黒伯爵は星を愛でる(漫画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『黒伯爵は星を愛でる』とは、音久無による吸血鬼を題材としたダークファンタジー漫画。19世紀のロンドンを舞台にした、懸命に頑張る主人公・エスターのシンデレラストーリーは、読者の心を打つ。
母親を亡くし、弟もいなくなってしまったエスターは、突然ヴァレンタイン伯爵・レオンに求婚される。それは、吸血鬼ハンターであるレオンが、ダンピールであるエスターの能力を利用して吸血鬼を狩るためだった。エスターは弟を探すためにレオンに協力し、吸血鬼を狩るために貴族社会で生きることを決意する。

『黒伯爵は星を愛でる』の概要

『黒伯爵は星を愛でる』とは、白泉社『花とゆめ』にて2014年から2018年まで連載されたダークファンタジー漫画。著者は音久無。作者にとっては連載4作目となる作品で、前作の『女王様の白兎』や『花と悪魔』で人気を得ていたため、連載開始直後から話題になっていた。単行本は「花とゆめコミックス」より全12巻が刊行されている。
物語の舞台は、19世紀のロンドン。主人公のエスター・メイフィールドは、母親を亡くし、弟も家を出て行ってしまう。しかし、それでも懸命に生きようとしていた。ある日、エスターが下町で花売りをしていると、レオン・J・ウィンターソンと名乗る貴族が現れる。そして、レオンはエスターを自分の花嫁にすると告げた。混乱するエスターだが、レオンに連れて来られたヴァレンタイン伯爵家で、自身の出生の秘密を知ることになる。エスターは、人間と吸血鬼の間に生まれたダンピールだったのだ。さらに、ヴァレンタイン伯爵家は吸血鬼ハンターの家系であることを知る。レオンは、吸血鬼を探知できるダンピールの能力を利用するため、エスターを花嫁にすると言ったのだ。エスターは弟を探すためにレオンに協力し、偽装夫婦を演じることになる。しかし、レオンの優しさに惹かれ、エスターは好意を抱いていく。
初めは労働階級だったエスターが貴族の妻となり、レオンに愛されるシンデレラストーリーは、女性たちから高い人気を博した。

『黒伯爵は星を愛でる』のあらすじ・ストーリー

吸血鬼ハンターの一族

19世紀、ロンドン。帰りが遅くなった主人公のエスターは、家路を急いでいた。夜になると「幽霊」が出歩くからだ。幼い頃からエスターは、普通の人間と「幽霊」を見分けることができる。そして、母親のメグは「幽霊を見つけたら相手に悟られないように、全力で逃げること」とエスターに言い聞かせていた。「幽霊」に怯えながらも、エスターはメグと双子の兄・アルジャーノン(アル)と3人で仲良く幸せに暮らしていた。しかし、半年前にメグは天国へと旅立ち、その1ヶ月後にアルは「貴族の養子になるからここを出るよ」と言っていなくなってしまった。寂しさを胸に抱えながらも、エスターは笑顔で懸命に生きる。

ある日、いつものようにエスターが花売りをしていると、身なりの良い男が現れる。男はレオン・J・ウィンターソン、ヴァレンタイン伯爵と名乗る貴族だった。レオンは「あなたは今日から私の花嫁です」と言って、エスターをウィンターソン家の邸へと連れて行く。邸に着くと、エスターはレオンの本当の目的を聞かされた。ウィンターソン家は、代々続く吸血鬼ハンターの家系だった。そして、吸血鬼と人間のハーフのダンピールであるエスターを利用して、貴族社会に潜む吸血鬼を見つけようと考えた。エスターが「幽霊」だと思っていたのは、吸血鬼だったのだ。戸惑うエスターだったが、貴族の養子になったアルを探すため、レオンの妻になって協力することを決める。以降、伯爵夫人として社交界に出るため、エスターは様々なレッスンに励む。しかし、ウィンターソン家の中でもエスターが伯爵夫人になることに異を唱える者がいた。その筆頭が、レオンの叔父のリチャードだった。リチャードは、エスターが人間を襲わないと証明するため、一晩牢屋で過ごすことを提案する。レオンは、あっさりとその提案に乗った。エスターは、レオンを恨めしく思いながらも、リチャードを納得させるためには仕方がないと諦め、牢屋へ入る。肌寒く、薄暗い牢屋でエスターがお腹を空かせていると、食事を持ってきたのは、レオンだった。さらに、レオンは牢屋の中へ入ってきて、エスターと共に牢屋で一晩を過ごす。エスターは、初めてレオンの優しさに触れた。

吸血鬼の王との出会い

エスターはレオンと共に社交の場に出向き、吸血鬼を探すようになった。同時に、レオンの従兄弟のゲイリーにも協力してもらい、アルジャーノンの行方を探していた。しかし、アルジャーノンを見つけることは叶わず、エスターは落ち込んでしまう。そこでゲイリーはエスターに男装をさせて、舞踏会へ連れて行く。エスター、レオン、ゲイリーの3人で訪れた舞踏会には、ギルバート公爵、クリスティアン・V・A・ギルバート(クリス)も参加していた。クリスは、吸血鬼たちの頂点に立つ「吸血鬼の王」である。人間と吸血鬼の間には、協定が交わされている。「吸血鬼は無闇に人間を襲わないこと」「人間は吸血鬼に血液を提供すること」というものだ。吸血鬼の王であるクリスは、吸血鬼たちを管理し、協定が維持できるように秩序を守っている。それでも、協定を破って秩序を乱す吸血鬼が現れる。それを狩るのがレオンたちウィンターソン家の役割である。

舞踏会が始まると、レオンとゲイリーは女性たちに囲まれてしまう。会場を抜け出したエスターは、クリスと遭遇する。クリスはすぐさま、エスターがダンピールであることを見抜く。さらに、舞踏会の会場内にレオンの命を狙っている吸血鬼がいることを告げる。レオンに危険を知らせるべく、エスターが奔走しているうちに、事態は解決していた。レオンは、吸血鬼たちに誘い出されたフリをして、返り討ちにしたのだ。こうして、人間と吸血鬼の平和は保たれた。

会場を出たクリスは、帰途につこうと馬車に乗り込む。そして、馬車の中で待っていた人物に「こんな所で待たせちゃってごめんね、アルジャーノン」と声を掛ける。その人物は、エスターが探している双子の兄・アルジャーノンだった。アルは、クリスの養子になっていた。

エスターとレオンも邸へと帰って来るが、レオンは突然倒れてしまう。舞踏会会場で吸血鬼と戦った際に怪我を負っていたのだ。後日、怪我が治っていないレオンの代わりに、エスターはロンドンの街へ出かけた。そこでクリスと再会する。クリスの揶揄うような態度にエスターが戸惑っていると、近くで吸血鬼騒ぎが発生する。吸血鬼を追いかけていたエスターが襲われそうになった時、助けたのはレオンだった。レオンはエスターを心配して、ロンドンまで追って来た。しかし、怪我も治っていない体で無理をしたために、高熱を出してしまう。

クリスがエスターたちと別れると、馬車で待っていたアルがクリスに対して怒りを露わにする。アルは、自分がクリスの養子になる代わりに、エスターには手を出さないという約束を交わしていた。その約束を破ってエスターに近づくクリスに掴み掛かる。しかし、クリスは飄々とした態度を崩さず、「アル、君との約束は守りたい。しかしエスターも欲しい。さて、これは大変に悩ましい問題だ」と言う。

ウィンターソン家の悲劇

レオンは、怪我による高熱で魘され、過去の夢を見ていた。
ある夜、ウィンターソン家は吸血鬼の襲撃を受けた。レオンの両親であるヴァレンタイン伯爵夫妻は惨殺され、邸には火が放たれた。レオンは火傷を負いながらも、一命を取り留める。使用人たちの手引きによって、馬車で逃げるが、またしても襲撃を受ける。ロンドンの下町で一人逃げ惑うことになり、レオンは絶望していた。両親や使用人たちに守られた命すら、投げ出そうとしていた。しかし、薄れ行く意識の中でレオンの脳裏に浮かぶのは、ウィンターソン家を襲った吸血鬼、クリスの姿だった。
レオンが意識を取り戻すと、そこにはエスター、アル、メグの親子3人がいた。ジョンという偽名を名乗ったレオンは、エスターたちの家に身を寄せることになる。しかし、その心中は空虚なままだった。しきりにレオンに話しかけるエスターにも、辛辣な態度をとってしまっていた。しかし、エスターは諦めない。そしていつしか、エスターはレオンにとって、空虚な心を照らしてくれるあたたかい「星」になっていた。

悲劇の一夜から数週間後、レオンはエスターたち親子に心を開き始める。吸血鬼を恐れ、外へ出ることにも抵抗感があったが、「だいじょうぶ!ジョンはエスターがまもってあげるからね!」と言うエスターに笑いをこぼすようになっていた。いつしか、空虚だったレオンの心は、エスターによって満たされていたのだ。そして、メグはレオンがウィンターソン家の者だと気づいていた。レオンがコートに忍ばせていた銀製のナイフに、ウィンターソン家の紋章が刻まれていたからだ。貴族の邸でメイドとして働いていたことのあるメグは、紋章を見てレオンがウィンターソン家の者であると知った。それでも、事情があることを察して、匿ってくれていた。

その後、ウィンターソン家の執事のノア・フェリスがレオンを迎えに来た。別れ際、エスターは泣き出してしまう。レオンはエスターの手を取り、「きっと君を迎えに来るから。その時は俺の本当の名前を呼んで」と約束する。ウィンターソン家に戻ったレオンは、伯爵位を継ぎ、家を再建した。一方で、エスターたち親子は行方をくらませてしまった。レオンは手を尽くして探したが、見つけることは叶わなかった。そうして10年以上が経ったある日、ダンピールの双子が見つかったという報告が、レオンの元へ届く。レオンが早速見に行くと、変わらぬ笑顔で花売りをするエスターを見つけた。しかし、メグとアルがいなくなり、エスターは時折寂しげな表情を浮かべるようになっていた。胸が痛んだレオンは、一族の反対を押し切って、ダンピールを利用するという名目で、エスターを妻に迎えた。エスターはレオンのことを覚えていなかったが、当時と変わらずレオンの心を温かく照らしてくれるのだった。

黒薔薇城での生活

エスターは、正式にヴァレンタイン伯爵夫人として社交界デビューするため、王宮で女王陛下に拝謁することになる。そのため、レオンの遠縁のレベッカ・ウィンターソンからマナーレッスンを受ける。懸命に練習したおかげで、エスターは無事に拝謁を終えることができた。しかし、エスターの表情は暗い。その理由は、拝謁の数日前に遡る。

その日はレオンが外出しており、邸にいたのはエスターだけだった。その時を狙って、レオンの叔父のリチャードが訪ねてきた。リチャードは、エスターにウィンターソン家から出て行って欲しいと言う。吸血鬼ハンターの家系にダンピールの血を入れることはできない、というのが一族の総意とのことだった。生粋の貴族であるレオンの妻という立場は自分に相応しくない、と感じていたエスターは、リチャードの提案に応じてウィンターソン家を出る決意を固める。

拝謁が終わった日の夜、エスターは睡眠薬でレオンを眠らせると、涙ながらに邸を出た。その時、エスターは自分がレオンに対して抱いていた恋心に気づく。しかし、その気持ちは分不相応なものだと考え、心の内に仕舞い込むことにした。その後は、リチャードの手引きでとある貴族の邸でメイドをすることになっていた。そこへ向かう道中、クリスの従者のクライヴが現れ、エスターはクリスの住む黒薔薇城へと連れて行かれる。クリスは、エスターの父親である吸血鬼のギルモア侯爵から、エスターのことを頼まれたと言う。そして、「ねぇ、エスター。私の花嫁にならないかい?」と持ちかける。クリスは人間と吸血鬼が共存する平和の象徴として、ダンピールのエスターと吸血鬼の王のクリスが結婚することを望んでいた。戸惑うエスターを救ったのは、女装し顔を隠したアルだった。アルは、約束を破ったクリスに対して怒りを露わにする。

翌日、エスターそっくりに変装したアルは、ウィンターソン家の邸に来ていた。周囲が驚く中、レオンはすぐにアルの正体に気づく。アルは、幼い頃にジョンとして共に過ごしたレオンのことを覚えていた。また、レオンはエスターに協力してアルを探すうちに、アルがクリスの元にいることを知ったが、エスターには教えていなかった。レオンは、黒薔薇城からエスターを取り戻すため、準備を始める。アルもまた、エスターに危険が及ばないように行動するため、ウィンターソン家にやってきたのだった。

一方、黒薔薇城にいるエスターは、クリスの求婚を拒否し、一先ずはメイドとして働きながら黒薔薇城に身を寄せることにする。そうして数日が過ぎた夜、エスターはクリスに言われて、吸血鬼の集う仮面舞踏会にクリスのパートナーとして参加することになった。しかし、エスターは緊張のあまり気分が悪くなってしまう。回復するまで休憩室で休んでいたエスターの元に、吸血鬼の女性・エヴァが襲いかかる。クリスを慕っているエヴァは、クリスの妃候補であるエスターに嫉妬していた。エスターが危機に陥った時、助けたのはアルの手引きで仮面舞踏会に紛れ込んだレオンだった。レオンは、「またエスターに会いに来る」と約束して去っていく。

その夜以降、拝謁も済ませて社交界デビューしていたエスターは、ギルモア侯爵令嬢としてクリスと共に夜毎舞踏会に参加することになる。その度にレオンも舞踏会に参加しており、二人は逢瀬を繰り返した。そして、レオンはエスターに求婚し、一輪の白い薔薇を渡した。「その薔薇が枯れて散ってしまうまでに答えを出して欲しい」と言う。レオンの気持ちに答えても良いのかエスターが迷っていると、変装したアルが「本当に欲しいものができたなら、ちゃんと欲しいと言わないとダメだ」と助言する。エスターは、自分の心に素直になる決意を固めた。

クリスは、エスターの気持ちの変化を察し、エスターをお茶に誘って話をする。エスターとアルの母親のメグは、かつては黒薔薇城で働くメイドだった。その時にギルモア侯爵と出会う。しかし、妊娠していることがわかると、姿を消してしまった。昔のことを語るクリスは、どこか寂しげな表情を浮かべていた。次の舞踏会に参加したエスターは、自らレオンに話があると声をかけた。そして、「レオン、私と結婚してください」と求婚する。エスターは今は周囲に反対されていても、認めてもらえるように努力する道を選んだ。レオンもまた、一族にエスターとの結婚を承諾させるために奔走し、賛同を得ていた。こうして、阻む障害のなくなったエスターとレオンは結ばれた。

エスターの父親と吸血鬼の謀反

正式にエスターと結婚することが決まったレオンは、エスターの父親であるギルモア侯爵に会うため、スコットランドへ行く。しかし、エスターを連れていくつもりはなかった。その事を知ったエスターは、強引にでもレオンに付いて行くことにする。スコットランドに到着した二人を待っていたのは、以前エスターを襲ったエヴァと、エヴァの未来の夫を自称するイオンだった。クリスの命を受けて、エスターとレオンの護衛をしに来たとのことだ。かつて、吸血鬼たちは人間との共存を目指す派閥と、人間は食糧でしかないと考え、共存を否定する派閥に分かれて争った。共存派の筆頭がクリスで、否定派の筆頭がギルモア侯爵である。そのギルモア侯爵のお膝元であるスコットランドで、吸血鬼ハンターのレオンが歓迎されるとは思えない。エスターは、「自分がレオンを守るのだ」と固く拳を握る。

エスターの決意を感じ取ったレオンは、エスターに人間と吸血鬼の事情について話をする。人間と吸血鬼の間で協定が交わされ、人間の代表としてウィンターソン家は両者の橋渡しをする役目を担っていた。その一つとして行われていたのが、吸血鬼の王との定期的な晩餐会である。レオンが初めて晩餐会に出席した時、クリスはドレス姿でレオンを驚かせた。その後、交流を繰り返して、レオンはクリスを兄のように慕っていた。しかし、ウィンターソン家に悲劇の一夜が訪れる。邸が燃える中、逃げるレオンが目撃したのは、吸血鬼に惨殺される両親と、吸血鬼たちを従えるクリスの姿だった。以降、レオンによってウィンターソン家は再建されたものの、晩餐会は開かれていない。

翌日、エスターとレオンはギルモア侯爵の邸へ向かう。父親と顔を合わせることに不安を感じていたエスターだったが、ギルモア侯爵であるジェイル・プリムローズは、エスターに会えるのを心待ちにしていた。そして、エスターに自分とメグについて話をする。当時、吸血鬼の中でもクリスと同等の立場にあるジェイルは、度々黒薔薇城を訪れていた。その際に、黒薔薇城でメイドをしていたメグに出会い、一目惚れをした。以降何度もメグに会いに行く。そうして、メグもジェイルに好意を持つようになった。しかし、周囲はそれを良しとしない。人間との共存を否定する派閥の代表であるジェイルの伴侶が人間であることは、ジェイルの配下たちに認められなかったのだ。さらにその頃、メグはジェイルの子供を妊娠していることに気づき、姿を消すことにした。ジェイルの配下たちに子供の存在を知られると危険だと考えたからだ。ジェイルは必死にメグを探した。その過程でメグがエスターとアルを出産したことも知った。そして、メグが亡くなったことを知ったその時から、ジェイルが血液を口にすることはなくなった。ジェイルは、メグを守れなかったことを悔やみ、生きることを放棄したのだ。話を聞いたエスターは、ジェイルを抱きしめて涙を流す。

話が終わって一息つき、ジェイルが紅茶を飲むと、突然吐血して倒れてしまう。紅茶の中には、吸血鬼の命を奪う銀の粒が入っていた。ジェイルの秘書のアーサー・マクドナルドは、レオンがジェイルを毒殺したと言って、レオンを牢屋に繋ぎ、エスターたちを軟禁する。けれど、この事件の真犯人はアーサーだった。ジェイルに叛逆し、クリスを排除することで人間と吸血鬼の平和を脅かそうとしている。ウィンターソン家の悲劇もまた、アーサーによる企ての一部だった。レオンが見たクリスは、クリスに変装したアーサーだったのだ。エスターは、アーサーの思惑通りにことが運んでいるフリをして、ジェイルに自分の血を飲ませ、その命を繋ぎとめた。また、クリスの協力を得て、レオンを助け出すことに成功する。アーサーとその配下の吸血鬼たちに勝機はない。最後は回復したジェイルがアーサーの首を刎ね、終結した。

アルジャーノンの真意とエスターの運命

アーサーの起こした一連の騒動が終結し、エスターはしばらくの間ギルモア侯爵の邸で過ごした。その間にエスターとジェイルは交流を深め、親子の愛情を育んだ。クリスもギルモア侯爵邸に足繁く通い、メグが姿を消してから疎遠になっていたジェイルとの交流を再開する。エスターを中心に、皆が幸福を感じていた。そんな中、皆に祝福されてエスターとレオンは結婚式を挙げる。アルは、エスターと顔を合わせることはなかったが、遠くからエスターの幸せそうな姿を見守っていた。

結婚式から程なくして、レオンはアルが黒薔薇城からいなくなったという情報を入手する。それはエスターの耳にも入り、二人で黒薔薇城を訪れる。エスターは、アルが黒薔薇城にいることに気づいていたのだ。アルがエスターに会うことを願っていないと察し、気づかないフリをしていた。しかし、アルがいなくなったと聞いたエスターは、なぜいなくなったのかとクリスを詰問する。そしてクリスが語ったのは驚愕の真実だった。アルは、心臓の病を患い、もう長くは生きられない体だったのだ。そのため、アルは黒薔薇城でダンピールの中の吸血鬼の力を呼び起こし、生きながらえる研究をしていた。

何か手掛かりはないかと、クリスがアルの研究室の中を探し、1枚のメモを発見する。そこには、ダンピールの生態研究をしているサリンジャー博士の名前が書かれていた。エスター、レオン、クリスの3人はサリンジャー博士の家を訪ねる。すると、博士は「アルジャーノンは、1週間前に病で死にました」と告げた。エスターたちがアルの棺の元へ行くと、棺の中からアルが起き出してくる。驚くエスターに、アルは「これが自分の研究の成果だ」と言う。研究によって、吸血鬼として蘇ることができたのだ。エスターは泣いて喜んだ。しかし、レオンとクリスの表情に喜びはなかった。アルの真意を理解し、エスターに真実を隠す。

その後、エスターたちはサリンジャー博士の家に滞在することになる。家には博士の他に、モニカという吸血鬼の女性がいた。モニカは、対外的には博士の娘ということになっているが、本当は博士の妻だった。その話を聞いたエスターは、自分の両親と同じなのだと思った。しかし、それは違った。モニカは元はダンピールで、15年前に死んで吸血鬼として蘇った。アルが蘇ったのも、研究の成果ではない。死んだら吸血鬼として蘇るのが、ダンピールの理だとモニカに教えられたエスターは、愕然とする。アルの本当の研究は、ダンピールが死後吸血鬼化しない方法を探すことだった。エスターが真実を知ることなく、人として死ねるように真実を隠してきた。しかし、モニカによって真実を教えられたエスターは、なぜリチャードたちウィンターソン家の一族たちがエスターを認めたくなかったのかを理解する。吸血鬼ハンター一族の当主の妻が吸血鬼になるなど、認められるはずもない。エスターはレオンに「その時は必ず、私のこの首を、あなたの手で刎ねてくださいね」と悲しい約束を交わす。そうすることで、エスターは未来の不安を受け入れることができた。

モニカには、エスターの気持ちがわからなかった。自分は吸血鬼になって、サリンジャー博士と幸せに生きているのに、なぜエスターは吸血鬼になることを拒否するのかと、疑問に思っていた。そして「あなたもすぐに幸せになりましょう」と言って、エスターにナイフを突き立てる。すぐにレオンが傷口を押さえるが、出血は止まらない。アルとサリンジャー博士が処置をするも、大量の出血によって危険な状態に陥っていた。そこでアルは、一つの薬を取り出す。アルが研究を重ねて作り出した、吸血鬼化を抑制する薬だ。この薬を投与してエスターが助からなければ、今生の別れになる。レオンはエスターなら必ず生きてくれると信じ、薬の投与に同意を示した。

生死の境を彷徨うエスターは、夢を見ていた。メグとレオンの両親と共にお茶会をしている。レオンの母は、「まぁ可愛らしい。このブローチをあげましょう」と言って、エスターにブローチを渡す。その時、エスターは自分がモニカにナイフで刺されたことを思い出した。「私戻らなきゃ。レオンが待ってるわ」と言うと、突然エスターとメグたちの間に川が流れる。エスターは意を決して、メグたちに背を向けて走り出した。そうして、エスターは吸血鬼ではなく、ただの人間として息を吹き返した。皆が安堵の息を漏らす。エスターの手には、夢の中でレオンの母からもらったブローチが握られていた。

エスターが生還した後、アルは「せっかく健康な体になったことだし、ちょっと旅に出てくるよ」と言って旅立った。モニカはエスターを害した罪で、サリンジャー博士と共に、人里離れた土地に移住することになった。そしてレオンは、吸血鬼の王とウィンターソン家の晩餐会を復活させる。ウィンターソン家の悲劇以来、初めて開かれる晩餐会にはエスター、レオン、クリス、ジェイルの4人が参加した。「クリスが両親を惨殺した」というレオンの誤解も解け、レオンとクリスは昔の兄弟のような関係に戻りつつある。また、アルはエスターに見つからないように、晩餐会の様子を見守っていた。吸血鬼になったアルの血液を大量に輸血したエスターが、吸血鬼の力に目覚めていないかを確かめにきたのだ。

メグが亡くなった後、アルは一人で黒薔薇城を訪れていた。そして、人間と吸血鬼の研究をしていたクリスに、自分の身を研究サンプルとして差し出す代わりに、2つの条件を要求する。1つ目が、エスターには決して手を出さないこと。2つ目が、アルに「ダンピールを死後吸血鬼化させない研究」をする環境を与えることだった。結果として、アルは研究を完成させ、吸血鬼化を抑制する薬を作り上げた。しかし、自分の病を治すことはできなかった。そのため、アルは自分が吸血鬼化して、エスターの死を見守ることにする。「手の掛かる妹だ」と文句を言うアルだが、その表情は嬉しそうで、妹を大切に思う兄の顔だった。この先アルは、エスターが死ぬまで、レオンと共に人として幸せに暮らす様子を見届ける。

『黒伯爵は星を愛でる』の登場人物・キャラクター

主要人物

エスター・メイフィールド

CV:竹達彩奈
本作の主人公。
人間のメグと、吸血鬼のジェイルの間に生まれたダンピール。アルの双子の妹。
ロンドンの下町でメグとアルと3人で暮らしていた。半年前にメグがなくなり、アルも出ていってしまい、一人になってしまう。
自分がダンピールであることや、吸血鬼の存在は知らなかった。自分が探知できるのは「幽霊」だと、幼い頃からメグに教えられていた。
努力家で、明るく前向きな性格をしている。その一歩で、鈍感で天然な面もあるため、レオンがエスターに好意を示しても気づかない。自分は吸血鬼を見つけるための、お飾りの妻だとずっと思っていた。
苦手なものは雷。
男装して舞踏会に参加した際には「エルマー」と名乗っていた。

レオン・J・ウィンターソン

CV:櫻井孝宏
ヴァレンタイン伯爵の爵位を持つ貴族。代々続く吸血鬼ハンターの家系であるウィンターソン家の当主。容姿端麗で、社交界では「白薔薇様」と呼ばれている。
子供の頃、ウィンターソン家が吸血鬼の襲撃を受け、その際に両親を亡くした。ロンドンへ逃げ延びたレオンは、エスターたち親子に助けられる。ジョンという偽名でエスターたちと生活するうち、絶望の淵から自分を救ってくれたエスターに好意を抱くようになる。その後、ヴァレンタイン伯爵位を継ぎ、ウィンターソン家を再建した。10年以上が経ってからエスターを発見し、妻に迎えた。しかし、エスターが自分のことを覚えていなかったために、脅すような態度をとってしまう。その後も、レオンの好意に全く気づかないエスターに意地悪をしたり、強引に迫る。
周囲からは非常に優秀で完璧だと言われているが、エスターが来る前までは淡々とした様子だった。エスターが来てからは声を上げて笑うようになり、嫉妬や独占欲なども見せるようになった。

ウィンターソン家

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