赤と黒(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『赤と黒』(あかとくろ)は、1954年のフランス、イタリア合作映画。19世紀中期にフランスで活躍した作家・スタンダールの同名小説を原作としたヒューマン・ドラマで、若き野心家の愛と破滅を、19世紀当時の世相を余すことなく反映しながら描いている。実際にフランスで発生した「ベルテ事件」を下地とした作品として人気を博し、映画のほかにテレビドラマやラジオドラマ、舞台などの多彩な媒体で取り扱われてきた。

ジュリアンが入学したブザンソン神学校の校長。彼に聖職者としての適性がないと判断し、ラ・モール侯爵家へ秘書として紹介した。

エリザ(演:アンナ・マリア・サンドリ)

レナール家に仕える小間使いの少女。密かにジュリアンに想いを寄せていた。

シェラン神父(演:アンドレ・ブリュノ)

ジュリアンの師匠のような存在。ピラール神父とは30年来の友人同士でもある。

『赤と黒』の用語

レーナル家

フランスの田舎町、ヴェリエールを治める町長の家。子供たちの家庭教師としてジュリアンを雇用した。

ラ・モール侯爵家

ジュリアンが秘書として雇われ、身を寄せていたパリの大貴族の家。

ブザンソン神学校

レナール家を出たジュリアンが入学した神学校。しかし入学後ほどなくして「聖職者の適性なし」として、ラ・モール侯爵家を紹介されている。

『赤と黒』の名言・名セリフ/名シーン・名場面

裁判で弁護を拒否するジュリアン

マチルドとの婚約が破棄となり、そのきっかけを作った不倫の交際相手であるレーナル夫人に憤りを覚えたジュリアンは、彼女を殺害しようと試みるがこれに失敗。逮捕されてしまう。恋人のマチルドは方々に手を尽くし、ジュリアンを守ろうと身重の体で奮闘するが、ジュリアンは「自分の力で裁かれたい」「自分の言葉で語りたい」という自己中心的、かつ野心的な動機からその弁護を拒否し、不遜な態度が祟って死刑を宣告されてしまう。誰から見ても聡明で才能あふれる青年で、ここに至るまで弱点をあまり見せてこなかったジュリアンだが、若さゆえの無謀さや浅慮も持ち合わせていることを匂わせている。
こうして死刑を宣告されたジュリアンは、最後の最後で自分はレーナル夫人への愛を捨てきれていなかったことを受け入れ、傷つけてしまった彼女への贖罪として、死へと歩みを進めていった。その死は、矜持と愛、野心と愚かさが交錯した、一人の青年の痛切な結末であった。

『赤と黒』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

実際にフランスで発生した「ベルテ事件」が本作のモデル

原作小説『赤と黒』の著者、スタンダール

本作の原作小説である、スタンダールの『赤と黒』は、実在する人物とその人物の引き起こした事件をもとに書かれている。
フランスのグルノーブルの神学校に通うアントワーヌ・ベルテという男は、ミシュー家の家庭教師として雇われ、その家の夫人と道ならぬ恋をするが、これが原因で家庭教師の職を失ってしまう。
その後、他の家に家庭教師として迎えられた彼は、その家の令嬢であるヘンリエットと恋仲となるが、ミシュー夫人からの手紙が新しい職場に届いたことで、結局仕事も恋も再び失うこととなった。ベルテは怒りを抑えきれなくなってしまい、これはマダム・ミシューへの逆恨みに発展した。
ベルテは教会のミサに向かうミシュー夫人を追跡し、その教会内で彼女に向かって発砲。しかし、その弾丸はミシュー夫人の命を奪うことはなく、またその直後に試みた彼の自殺も失敗に終わる。

『赤と黒』のジュリアンは裁判であらゆる弁護を拒否し、自分の気持ちを自分の言葉で伝えることに拘ったが、ベルテはジュリアンとは異なり、法廷では異常な弁護を試みたと伝えられている。
検察側はベルテの言い分に対し、「彼は、自分のプライドが描きだした目標には到達できそうもない、ということを理解するのが遅すぎました。希望を奪われた被告人は、そのまま消えていくしかありません。しかし彼の怒りは、彼が自分のために掘った墓穴に犠牲者までも引きずって行こうとしたのです」と徹底的に反論。
結果的に死刑の判決が下され、1828年2月、ベルテはグルノーブル市内の広場でギロチン刑に処せられた。
この事件から着想を得たスタンダールは「ジュリアン・ソレル」という、多感で情熱的、愛に身を滅ぼす野心家の青年を生み出したという。

様々な由来が推測されているタイトル『赤と黒』

端的ながら、なかなかインパクトがある本作のタイトル『赤と黒』だが、これは当時のフランスの軍人の服(赤)と聖職者の服(黒)から名付けられたといわれている。この軍人と聖職者というのは、いずれも主人公のジュリアンが立身出世のために志していた職業だ。
また、この『赤と黒』を「ルーレットの回転盤の色ではないか」と指摘する声もあり、出世に賭けようとするジュリアンの人生を博打にたとえているのではないか、という説も浮上している。しかし、原作の著者であるスタンダールは題名の由来について特に明かすことはしていないので、いずれも推測の域を出ない説となっている。
しかしこの一方、原作小説の本文には「Amour en latin, faict amor ; Or donc provient d'amour la mort, Et, par avant, soulcy qui mord, Deuil, plours, pièges, foifaitz, remords.」(訳:ラテン語で愛は「amor」という。ゆえに愛から死が生まれ、そしてをの先に、噛みつく悲しみ、喪、涙、罠、渇き、後悔が来るのだ。)という一節が登場している。このことから、タイトルの『赤と黒』は「愛と死」を象徴しているのではないか、という推測もある。
このように様々な由来が推測されている『赤と黒』という意味深な作品タイトルだが、ハッキリとした正解は提示されていない。しかしそれは、映画を見た視聴者や、原作小説の読み手によって様々な解釈ができるということでもある。
前例がないほど自我が強い主人公の強烈な一生ゆえに、出版当時は理解されなかったという『赤と黒』。「分かってくれる少数の幸福な読者にささげる」とスタンダールが語ったこの物語は、フランス文学の金字塔といえることは間違いない。

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