惑星のさみだれ(漫画・アニメ)のネタバレ解説・考察まとめ

『惑星のさみだれ』とは、地球の未来を懸けた超常の戦いに巻き込まれた青年の葛藤と成長を描いた、水上悟志による漫画作品。水上にとっては2本目の長期連載作品であり、そのクオリティの高さから漫画家としての彼の評価を確固たるものとした出世作となった。
大学生の雨宮夕日は、ある日言葉をしゃべるトカゲから「世界を救う騎士」に選ばれたと告げられる。一笑に付す夕日だが、彼が守るべき姫と同じく騎士に選ばれた人々、そして倒すべき敵の存在を知って信じざるを得なくなる。戸惑い、困惑し、夕日は戦いの中で成長していく。

『惑星のさみだれ』の概要

『惑星のさみだれ』(ほしのさみだれ)とは、地球の未来を懸けた超常の戦いに巻き込まれた青年の葛藤と成長を描いた、水上悟志による漫画作品。
水上にとっては2本目の長期連載作品であり、その物語の構成力、キャラクターの魅力、総合的なクオリティの高さから、漫画家としての彼の評価を確固たるものとした出世作ともなった。根強いファンに支えられ、完結から12年後となる2022年にアニメ化されることが発表された。

大学生の雨宮夕日(あまみや ゆうひ)は、ある日自らをノイ=クレザントと称する謎のトカゲから「世界を救う騎士」に選ばれたと告げられる。当初これをまったく信じていなかった夕日だが、彼が守るべき姫である朝日奈さみだれ (あさひな さみだれ)、自分と同じく騎士に選ばれた東雲半月 (しののめ はんげつ)や南雲宗一郎 (なぐも そういちろう)、そして倒すべき敵である泥人形の存在を知ってノイの話を信じざるを得なくなる。戸惑い、困惑し、時に傷つきながらも、夕日は人として騎士として戦いの中で成長していく。

『惑星のさみだれ』のあらすじ・ストーリー

姫と騎士とビスケットハンマー

天空の彼方に浮かぶ“地球を砕く槌”ビスケットハンマーを目の当たりにする夕日(右)。

大学生の雨宮夕日(あまみや ゆうひ)は、ある日ノイ=クレザントを名乗るしゃべるトカゲと出会う。曰く、地球は悪の魔法使いによって破滅の危機に瀕しており、夕日は食い止めるための指輪の騎士に選ばれたのだ。夕日はノイの話を信じられず一蹴した。

日常生活を送ろうとするが、悪の魔法使いが放った“泥人形”に襲われる。隣に暮らす少女がそれを倒すのを見て、ノイの話を認めるしかなくなる。少女は朝日奈さみだれで、「騎士」として選ばれた者たちが守るべき「姫」だ。

さみだれから、天体規模の巨大な槌「ビスケットハンマー」について聞く。さみだれの「この美しい世界を永遠に自分のものにしたいから、地球は私が叩き壊す」という破天荒な言動に魅了された夕日は、守り、戦うことを決意する。

祖父の虐待を受けて育った夕日は、「人を信じて殺されたお前の父のようにならないために、決して誰も信じるな」という言葉がトラウマだった。地球を壊すと言い切るさみだれに従おうとしたのも、トラウマから逃れたいとの思いがあった。

祖父が病気で余命いくばくもないと聞いた夕日は、見舞いに向かう。すまなかったと謝る祖父に、「楽になるつもりか」と激高する。しかし祖父も家族を失って苦しんだと気づいた夕日は、騎士の契約の代償として得られる権利で祖父の快癒を願った。

東雲半月の生き様

さみだれの下に戻った夕日の前に、騎士を名乗る東雲半月(しののめ はんげつ)と従者のルド=シュバリエが現れる。姫を子供扱いするほどの古武術の達人だった。未だに泥人形と戦うのも命懸けな夕日は、自分も同じような強さを手に入れられないか思案する。

一方で、夕日は「姫が最終的に地球を壊すつもりでいることは半月に伝えない方がいい」と判断。さみだれも了承するが、以前から2人の野望について問題視していたノイから痛罵されて口論になる。しかし後日ノイから「言葉が過ぎた」と謝罪され、夕日も手を挙げたことを謝る。

半月は、何故か夕日に興味があるらしく、たびたび周囲に現れる。夕日はなぜ自分を気にかけるのか不思議だった。彼は「以前に夕日のことを夢で見た」という。夢の中で出会った夕日は強かった。現実で再会して驚き、偶然か一種の予知夢か、運命なのかと考えていたらしい。半月は夕日とさみだれが何か隠していること、それが明らかになれば敵対することを察していたが、「強くなれ、ヒーローになってさみだれを守れ」と激励する。

さみだれの姉であり、大学の助教授をしている朝比奈氷雨(あさひな ひさめ)と出会い、一目惚れした半月は、気を引こうと足繁く通うようになる。朝比奈姉妹の父である朝比奈時雨(あさひな しぐれ)に気を揉まれ、半月と氷雨は少しずつ仲良くなる。やがて時雨は夕日と半月のことを認め、娘たちとの交流を見守るようになる。

「認められた」と喜んだ半月は氷雨を映画に誘う。氷雨も乗り気になっていたが、直後の泥人形との戦闘で半月は死亡する。夕日を庇って死んだ様は半月が憧れ、諦めていたヒーローの姿だった。

ヒーローの産声

半月の死は、夕日、さみだれ、氷雨の3人に衝撃を与えた。特に夕日は、半月の死をどう受け止めればいいか分からず、苦悩していた。

夕日の前に、3人の騎士が現れる。カラスの騎士東雲三日月(しののめ みかづき)、馬の騎士南雲宗一郎(なぐも そういちろう)、ヘビの騎士白道八宵 (はくどう やよい)。元刑事で最年長の南雲はリーダーシップを発揮し、騎士たちをまとめようとする。しかし、半月の弟の三日月は「強いヤツと戦いたい」という要求で引っ掻き回し、標的として夕日と南雲に目を付ける。

三日月が南雲に勝負を挑む一方、夕日は半月の死の罪悪感と恐怖に震え、まともに戦えない状態になった。それを見た八宵に諭される一方、ノイは彼女がヘビの騎士であることを妙に気に掛ける。前代の騎士たちの戦いで、ヘビの騎士はトカゲの騎士を庇って命を落としていた。

新たな泥人形が現れ、八宵は1人で立ち向かう。逃げるよう勧めるノイに、夕日は「今こそヒーローになりたい」と戦場にとどまる。ノイが八宵を気に掛けていることを察した夕日は、彼に“願い”を言ってほしいと懇願する。夕日の意志を察したノイは、「ヘビの騎士を助けてほしい」と涙ながらに訴える。

願いを受け取った夕日はノイの願いを叶えるために、苦戦する八宵の前に飛び出す。策も無く、勢いで飛び出したが、夕日は鮮やかな体捌きで泥人形を退ける。死の間際に、半月は「自分の技の全てを夕日に継承させる」と願いをルドに依頼していた。死しても仲間を想う気持ちを知り、半月に救われたことを痛感した。夕日は彼の死を受け入れて涙を流す。

獣の騎士の集結

集結する指輪の騎士たち。さみだれによって「獣の騎士団」と命名される。

半月の技を継承し、力を実感した夕日だったが三日月に叩きのめされる。半月の技は半月に最適化されたもので、夕日が使いこなすには修練が必要だ。技だけ継承しても半月には及ばないと判断し、三日月は興味を失う。一方、八宵は自分を助けてくれた夕日に好意を抱き、距離を縮めようとする。

そんな矢先、夕日たちは泥人形の製造者で地球破滅を画策するアニムスと遭遇する。アニムスは雑魚に用は無いとばかりに去る。敵が本格的に動き出したと察した南雲は残りの騎士を探して戦力の増強を図るが、まだ若い子供が含まれていると知り、巻き込むことに難色を示す。それでも、夕日や南雲の知らないところで命を落とした騎士がいることから、安全のためにも合流すべきと結論する。

黒猫の騎士風巻豹(しまき ひょう)。鶏の騎士星川昴(ほしかわ すばる)。亀の騎士月代雪待(つきしろ ゆきまち)。ネズミの騎士日下部太朗(くさかべ たろう)。カマキリの騎士宙野花子(そらの はなこ)。フクロウの騎士茜太陽(あかね たいよう)。夕日たちを加えた10人の騎士たちは、“さみだれによる地球の破壊”を知らないままアニムスに立ち向かう。

アニムスは風巻に自分と同じ匂いを感じ取り、夢の中でさみだれたちを裏切って仲間になるよう誘った。風巻は即答を避け、情報を引き出す。彼が時を遡りつつ世界を破壊し回っていること、最終目的が宇宙を創生した超越者と同等の存在となることを知る。情報を聞いた風巻は、唐突にアニムスに牙を剥く。

風巻は知的好奇心の権化で、その点でアニムスと似た性格だったが、決定的に違うのは「自分の知識は世界中の人々の幸せのために使いたい」と願っていることだ。風巻の攻撃にアニムスも舌を巻くが、彼の攻撃は突如現れた太陽で弾かれる。驚く風巻に、アニムスは自分のものだと彼を紹介するが、太陽は2人を「化け物だ」と吐き捨てる。夢から覚めた風巻は、太陽の様子を見ようと結論する。

“世界を救う”という明確な目標を見つけた彼の顔は、どこまでも晴れやかだった。

「全てを知る者」の戦い

夕日は、山中での作業中に埋められていた自分宛ての手紙を発見する。手紙の差出人は、秋谷稲近(あきたに いねちか)だった。秋谷は500年生きた仙人だったらしく、手紙を発見することも、自分が戦死していることも予知していた。

秋谷は、アニムスの双子の妹であるアニマが夕日に思惑を抱いていることを見抜き、警告のために手紙を残した。夕日がメッセージを受け取った頃、アニマの兄であるアニムスは次の攻撃に取り掛かる。

夏合宿

獣の騎士たちが泥人形との戦いに備える中、三日月が合宿を提案する。夕日たちは受け入れ、全員で夏合宿をする。合宿とは名ばかりで海や休暇を楽しむ一方、獣の騎士の人間関係に変化が訪れる。

さみだれと夕日が密談するところに通りかかった八宵は、“地球の破壊”を目論んでいることを知って困惑。三日月は好き勝手に振る舞っていたが、見兼ねた昴が面倒を見るようになり、デコボココンビになった。

そんな折、ヘカトンバイオンこと七つ眼の泥人形が出現。総出で倒そうと駆けつける獣の騎士団だったが、アニムスが現れ、夕日とさみだれを連れ去る。三日月もアニムスを倒そうと飛び出し、戦闘経験が薄い者だけが残される。

アニムスは、世間話をするかのように軽い調子でビスケットハンマーを振るう条件を語る。
アニマはビスケットハンマーの発動を阻害するため、アニムスに命を駒としたゲームを仕掛けていた。獣の騎士たちが全滅した時、真の力を解放し、地球を破壊する。世界を滅ぼす力を持ちながら、泥人形による騎士の抹殺に固執していたのは、ゲームのルールを守る必要があったからだ。

これを聞いたさみだれは、「地球を壊すのは自分だ」と言い、アニムスに襲い掛かる。その力は南雲たちやヘカトンバイオンも余波を感知できるほどで、相手が動きを止めた隙に騎士団の連続攻撃が決まる。アニムスは撤退し、ヘカトンバイオンは倒れ、合宿は終わる。

朝比奈家の葛藤

合宿が終了してしばらく経ったころ、夕日の部屋にさみだれが押しかけ、「泊めてほしい」と言う。普段の快活さがないことに夕日が戸惑っていると氷雨が現れ、2人の母の春子が帰っていること、微妙な間柄であることを説明する。

世界的に活躍している医者の春子は謎の奇病に長く苦しめられていた頃のさみだれを救うため、フランスで研究を続けていた。しかし、さみだれは「一番苦しくて心細かった時に近くにいてくれなかった母親」と思い、自分のためだったと分かっても受け入れられない。テコでも動かない構えのさみだれを見て、氷雨は外泊を許可する。

春子の研究の手伝いのためにフランスに行っていた氷雨も、さみだれの近くにいなかったことを悔やんでいた。朝比奈家の女性たちが相手のことを想ってすれ違い、傷つけ合っているとを知った夕日は彼女たちを引き合わせ、本音を吐露させる。荒療治だったが、さみだれたちの関係は一歩進んだ。

幻獣の騎士

突如夕日たちの前に姿を現した精霊アニマ(右)。

さみだれが晴子と和解の一歩を踏み出した頃、アニマが実体を獲得した。
馬の従者であるダンス=ダークをユニコーンに成長させ、南雲を幻獣の騎士に昇格させる。南雲は、飛躍的なパワーアップを遂げた。太朗や花子たちも修練を積んで新技を習得する中、夕日は焦りを感じる。

自分も幻獣の騎士にしてもらえないかと考える夕日だったが、かなりのエネルギーを要するらしく、アニマと直結しているさみだれは立ち上がれないほどに衰弱。エネルギーの補給で大量の食事を要求するアニマに振り回されることとなる。

勇者の遺したもの

アニムスは次第に獣の騎士団の排除に本格的に動き、南雲、風巻、昴と雪待を分断した。残った攻撃力の低い騎士たちに泥人形をぶつける策に出る。
泥人形相手に有効な攻撃を繰り出せずに苦戦する中、花子と彼女を庇おうとした太朗が倒れる。しかし太朗が騎士としての契約で交わした願いの力により、花子だけが生還する。

獣の騎士団が合流してから初めての死者が出て、それが太朗だったことに、一同は衝撃を受ける。それぞれの形で死を悼み、再び立ち上がろうと足掻く中、夕日は「力が欲しい。もう仲間が死ぬところを見るのは嫌だ」と強く考える。

その想いを感知したがごとくアニマが現れ、どことも知れぬ空間へと誘う。そこには仲間を守るための力を欲した八宵の姿があり、アニマは「どちらが幻獣の力を得るのか戦って決めろ」と言う。八宵は、いずれ2人を止めるために譲れないと考え、夕日を打ち倒す。八宵は幻獣の騎士となり、力を得られなかった夕日は不甲斐なさに打ちひしがれる。

三日月からも心配される中、彼らの前に変身能力を持つ11体目の泥人形が出現。警戒した夕日と三日月が即座に撤退し、騎士たちに情報を共有する。
一方で11体目の泥人形が太朗の姿に変化して花子に接触。心に深い傷を負った彼女は人気のない場所に連れ出される。だが花子は、本物の太朗ではないことを理解し、泥人形も学習を優先し去っていく。

花子は太朗をどれだけ愛していたかを再確認し、彼がつないでくれた命を守り続け、生き残ることを誓う。9体目の泥人形が再び現れた時、太陽以外の面々は喪服を着て集結。幻獣の力を得た八宵の力も加えて猛攻撃、花子の一撃でトドメを刺す。翌日、花子は自らの意志で太朗が歩もうとしていた料理人になる道を選択した。

YAMAKUZIRA
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