僕らが恋をしたのは(オノ・ナツメ)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『僕らが恋をしたのは』とは、2021年より『Kiss』にて連載された、オノ・ナツメによる恋愛マンガである。平均年齢70歳の男女が織りなす山奥での悠々自適な暮らしと、穏やかでしっとりした大人の恋愛模様をリアルに描いている。ある日山奥の田舎で暮らす四人の老齢の男たちの元へ一人の女性「お嬢」がやってきたことにより、恋という久々のスパイスを得た男たちの日常は少しずつ移ろいで行くのであった。

大将、キザ、ドク、教授が四人で暮らす田舎の土地。作中では「じじいの園」とも呼ばれている。土地の名義は大将のもので、大将と共にキザが移住しドクが出入りしている。リフォームをした平屋の一軒家に教授が移住し四人で悠々自適に暮らしていたところにお嬢がやってきた。広い土地を生かしてリンゴ畑や野菜畑を作ってある程度自給自足で暮らしている。設備を整えてキャンプ場やレンタルログハウスを作り、家族連れが週末に田舎暮らしを体験できるようにしたいという構想が大将にはあったが、お嬢の移住により先送りになっている。
不便な場所のため郵便配達すら嫌がられるような土地で、買い物は車で片道一時間半の町まで行かなければならない。

ジョージアン様式

ジョージアン様式が採用されている外観の一例。

イギリスの建築様式で「楽園」においてキザの自宅に採用されている。「ジジイの住む家かい」と大将には揶揄されている。
1714年から1830年の間イギリスのハノーヴァー朝にて百年以上採用されている建築様式で、レンガで作られて正方形、または長方形の家の形をしておりシンメトリー構造や柱が特徴。

『僕らが恋をしたのは』の名言・名セリフ/名シーン・名場面

お嬢の来訪

「楽園」を訪ねてきたお嬢。木漏れ日の下で微笑むその姿に男たちは全員目を丸くした。

滅多に人が訪れないとされる「楽園」で平穏な日常を送っていた男たちのもとへ、一人の美しい女性「お嬢」が訪れてきた。この「楽園」には人も訪れず自分たち四人しかいないという話をしていた矢先の出来事であった。何の前触れもなく訪れてきたその人に、男たちは全員驚きを隠せないでいた。読者を物語に引き込む導入として印象的なシーンであり、この人物は何者であるかというミステリアスさも相まって、読者と登場人物たちの心を強く掴んだ決定的なシーンでもある。

教授「いつか踏み誤るだろう」「この一歩先かもしれない」「地平線の彼方先かもしれない」「君は歩き出すか?」

大学時代の教授の書いた台詞を読み上げる友人(短髪の男性)と教授(眼鏡の男性)。

大学時代の教授は脚本を書くことに打ち込んでいた。そのうち教授が書いた「いつか踏み誤るだろう」「この一歩先かもしれない」「地平線の彼方先かもしれない」「君は歩き出すか?」という一節は友人のみならず、この演劇を観に来た高校生時代のお嬢を感激させ、やがてお嬢が女優を志すきっかけとなった言葉である。初めて舞台を観てから数十年経過しているにもかかわらずお嬢はこの一節をそらんじることが出来ていることから、彼女にとってはどのような映画や脚本よりも心を掴んだ言葉となっていることを示唆している。
教授は「凝った言い回しは僕には出来ない」と卑下していたが友人からは「一周廻って心に響く」という評価を受けていた。

袂を分かつ教授と友人

書かずにはいられなかったと告白する友人(上)と教授(下)。

大学の学園祭からしばらくして教授は新たな作品の執筆をしていたが、友人に構想を盗作されてしまう。友人はこの作品を「無意味で無駄なもの」と評し処分するつもりだと話していたが、教授は作品を読んだ後友人とは疎遠となる。その後、「心の底では形にしたい」という本心を見抜かれた友人は、劇団の仲間経由で教授との共作にしようとしたが教授は自分の名前を出すことを拒否する。こうして完成した舞台を観に来た教授は、大学を辞め姿を消すこととなった。
書かずにはいられなかった、と告白するこのシーンの友人の言葉に全てを察した教授の心境は、眼鏡の奥に隠されて読み取れない。過去編の作中ではほとんどのシーンで眼鏡の奥の教授の目も描かれていたが、このシーンではあえて目を描かないことによって教授の感情が分からなくなっているという演出がされている。

『僕らが恋をしたのは』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

キザは学生時代からモテていた

中学時代の大将(左)とキザ(右)。

キザと大将は中学時代からの付き合いだが、当時からキザはモテていたらしくよく大将がラブレターの橋渡し役になっていた。次々ガールフレンドを変えているキザを見て「いつか刺されそう」と大将は心配していたが、当のキザ本人は新任の山野先生という若い女性教員に恋をしていた。

若い頃のお嬢はビール派

女優時代のお嬢。

若手女優時代のお嬢はビール派で、打ち上げでもビールをジョッキで豪快に飲むほどのビール好きであった。後に友人となる脚本家の男性も「こんな風に育ったかあ」と呆れていたが、本人は「ビールが美味しいのが悪い」と言い訳をしている。マネージャーからは、イメージ面と太るからという理由でカクテルを勧められているが、特に従っている様子は見られない。
現在は具体的にどの酒が好きという明確な描写はないが、温泉への小旅行では教授と共に風呂上がりのビールを楽しんでいる。

本作はお笑い芸人「ニッチェ」の推しマンガ

ニッポン放送『佐野ひなこのおしえて!推しマンガ!』というラジオ番組にお笑い芸人のニッチェが登場、番組内で推しマンガについて熱く語り合った。その際ニッチェの近藤くみこが選んだマンガとして『僕らが恋をしたのは』が取り上げられた。「気付かせてくれる」をテーマとしてプレゼンされ、近藤は番組内で「登場人物たちの日々の暮らしが美しく魅力的に見えるのは、私たちが疲れているからだ」と気付かせてくれたのだと熱弁した。

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