ひだまりが聴こえる(幸福論・リミット・春夏秋冬)のネタバレ解説・考察まとめ

『ひだまりが聴こえる(幸福論・リミット・春夏秋冬)』とは、文乃ゆきによるボーイズラブ漫画作品。聴覚障害を持つ大学生、杉原航平(すぎはらこうへい)と同じ大学に通う佐川太一(さがわたいち)との間に芽生える友情と恋愛感情と彼らを巡る青春ドラマを描く。友だち以上恋人未満の関係の移り変わりと共に主人公たちの成長も胸に響く作品。

『ひだまりが聴こえる(幸福論・リミット・春夏秋冬)』の概要

『ひだまりが聴こえる(幸福論・リミット・春夏秋冬)』とは、文乃ゆき作のボーイズラブ漫画作品であり、2013年12月から『Canna(プランタン出版)』に掲載された。シリーズには、『ひだまりが聴こえる』、『ひだまりが聴こえる-幸福論』、『ひだまりが聴こえる-リミット1~3』、『ひだまりが聴こえる-春夏秋冬1~2』の7巻があり、連載中である。『ひだまりが聴こえる-幸福論』は、2017年ちるちるBLアワードのシリーズ部門で第6位を受賞し、全国書店員が選んだおすすめBLコミック第2位に選ばれた。難聴のために周囲の人々と上手く付き合っていくことができずにいた大学生、杉原航平(すぎはらこうへい)と、誰とでも分け隔てなく接することができる真っ直ぐな性格をした佐川太一(さがわたいち)との出会いと友情、そして友情が恋愛へと発展する過程が描かれる。ふたりの恋愛だけではなく、聴覚障害を持つことで抱える生きづらさや、聴覚障害者と健常者との交友で生じる困難なども描かれている。
2017年6月には、テレビシリーズ『手裏剣戦隊ニンニンジャー』の多和田秀弥(航平役)と『HiGH&LOW THE RED RAIN』の小野寺晃良(太一役)の共演による実写映画が劇場公開された。

『ひだまりが聴こえる(幸福論・リミット・春夏秋冬)』のあらすじ・ストーリー

太一が大学退学を決意し、ふたりが両思いだと知るまで

佐川太一(左:さがわたいち)と杉原航平(右:すぎはらこうへい)

佐川太一(さがわたいち)は、ふとしたきっかけで大学構内で杉原航平(すぎはらこうへい)と出会う。そして、子どもの頃の高熱が原因で難聴の航平のかわりに講義のノートを取る仕事(ノートテイク)を引き受ける。ノートテイクのかわりに航平の手作りの弁当をもらうようになり、太一は航平と友人同士になる。その後、太一と航平の互いに対する気持ちは友人以上のものになっていく。太一は航平に好きだと告白され、キスまでされるが、太一はまだ自分の気持ちを素直に航平に伝えることができずにいる。太一は航平と会っても、過剰に意識してしまい、上手く話すこともできない。
大学の一つ下の学年には、航平の知り合いの桜上マヤ(おうかみまや)が入学してくる。マヤも航平とおなじく難聴であり、航平とは仲が良い。マヤは、太一の取るノートが乱雑だと批判するだけではなく、太一当人のことも嫌い、航平と話すのを遮って邪魔をする。
太一は、航平が将来のために社会保険労務士の資格取得を目指すと言うのを聞き、自分も何かやりたいことがあればと思う。その後、太一は大学構内で知り合いになった桜上犀(おうかみさい)から、犀が経営している手話を扱うビジネスを展開している会社の話を聞く。太一は犀に、耳が聴こえるかどうかに関係なく同じように笑ったり感じたりできるようにならないのかと言い、その発言で太一の気持ちを知った犀から入社を勧められる。入社のために大学退学を考えるようになった太一は、そのことを航平に相談する。航平は、太一がいなくても大丈夫だと言い、太一はショックを受ける。しかし、実のところ航平は内心では、太一と共に大学生活を送れなくなることを寂しく思っていた。
その後、太一が退学を決めたことを航平に伝えたとき、航平は帰り際に手話で太一に「太一が好きだ」と伝える。しかし、その手話での告白は、そのときには太一に伝わらない。
太一は自分に向けられた航平の手話の意味を知り、航平に好きだと言われたのだと理解する。しかし、大学退学から半年間、太一は航平に連絡したいと思いつつできずにいる。
太一は友人の横山(ヨコ)から、航平が親しげに女性と寄り添って歩いていたのを見たと聞き、航平に彼女ができたのかと不安に思う。そんなとき、太一は仕事で行った出版社で、偶然、航平に出くわす。彼女ができたのかと太一が訊くと、航平はできたと言う。太一は動揺して転び、そのせいで車に轢かれかける。それを見た航平は、彼女ができたというのは、太一を困らせないための嘘で、本当は今でも太一が好きだと打ち明ける。太一は、たとえ一緒にいなくても大丈夫だと言われても、航平が好きだと言う。
太一は航平を、会社で行く週末のキャンプに誘う。キャンプで食事の支度中に、引っくり返されて落ちた鍋で太一はやけどを負う。音が聞えなかったため、すぐにアクシデントに気がつかなかった航平は、自分の耳が聞えたら、助けられたはずだと思いこむ。

仕事で忙しい太一と千葉に嫉妬する航平

太一は会社で忙しく、そんな太一から千葉の名前ばかり出てくるので、航平はそれが気になっている。そこで二人きりの時間を持つために、航平は太一を週末旅行に誘う。太一も喜んで承諾する。出かけるはずの週末には、太一の会社で請け負った、他会社の合宿研修があった。その研修は少数精鋭で対応することになっており、当初、太一は留守番役だった。しかし、社員のひとりが怪我をして行けなくなり、急遽、太一が出張して合宿研修にいくことになった。航平はその連絡を受け、仕方ないと納得するが、会えない寂しさから太一が研修に参加できて良かったと思えない自分を不甲斐なく思う。
合宿研修中の他会社の新入社員には聾の社員がいる。その社員のために手助けをしようとした太一を千葉は叱る。このさき、その社員が他の社員とうまくやっていくために関係を築くのを邪魔することになるからだった。合宿最終日にやる花火を買いに行くよう使いを頼まれた太一は、乗ったバスで寝過ごしてしまい、連絡手段を持たないまま終点に取り残される。停留所に迎えに来たのは千葉だった。千葉は頭ごなしに叱ったことを太一に謝る。そして、合宿研修から戻った太一は、祖父が病院に運ばれたことを知って病院に駆けつける。
いっぽう、航平は耳鼻科で人工内耳の手術をするという選択肢もあることを教えられ、どうするか悩む。大学では後輩の桜上マヤから、合宿研修での太一の様子を知らされ、千葉に嫉妬していた。航平はマヤから、耳が聞えない状態の参加者で行うデフフットサルに誘われ、その見学をした際にリュウに出会う。いっぽう、航平の母は、料理教室のことでテレビ取材を受けることになっていた。
太一の会社のブログを見て、合宿研修が終わったことを知った航平は、太一の家を訪ねていき、近所の人から太一の祖父が病院に運ばれたことを知る。祖父は盲腸で入院していた。航平は、病院で祖父に付き添っていた太一から、両親が離婚した後、祖父に引き取られるまでの経緯を聞く。共働きで忙しかった両親が、離婚後に太一を引き取ることを嫌がって互いに押しつけ合い、それを見て怒りを覚えた祖父が自分で引き取ったのだった。航平は、祖父が倒れてショックを受けたに違いない太一を放っておけないと言って自室に泊める。航平は太一にキス以上の行為を無理に迫ってはいけないと内心で自分を戒める。太一の方には進む覚悟もあったが、戸惑いや動揺を消すことができない。千葉から太一の携帯に電話がかかってきて、結局、キス以上のことはできなかった。航平は、千葉と親しげな太一の様子を見て、嫉妬心を抱く。
自分の太一への好きだという思いの方が太一の自分への思いよりも強いと考えている航平は、太一の相手としての自信をなくしつつあった。そんな自分の気持ちを打ち明けたところ、リュウから健聴者相手では住む世界が違うからどうせ上手くいかないと言われる。リュウからこっち側の世界に来いと言われ、航平の気持ちは揺れる。

自信がなく距離を置こうとする航平と不安に思う太一

太一の祖父は早々に退院した。太一は航平の部屋に泊まった日以来、航平に会えていない。航平はまたデフフットサルに参加し、その際にリュウから、健聴者とずっと一緒にいられるわけがないと言われる。航平の恋人は将来もずっと航平の世話をする羽目になるから、その人の人生の邪魔をすることになると言われ、航平は動揺する。
フットサルからの帰り道、航平とリュウが町を歩いているとき、偶然、千葉と天童と太一に出くわす。航平はリュウが千葉の弟と知って驚き、太一も千葉に弟がいると知って驚く。航平と太一は久しぶりにふたりで話をして、その週末の土曜日に遊びに行く約束をする。社会人になった太一と学生の航平はなかなか会えないため、ふたりは大学時代を懐かしむ。太一が会社に入った理由が、自分にあると聞いた航平は、太一が大学を辞めた理由が自分なのかと思い、複雑な心境になる。ふたりで会っている当日、航平は行き先が太一の好きなところならどこでも良いと言い、そんな態度に太一は苛立つ。航平にリュウから新作ゲームのお披露目会の連絡メールが届き、ふたりは一緒に行くことにする。
リュウの会社の新作ゲームのお披露目会に来ているのは聾か難聴の人ばかりだったが、太一は物怖じせずに、その中に入り込み、ゲームや会社について質問する。ところが、会場で太一の陰口をやり取りしているのを見た航平は会場にいた人たちに怒り、太一を連れて会場を飛び出した。
太一は飛びだした理由を航平に訊くが航平は答えず、ただ自分は太一とは違う、自分のせいで太一に迷惑をかけたくないと言う。太一は、航平が自分には大事なことを打ち明けてくれず、気持ちも無視されていると泣きながら怒る。航平は太一に嫌な思いをさせたと自信をなくす。太一のほうも、友人同士の時よりも話しづらくなっていると苛立つ。
いっぽうテレビ取材を受けるはずだった航平の母は、テレビ局の狙いが、聴覚障害を持つ息子を取材対象にするところにあると知り、取材を拒否していた。航平の母は息子が難聴なったことについて、息子の発熱に気づけなかった自分に責任があると感じているのだった。
太一は人手が足りない神社のお祭りでの盆踊りの太鼓たたきを引き受ける。雑踏の中で、祭りに誘うメールを航平に出そうかと思った矢先、太一は人に押されて転び、携帯を壊してしまう。
ゲームの新作お披露目会で航平が怒って立ち去った後、リュウは陰口をやりとりしていた聾の顧客を殴り、そのことがネットで炎上する。航平は電車の中で偶然にリュウに会う。航平は怒って帰ったことを謝るが、リュウは悪いのは航平ではなく、手話がわからないだろうと陰口を交わした聾の人たちだという。
航平は太一のことになると冷静でいられない自分に苛立つ。そして、太一の会社を訪れ、しばらく距離を置きたいと太一に言う。しかし、その後、母親につきそって祭りの手伝いに行った際に、偶然、太一と出くわす。太一は、それまでとは変わらない態度で航平に接する。航平は太一に触れたくなる気持ちを抑えて、なるべく太一の側にいられるようにしようと考える。

不安が消え再び気持ちを通い合わせるふたり

太一は航平から距離を置きたいと言われたことで、航平が何を考えているのかわからなくなる。自分に自信が持てず、航平は自分のことを嫌いになったのだろうかと思い、マヤに打ち明ける。マヤは航平は太一が大切だからこそ、縛りたくないと思っているのではないかと言う。さらにマヤは太一に、航平の気持ちを知りたければ、まず太一のほうから話すべきだとアドバイスする。いっぽう、航平は人工内耳にする選択肢を捨てる。そして母親からテレビ取材が中止になったのを聞いて、自分の耳のことが原因ではないかと心配する。じつは航平の聴覚障害のことを番組制作に利用しようとしたプロデューサーの態度に腹を立てたために取材を断ったのだったが、母親は航平の懸念を否定し、自分の人生なのだから遠慮してはいけないと航平を諭す。
リュウは、太一が聴覚障害者も健聴者も同じように一人の人間として見てくれると会社の同僚が話すのを聞いて、自分と兄との関係について思い巡らす。リュウのことが原因で兄が恋人と上手くいかなくなったことがあったのを思いだし、自分のことがなければ兄は手話の会社で働くこともなく、もっと幸せだったのだろうかと考える。聴こえないことを含めて自分なのだと思いながら、リュウはゲームの新作披露会で自分が殴った相手に謝罪しに行く。
久しぶりに実家に帰った千葉は実家でリュウに会い、自分が手話をやるようになったのはリュウのためではなく、単に手話が好きだからだと話す。そして手話を知るきっかけになった弟のリュウに感謝していると言う。
太一は会社で視覚障害者や聴覚障害者の日常を経験する研修を受ける。研修で感じた世界が恐ろしく、心細く感じた太一は、航平を少しも不安にさせない世界にしたいと思う。
航平は、病院で偶然、太一の祖父に会い、そのまま太一の家に招かれる。太一にふさわしくないのではないかと自信をなくしていた航平は、太一の祖父の前で自分が太一に何もしてあげられないと不甲斐なさに涙する。それを見た祖父は、後先考えずに損得勘定抜きで前進する性質である太一は、航平の耳が不自由だから一緒にいるのではなく、そうしたいからそうするのだと航平を諭す。そして、支えが欲しいときに、自分を信じてくれる誰かがいることは救いになるし、守られていることになるのだから、航平はすでに太一を守っているのだと航平に言う。帰宅した太一は、先ほどまで航平が来ていたと祖父から聞いて追いかけようと家を出たところで、帰宅途中の航平を見つける。航平がスマホを見ていて車に轢かれそうになっているのを太一は声をかけて引き留める。そして、航平を失っていたかもしれないという恐怖にとらわれ、感じたことを言葉にして素直に航平にぶつける。航平は、自分の内面に自信を持てず、自分なんかが太一の側にいたら太一が可哀想だと思っていたと打ち明ける。それに対して太一は、自分は航平のことを大事に思っているのにそんな風に言うなと怒る。航平はようやく、太一を誰にも渡したくないと自分の気持ちを素直に太一に伝えたのだった。

『ひだまりが聴こえる(幸福論・リミット・春夏秋冬)』の登場人物・キャラクター

佐川太一(さがわたいち)

実写版:小野寺晃良
大学2年生。学内でひょんなことから杉原航平(すぎはらこうへい)と知り合う。誰に対しても、偏見なく、同じように接する。がさつなように見えて、じつは細やかに気を遣うことができる素直でまっすぐな性格。
中学生の時に親が離婚し、祖父に引き取られ、祖父と二人暮らしをしている。

杉原航平(すぎはらこうへい)

実写版:多和田秀弥
大学2年生。大学構内で佐川太一と出会い、ノートテイクを頼んだことがきっかけで親しくなる。子どもの頃に高熱が原因で難聴になった。難聴のために周囲の人との付き合いに苦手意識がある。物静かで大人しく我慢強い性格。社労士の資格取得を目指している。

桜上マヤ(おうかみまや)

理学部1年生。航平の後輩。伯父の桜上犀(おうかみさい)が航平に家庭教師を依頼して航平と知り合った。ちゃきちゃきして強気の性格。出会った当初は太一に冷たいが、その後、太一を知って態度を和らげ、好意を寄せるようになる。

杉原涼子(すぎはらりょうこ)

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