違国日記(漫画)のネタバレ解説・考察まとめ
『違国日記』とは2017年よりヤマシタトモコが『FEEL YOUNG』にて連載している、女性小説家である高代槇生が、疎遠である姉とその夫が急遽したことをきっかけに、姪である田汲朝を引き取り共に生活を送る様子を描いたハートフル漫画である。人見知りである槇生と社交的な朝の突如始まった同居生活を中心に描いており、親子とはまた少し違う奇妙な距離感である二人が時には衝突しながらも、お互いの家族の形を見つけていく。各登場人物の繊細な人物描写が見所の作品である。
『違国日記』の概要
『違国日記』とは2017年よりヤマシタトモコが『FEEL YOUNG』にて連載しているハートフル漫画である。
ヤマシタトモコ2005年にBLアンソロジーコミックにてデビュー。同年に『ねこぜの夜明け前』でコンテスト四季賞を受賞、同作が『アフタヌーン』に掲載され一般誌にデビューする。以降『アフタヌーン』で長期連載した『BUTTER!!』を代表作品に、BL誌、女性誌、青年誌を中心に作品を発表する。
『違国日記』は「マンガ大賞2019」第4位、宝島社「このマンガがすごい!2019」オンナ編4位を受賞している。
35歳の小説家である高代槇生(こうだい まきお)が疎遠であった姉夫婦の死をきっかけに、15歳の中学生である田汲朝(たくみ あさ)を引き取り共に生活を開始する。最初は人見知りかつ癖の強い性格をしている槇生に、朝はどの距離感で接すればよいか戸惑う。だが二人は共に生活をするにつれて打ち解けていった。しかし安心したことで今度は朝に両親を失ったことで生まれた、漠然とした喪失感に悩むようになる。一方槇生も多感な思春期である朝に対して、親でもない自分がどこまで介入していいか悩んでいた。そんな悩みを抱えつつも中学生だった朝は高校に進学し、二人の生活は次のステージに向かうのであった。
10代のアイデンティティの悩みや、30代の世間体に対する自分の在り方の結論など、様々な人物の心理描写を繊細に描いていることが本作の魅力の一つである。また槇生と朝を通して、一つの事柄に対して複数の目線の物語を書いているのも大きな特徴である。特に槇生にとっては姉であり、朝にとっては母である高代実里(こうだい みのり)が亡くなったことに対して、二人がどのように心の中で整理していくのかを考える過程は読み応え十分な要素である。
『違国日記』のあらすじ・ストーリー
槇生と朝の同居生活開始
ある日35歳の女性漫画家である高代槇生(こうだい まきお)は、疎遠だった姉の高代実里(こうだい みのり)とその夫が事故で急死したことを母からの連絡で知る。そして遺体の確認のため警察署に出向いた際、小さい頃に出合ったきりであった甥の田汲朝(たくみ あさ)と再会する。
翌日、葬式の場で行き場を失っていた朝を見て、自身の正義感に槇生は朝に自身の元で生活することを提案する。朝も自分がたらい回しにされている状況にどこか不安になっていた。そのため自分のことを真っ直ぐ見て引き取ると提案してくれた槇生に安心感を抱く。そして朝は涙を見せつつも槇生の提案を受け入れた、槇生と朝の二人の生活がスタートし始める。
ただ孤独を愛してるが故に、人見知り気味な性格をしている槇生は、突如始まってしまった同居生活に戸惑いを見せる。一方朝は社交的な性格も相まってか槇生との生活をすんなり受け入れるのだが、両親がなくなった実感がない自分に対して、漠然とした不安を抱いていたのであった。
中学卒業式と高校入学
同居生活が少し落ち着いてきた槇生と朝は、朝が両親と暮らしていたマンションへ遺品整理へと向かった。遺品整理している時でさえ、槇生は姉である実里に対して悲しみの感情を持つことができず、最後まで分かり合えなかったと冷静に事実を受け止めていた。そんなさなか自分の部屋を整理していた朝は、自分の制服を見つけ、明日中学の卒業式があることを思い出す。
翌日中学の卒業式に向かった朝だったが、朝の親友である楢えみり(なら えみり)の母が良かれと思って学校に朝の両親の死を連絡してしまったため、学校中で両親の死が広まってしまっていることを知る。えみりは朝にそのことについて謝るが、事情をクラスメイトに知られたくなかった朝はえみりの謝罪を振り切り、槇生と暮らしているマンションに帰ってしまう。
マンションに帰宅後、朝は槇生にえみりと喧嘩別れをしてしまった話をする。そして槇生は自分の中学からの親友、醍醐奈々(だいご なな)との関係が自分の中で大きな支えになっていることを話す。その話を聞いた朝はえみりが接しにくい状況にも拘わらず真っ直ぐ謝ってくれたことを思い出す。そんなえみりの思いやりを考えた朝は、泣きながら「今度きちんと両親の話をしたい」とえみりに電話で告げ、仲直りをするのであった。
そして朝は高校に進学し、えみりと以前のように仲良くしつつも新たな人間関係を構築し始める。
新生活と衝突
朝は学校生活以外でも、槇生の元恋人で友人の笠町信吾(かさまち しんご)を始めとした、槇生の周囲の人間とも交流を持ち始める。朝は今まで世間に配慮し、しっかりとした生活を送っていた母のような大人像しか見ていなかった。だからこそ槇生のように世間の目を気にせず自分の考えをきっちり通す生き方や、笠町のようなかつては槇生の恋人だったが、今は槇生の信頼できる友人である関係性を見てとても興味を掻き立てられるのであった。
一方槇生も朝がえみりを家に招いたことをきっかけにえみりとえみりの母親と交流を持ち始める。さらに正式に朝の後見人になったため、事務的な手続きを行う上で弁護士の塔野和成(とうの かずなり)とも交流を持つようになり、周囲の人間関係が目まぐるしく変わり始める。
2人での生活も慣れてきたある日、槇生はふとかつて心地よかった孤独とは違い常に他人といる生活に窮屈さを感じ、小説の執筆作業のストレスも相まって朝にぶっきらぼうに接してしまう。そんな槇生に対して朝は苛立ちを感じ、槇生に怒りをぶつける。
その後、槇生は朝を少し不器用に抱き寄せながらも「自分にとって孤独は心地良く、朝と自分は違う人間だから理解はできない。でも朝のことを決して嫌いになったわけではない」と朝に話す。それに対して朝は「私にとって孤独は寂しいものだ」と正直な気持ちを槇生にぶつける。こうしてお互いの価値観を正直に話した二人は、改めて互いの人間性を理解し、仲直りをしたのであった。
母の日記
ある日、朝が「おばあちゃんに会いにいきたい」と槇生に話し、それをきっかけに二人で槇生の実家に行くことになる。槇生は姉ほどではないが、母とも少し疎遠な関係になっていたので実家に帰るのは5年ぶりになる。ただ朝は両親が生きていた際もこまめに顔を見せていたため、槇生の母であるおばあちゃんとの関係も良好であった。
実家に帰った槇生は、朝との会話ついでにおばあちゃんから小言を言われ居心地が悪くなり、2階にあるかつての自分の部屋に逃げるように向かう。そしてその部屋の中で姉から借りていた本を見つける。その本を見て、槇生は「幼いころは仲が悪くなかったのに、いつから姉と仲が悪くなってしまったのだろう」と思いをはせながら、本を返すために姉の部屋に戻る。
しばらくして、朝は槇生を1階に連れ戻すために2階に向かう。そしてそこで今は亡き母の部屋のベッドで槇生が座って外を眺めている様子を目撃する。かつて朝は両親と実家に帰った時に、母である実里が槇生と同じようにベッドに座っているところを見たことがあるため、朝は槇生の座っている姿に母の面影を見ることになる。その後、槇生を1階に連れ戻した朝は、おばあちゃんと暫し会話をしてから実家を後にするのであった。
その出来事がきっかけで母に興味を持ち始めた朝は、ある日偶然槇生が遺品整理時に姉が朝にあてた日記を見つけ、それを朝に見せるか否か悩んでいることを聞いてしまう。小説家である槇生は、だれかに自分の考えや思っていたことを書き残す行為は、孤独が付きまとう作業であることを知っていた。そのため姉が日記に込めた思いがとても大きなものであると判断した槇生は、まだ両親の死による感情の揺らぎがところどころ見える朝にいつ渡すべきものであるか悩んでいた。
そのような、槇生の朝への思いやりを知ることもなく、朝は槇生が自分に対して隠し事をしていたことに少し怒りを感じていた。さらにそれが原因で新しい学校生活でもたびたび両親がいないことに、自分でも理解できない喪失感が出てしまい、しばしやるせない苛立ちが生まれるようになってしまう。
そんな不安定な状態の朝は槇生の部屋に勝手に入り、母が自分に当てた日記を見てしまう。そこには母からの朝への愛情が書かれていたが、それゆえに「なんで自分を残して死んでしまったのか」と朝は両親に対して怒りに似た感情があふれだし、家出してしまう。
その後笠町と塔野の助けもあり、槇生は家出中の朝を見つけ一緒に家に帰る。家に帰り槇生は朝に姉の日記を手渡し、朝に「文字を書き残すのは簡単なことじゃない、だから朝は姉から愛されていたと思う」と言葉を残す。
その夜、朝はなぜ孤独は槇生に優しく寄り添うのに、自分には砂漠にいるかのような寂しさしか与えないのかを考える。そしてようやく両親が亡くなってしまった事実に感情が追いつき泣いてしまう。そんな朝をみて槇生は静かに朝を抱きしめ安心させるのであった。
軽音部での活動
高校で軽音部に入りボーカルをしている朝は新入生勧誘ライブにて、オリジナルソングを披露することになる。なりゆきで作詞をする朝であったが、自分が思う通りの歌詞がなかなか完成せず苦労する。
一方槇生は家出の一件から、親子でない自分が朝の人生にどこまで干渉してよいか改めて考えていた。また朝は今まで両親から受け取ったものでこれからの人生を構築していかなければいけないのかなど、朝の境遇に対する答えが出せずにいた。
しばらくして朝は歌詞を作る過程で、両親が死に小説家の叔母がいるという特別な境遇にいるにも関わらず、特別なものを何も持っていない自分を明確に自覚する。朝はその悩みを作詞した歌詞を見せつつ槇生に相談する。槇生はそんな朝に対して歌詞に込めた一つの主題をもっと研ぎ澄まして表現するようにアドバイスする。そのアドバイスを真剣に伝える槇生を見て、朝は小説家としての槇生の姿も見るようになる。
作詞づくりに苦悩しているある日、朝は志望していた大学が不祥事をおこし、自分の夢との折り合いがつかなくなってしまった学友である森本千代(もりもと ちよ)の悩みを聞く。朝は森本を歌で元気づけたいと考えるようになり、自分のためではなく歌を聞いてくれる誰かのために歌いたいと考えるようになる。そして朝は失敗してもいいから一生懸命ライブに取り組むことを決める。
ライブ当日、未熟でもありのままの自分をボーカルとして歌にぶつけた朝の声は、えみりや千代を始めとした観客の心の中に確かに残るものになるのであった。
そしてえみりのLINEから朝の歌っている動画を送ってもらい、その様子を見た槇生は朝の成長を嬉しく思う。また朝も歓迎会ライブを一生懸命やり切り、歓迎会ライブにチャレンジして良かったと思うのであった。
父と向き合う
勧誘ライブが終わり、朝の高校2年生としても生活が本格的に始まった。軽音部で後輩もでき、えみりが付き合っている女の子がいることをカミングアウトするなど朝の周りの人間関係が刻一刻と変化していく。特に「彼氏はいつになったら作るの?」と何度もえみりに質問をぶつけてしまっていた朝にとって、えみりのカミングアウトの衝撃は大きかった。距離が近いが故に中々悩みを話せなかったえみり、そして朝はその悩みに気付くことができなかった。そんな中、勇気を振り絞ってえみりが朝に女の子と付き合っていることをカミングアウトしたことは、互いをより深く理解しあうきっかけになるのであった。その会話の中でえみりは「私はただなりたい自分になりたいだけ」と朝に言う。その言葉を聞いた朝は漠然とした自身の空虚さを感じるのであったが、その空虚さと今は亡き父の存在がつながっていることに気づく。
朝の父である田汲はじめ(たくみ はじめ)は非常に口数が少なく、妻であるみのりの顔色を常に伺っていた。ましてや娘である朝の記憶の中でさえ、そのような様子しか印象になく、父親の人柄に空虚さを感じていた朝は父親がどんな人物であったか気になり始める。
その気づきをきっかけに、朝は父の人柄を知ろうと様々な人に父の人柄を聞こうとする。しかしえみりの両親やかつての父の同僚に話を聞くも確信にせまる答えは聞けずにいた。ただ父の人柄を探る過程で、笠町と話した時に笠町は朝に自身の親子関係について話す。笠町は幼いころから厳格な父親が苦手であり、就職先を話した時に父親に失望された時から疎遠になっていた。そのため笠町は未だに父の考えがわからず、誰であるかはわかっていないと朝に言った。そして朝はその返答をしているさなか、自分自身のアイデンティティがもっと強固なものになった時に、また違った父の姿が見えてくることに気付く。
そして朝は父の人柄の調査をいったんやめ、もっとゆっくりと向き合っていこうと決めるのであった。
将来の進路と二人
3年生になった朝は将来の進路希望をどうするか悩んでいた。しかし持ち前の社交性と明るさで笠町を始めとする周囲の人の力を借り、着実に自分の力で課題を解決できるようになっていた。
一方、そんな朝の成長を目の当たりにして槇生は朝と自分の将来や、姉の子供である朝を愛してしまって良いのかと悩み始める。そんなことを考えつつも、とある日槇生は弁護士である塔野の力を借りて、自身の生命保険の遺産譲渡対象を朝にする手続きを行う。そのやり取りを聞いた朝は、槇生が死んだ後にまたひとりぼっちになることを想像してしまい、その不安から槇生に強い口調で「槇生が死ぬことなんて考えたくない」と言ってしまう。槇生もいつかやる必要があった手続きとはいえ、まだ朝に孤独の不安が付きまとう時期にやるものではなかったと反省するのである。
後日、朝は槇生の生命保険の一件もあってからか、大学進学に向けて一人暮らしを考えていることを槇生に伝える。最初は冷静に対応していた槇生だが、後日親友である醍醐と話していた時に、自分が朝に抱いてしまった「朝を愛している」という思いがあふれてしまい泣いてしまう。槇生は孤独にただ小説で自分のことを書く生活で満足していたはずだが、なぜ心が疲弊するにも関わらず朝を愛してしまっているのかわからないと醍醐に本音を漏らす。そしてたまたまその場に居合わせてしまった朝に対して「別に一人暮らしを初めてこのままこの家を出てしまっても構わない、どこにいようが、誰といようが朝が幸せであるのが一番の願いだ」と思いを告げる。その槇生の思いに対して朝は愛しているの一言を言ってくれれば十分だと槇生の胸に飛び込む。二人は互いに思いを伝え、少し形の違った家族としてその後も接していくのであった。
『違国日記』の登場人物・キャラクター
主要人物
高代槇生(こうだい まきお)
少女小説をメインに執筆している女性小説家。年齢は35歳で身長は高くスレンダーな体系をしている。
性格は人見知りでマイペース。故に孤独を愛しており、朝を引き取るまで独身生活を主軸に送っていた。また嘘を付けない不器用な生活もしており、我が強い一面もあるため少し問題児気味な学生生活を送っていた。
家族として作中には姉と母が登場するが、いずれも疎遠気味。特に姉とは高校生の時に性格の違いから仲が悪くなり、不慮の事故で亡くなる最後までそのわだかまりを溶けずにいた。
また過去に笠町と付き合っていたが、共同生活に疲弊してしまい別れている。ただ友人関係は比較的良好に保っていて、醍醐をはじめとした数名ほどは学生時代からの付き合いである。
朝とは幼いころに会ったきりの関係であったが、共同生活を経てかけがえのない存在になっている。ただ自分がまっとうな大人でない自覚があるため、朝の人生にどれほど介入していいかたびたび悩んでいた。そんな悩みの中、朝と同居生活をしばらく送っていくうちに朝に対して愛情が芽生え、いつしか自然に朝の身を案じるようになっていくようになる。
田汲朝(たくみ あさ)
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目次 - Contents
- 『違国日記』の概要
- 『違国日記』のあらすじ・ストーリー
- 槇生と朝の同居生活開始
- 中学卒業式と高校入学
- 新生活と衝突
- 母の日記
- 軽音部での活動
- 父と向き合う
- 将来の進路と二人
- 『違国日記』の登場人物・キャラクター
- 主要人物
- 高代槇生(こうだい まきお)
- 田汲朝(たくみ あさ)
- 朝の家族
- 高代実里(こうだい みのり)
- 田汲はじめ(たくみ はじめ)
- おばあちゃん
- 槇生の周囲の人物
- 笠町信吾(かさまち しんご)
- 醍醐奈々(だいご なな)
- コトコ
- もつ
- 塔野和成(とうの かずなり)
- 朝の学友とその家族
- 楢えみり(なら えみり)
- えみりの母
- 森本千代(もりもと ちよ)
- 『違国日記』の用語
- こうだい槇生
- 『竜のつがい』
- 『違国日記』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
- 槇生「あなたは15歳の子供はこんな醜態な場にふさわしくない、少なくともわたしはそれを知っている、もっと美しいものを受けるに値する」
- 槇生「あなたとわたしが別の人間だから」
- えみり「…あたしはただ、あたしでいたい。なりたいあたしになりたいだけ…」
- 大学の進路を悩んでいる朝を槇生が励ますシーン
- 『違国日記』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
- 高代槇生のモデルはない
- 笠町のモデル