桃源暗鬼(漫画)のネタバレ解説・考察まとめ

『桃源暗鬼』とは漆原侑来により『週刊少年チャンピオン』(秋田書店)にて2020年から連載されている、桃太郎を題材に現代を舞台として、鬼側の視点で描いたダークヒーロー鬼譚の漫画作品である。銃が大好きな問題児の一ノ瀬四季は、鬼の血を引いていることが原因で、桃太郎機関から命を狙われてしまう。守ってくれた養父を亡くし、仇をとるために鬼として桃太郎との戦いに関わり始める。次第に鬼と桃太郎との関係を変えようと成長していく。

『桃源暗鬼』の概要

『桃源暗鬼』とは漆原侑来により『週刊少年チャンピオン』(秋田書店)にて2020年から連載されている、桃太郎を題材に現代を舞台として、鬼側の視点で描いたダークヒーロー鬼譚の漫画作品である。2023年7月の時点で、累計部数が245万部を突破している人気作品である。海外での人気もあり、2022年9月にはイタリアのPaniniComicsより本作の単行本の刊行を開始。

本作の主人公である一ノ瀬四季(いちのせしき)は、銃が大好きな少年で高校を退学するほどの問題児であった。四季は家を訪れてきた桃太郎機関の桃屋五月雨(ももやさみだれ)に突然襲われる。襲われた原因は、四季が鬼の血を引いていることが関係していた。父である一ノ瀬剛志(いちのせつよし)は四季を守りながらも戦うが、五月雨の圧倒的な攻撃に四季を守り抜くも亡くなってしまう。失意の四季のもとに現れた羅刹学園の教官である無陀野無人(むだのないと)により四季は可能性を認められ、父の敵を討つため羅刹学園に入学する。四季は仲間である鬼や桃太郎たちと関わっていくうちに、四季はもちろんのこと他の生徒たちも心が成長していく。また四季の存在が鬼と桃太郎の長年にわたる関係を少しずつ変え始める。

『桃源暗鬼』のあらすじ・ストーリー

鬼の血

高校を退学するほどの問題児である一ノ瀬四季(いちのせしき)は、父である一ノ瀬剛志(いちのせつよし)と毎日のように親子喧嘩をしていた。売り言葉に買い言葉で、赤ちゃんであった四季を拾ってくれた剛志に「お前と血が繋がってねぇのが本当に救いだわ」などと本当は思っていないことも言ってしまう。
そんなある日、四季が桃太郎機関の桃屋五月雨(ももやさみだれ)に襲われてしまう。剛志は四季を守り連れ出すが、五月雨は桃太郎の力で四季を捕縛する。剛志が四季を庇いながら、何千年も繰り返してきた鬼と桃太郎の関係を話した。四季は桃太郎しか持たない力を使っている親父のこと、さらに五月雨との会話で剛志が元桃太郎機関に所属していた桃瓦剛志であることを知り驚いた。大事な息子だと四季を守り続けるが、傷ついて倒れている剛志と元凶である五月雨を見て、四季は鬼の力が覚醒し暴走してしまう。
暴走した力は永くは続かず剛志が致命傷を受けながらも、五月雨に手傷を負わせて庇い倒れる。撤退する五月雨を追うことなく、重傷を負った剛志に駆け寄る四季。最後に剛志は親として「桃太郎にも、鬼の血にも負けないように強くなってくれ」と言葉を残し、鬼と桃太郎の良き未来を思い息絶えた。剛志の亡骸を前に、悪態ついたことや血の繋がりがないことをよかったと言ったことを謝れなかった四季は「返事しろよ父さん」と思い涙を流した。すると突然背後から声をかけられ、四季は気絶する。

目を覚ました四季の目の前には無陀野無人(むだのないと)と名乗る鬼がいた。無人は、桃太郎機関に対抗する鬼機関に所属し、覚醒した鬼の審査や収集を目的としていた。しかし父親の敵討ちで頭がいっぱいで説明を聞かず暴れ、鬼の血を暴走させた四季を無人は抑え込むと不合格を告げる。不合格で使えない鬼を処分しようとする無人に、四季は制御し暴走を抑えることで合格と認めさせ、軍隊学校である羅刹学園(らせつがくえん)に入学することになった。

羅刹学園に入学

本土から離れた鬼門島にある鬼のための機関である羅刹学園。四季は無人が教官を務めるクラスに入学するが、けんかっ早い性格の四季は、さっそく同じクラスの皇后崎迅(こうがさきじん)に突っかかっていく。言い合う二人を威圧し仲裁する無人は、学園案内の予定を変更してクラス全員を島内にある神羅の森に集めると、1時間以内にボールを獲得して学園まで捕まることなく戻ることが条件の訓練「鬼ごっこ」を執り行った。チームごとで行われる鬼ごっこは、各組それぞれ四季と迅それから屏風ヶ浦帆稀(びょうぶがうらほまれ)。矢颪碇(やおろしいかり)と遊摺部従児(ゆするべじゅうじ)。手術岾ロクロ(きりやまろくろ)と漣水鶏(さざなみくいな)の3編成となった。
スタート直前に迅とまた言い合いを始める。鬼ごっこがスタートすると、1人クリアを目指し飛び出した迅を追いかける四季は、追いつくと喧嘩を始める。血の力を制御し血蝕解放(けっしょくかいほう)を行える迅に力の差を感じるが、発動しない自分の力を制御するためにもこの戦いから何かを掴もうと試みる。少しずつ鬼により力の違いがあることに気づき始めるが、エスカレートする戦闘に帆稀が巻き込まれ、四季がかばい怪我を負った。帆稀の意志とは関係なく大量の血液を使い、お姉ちゃんと呼ばれた巨人が帆稀を守り実体化し周りを攻撃し始める。四季は血の力には個性があることに気づき、自分の力を制御し血蝕解放に成功する。コントロールがうまくいっていない四季の高威力の攻撃に巨人は沈静化した。血の使い過ぎで四季も倒れてしまうなか、戦闘を見ていた無人が現れた。倒れている四季に話かける無人に対して迅が不意を突き攻撃をする。しかし血を使わない無人に手も足も出ない迅は捕獲された。その間に回復し始めていた四季は、無人から離れるがすぐに迅のもとに戻ると、2人で協力して無人からボールを奪い、ゴールを目指すために連携をとるようになった。しかしその途中に京都から桃太郎機関に襲撃されている緊急連絡が入った。

鬼としての覚悟と炎鬼の目覚め

無人組はサポートメンバーとして京都へ救援に向かった。その頃京都では、鬼機関の第3班が桃太郎機関の桃宮唾切(ももみやつばきり)と桃草蓬(ももくさよもぎ)に襲撃を受けていた。唾切と蓬は鬼であれば大人も子供も関係なく抹殺する。鬼を研究素材としてしか見ておらず、鬼機関をどんどん進行し殲滅していく。

無人組は京都支部を訪れると、そこには京都支部援護部隊総隊長の花魁坂京夜(おいらんざかきょうや)が待っていた。四季たち生徒メンバーは花魁坂の下で援護部隊としてサポートし、無人は最前線へと赴き唾切と蓬との戦闘を行う。
四季たちは花魁坂の治療を目の当たりにして、前線メンバーが戦えるのはしっかりとしたサポートがあるからだと理解する。そこに見回り役の援護部隊の遺体が大量に支部に運ばれてきた。その中には、援護部隊で保護していた鬼の子どもの芽衣(めい)の両親もいたので、芽衣は泣き崩れてしまった。
その時突如唾切の能力によって操られた大量の遺体が起き上がり、四季たちに襲い掛かってくる。一方蓬は能力によって無人や鬼機関のメンバーを密閉空間に閉じ込めたうえで足止めし、唾切は遺体につけておいた発信機を頼りに支部へと侵攻を開始した。

惨状の中四季は、芽衣の「逃げて隠れてきた生活だったからこんな日が来ると思っていた」という言葉に「子供の放つ言葉じゃない。そんなのはおかしい」と感じる。そして「これからは笑って過ごせる世界にしてやる」と、昔話では悪である鬼がヒーローの桃太郎を倒すと決意した。
京都支部への侵入に成功した唾切たちは花魁坂を急襲して倒すと、生徒達との戦闘を開始する。蓬は迅・矢颪の2人を相手にしていたが、そこに蓬の結界を無理やり破壊して脱出してきた無人が乱入してくる。勝ち目がないことを悟った蓬は自身の能力を最大限の力で発動し立てこもった。

一方四季は芽衣を庭の物陰に隠し、唾切の待つ大広間に乗り込む。四季は自身の血蝕解放を発動して攻撃を始め、唾切も秘策として用意していた桃部真中(ももべまなか)の死体を出してきた。
唾切は酸素を操る桃部の能力を駆使して四季を圧倒する。肋骨が砕けて倒れこむ四季を見下ろしながら、唾切は「最強の鬼の子孫『鬼神の子』であるお前がこんなものか」と落胆した。そして「次は隠れていた芽衣を殺す」と宣言すると、四季を重力操作で抑え込み、芽衣を狙って攻撃を繰り出す。
剛志を亡くした時を思い出し、守る力を欲した四季に「炎鬼」と呼ばれる鬼神の力が目覚めた。傷口から燃え広がるような圧倒的な炎の攻撃で勝利した四季だが、血を吐き倒れて気を失ってしまう。四季は血の力によって復活した花魁坂によって治療され、駆け付けた無人が倒れている唾切に止めをさした。
その後みんなの傷が癒えて学園へと戻る日、未来に希望もなく笑うことのなかった芽衣が、天国の両親に会った時に幸せだったと言えるように今を生きることを決めて笑顔で「ありがとう」と四季たちを見送った。

鬼の目指すものと変わり始める関係

無人組は鬼機関の各部隊を見学するために、変装して東京の練馬に来ていた。四季はホテルを抜け出して近くで行われていた祭りに遊びに来ていた。射的の出店で同じように景品を狙っていた神門(みかど)と名乗る青年と出会う。2人は射撃の腕もだが、銃器が好きなところなどとても気が合った。お互いに気が合い仲良くなれそうだと連絡先を交換し別れたが、実は神門の本名は桃寺神門(ももでらみかど)と言い、桃太郎機関13部隊副隊長を務めている。

練馬区の偵察部隊の並木度馨(なみきどかおる)の下や医療部隊、戦闘部隊と1日で各部隊を回り見学した。四季は検査のために無人達とは別行動をとると、夕方には連絡を取り合っていた神門と映画を観てファミレスで食事をしていた。部隊長の桃岩深夜(ももいわしんや)から呼び出しを受けて、神門が出ていくと、四季もアクシデントの発生があり至急アジトに戻る。

四季が検査のために離れていた頃、迅は交通事故に遭いそうになった姉妹を助けるために血の力を使ってしまったことで、桃太郎機関に存在がバレてしまう。戻ってきた四季が「子供を助けたのかっこいいな」とその場の迅に対する嫌な空気感を変えた。無人からは「判断は間違っていないが正解でもない、血を使わないで対処できるようになれ」と諭された。

カメラの映像を確認した神門は子供を助けた迅を殺すことを見逃そうと発言する。しかし深夜は自分の出世のため捜索を始める。深夜は細菌を飲ませた相手の視界を24時間のぞくことができ、得られた情報から人を支配していた。事故に遭った姉妹を餌にされて迅は捕らえられるが、偵察部隊隊長の淀川真澄(よどがわますみ)の情報や馨の音の反響で探知する力を使い、深夜の細菌に感染した迅を救出した。
一方迅から情報を抜き取った深夜は、練馬区の22部隊隊長の桃華月詠(ももかつくよみ)と副隊長桃角桜介(ももかどおうすけ)に協力を求める。深夜は、市民を巻き込み人質にしたり、病院に火事を起こして炎鬼の罪に誘導したりと裏で暗躍していた。

一方四季たちは迅が四季に姉妹に固執する理由を、神門からの情報を待っている間に聞き出していた。
迅は桃太郎の桃井戸颯(ももいどはやて)と桃井戸あすみ(ももいどあすみ)の間に生まれ、姉の桃井戸葉月(ももいどはづき)と家族4人で暮らしていた。母は自分が鬼であることを知らずに生活していたが、颯は鬼であったあすみや葉月を殺してしまう。2人の死体や父の行動により迅の中にあった鬼の血が覚醒し、暴走した迅は颯を切り刻んだ。抵抗する父によって重傷を負いながらもどうにか逃げた迅は、颯への復讐を心に誓ったのである。
その話を聞いた四季が涙を流して迅に同情していると、神門から人質の監禁場所に関する情報が入る。しかし深夜がまたしても暗躍し、四季に教えた監禁場所にも火事を起こしていた。それにより神門は、四季に対する疑心暗鬼を募らせていくのだった。
現場に到着した四季が救助活動を行っていると、四季を信じていた神門が悲しい顔をして現れる。四季の事を信じられなくなった神門は、桃太郎機関であることや次に会ったときは敵同士であることを伝え立ち去った。

深夜たちは迅から得た情報をもとに鬼のアジトへ乗り込むが、桃太郎の能力に気が付いた淀川は逆にそれを利用して鬼たちを罠に嵌めて迎え撃つ。不測の事態に戦闘を放棄して逃げ出した深夜を迅が追いかける一方、四季と神門は一対一で戦う為その場を離れた。
かなりの戦闘狂である桜介は以前敗北を喫した無人との再戦を望んでいたが、無人は矢颪達に戦闘を丸投げすると、隊長の月詠を相手にし始めた。
無人は月詠の能力によって傷を負うが、自身の血を細かい雨に変じて月詠の体内にダメージを与えていく。そして一気に強力な能力を解放し、月詠を戦闘不能にした。
一方桜介と戦うことになった矢颪は圧倒的な戦闘センスに苦戦していたが、戦闘を自分たちに丸投げした無責任な無人への怒りなどを原動力にして能力を発動し、ギリギリのところで勝利を収める。

四季と神門はビルの屋上で戦闘を行っていた。「裏切られた」と思い込んでいる神門の容赦ない攻撃に四季は追い詰められていたが、「神門を超える力」を望んだ四季に応えて炎鬼の力が発現する。どんどんヒートアップしていく戦闘だが、徐々に炎鬼の力は四季を飲み込んでいき、暴走状態になってしまった。
ギリギリの精神状態で神門に「殺してほしい」と訴える四季を見て、神門は「今まで殺してきた暴走した鬼も同じだったのではないか」と感じ、友として四季を苦しみから解放すると決意した。
暴走した四季は監視役として戦闘を観察していた淀川を殺そうとした刹那、無人によって攻撃を防がれ、動きを止められる。
準備が完了した神門は「死ぬな」と思いながら、四季へ最大威力の攻撃を発射する。神門に「ありがとう」と告げると四季は攻撃を受けた。かろうじて生きていた四季を医療班に運び、神門は自分が利用されたことや、鬼は交渉の場に座らせることが目的であることを知った。

深夜を追いかけていた迅は、深夜の視覚共有の妨害を受けながらも追い詰めていくが、市民を巻きこんででも鬼を殺し評価を得ることに固執している深夜に怒りを覚えた。追い詰められた振りをして罠をはっていた深夜は、迅が近づくとビルの室内を爆発させる。死んだと思われた迅は、深夜の罠を読み爆発を回避していた。焦り慌てる深夜の首を切り裂いた迅は、出血に苦しむ深夜を見下ろし「罪を悔いろ」と息絶えるのを見ていた。

アジトでは瀕死の状態の四季たち重傷者が多数いたが、京都支部で出会った花魁坂が現れたことで完治できた。淀川は怪我させられたことを謝られたが、怪我のことより暴走したことや鬼である自分たちは人を殺す力があることを再度理解させると「体も心も強くなれ」と激を飛ばした。花魁坂は鬼神の血について、四季を含めみんなに伝えた。「驚異的な力を発揮する鬼神の血だが、使い続ければ寿命を削り、永くは生きられない。早ければ10代で亡くなるかもしれない」四季はその場を冗談で済ませたが、1人で凹んでいるところに「鬼神に頼らないように強くなればいい」と迅に励まされた。学園に戻る日、神門は四季に会いに来た。友として出会い、互いの思いをぶつけあった戦いを経て、2人は「ごめん」と謝りあい「またな」と微笑みながら鬼と桃太郎の垣根を超えた友として別れた。

羅刹学園の目的とそれぞれの成長

練馬から学園に戻ると実践的な訓練、24時間以内に全員でゴールを目指す雪山登山が始まった。妨害役として学園の非常勤講師である猫咲波久礼(ねこさきはぐれ)と印南幽(いんなみゆう)が参加する。

行軍中1人で行動したり、他のメンバーに「俺のペースに合わせろ」といった態度をとったりと矢颪はメンバー内で揉め事を起こしてしまう。そんな中、猫咲が血蝕解放「ライアーライアー」で触れた者に変身する能力を使って生徒たちをかく乱する。隙をつきメンバー全員が猫咲から距離をとりゴールを目指す。しかし矢颪はゴールより戦うことに固執してしまう。逃げた生徒は、遭遇した印南の血蝕解放「双又ノ錠」の出現させた障子から右手を召喚すると強力な衝撃波で妨害に合う。印南から逃げる途中で、帆稀が足を滑らし崖から落ちる。それを助けようと四季も一緒に崖下に落下した。四季はゴールすると信じ、迅たちは山頂を目指す。しかし離れすぎた矢颪を連れ戻すために迅が1人で矢颪の下に向かった。その頃、猫咲は一人で強くなろうとしている矢颪を「お前は一生弱いままだよ」と押さえつけている。矢颪を回収しに来た迅は、雪を利用して目くらましをして矢颪を抱えてゴールを目指して逃げる。

遊摺部と水鶏、ロクロの3人はゴール目指すが、追いついた印南が次は左手を出現すると拘束の効果で遊摺部の身動きが封じられてしまった。遊摺部を拘束されたことで、ロクロと水鶏は血蝕解放を使い、解放するために印南と戦闘を行う。2人で印南を翻弄し、封印の核である鳥居を破壊すると、3人で印南から逃げてゴールを目指す。

四季と屛風ヶ浦は山頂を目指して歩き続けていたが、雪崩に巻き込まれてしまった。帆稀を守り、四季が1人雪崩の餌食になってしまった。埋もれた四季を掘り出した帆稀は、助けようとするが荷物を失くすなどハプニングに見まわれる。しかし苦しむ四季を見て、何とかしないといけないと思い、四季を休ませる所を探して歩き始めた。休める所を見つけた帆稀は、四季を温めるために火を起こす。温かくなったことで四季の意識が戻り、一所懸命に火を起こした屏風ヶ浦にお礼を告げるが、頑張った自分を卑下する屛風ヶ浦に四季がなぜと問いかけると自分の過去の話を始めた。
帆稀は父親から虐待を受けていて、それを守ってくれていたのが姉の澄玲(すみれ)であった。澄玲は新聞配達をし、お金を貯めて帆稀と2人で生活することを夢見ていた。熱で寝ていた帆稀を父親が酔った勢いで犯そうとしてきた。姉がそれに激怒して父親を後ろから刺したが、刺されたことに激怒した父親に逆に澄玲をめった刺しにした。姉が殺される所を目の当たりにして帆稀は覚醒した血が暴走して父親を殺した。帆稀の能力で出現する巨人は澄玲で、助けてくれなかった全てに激怒していると思っていた。四季はその考えを否定し「姉は守ってくれているんだろ、屛風ヶ浦がそれをわからなくてどうするんだよ」と伝えるが、熱が上がったことで意識を失う。
すると外に猫咲が現れ、帆稀は四季を守りぬき花魁坂に診せるために戦う覚悟を決めて血蝕解放を行うと、初めて意識の中で澄玲と出会い話すことができた。すると今まで暴走気味であった能力が安定して使えるようになり、猫咲を薙ぎ払い吹き飛ばした。巨人の背に乗り、四季とともに山頂を登りゴールにたどり着いた。四季を花魁坂に診せていると、遊摺部たち3人もゴールへとたどり着いた。

迅は気絶させた矢颪とともに山頂を目指して歩いていた。目を覚ました矢颪は猫咲を撒いてきたことに「邪魔をするな」と怒るが、突っ走る矢颪に「邪魔はお前だろ」と迅は指摘する。猫咲と印南の2人と戦う羽目になってしまったが、遊摺部の索敵能力と、四季のライフルによる長距離狙撃のサポートを受けて、ゴールまでたどり着けた。

無人から連携や能力の成長、指揮統率や役割を理解した行動に「よくやった」と賛辞が贈られる。しかし矢颪には「足を引っ張り、試練を与えてくれてありがとう」と辛辣な評価が下された。矢颪は「個人が強くなる事より仲良く一丸にということが大事なのか」と問うと「その通りだ」と即答された。鬼の血は心を鍛えることで、血の能力を強化するきっかけになる。そのため仲間を作り鍛えることが学園の目的だと教えた。矢颪は「桃太郎機関と戦っているから四季たちは強くなった」と感じて、生ぬるい考え方にこのままでは強くなれないと悩み始めた。

桃太郎機関本部では、大皇帝と呼ばれる存在とその幹部により召集を受けていた。大皇帝の前で神門は炎鬼の脅威について話す。しかし鬼とは対話ができると進言したが、他の幹部からは危険思想を叱責され、大皇帝は聞き入れたようなそぶりを見せる。しかし辞令により、神門は鹿児島の部隊に一般隊員として降格処分された。鹿児島には、鬼國隊と呼ばれる桃太郎根絶を目的とし鬼機関にも属さない野良の集団がいた。リーダーの等々力颯(とどろきはやて)は鬼神の子の1人で、風鬼の能力を授かっていた。
そんな等々力が羅刹学園に向かっていた。

学園で訓練をしていた四季の下に、鳥飼羽李(とりかいうり)の血の能力である鳥にのって等々力は降りたった。無人たちとあいさつを交わすと等々力は四季を勧誘した。しかし四季はあっさりと断り、等々力も「無理強いした信念に魂は宿らない」と断りを受け入れた。そこに力を求めていた矢颪が学園から抜け、華厳の滝へと調査に向かう等々力について行った。四季だけは鬼國隊が掲げる根絶とは、桃太郎機関と同じように、静かに暮らす桃太郎にも危害を加えることだと気づいていた。それを理解したうえなら止めないが、矢颪の考えを聞きたいと追いかけることを無人に相談した。学園からの許可をとると、全員で矢颪を追いかけることになった。

鬼國隊と華厳の滝跡地研究所

栃木県の華厳の滝にある桃太郎機関の研究施設。そこでは、研究所所長の桃裏楔(ももうらくさび)が鬼を連れ去り、老若男女問わず研究と称してあらゆる人体実験を行っていた。その施設の桃太郎を抹殺することが今回の鬼國隊の目的であり、闇夜に紛れて施設へと出発した。

矢颪を追いかけていた学園メンバーは途中人気のない鬼の集落で、ケガを負い倒れている榎本哲司(えのもとてつじ)を見つけると治療を行った。目覚めた哲司は集落で起きたことを話し始めた。
華厳の滝が封鎖されてから周辺の村から鬼が失踪することが続いていた。ある日、桃太郎の隊長が部下を引き連れて現れ、鬼たちを連れ去って行く。抵抗した哲司は隊長にやられたが、会話から鬼の失踪は施設の実験体確保のために連れ去っていたと知る。話を聞いた四季たちは鬼國隊が向かったのもそこだと思い、哲司の娘を助け出すことを約束して研究施設に向かった。

鬼國隊は、全員と念話できるようになる乙原響太郎(おとはらきょうたろう)の血を体内に入れ、連絡を取りながら侵入する。等々力と矢颪、海月巳代(うみつきみよ)の3人はフロアを探索し桃太郎であれば次々殺していく。別の階にいる不破真一(ふわしんいち)たちは、不破の酸の力で扉を破壊しながら探索を進める。しかしセンサーが反応し、鬼國隊の隠密行動が桃太郎機関にばれてしまった。所長の楔は動じることなく研究室で寛いでいた。傍らにいた第1隊長の桃林慎義(ももばやししんぎ)は、慌てながらも極度の用心深さから部屋の安全を確認しながら侵入者を探しに行く。その後ろを副隊長の桃田久望(ももたくも)がだるそうに歩いていった。

等々力は全員に戦闘許可と死なないようにと伝えると、自身も集まった桃太郎との戦闘を開始する。等々力はたとえ妊婦の桃太郎であっても「子供でも桃太郎に変わりはない」と容赦なく殺そうとしたが、抵抗感を覚えた矢颪は等々力の手を止め、なぜ強硬的なやり方をしているのか理由を尋ねた。
等々力は、鬼の医者をしていた等々力雄治(とどろきたけじ)に育てられる。雄治は瀕死の桃太郎の子供を連れて帰ってきた。「桃太郎だから助けるなよ」と等々力は雄治に伝えたが、子どもだからと治療をした。右頬に傷跡が残った桃太郎は黙って姿を消し、その夜に桃太郎を引き連れてやってくると雄治を殺し、その首を等々力に投げ渡す。それから等々力は、どんな桃太郎にも情を持つことなく戦うと決めた。運命のいたずらか楔の傍に、右頬に傷跡がある第10隊長の桃次歪(ももつぎひずみ)が仕えていた。等々力の過去を知った矢颪は、それでも等々力のやり方に賛同できず鬼國隊を抜ける。しかし学園にも戻れないと桃太郎に囲まれながらも1人で探索をする。

蛭沼灯(ひるぬまあかり)と鳥飼は、旧研究室に着き調査を始めた。そこに慎義と久望が現れて攻撃を仕掛けてきたが、咄嗟に鳥飼の鳥の羽と蛭沼の蛭で分身を造り倒されたと錯覚させた。分身に気をとられている隙に蛭沼たちは攻撃するが、久望も煙で分身を造り回避する。鳥飼は血の鳥を出現させて慎義に襲い掛かった。しかし慎義は自身の細菌を光線化して応戦してくる。慎義の攻撃速度に鳥を形成し攻撃することのできない鳥飼は苦戦するが、「自分が負けるわけにはいかない」と重傷を負いながらも何度も立ち上がり、最後は勝利にこぎつけた。
久望と戦う蛭沼は、久望の変幻自在な煙を操る能力に苦戦していた。しかし自身の蛭で作った義手をダミーに、倒された振りの蛭沼に油断した久望は背後から体内に毒性の蛭を侵入させられた。蛭沼は苦しむ久望から情報を聞き出そうとしたが、面倒くさがりで話せる情報がなかった久望を不必要と判断し、蛭を肥大化させて爆発させた。

学園組は研究施設の前まで来ていた。無人は桃太郎の施設に行くから気を引き締めるように声をかけた。それをドローンで見ていた楔は無人と四季がいることを知り、隊長と副隊長を集めると無人の討伐へと向かわせた。施設に向かう無人たちの前には大勢の桃太郎と、隊長の桃地聖蹟(ももちせいせき)と桃早長沼(ももはやながぬま)、桃木場明大(ももきばめいだい)の3人。副隊長の桃記めじろ(ももきめじろ)と桃坂国領(ももさかこくりょう)、桃学院片倉(ももがくいんかたくら)が現れた。無人は生徒を狙った桃太郎に殺気を飛ばすと、迅に指揮を委ねて先に行かせた。無人は血蝕解放をしようとするが、国領の体外にある血液を操る能力で血を使うことができない状態で全員を相手にする。
施設の入口を四季の血蝕解放「銃葬神器」で破壊する。入口前を固める桃太郎たちを全員が翻弄して施設に潜入を成功させた。しかし中から大勢の桃太郎が襲い掛かってくると全員がバラバラになってしまった。

生徒たちは研究所内の様々な場所で鬼國隊と連携し、次々隊長クラスの桃太郎たちを討ち倒していく。一方正面の広場で敵を引き付けている無人は、鬼の血を使えない状態で身体能力とカバンに仕込んだガトリングを使って桃太郎を翻弄し、怪我1つ負うことなく強敵を打ち倒した。

その頃哲司と四季は桃太郎から銃を奪いながら人質救出のため施設内を進んでいた。エレベーターを発見したが使用できないようになっており、使うことをあきらめ階段で行こうとした時、隣のエレベーターから副隊長の桃間纏(ももままとい)が部下を引き連れて降りてきた。哲司は娘の救出に焦り離れて別行動をとり、四季は銃撃で応戦する。しかし桃間の身体能力の高さに翻弄され、苦戦を強いられていた。その時、禊が楽しげに子供の鬼に残虐な行為や毒を飲ませて殺すシーンや、施設を爆破するというメッセージが通信映像で届いた。四季の怒りが頂点に達し、苦戦を強いられていた桃間を瞬殺する。

四季は施設内を走り回り、迅と遊摺部の2人と出会った。これまでの経緯を話しみんなに知らせるために迅は放送施設を、遊摺部は桃太郎機関の研究データの捜索を行う。四季は所長を倒すために最上階を目指した。禊は施設のデータを持ち出す時間と、騒動に紛れて逃げるために施設を時限爆弾で順番に爆発し、迅は施設が爆破されることを全員に放送した。メンバーの無事を確認した迅と乙原は、鬼國隊で爆弾と人質の捜索を行い、羅刹学園は人質の救助をする段取りで動き始めた。

無人は副隊長や部下たちを倒し続けていたが、隊長3人が本気の無人と戦うために封じていた能力を解除させる。施設の爆発騒動が起きたために、無人はここでの戦闘を手短に終わらせるために、隊長たちが反応できない速度で素早く血蝕解放しまとめて瞬殺した。

『桃源暗鬼』の登場人物・キャラクター

一ノ瀬家

一ノ瀬四季(いちのせしき)

本作の主人公。鬼神の血「炎鬼」の力を受け継いでいる。
頭が悪くて喧嘩っ早い性格であり、高校を退学になるほどの問題児であった。悲惨な話にはフィクションであろうともボロボロと涙を流すお人好しで、人の思いを踏みにじる相手を許さぬ正義感と暴走状態に抗える強い自我の持ち主。
桃太郎機関の人間だった剛志に育てられ、自分が鬼であることを知らず生きてきた。五月雨に襲われたことで、鬼の血が覚醒しどうにか退けるが、自分を守り父である剛志を亡くす。無人の試験をクリアすると父親の仇である五月雨を倒すために羅刹学園に入学する。桃太郎機関の神門とは趣味が合い、生死を分けた戦いを繰り広げて互いの思いや考えを理解しあえる友人になる。羅刹学園への入学や桃太郎機関との戦いで血のコントロールを鍛え、自身の能力の精度を上げてきている。成長度の高さは、無人や他の鬼たちも認めるほどである。

血蝕解放「銃葬神器(じゅうそうじんぎ)」
血液で銃器を発現する。威力や形状は自由自在だが、撃ちすぎると貧血を引き起こして最悪死に至るリスクがある。当初は右腕に巨大な銃器を纏わせて強力な一撃を放つのみで、数発撃つだけで限界に達していた。経験を積むことで二丁の銃を同時装備に加え、状況に応じて拳銃やスナイパーライフルなどの様々な銃器を作り出せるようになる。また構造を理解していれば存在しない銃器でも作ることができる。炎鬼の血を覚醒させた際は全身に炎を纏った姿と化し、かすった程度でもその箇所から炎が燃え広がる攻撃を放つことができるようになる。暴走時には体中から多様な銃器を一度に大量に生みだし、目に入るもの全てを破壊しつくす。

一ノ瀬剛志/桃瓦剛志(いちのせつよし/ももがわらつよし)

四季の育ての父。本名は桃瓦剛志(ももがわらつよし)といい、元桃太郎機関に所属していた。小さな酒店を経営しており、問題児の四季と距離が開いてしまっているが、血がつながっておらずとも親として四季に強い愛情を持っている。五月雨の襲撃時に四季が鬼の血を引き継いでいることと桃太郎の御伽噺が現実であったことを四季に告げ、五月雨との交戦の末に敗北。しかし四季を守り抜いて鬼と桃太郎の共存に思いを馳せながら死亡する。桃太郎としての能力は細菌で身の丈ほどの大きな鉈を出現させる。

羅刹学園

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