。十次は田貫の元へ出向いて亞一こと一川未生について聞いてみることにする。
田貫によると、一川未生は幻想文学というジャンルを手がけ、日にち日報で5年ほど掲載を続けているらしい。彼の寓話的だが質が高い作品は、大人が読んでも満足できる内容なため幅広い世代に人気だという。どうやら正体不明の作家として活動していたようで、原稿はいつも彼の「弟」がまとめて運んできていた。十次はこの弟が、亞一の小説を代筆していたのだろうと静かに考えた。弟は、全体が四角で構成されたような男で、実は弟とやらが本人なのではないかと社内で噂になっていた。しかし、先日作家本人が訪ねてきたという。田貫は亞一を「売り出し中の俳優のようないい男」と称した。十次はすかさず「あれはなかなかの変わり者だぜ」と口を挟む。知り合いなのかと田貫が関心を見せたので、十次は最近知り合ったことを伝え、絶対に面白くなるから一川未生を題材にした連載をくれと頼んだ。田貫も、これまで姿を見せなかった作家の姿を描くのは面白いかもしれないと同意した。
その後、日にち日報からビヤホールに移動した十次は、田貫から一川未生をモデルにするとしても風刺はダメだと釘を刺される。「いいところを描くんだよ。文化的交流だ」と重ねられ、ビールを煽りながら「ブンカテキ・コーリューね」と十次は上機嫌に答えた。田貫は、一川未生の献辞である「Mには感謝を 千鳥には愛を込めて」の意味が気になっているようだった。Mは弟の大江万起男(おおえ まきお)を指しているらしいが、千鳥が何を意味するのかが分からない。本人に聞いても「もういません」と言われ、気まずくて詳しく聞けないという。話を聞いた十次は、調子良く「僕が聞いておくさ」と約束した。
一方、噂の亞一は毒に関する本を読み込んでいた。彼の部屋の窓辺に一羽の鳥がやってくる。「あぁ千鳥。僕を急かしに来たの」と亞一は鳥に声をかけて「僕、どうしてそっちへ行けないんだろう」とクッションに顔を埋めた。亞一はそのまま少しの間、自分の小説を代筆する十次の夢を見る。しかし、最後は彼の名前を叫びながら揺れる箱が現れて、ハッと目を覚ました。

十次が帰宅すると、ちょうど出かけようとする亞一に遭遇する。あれこれ声をかけるが、しまいには亞一が怒鳴って出て行ってしまった。
翌朝、何やら下宿人たちが亞一のことを噂している。十次が詳しく尋ねてみると、亞一は毎日午前8時に帰ってくるらしい。「朝帰りだなぁ、よくやるぜ」と話す下宿人が自分より亞一に詳しいと思った十次は、どこか悔しく思いながら亞一の部屋を訪ねる。そんな十次に対して強く戸を閉めた亞一は、さまざまなミステリー小説を並べて「大丈夫。僕にもできる。小林十次を…」と呟くのだった。
十次は一川未生のファンである花を呼び止めた。亞一が一川未生であることを伝えて、彼を題材にして連載を描くから手伝ってくれと話をつける。偵察として亞一の部屋を訪れた花は、金平糖を貰った。亞一は缶が欲しくて買ったから、金平糖を食べ終わったら返してくれと話す。缶に鍵を入れれば、音が鳴って鍵を持っていることを忘れないかららしい。その言い回しに、花は亞一が本当に一川未生なのだと理解した。「一川未生の口述筆記の手伝いをしている」と十次から聞いたと話す花に、亞一は緊張しながら「読んだ?僕の小説。君くらいの歳の子にはやっぱり少し退屈だろうか」とコーヒーを注いだマグカップを手に押し入れに入ってしまう。花は彼を追いかけて「花が初めて自分で買った本ですよ。面白いに決まっています!」と押し入れを覗き込む。すると、亞一は涙を流していた。「僕は僕の本を、お花のような人に読んでもらいたくて」と告げる亞一の涙がコーヒーに沈んでいく。花がどういうことか尋ねると、亞一は「千鳥。千鳥が僕の全部だった」と答えた。
その後、花は干した洗濯物を眺めながら、十次と千鳥について話し合う。十次は「女だろうなぁ」とタバコを蒸しながら考える。ふと、下宿の方を見上げると、亞一が部屋の窓を空けて十次を見下ろしていた。思わず動揺する十次に、花が「亞一さんはいつも十次さんのことを見てますよ」と教える。亞一は部屋を決める時も十次の隣だからと、その部屋を選んだ。それならなぜ亞一は自分を嫌がる態度を取るのだろうかと、十次はますます分からなくなった。花は亞一の涙を思い出し「千鳥さんのこと…もし、亞一さんが悲しむのなら漫画に書かないで」と十次に頼んだ。
好奇心が燻られて「どうしても亞一を描きたい」と思った十次は、亞一と仲良くなるため食事に誘うことにした。部屋を開けると亞一の姿がない。留守かと思ったが押し入れから物音がする。恐る恐る開けてみると、亞一がそこで眠っていた。十次が揺すると、寝ぼけた亞一に右手親指を掴まれた。「あなたさっき庭にいましたね」と言う亞一に、花といたことを教えようとするが遮られる。亞一は「あの、手のひらの椅子の前。浅いところに画架を立て、千鳥を描いていましたね」と続ける。一見寝言のようだったが、十次はその庭に心当たりがあった。
ようやく目が覚めた亞一は、十次がいることに動揺する。十次は彼を丸め込んで、一緒に蕎麦を食べに行くことになった。しかし、亞一は6時半にここを出ると言って時計を見ながら動かない。仕方なく待つ間に、十次が寝ぼけた亞一の発言を拾って「あの庭をどうして知っているの」と問いかけると、亞一は「雑誌で見ていた」と答えた。雑誌は5年も前のものだが、当時は新しい試みの児童文学誌だった。そこに十次の描いた庭の絵が掲載されていた。南方の森の奥にある無人の庭で、旅鳥も1羽書き込まれた。雑誌自体はわずか1年で廃刊になってしまったという。亞一は、大切にしていたのに女中が古本と一緒に捨ててしまったので、自分で物語を作ることにしたのだと告げる。「僕の絵が君に霊感を与えていたってこと?」と驚く十次に、亞一は「だから、あなたがいると僕はいつまでも行けない。僕と一緒に行きましょう」と暗い表情で語りかけた。十次は肩を掴まれるが、そこでちょうど6時半になった。
道中で、亞一が千鳥に読んであげるために雑誌を持っていたと知った十次は、ここぞとばかりに千鳥のことを尋ねた。亞一によると、なんと千鳥は彼の子どもなのだという。しかし、家庭を持っているわけではないらしい。どういうことかと十次は首を傾げるが、亞一がサギに気を取られてしまいこの話は流れてしまった。
蕎麦を食べながら、亞一がミステリばかり読んでいることを指摘する十次。亞一は十次を殺すために勉強しているのだと答えた。しかし、小説の殺人は出来そうにないから困っているのだ。十次は亞一に「殺人のすゝめ」と言える本を貸してやることにした。江戸川乱歩の『屋根裏の散歩者』である。
その夜、十次が部屋で作業していると花が夜食を持ってきた。亞一が熱心に勉強をしているので、おかみさんが下宿人に夜食を出すことにしたらしい。亞一に本を貸したのは十次だと言うと、花が本の詳細を尋ねてきた。十次は『屋根裏の散歩者』の概要を語っていく。「興味本位で押し入れから屋根裏に入った男が、眠っている住民の口の中へ毒を垂らして殺人を犯す話だ」と言いながら十次が上を見上げると、彼の部屋の屋根裏からミシミシと音がする。思わず花が上を向こうとしたので「上を見ちゃ行けないよ」と注意した。十次は、亞一が『屋根裏の散歩者』のトリックを実践しようとしているのだと感じ取り、興奮した笑顔を見せた。
亞一は屋根裏から十次の様子を伺っていた。腕や湯呑みに毒薬を垂らそうと思うのだが、絵を描く十次の手に「あの手で、あんな風にあの庭を描いたのだ」と思わず見入ってしまった。物語を書きたい衝動に駆られた亞一は、屋根裏を降りて十次の部屋に駆け込む。十次は屋根裏の騒がしさに気づいて、すでに原稿用紙を用意していたので、そのまま亞一が話す小説を書き上げた。「どうしてやめられないんだろう」と嘆く亞一に、十次が「やめられるもんか。僕ら今響き合っているんだもの」と返す。
翌朝、亞一は原稿用紙を買ってきた。そうして、この日も屋根裏から十次の上でため息を吐いているのだった。

2人は徐々に交流を深めていくが、亞一は箱や千鳥の幻覚を見て様子がおかしくなっていく。彼の口ぶりから、箱の中には弟の万起男が入っているかもしれないと考えた十次は、直接彼の箱を確認することに決める。そうして、十次は亞一の過去を通じて彼の秘密に迫るのだった。

『十次と亞一』の登場人物・キャラクター

主要人物

小林 十次(こばやし じゅうじ)

本作の主人公の1人。漫画家で、日にち日報という新聞の隅に漫画を描いて暮らしている。筆が早く〆切を守るため、よく連載作家の代筆を頼まれる。お金はないので家賃を滞納しがち。
十次がぶつかったことで大江亞一(おおえ あいち)が財布を川に落としたことや、緑館に泊まるために亞一が大切にしていたカフスボタンを宿泊料として出したのに責任を感じている。十次の部屋代1年分と同じ値段のカフスボタンは、お金を貯めて取り戻してあげた。
好奇心旺盛で、気になったことにはすぐ首を突っ込む性格をしている。愛嬌があり、お金の前借りをしてきてもどこか憎めない。お人好しで面倒見も良いため、抜けたところのある亞一に対しては、出会った時から世話を焼いている。
亞一が売れっ子作家の一川未生(いちかわ みせい)であると知り、彼を題材にした連載を始めた。亞一がなぜか十次を殺そうとしていることや、時たま溢す「箱」「千鳥」という単語の謎に好奇心がくすぐられる。また、文字が書けない亞一に変わって、彼が口にした物語を原稿用紙に書くようになった。持ち前の行動力で亞一の謎を解き明かしていく。
兄が10人いる。

大江亞一(おおえ あいち)

本作のもう1人の主人公。人気の小説家で、筆名は一川未生(いちかわ みせい)。書いた小説は日にち日報に掲載している。実は文字が書けないので、処女作などは弟の万起男(まきお)に筆記してもらっていた。小林十次(こばやし じゅうじ)に出会ってからは、彼に筆記を頼んでいる。
空想と現実の狭間を生きているような節があり、存在しないはずの千鳥に話しかけたり、亀の背中に乗る小亀を見て「亀が背中に島を載せている」と言ったり浮世離れしている。ネクタイも結べないため専用の物を万起男に作ってもらうなど、生活能力にも難点がある。興味あるものが視界に入ると、会話そっちのけでそちらに注意が引かれるためかよく物を落とす。見目麗しく、俳優のような風貌をしている。女性によく絡まれている。
とある雑誌に載っていた、十次が描いた庭の絵に惹かれて小説を書き始めた。そのため、十次のそばにいると小説を思いついてしまう。本人は小説を書くのを辞めたいらしく、執筆のきっかけになる十次を殺そうと計画している。十次から江戸川乱歩の『屋根裏の散歩者』を借りてからは、屋根裏を通って十次の部屋を監視し始めた。
実家は裕福だが、亞一は愛人の子だったため離れに住んでいた。母は幼い頃に亡くなっており、それからは義母弟の万起男が面倒を見ている。兄弟仲は良好だったが、亞一の子である千鳥を巡って喧嘩になり、亞一が万起男を箱に閉じ込めて家を飛び出した。その後万起男がどうなったのかを亞一は知らず、今でも箱の中にいるのかもしれないと悪夢を見ている。

下宿「緑館」の人々

おかみさん

十次と亞一が住む緑館を管理している。家賃を滞納しがちな十次を何かにつけて追い出そうとするが、男前な亞一には弱い。

花(はな)

緑館の女中。花柄の着物とメガネがトレードマークで、性格は活発で明るい。一川未生のファンで、彼を題材にした十次の連載を手伝うべく情報収集に励む。十次と亞一を恋仲だと勘違いしている。

鈴木(すずき)

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@rinomino102

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