税金で買った本(漫画)のネタバレ解説・考察まとめ

『税金で買った本』とは図書館勤務経験のあるずいのが原作を、作画を系山冏(けいやまけい)が担当する、図書館を舞台としたお仕事コメディ漫画である。講談社の青年向け漫画雑誌『ヤングマガジン』で2022年から連載されている。ヤンキー高校生の石平紀一が図書館でアルバイトを始め、さまざまな職員や利用者と触れ合っていく姿が描かれている。読むと図書館の日常について楽しく学べるのが魅力の一つ。日本出版販売が運営する「全国書店員が選んだおすすめコミック2023」で第8位に選出された。

『税金で買った本』の概要

『税金で買った本』とはずいのが原作を、作画を系山冏(けいやまけい)が担当し、講談社の青年向け漫画雑誌『ヤングマガジン』で2022年から連載されている図書館を舞台としたお仕事コメディ漫画である。タイトルの『税金で買った本』とは図書館の本のことを指しており、強面のヤンキー高校生・石平紀一(いしだいらきいち)が、さまざまな職員や利用者との関わりの中で図書館のルールを学んでいく姿が描かれている。

図書館を訪れたヤンキー高校生の石平紀一は、10年前に借りた絵本を返却していなかったことで新しい貸し出しカードを作れないと言われる。図書館職員の早瀬丸小夜香(はやせまるさやか)や白井里雪(しらいさとゆき)に反発しつつも、2人に説得され絵本を弁償した石平はその後図書館に足を運ぶようになる。
ある日ページを破られた本を見つけた石平は、数日かけて大量の蔵書の中から破られたページを見つけ出す。石平は破いた利用者を教えてくれと早瀬丸に迫るが部外者には教えられないと断られてしまう。それならばと図書館のアルバイトとなった石平は、早瀬丸や白井たちと一緒に図書館で起こる様々な事件に関わっていくこととなる。

『税金で買った本』は講談社が運営するWEBサービス「ヤンマガWeb」上で2021年8月より連載を開始している。その後『ヤングマガジン』本誌への連載をかけ行われた連載争奪杯で勝ち抜き、2022年1月から『ヤングマガジン』上での連載が始まった。
TV番組の『雨トーーク』の1コーナー『マンガ大好き芸人』で、お笑いコンビ「麒麟(きりん)」の川島明(かわしまあきら)が本作を取り上げるなどじわじわと人気が広まっていった。そして2023年には大手出版取次会社である日本出版販売(にほんしゅっぱんはんばい)が運営する漫画賞「全国書店員が選んだおすすめコミック2023」で第8位に選出される人気作品となった。
niconicoとダ・ヴィンチが運営するマンガ賞「次にくるマンガ大賞2022」にノミネートされた他、全国で書店を展開するリブロプラス傘下のあゆみBOOKS・文禄堂が選ぶ、「あゆみCOMIC大賞」の第9回大賞も受賞している。

『税金で買った本』のあらすじ・ストーリー

図書館に足を踏み入れた石平くん

図書館の職員である早瀬丸(右)から貸し出しカードを作れない理由の説明を受ける石平(左)

高校生の石平紀一(いしだいらきいち)はとある本を借りに図書館を訪れ、貸し出しカードを作ろうとする。強面のヤンキーである石平にカウンターのアルバイトである島本実央(しまもとみお)は怯えてしまい、先輩職員である早瀬丸小夜香(はやせまるさやか)を呼ぶ。早瀬丸は石平のカードを作ろうとするが、石平は子供の頃に借りた絵本を返却しておらず、その本を弁償しないとカードを作ることができない状態であった。「そんな昔のことは憶えていないし、時効だ」と石平は凄むが、後から現れたマッチョな職員・白井里雪(しらいさとゆき)の迫力に負け、捨てゼリフを残しその場を立ち去る。
仕事帰りに書店に寄った早瀬丸は、店内をウロウロしている石平とそれを外から見守る白井を見つける。白井と早瀬丸が見守る前で石平は失くした絵本を購入する。翌日絵本を持って図書館を訪れた石平に、早瀬丸と白井は笑顔で貸し出しカードを作成するのだった。

それをきっかけに石平はしばしば図書館を利用するようになる。
ある時ページを破られている本を発見した石平は、破った犯人を見つけるために破片を探し出すと言い出した。膨大な蔵書の中から数日かかってその破片を見つけた石平は、早瀬丸にその本を借りた利用者を尋ねたが、早瀬丸には職員以外には教えられないと断られてしまう。
それならばと石平は図書館のアルバイトとなり、早瀬丸や白井たちと一緒に働くようになるのだった。
しかし結局本のページを破った利用者は、石平に教えると何をするかわからないという理由から教えてもらえなかった。

読み聞かせをする石平くん

図書館でアルバイトを始めた石平は、家が汚いせいで本に悪臭をつけてしまった女子高生かほちゃんや、本を無くしたにも関わらず弁償を延滞し続ける不良老人・竹中(たけなか)など様々な利用者と出会う。

そんなある日、石平は児童係の浅野(あさの)に声をかけられる。児童係のイベント「おはなし会」の手伝いを頼まれた石平は「面倒くさい」「恥ずかしい」などと言って断ろうとするが、浅野の巧妙な誘導に負け引き受けることになってしまった。
絵本『三びきのやぎのがらがらどん』を読むことになった石平は、子供とのコミュニケーションも楽しみながら丁寧に読みすすめる。クライマックスの「おれだ、おおきいやぎのがらがらどんだ!」いうセリフを石平は迫力満点に読み上げる。その時の子どもたちの反応は、泣いてしまう子もいたもののおおむね好評であった。「がらがらどんのお兄ちゃん、またね」と声をかけられた石平はまんざらでもなさそうな顔で見送る。

一般図書係に戻った石平は、一部始終を見ていた友人・灰坂坑太(はいさかこうた)と出会う。「お前はガキにニコニコ愛想振りまくような奴じゃねえだろ」と詰めよる灰坂に「俺はケンカが好きなわけじゃない」と石平は答える。1年生の時に絡んできた先輩をボコボコにした石平を見ていた灰坂は、いつか石平をヤンキーのてっぺんにし、その参謀役になろうと思っていた。自由を求めてヤンキーの世界に入った2人だったが、ヤンキーの世界にも色々な暗黙のルールがあり、全然自由じゃない事に石平は気づいていた。そんな時昔読んだ「主人公が学校を辞め父親と一緒に旅をするという本」を思い出し、石平は10数年ぶりに図書館を訪れたのだった。
その『放浪する青』という本を読んで石平は「どこ行っても自由なんてないから、どこででも自由にやれるくらい気持ちが強くないとダメなんだ」と気がつく。それが自分が幼い頃から好きだった図書館に再び通うようになった理由だと灰坂に話すのだった。

正規職員に怒る石平くん

石平は新しく図書館に配属された茉莉野美波(まりのみなみ)に、担当業務以外の仕事をやらされ不満を漏らしていた。茉莉野は「単純で面倒な作業はアルバイトや非正規職員がやればいい」という考えの持ち主で、自分は上に認められ、ほめられるような派手な仕事をやろうとする人物であった。
基本的な仕事をやろうとしない彼女は市役所の部署をたらい回しにされ、最終的に図書館に配属されたという経歴を持っていた。図書館のルーティンワークにも不満を持つ茉莉野は、自分の手で新しい図書館を作ろうと「図書館内飲食可」の企画書を図書館長に提出する。その計画は資料係チーフの角野(かどの)が図書館長を説得し中止になるが、主に反対していた白井を茉莉野は目の敵にするようになる。

資料係を訪れた茉莉野は白井に「私の作り出す新しい図書館の邪魔をしないで」と詰め寄る。しかし「自分が図書館に島流しされてきた自覚はありますか?」「仕事が出来なくて非正規に甘やかされていることわかってます?」と言った白井の正論に、茉莉野はショックを受ける。さらに早瀬丸が白井を止めようとして言った「正しいからといって何を言ってもいいわけじゃない」という言葉に打ちのめされた茉莉野は、その後は自分の担当の通常業務だけはしぶしぶやるようになる。
一方で早瀬丸に「自分の正しさにも疑いを持ってほしい」と言われた白井は、しばらく反省していた。
またこの騒動で石平は図書館で働いている人たちが、ほとんど非正規職員だということを知る。図書館の運営が非正規職員中心に行われていることに、石平は驚きを隠せなかった。

移動図書館に乗る石平くん

ある日浅野に呼び出された石平は、移動図書館の仕事を手伝うことになった。
移動図書館とは「ほーん号」と呼ばれるバスに図書館の本を積んで、市内各地のステーションを回るものである。そんな自分が幼いときに描いた夢の車を目の前にし、石平のテンションは上がる。「ほーん号」の運転手である繁松(しげまつ)は真っ黒な肌にタンクトップ姿のガテン系で、2人はすっかり意気投合した。

「ほーん号」はまず山の上にある小学校に向かった。自分たちだけでは図書館まで来られない子どもたちは、「ほーん号」を待ちわびていた。大勢の子供達がキラキラとした目で本を選んでいるのを見た石平は、自分の幼かった頃を思い出す。

次に「ほーん号」は静かな住宅街にある公民館の前で停車した。そのステーションには多くても2、3人の利用者しか来ないと繁松は話す。そこへ杖をついた老人が本を持って現れた。老人は足を悪くしてから遠くに外出することができなくなり、月に一度の移動図書館を楽しみにしているという。そんな老人の姿を見た石平は、「利用者が少なくてもこのステーションに来る意味がある」という繁松の言葉に深く頷く。

蔵書点検をする石平くん

夏も終わりに近づき、9月にある1週間の休館日が間近となる。石平は「みんなたっぷり休めるからいいね」と能天気に笑うが、早瀬丸は浮かない顔をする。9月の休館日には図書館内のすべての蔵書を確認する「蔵書点検」が行われるのだ。図書館員と臨時アルバイトも含めた全員でハンディタイプのバーコードリーダーを使って図書館にあるすべての本をスキャンしていく蔵書点検は、早瀬丸たちにとっても気が滅入るイベントであった。蔵書点検は9月の平日に行われるが、石平も学校の許可を得て参加する。

休館となり誰もいない図書館に入った石平は、テンションが上りはしゃぎまわる。早瀬丸に注意された石平は、早速本についているバーコードをスキャンしていく。午前中の3時間で2000件スキャンした石平は初めてにしては上出来と褒められるが、そこへ同じ時間で5000件スキャンした佐藤(さとう)が立ちはだかった。佐藤は昨年も蔵書点検のアルバイトをしており、「高速スキャンのアルバイト」として早瀬丸たちから期待されていた人物であった。なんとかして佐藤に近づきたい石平は、佐藤にコツを聞く。佐藤はハンディの持ち方や本棚から本を引き出すコツを石平に教えてくれた。「なんでそこまでして真面目に仕事するのか?」と尋ねる石平に、佐藤は「お給料をもらっている仕事ですし、またなるべく効率よくやることを考えるのが好きなんです」と答える。

図書館で働くことがただ楽しいだけで図書館のアルバイトをしていた石平は、目から鱗が落ちた思いで佐藤を見つめる。
佐藤のアドバイスのお陰で午後の3時間では3000件を超えられた石平だった。

本を捨てる石平くん

図書館の仕事で石平が担当するのは、返却された本を棚に戻す配架作業である。そんな中石平は、最近本を棚に戻しづらくなっているように感じていた。棚がギッチギチになってしまって、本を押し込まないと棚に戻せなくなっていたのだ。そんな石平の前に除架と除籍を担当する松浦(まつうら)が現れる。一般貸し出しができる開架から地下にある閉架に移動するのが除架、閉架に入りきらなくなった本を廃棄するのが除籍である。
除架と除籍が滞ってしまったせいで、開架の棚が入り切らなくなってしまったのだ。滞ってしまった理由には問題児・茉莉野の存在があった。
除籍の許可を得るには正規職員である茉莉野の作成する書類が必要なのだが、地味で目立たない仕事を嫌う茉莉野はすべてを先延ばしにしていたのだ。

ならばと石平は茉莉野を無視して、除籍作業をしてしまおうと松浦に提案した。しかし松浦は「茉莉野さんはまだ若いし、パソコンもできるし今までの正規職員に比べるとまだ救いがあるようだよ」と茉莉野をかばう発言をする。茉莉野の普段の行いにいまいましい思いを抱いている石平は「そんなわけない」「松浦さん、ヒモ男とずるずる付き合ったりしていない?」と信じられない思いで松浦を見つめる。そんな石平に松浦は「本も人も一度捨てたら元には戻らないから慎重にしないとね」と笑顔で答えるのだった。

そこで石平は地味な除籍の仕事を茉莉野が喜ぶような、派手で周囲から褒められる仕事に見せかけようと提案する。
まず石平は隣の市の図書館で行われている「貸出数ゼロの本特集」という企画に茉莉野が気がつくようにさり気なく誘導した。そこへ松浦が除籍に関する相談を持っていったことで、茉莉野の中で地味な除籍の仕事と、派手な企画の仕事を結びつけるように仕向けたのだ。
結果、茉莉野は「5年以上貸し出しのない本」を集めた特集コーナーを企画する。目立つ仕事をやったことで茉莉野の承認欲求も満たされると同時に、除籍候補となる本をリストアップできたことに、石平と松浦はほくそ笑むのだった。

読書感想文を書く石平くん

夏休みが近づく図書館で、石平は浅野が作る読書感想文の課題図書のコーナーを手伝っていた。読書感想文に良い思い出のない石平だったが、課題図書についているマークが気になり調べ始めた。

マークがギリシャ神話に登場する牧羊神パーンであることを知った石平は、さらにパーンが選ばれた理由について調べ始める。浅野、早瀬丸の協力を得て様々な資料を調べた石平は、「教訓的や大人の思惑と言ったものから離れ、純粋に子どもたちに読書に親しみ楽しんでほしい」という願いがパーンの像に込められているのだと知る。像の実物を見てみたいと言い出した石平に灰坂は「自分で書いて賞を取ればいい」と背中を押す。

その頃石平は、幼い頃好きだった『放浪する青』の著者・十六夜かなきの新作『シュリンクスの笛』を読んでいた。そこに登場する母親に似た女性や、見覚えのある町並みなどから、石平は十六夜かなきが幼い頃一緒に暮らしていた父親だと確信する。今は離れて暮らしている自分の父親が、自分にとってどういう人だったのかを知るために、石平は『シュリンクスの笛』を読んで感じたことを読書感想文に書き始める。しかし「自分には文章を書く才能はあまりない」と言う石平に、白井は「文章を書く才能は遺伝ではなく、環境によって作られるものだと思うよ」とアドバイスした。幼い頃から動物園や水族館、そしてなにより頻繁に図書館に連れて行ってくれた父親のお陰で今の自分は作られていると感じた石平は、自信を持って読書感想文を書き進めたのだった。

完成した読書感想文を持って石平は父親の元を訪れる。数年ぶりに会った父親に読書感想文を読んでもらい、なぜ『シュリンクスの笛』には息子の存在がなかったのかと石平は尋ねた。父親は石平との思い出は1作目の『放浪する青』で書ききったため、新作の小説には登場させなかったと語る。父親の中にしっかり自分の存在があることを知った石平は再会を約束し、笑顔で父親の元を去る。

『税金で買った本』の登場人物・キャラクター

主人公

石平紀一(いしだいらきいち)

本作の主人公。高校生。
見た目はいかついヤンキー風だが、性格は素直で好奇心旺盛な少年。
10年前に借りた絵本を紛失し返却していなかったことで、図書館職員の早瀬丸らと関わっていくことになる。
迷惑利用者による本の破損事件の犯人を知りたいという理由で、図書館でアルバイトを始めた。
裕福でない家庭で育ったことからゲームやスマホは与えられず、小学生時代から本を読むことが一番の娯楽であった。
灰坂坑太(はいさかこうた)、山田栄介(やまだえいすけ)というヤンキー友達がいる。

主な図書館職員

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