赤と黒(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『赤と黒』(あかとくろ)は、1954年のフランス、イタリア合作映画。19世紀中期にフランスで活躍した作家・スタンダールの同名小説を原作としたヒューマン・ドラマで、若き野心家の愛と破滅を、19世紀当時の世相を余すことなく反映しながら描いている。実際にフランスで発生した「ベルテ事件」を下地とした作品として人気を博し、映画のほかにテレビドラマやラジオドラマ、舞台などの多彩な媒体で取り扱われてきた。

『赤と黒』の概要

『赤と黒』(あかとくろ)は、1954年のフランス、イタリア合作の映画。19世紀中期にフランスで活躍した作家・スタンダールの同名小説を原作としたヒューマン・ドラマで、当時の腐敗した支配階級などの世相もふんだんに盛り込んだストーリーで人気を博した。クロード・オータン・ララが監督を務め、主人公のジュリアンを演じるのは、「フランスのジェームズ・ディーン」の異名を持ち、1950年代フランスの美を象徴するとも評されたジェラール・フィリップ。尺の異なる複数の版が存在しており、1954年に日本で初めて公開されたのは144分の短縮版だったが、2009年に主演のジェラール・フィリップの没後50周年を記念した185分のオリジナル版に、未公開シーン7分を加えた192分の完全版が制作され、デジタルリマスターされたものが公開されている。
腐敗した世の中に一石を投じるべく立身出世を目指す美貌の青年と、彼を取り巻く女性たちが愛に溺れ、破滅を辿るまでの過程がドラマチックに描かれている。野望を胸に山村を飛び出したものの、予想だにしなかった出来ごとに人生を阻まれて悩む主人公・ジュリアンの姿は、原作出版や映画化から長い時間を経てなお、多くの人々から共感を得ている。
実際にフランスで発生した「ベルテ事件」をモデルとして書かれており、映画のほかにテレビドラマ化、舞台化もなされ、日本ではラジオドラマや宝塚歌劇団などでも放送、上演される人気作品となっている。
映画としての初出は1928年にドイツのジェンナロ・リゲリ監督が手掛けたもので、イワン・モジューヒン、リル・ダゴファーといった当時の人気若手俳優が主演を務めた。1993年と1997年にそれぞれイギリス、フランスでテレビドラマ化されて人気を博し、フランスでは2016年に『Le Rouge et le Noir, l’Opera Rock』の題でロックオペラ化もなされている。

『赤と黒』のあらすじ・ストーリー

美貌の青年の野望

貧しい製材屋の末の息子であるジュリアン・ソレルは、知性と美貌を兼ね備え、強い野心を抱く青年だった。当初は崇拝しているナポレオンのように軍人として出世することを目標としていたジュリアンだが、世の中は王政が再び力を増していた。そこで聖職者として出家しようと考えた彼は、毎日仕事の合間に勉強を続けるのであった。
ある日明晰な頭脳を買われたジュリアンは、町長を務めるレーナルの家に雇われ、子供たちの家庭教師の仕事をすることになった。レーナルの夫人に見初められたジュリアンは、夫人との不倫関係を結ぶようになる。初めは社会勉強と思っていたジュリアンだが、やがて真剣に夫人を愛するようになっていってしまった。
しかしその関係は長くは続かなかった。嫉妬した人々の密告などによって噂は広まり、町中に2人の不倫関係が知れ渡ってしまったのだ。
その騒ぎがどんどん大きくなっていったため、ジュリアンは家庭教師を辞し、神父の勧めた神学校に入ることとなる。

新たな恋人との出会い

神学校に入学したジュリアンは、校長のピラール神父から「聖職者には不向き」と判断されてしまう。しかし、明晰な頭脳と類まれな才能に恵まれていた彼は、パリの高位貴族であるラ・モール侯爵の秘書として推薦されることになった。
新たな職場となった侯爵家の令嬢であるマチルドは、ジュリアンを下に見て失礼な態度を取っていた。プライドを踏み躙られたジュリアンは、いつかマチルドを征服することを密かに誓う。
しかし、マチルドは自分の周囲の貴族たちとは違うジュリアンの情熱と才能に惹かれていく。こうして次第に2人は愛し合うようになっていった。
やがて、マチルドはジュリアンの子を妊娠。2人の関係はマチルドの父で、ジュリアンの雇用主でもあるラ・モール侯爵に知られることになってしまった。当然のことながら、侯爵は高位貴族と庶民という身分差なども理由に、2人の結婚に猛反対する。
しかし、マチルドが家を出ることも辞さないという強い態度で応戦したことから、ジュリアンをある貴族の隠し子ということにし、渋々承諾の姿勢を取るのであった。
しかし、侯爵は秘密裏に陸軍騎兵中尉に連絡を取り、レーナル夫人のところにジュリアンの身元照会を要求する手紙を送っていたのであった。

愛憎の招いた悲劇

ジュリアンとの不倫の関係を深く反省し、贖罪する日々を送っていたレーナル夫人は手紙を受け取ると、教会の司祭に言われるがまま「ジュリアンは貴族の妻や娘を誘惑し、自分の出世の踏み台にしている」と書いてラ・モール侯爵に送り返した。
返事を受け取った侯爵は当然のことながら激怒し、ジュリアンとマチルドの結婚を取り消してしまうのであった。レーナル夫人が自分を裏切ったことに憤りを覚えたジュリアンは故郷に戻り、レーナル夫人を射殺しようと目論む。
夫人にケガを負わせたものの殺害には失敗したジュリアンは捕らえられ、その後の裁判での態度が不遜だったこともあり、死刑を宣告されてしまう。マチルドは愛するジュリアンを救うために手を尽くしたが、ジュリアンは法廷であらゆる弁護を拒否するのであった。
そしてレーナル夫人は獄舎を訪れて心からジュリアンに謝罪をし、2人は抱擁を交わす。夫人からの手紙は本心からのものでなく、未だに彼女が自分を愛していると知ったジュリアンは、自身が彼女を殺そうとしたのも、振り切れなかった恋心からであると自覚する。
そして彼は死刑を自分の運命であると受け入れ、安らかな気持ちで絞首台に立つのであった。

『赤と黒』の登場人物・キャラクター

ジュリアン・ソレル(演:ジェラール・フィリップ)

日本語吹き替え:愛川欽也(1964年放送版)/堀勝之祐(1972年放送版)
本作の主人公。貧しい製材屋の末息子だが、類まれな美貌と知性を持つ聡明な青年。ナポレオンに憧れ、立身出世への強い野心を抱いて聖職者になるために勉強を続けていた。

ルイーズ・レーナル(演:ダニエル・ダリュー)

日本語吹き替え:藤野節子(1964年放送版)
ヴェリエールを治めるレーナル町長の妻。子供たちの家庭教師として雇用されたジュリアンを見初め、不倫関係となる。

レーナル町長(演:ジャン・マルティネッリ)

ヴェリエールを治める町長で、ルイーズの夫。

マチルド・ラ・モール(演:アントネッラ・ルアルディ)

パリの大貴族であるラ・モール侯爵の令嬢。当初はジュリアンを見下していたが、彼の類まれな才能や美貌に惚れ込み、愛し合うようになる。

ラ・モール侯爵(演:ジャン・メルキュール)

演:横森久(1964年放送版)
パリの大貴族、ラ・モール侯爵家の当主。ジュリアンを秘書として雇用する。

ピラール神父(演:アントワーヌ・バルペトレ)

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