惑星のさみだれ(漫画・アニメ)のネタバレ解説・考察まとめ

『惑星のさみだれ』とは、地球の未来を懸けた超常の戦いに巻き込まれた青年の葛藤と成長を描いた、水上悟志による漫画作品。水上にとっては2本目の長期連載作品であり、そのクオリティの高さから漫画家としての彼の評価を確固たるものとした出世作となった。
大学生の雨宮夕日は、ある日言葉をしゃべるトカゲから「世界を救う騎士」に選ばれたと告げられる。一笑に付す夕日だが、彼が守るべき姫と同じく騎士に選ばれた人々、そして倒すべき敵の存在を知って信じざるを得なくなる。戸惑い、困惑し、夕日は戦いの中で成長していく。

夕日の祖父が事故死したとの連絡があり、葬儀のために彼は実家へと赴くこととなる。「騎士の命がかかった願いによって病を治したのに、このような理不尽が許されていいのか」とノイは憤るが、夕日は「誰だっていつかは死ぬ」として祖父の死を受け入れようとしていた。

その日、夕日は夢の中でさみだれと共にアニマに出会い、彼女から「試練を乗り越えてみせろ」と挑発される。さみだれに促されてアニマの用意した試練に臨んだ夕日は、そこで“生前の時間軸”から呼び出された半月や稲近と出会う。

「よく分からないが君を倒すために呼ばれたらしい」と身構える半月は、かつて夕日の前で披露したままの技を振るって彼を翻弄。対して夕日は、自身の掌握領域を発展させた新技バビロンで対抗し、ついに半月に一撃を入れる。

素直に負けを認めた半月に、夕日は「もし自分が泥人形との戦いで死にそうになっても助けないでほしい」と要求。一方の稲近は別に夕日に襲い掛かることもなく、ただ昴や雪待が元気かどうかだけ尋ねて彼を送り出す。

かくして試練を乗り越えた先には、アニマとビスケットハンマーが待っていた。なぜアニマの試練の先にビスケットハンマーが存在しているのか分からず、夕日は呆然とその巨大な影を見詰める。

その頃、南雲たちはマイマクテリオンこと11体目の泥人形と交戦。幻獣の騎士すら翻弄するすさまじい力と耐久力に苦戦する中、マイマクテリオンは「つまらない」と言って突然戦闘を放棄する。10日後、自分が満足するような戦いができなければ騎士たちの家族や交友のある者を皆殺しにする旨を宣言し、マイマクテリオンは撤退する。

指輪の騎士たちがそれぞれに対策を練る中、田舎から戻った夕日も八宵との模擬戦を繰り返す。そこで八宵は「夕日とさみだれがビスケットハンマーを食い止めた後に地球を破壊する」つもりでいることを知っていると打ち明け、なんとしてもそれを止める覚悟であること、それが終わった後にまだ自分と夕日が生きていたら付き合ってほしい旨を彼に告げる。突然の告白に夕日は困惑し、「考えておきます」と言葉を返す。

そしてやってきたマイマクテリオンとの決戦で、騎士たちはそれぞれに力を発揮。マイマクテリオンに少しずつダメージを与え、風巻が作り出した泥人形3体と相打ちの形で撃破される。残る泥人形が1体となったところで、夕日は自身がアニマの試練の中で発見した事実を伝えるべく、仲間たちにビスケットハンマーを見上げるよう伝える。

いくつもの試練と戦いを切り抜け、なお勝利への希望を抱く今の彼らには、ビスケットハンマーの隣に浮かぶ巨大な物体が見えた。それこそはアニマが用意した、対ビスケットハンマー用カウンター小天体兵器ブルース・ドライブ・モンスターだった。

「神」に抗う者

アニマとアニムスは、32世紀の地球で生まれた双子の兄妹だった。
ある時2人は月面旅行用シャトルの爆発事故に巻き込まれ、無傷で生還。身寄りのない2人は、これからどうするか決まるまで、衛星軌道上の病院で入院生活を送る。

しかし、2人は強大な力を持つサイキッカーで、事故もアニムスが原因だった。院長から養子にならないかと誘われたアニマは、「普通の人間として生きよう」と提案し、アニムスも渋々承諾する。ところが、院長は2人がサイキッカーと知っており、養子に誘ったのも強大な力を調べたい一心でのことだった。

彼から称賛されたアニムスは、自分は超越者なのだと増長。超能力を封じる約束を返上し、病院が収まっている衛星を、さらには地球を破壊する。その際に生じた時空の歪みを利用すれば過去へと戻れると気付いたアニムスは、「宇宙の始まりを見たい」と時間をさかのぼりながら地球を砕く。

アニムスを止めなければと考えたアニマは、彼に「12人の騎士と12体の泥人形の戦い」というゲームを持ち掛け、密かにブルース・ドライブ・モンスターを製造。アニムスの野望を止められる力を持つ騎士たちを求めて戦い続けた。

そして現代。新たな契約者に幼いさみだれを選んだアニマは、自分たちのように入院生活を送る彼女に「叶えたい願いはあるか」と問う。「外に出たい」と答えたさみだれを連れて病院を抜け出すと、彼女は外出に興奮して走り出し、猛犬に近づこうとすると見知らぬ少年に止められる。この少年は、両親と暮らしていた頃の夕日だ。

夕日に守られ、病院の外を満喫したさみだれと共に、アニマは病院へと帰還。今のはサービスだとした上で、改めて願いを問うと、「夕日にもう一度会いたい」と答える。これを彼女の願いとした上で、「この時代の騎士たちとなら、アニムスを止められるかもしれない」との予感する。

最後の戦い

ついに獣の騎士団と泥人形、アニマとアニムスの、地球の命運を賭けた最後の戦いがやってくる。
アニムスによって作り出された孤島へ転移させられた夕日たちは、山のような巨体を持つ最後の泥人形と交戦。全員の掌握領域を合わせた必殺技「願い叶う光」で撃破する。

アニムスはビスケットハンマーを発動するも、アニマからブルース・ドライブ・モンスターの発動を委ねられた夕日、そして両者が拮抗して力の弱まる瞬間を狙っていたさみだれの一撃によって粉砕される。アニムスは驚くも、地球を破壊することを諦めなかった。邪魔者を排除した上で新たなビスケットハンマーを作り出すことを宣言し、獣の騎士団に襲い掛かる。

強力なバリアに阻まれた夕日とさみだれが合流できない中、獣の騎士団は力を尽くしてアニムスに応戦。
仲間と共に戦う道を選んだ太陽が治癒し、風巻は13体目の泥人形を創造した。三日月が我が身を盾に昴や雪待を守って南雲が蹴りをアニムスに叩き込む。アニマがトドメの一撃を放ち、ついにアニムスは倒された。

しかし「さみだれによる地球の破壊」の始まりでもあった。さみだれは獣の騎士団の前で堂々と宣言し、彼女を守るように夕日が立つ。
幻獣の力を持つ南雲と八宵を投げ飛ばし、風巻を締め落とすと「阻止したい者はかかってきてください」と言う。それは「さみだれを止めるのは自分でありたい」という意志だった。

夕日の意志を察し、援護に徹する南雲達。彼が最後の最後には自分を裏切ることを察し、静かに夕日に向けて拳を振るうさみだれ。この時のために全てを用意してきたのに、圧倒的な力に翻弄される夕日。
かつての仲間、かつての主従同士の戦いの中でさみだれを止めるために新たな力を欲する。強い思いはノイを幻獣へと進化させる奇跡を起こす。それでも夕日の力は、さみだれに届かなかった。

もはや勝負は決したと地球の破壊に取り掛かるさみだれだったが、夕日は死に物狂いで追いかけ、必死に食い下がる。彼がさみだれを阻止しようとするのは、「愛するさみだれと共にもっと生きたい」という譲れない願いのためだった。

さみだれは死を待つだけしか知らず、地球を破壊して全てを終わらせることを考えていた。しかし、満身創痍の夕日が差し出す手と死力を尽くして彼を援護する獣の騎士団の姿を見て、「この地球で彼らと共に生きたい」と想いを抱く。夕日の手をさみだれがつかんだその瞬間、壮絶な戦いはついに終わりを迎える。

それぞれの10年

戦いが終わり、アニマは獣の騎士団から不要となった従者と超能力を回収した。決着をつけようと夕日と三日月が殴り合う中、南雲たちは従者との別れの時を過ごす。アニマが気を利かして夕日と三日月は一番最後に従者と別れる形となった。
別れを惜しみつつ、超能力を失っても拳を交えた。南雲たちを大いに呆れさせつつも見守られる。2人の勝負は、最終的に三日月が紙一重で上回る形で決着。

そして10年。夕日は父を継ぐように刑事になり、私立探偵になった南雲と協力して事件を追っていた。事務所では昴も働き、時折遊びに来る三日月とは友達以上恋人未満の関係を続ける。
花子は飲食店を開き、太陽はアルバイトをしつつ中学校の教師になった雪待と交際。風巻は大学教授になり、八宵は2年前に彼と結婚して主婦になる。それぞれに懸命に人生を歩み、生きることを謳歌する。

超能力を失ったさみだれは、病を克服し、海外での療養生活を経て日本に帰国。夕日とかつての仲間たちと再会。10年前、合宿で訪れた浜で快気祝いが催され、主役のさみだれと共に夕日も参加する。

さみだれの快復を誰よりも喜ぶ夕日は、彼女による地球の破壊を阻止して本当に良かったと思った。一方で「それでもこの星は彼女のものだ、地球の全ては君のためにある」と傲慢でロマンチックな言葉を心の中で語った。

『惑星のさみだれ』の登場人物・キャラクター

姫と指輪の騎士

雨宮夕日(あまみや ゆうひ)

CV:榎木淳弥/柿原徹也(ドラマCD版)

本編の主人公。ごく普通の大学生だったか、ある日自らをノイ=クレザントと称する謎のトカゲから「指輪の騎士に選ばれた」と告げられる。当初これを自身の幻覚か幻聴と捉え、ノイが本当にしゃべることができると知った後も「自分には関係がない」とのスタンスをなかなか崩さなかった。
祖父から虐待された経験を持ち、合理的かつ周囲に壁を作りがちな性格は自分の心の傷に触れられたくない思いの裏返しである。さみだれとの出会いに大きな影響を受け、彼女のための“騎士”として成長していく。

朝日奈さみだれ (あさひな さみだれ)

CV:大空直美/水樹奈々(ドラマCD版)

高校一年生の少女にして、精霊と契約を交わした騎士たちの守るべき“姫”。同時に、「愛する世界を永遠に自分の物にしたい」との想いがために、世界の破壊を望む“魔王”。
明朗快活で活力に溢れ、小柄ながら呆れるほどの大食漢。幼い頃から病に苦しんでいたが、姫として精霊と契約した際に健康な体を手に入れる。夕日たち騎士からすれば守るべき存在ではあるが、自ら前線に立って泥人形相手に強大な力を振るうなど、戦士としても強力。「いずれ世界を破壊する」ことについては常々公言しており、騎士たちから案じられている。

東雲半月(しののめ はんげつ)

CV:岩瀬周平

犬の姿をした従者ルド=シュバリエと契約している騎士。28歳。姫ですら子供のようにあしらう古武術の達人で、裏社会では「風神」の異名で恐れられる人物。
「正義の味方」を自称し、騎士の中でも最強の存在として仲間たちを牽引する。氷雨に一目惚れし、熱烈なアプローチを繰り返すようになる。

東雲三日月(しののめ みかづき)

CV:佐藤元

カラスの騎士にして半月の弟。夕日とは同年代で、同じ大学に通っている。闘争心旺盛を通り越して戦闘狂の気質があり、どうしても勝てなかった半月を超えることを目標としている。
兄の死は「人間誰だっていつかは死ぬ」とあっさり受け入れるが、その彼が身を挺して守った夕日のことを「半月が命を捨ててお前を守ったということなら、お前の運命が半月を殺したということだ」として、その夕日を倒すことで間接的に半月を超えようと考えている。半月から習い覚えた技で自分を投げ飛ばしたさみだれに一目惚れし、様々な意味で夕日を悩ませる存在となる。

南雲宗一郎(なぐも そういちろう)

CV:稲田徹

馬の騎士。元刑事で身体能力に優れ、特に脚力を活かした立ち回りを得手とする。
騎士の中では最年長で、自分たちに課せられた使命の重さを理解し、強いリーダーシップを発揮して仲間を導いていく。半月のことも知っていたらしく、単独で泥人形を打ち倒すほどの実力者だった彼の脱落を惜しんでいた。

YAMAKUZIRA
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@YAMAKUZIRA

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