あことバンビ(漫画)のネタバレ解説・考察まとめ

『あことバンビ』とは、2020年からHEROが個人サイト「読解アヘン」で連載していた長編漫画。単行本が朝日新聞出版より発売されている。事故物件に住む新人作家のバンビは、家に現れた自称幽霊の女子高生アコに出会い、奇妙な共同生活を送ることになる。彼らを取り巻く家族や友人、担当編集、霊能力者との交流を通じて、生前の記憶がないアコが幽霊になった秘密や、惹かれ合うバンビとアコの将来を模索するラブストーリー。繊細なセリフ選びや不器用な想いを抱える登場人物が独特な世界観を作り上げ、ファンを増やしている。

『あことバンビ』の概要

『あことバンビ』とは、2020年からHEROが個人サイト「読解アヘン」で連載していた長編漫画。本編完結後は、不定期に番外編が更新されるようになった。単行本が朝日新聞出版から発行された関係で、サイトでは本編2巻分までと番外編のみ公開されている。ニコニコ漫画といった漫画アプリなどでも読める。HEROは、アニメ化もされた人気作品『堀さんと宮村くん』で多くのファンを獲得した漫画家だ。縦割りのコマを並べてストーリーを展開する作風は、これまでの漫画の型に囚われないHEROならではの空気感を作り出している。数々のアニメ、漫画、ゲームのグッズ作成にも関わる。短編作品も注目を集め、2016年にはテレビ『世にも奇妙な物語』で、HEROの短編作品『レッテルのある教室』を原案とした話が放送された。
格安事故物件に住む新人作家のバンビは、家に住み着いていた自称幽霊の女子高生アコに出会う。生前の記憶がなく行く場所がないと言う彼女と共同生活することになり、バンビはアコをモデルに小説を書き人気になっていく。
2人は徐々に惹かれあっていくが、ある日バンビのもとに「そちらに亜子がお邪魔していませんか?」と書かれた紙が添えられたプレゼントが届く。アコの視点で夢を見ている女子高生の山城亜子からだった。アコの本体とも言える彼女や霊感のあるバンビの同級生入舟の協力を通じて、なぜアコが幽霊のような姿になったのかや、本来相容れない生きている人と幽霊という立場に苦悩しながらともに生きていく道を探る青春ラブストーリー。
時に厳しく、時に優しい運命に翻弄されながら、バンビたちを温かく見守る友人や家族といった個性的なキャラクターたちが交流を深める群像劇でもある。

『あことバンビ』のあらすじ・ストーリー

アコとバンビの出会い

バンビの部屋に現れたアコ

高校を中退して新人作家としてデビューした18歳の小鹿悠(こじか ゆう)ことバンビは、小鹿かのこ(こじか かのこ)というペンネームでホラー小説を書いていた。連載していたコーナーが打ち切りになり、担当編集の比企景国(ひき かげくに)から「実体験の怖い話」をテーマにした新作の執筆を提案される。困り果てて「幽霊なんているわけない」と呟くと、突然いるはずのない女子高生が部屋に現れた。
バンビは住んでいる部屋が事故物件だったことを思い出す。霊感がない自分には関係のないことと思っていたのに、姿を見せた女子高生に動揺するバンビ。不法侵入だと指摘すると「勝手に入ってきたのはそっちじゃん」と、アコと名乗った彼女は不満をあらわにして消えてしまった。
その日からアコはバンビの前に来ては話しかけてくる。捕まえて話を聞くと、アコは「幽霊」と自己紹介した。バンビが引っ越してくる前からこの部屋に住んでいたらしい。
事故物件にした張本人の幽霊は既に出て行っているとアコが説明したので、彼女は他所からきた幽霊ということだ。記憶のないアコは行く宛がなく、彷徨うにも他の幽霊に煙たがられたためこの部屋に居着いたと告白した。引っ越してきたバンビがホラー小説を書いていると知り、成仏の方法を聞こうと思っていたという。怯える彼を見て「別なところに行ってみます。さようなら」と諦めようとした彼女を、思わずバンビは「行くとこがないなら」と引き留めてしまった。
こうして、2人の奇妙な共同生活が幕を開けた。バンビは夜になると姿を見せる彼女をモデルに小説を書くことを決め、会話を深めていった。
友人の話になると途端に空気が冷たくなる彼女に違和感を感じながらも執筆を続けていると、編集部を通じてバンビ宛のプレゼントが届く。デフォルメされたお化けのスリッパだったが、中にルーズリーフが挟まれている。ただ一言「そちらに亜子がお邪魔していませんか?」と記されていた。アコにも心当たりがないらしく首を傾げる。バンビはただ、差出人が彼女の友人だったらいいと思っていた。

差出人は山城亜子(やましろ あこ)。彼女はとある事情があり学校でいじめられている。
亜子は、連日奇妙な夢を見ていた。同い年くらいの知らない男性がパソコンで小説を書いているのを、自分が見ているという内容だ。朧げに覚えている情報から小鹿かのこに辿り着き、思い切ってプレゼントとメッセージを送ったのだった。
アコは記憶がないことから、差出人不明の手紙を気味悪がった。アコたちからは連絡を取れないため、仕方なくいつも通りバンビの部屋で過ごす。この頃から、バンビはアコの気遣いや人柄に、無自覚ながらも惹かれ始めていた。
亜子からの2回目のプレゼントには、彼女の連絡先が書かれていた。バンビがメッセージを送ると、亜子は夢のことを打ち明ける。バンビの部屋にいるアコの目を通じて、2人のやりとりや部屋の様子、バンビの姿をぼんやりと把握していると言う。彼女との会話から、バンビは「亜子=アコ」であると感じ取った。夢が本当の出来事か確認するため、亜子はバンビの部屋に行くことになる。
亜子はバンビに対面すると、自分の状況を「幽体離脱ではないか」と推測した。しかし、アコは高い位置のサイドポニーテール、亜子は髪を下ろしていて眼鏡をかけている。アコはおしゃべりだが、亜子は大人しく口数が少ない。双子のように似ているが、異なる点が多いことからバンビは幽体離脱という説を否定した。
幽体離脱でないにしても、アコは亜子が寝ている時間にだけ活動する霊体のようだ。亜子との初対面を終えてからも、バンビはアコに亜子のことを話せていなかった。本当は幽霊ではないと伝えることで、アコがどう思うのか予測できず、及び腰になっていたのだ。

同時期に、バンビがお世話になっている出版社で実録物の怪談話を執筆している「現役霊能力者」の入舟唄(いりふね うた)が、バンビの担当編集者・比企を通じて接触を図ってきた。新しく連載している幽霊の女の子を描いた小説が実話なら、力になると提案してきた彼女は、実はバンビの高校の同級生だった。高校時代に、すれ違いで入舟と喧嘩した経験から、バンビは少し気まずい思いをしながらも会ってみることにする。

文化祭

バンビの家に用事がありやってきた亜子は、彼を自分の高校の文化祭に誘っていた。そのタイミングで、入舟がやってくる。すぐに入舟は、亜子がバンビの小説のモデルに関係があると感づく。人が説明できないようなことが昔からわかる、と話す入舟に亜子は相談することにした。
入舟が「よく怪我をすることはないか」と尋ねると、亜子は危険なことがあると助けてくれる友人がいると打ち明ける。その友人に会いたいと入舟が発言したことで、バンビとともに制服を着て文化祭に潜入することになった。
そんなある日、アコはいつものように壁をすり抜けようとするが出来なくなっていることに気づく。朝になると眠くなったと言って幽霊のように姿を消したが、壁をすり抜けられないのは初めてだった。亜子の方でも、バンビの家に行くようになってから夢の内容が思い出しにくくなる異変が起きていた。
そのような変化が重なり、もしかすると自分は幽霊ではないのではないかと気づき始めたアコ。また、バンビの部屋に人出が増えたこともあり、迷惑をかけたくないと彼のもとを離れようと考えていた。出ていくことを告げられて、バンビはついに亜子のことを伝える決意を固める。
アコは、自分が山城亜子かもしれないと聞いても、ピンと来ていないようだった。亜子は生きているが、アコの認識では「自分は死んでいる」らしい。謎を解く手がかりを探すため、バンビは意気込んで文化祭に向かった。

文化祭当日。バンビは入舟と2人で高校時代の制服を着て校舎に入った。しばらく待機しても亜子から連絡が来なかったため、彼女の教室を覗きに行く。すると、クラスメイトが「亜子はやる気がないから勝手に帰った」と笑いながら伝えてきた。文化祭を楽しみにしていた亜子がそんなことを言うはずはないと、2人は彼女を探す。
亜子は泣きながら1人で座っていた。見つけたバンビたちがいじめられている理由を問うと、仲の良かった友人・鳥居梓(とりい あずさ)に怪我をさせてしまったのがきっかけだと語り始める。梓は明るい人気者で、亜子も彼女が好きだったらしい。亜子の幼馴染である宿輪久志(すくわ ひさし)に恋心を抱いていた梓は、勇気を出して彼に告白するが、なぜか「山城がいるから」と断られてしまう。怒った梓と亜子は仲違いをしてしまい、その末に階段から落下してしまった。両者ともに怪我をして、梓は未だ復学していない。学校では、亜子が梓を突き飛ばしたなどの噂が飛び交うようになり、梓と仲が良かった人にいじめられているのだ。
梓の写真を見せてもらうと、なんとその後ろに写っていた亜子が、バンビの知っているアコと同じ格好をしていた。

亜子の幼馴染である宿輪と対面すると、入舟はある程度の事情を察した。入舟曰く、亜子は幽霊を寄せ付けない体質で、守護霊すら拒否している。そのせいで怪我をしやすいはずなのだが、守護霊が彼女の身近にいる守ってくれそうな人物に取り憑いて亜子を守ろうとしていた。その取り憑かれた人物が宿輪だったため、彼が亜子を庇って怪我をするのだ。
また、階段から落ちた時に亜子は「事故以前の亜子」と「それ以降の亜子」に分かれてしまった。亜子が事故前の自分を嫌っていたため、分かれた時に拒否してしまい、今のアコが生まれたのだ。亜子が拒否し続ける限り、事故前のアコは死んだまま、記憶もないまま彷徨うことになる。
アコが最近は人間に近くなってきていることを踏まえると、徐々に亜子とは別の存在になろうとしているらしい。完全に別の存在になると、亜子には戻れなくなる。とはいえ、この時点では亜子の健康に問題がなさそうだったため、解決は保留になった。

亜子とアコ

アコに亜子の写真を見せるが「嫌な感じ、見ていたくない」とすぐ手放してしまう。彼女の身に起こっている状況を説明するが、アコは「自分が亜子に戻るのは正しいことなのか」と疑問を抱く。亜子は嫌いだからアコを切り離しているのに、無理に戻すべきなのか。アコは元に戻ることをあまり受け入れたくないようだった。
しかし、入舟によると、このままだと亜子とアコが同時に存在する時がきてしまうかもしれない。解決への一歩として、ひとまずアコが亜子に会ってみることになった。
なかなか2人が会う機会はなかったが、亜子が風邪をひいて寝込んだ時、部屋にアコが現れた。アコは亜子に呼ばれて来たのだ。熱のある亜子はそのことに気づいていないようで、辛そうな顔で眠っている。アコはベッドにいる彼女に「嫌いなら嫌いなままいてよ」と告げるのだった。

アコの存在は日増しに人間に近づいて、ついに普通の人にも見えるようになる。ただの幽霊ではなくなったことで、アコに関われる人が増え、2人の周辺は賑やかになっていく。バンビとアコは時にすれ違いながらも、お互いの存在を唯一無二のものにしていく。

『あことバンビ』の登場人物・キャラクター

バンビ家

小鹿 悠/小鹿 かのこ/バンビ(こじか ゆう/こじか かのこ)

小鹿悠

事故物件に住む新人作家。「小鹿かのこ」という作家名で活動している。あだ名は「バンビ」で、苗字の小鹿が由来。高校はなんとなく合わない気がして中退した。
人付き合いに消極的で、小説家デビューしてからは家に引きこもって夜な夜な原稿を書いている。アコに出会ってから、彼女をモデルにした小説を書き好評を得た。昔から「何をしていなくても人の注目を集める」らしく異性にモテる。本人にその自覚はない。マイペースだが、友人のことや過去のいざこざは割と気にするタイプ。

アコ

アコ

バンビの部屋に出るお化け。生前の記憶がなく、行く当てもないため同居している。登場時は壁をすり抜けられたり、バンビや霊感のある人以外には姿が見えなかったが、徐々に人間寄りの存在になっていく。明るくおしゃべりだが、時折人の心に踏み込むことに慎重な性格が垣間見える。
本当は幽霊ではなく、山城亜子(やましろ あこ)という女子高生が事故にあったときに分かれてしまった一部。事故以前の亜子の人格を持っている。本体である亜子には複雑な心境のようだ。
体がとても冷たい。

アコの関係者

山城 亜子(やましろ あこ)

山城亜子

五ツ柄高校に通っている女子高生。仲の良い友人だった鳥居梓(とりい あずさ)と喧嘩をした際に階段から転落し、事故以前の人格「アコ」と事故後の人格「亜子」に分かれた。梓を突き落としたと噂され、クラスメイトにいじめられている。幽霊などを寄せ付けない体質で、自分の守護霊も霊体になったアコも拒否しているという。
アコがバンビと出会ってから、アコの視点を通し夢として一連の出来事を見ていた。記憶を頼りに探してバンビに辿り着く。
活発なアコとは異なり大人しく、口数も少ない。多くの人に迷惑をかけていると考え、アコには消えて欲しいと思っていた。幼馴染の宿輪久志(すくわ ひさし)とは仲がいいが、自分のせいで怪我をさせていると自責の念に駆られる。

宿輪 久志(すくわ ひさし)

宿輪 久志(右)

9ukoara0831
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@9ukoara0831

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