BEAST COMPLEX(ビーコン)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『BEAST COMPLEX(ビースト コンプレックス)』とは、擬人化した肉食獣と草食獣が織り成す社会模様を描いた、板垣巴留(いたがき ぱる)による漫画作品。
スマホなども存在する現代風の世界。そこでは二足歩行する能力と高い知性を持った動物たちが、文明的な生活を謳歌していた。それでいて彼らは獣としての本能を捨て切れず、肉食獣は隣人たる草食獣の肉を欲してやまず、潜在的にそれを理解している草食獣は肉食獣を恐れている。危うい均衡で成立する社会の中、苦悩しながらも歩み続ける獣たちを描いた短編集。

『BEAST COMPLEX』の概要

『BEAST COMPLEX(ビースト コンプレックス)』とは、擬人化した肉食獣と草食獣が織り成す社会模様を描いた、板垣巴留(いたがき ぱる)による漫画作品。
週刊少年チャンピオンの2016年14号から17号、同2017年39号、別冊少年チャンピオン2017年11号に掲載。その後世界観を共有する『BEASTARS』を挟み、2021年1月から再び週刊少年チャンピオンで短期集中連載された。ファンからは「ビーコン」と略されている。

板垣巴留にとってデビュー作であり、『マンガ大賞2018』で大賞を獲得した『BEASTARS』の事実上の前身作品である。その動物に対する深い知識と作者の瑞々しい感性が合わさり、ユニークかつ歪で残酷な社会と、その中で生きる獣たちの生々しくも暖かい交流を描いている。
断続的に描かれた短編集ながら本作は読者から高い評価を受け、新人漫画家だった板垣巴留は一躍注目される存在となり、後の躍進と成功に続いていった。

スマホなども存在する現代風の世界。そこでは二足歩行する能力と高い知性を持った動物たちが、文明的な生活を謳歌していた。それでいて彼らは獣としての本能を捨て切れず、肉食獣は隣人たる草食獣の肉を欲してやまず、潜在的にそれを理解している草食獣は肉食獣を恐れている。危うい均衡で成立する社会の中、獣たちは苦悩しながらも手と手を取り合い、自らの本能と生態に翻弄されながらも歩み寄っていく。

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『BEAST COMPLEX』のあらすじ・ストーリー

※本作の登場人物は全て擬人化した動物であるため、人数を数える場合は“匹”を用いる。本記事でもそれに準ずる。

第1話「ライオンとコウモリ」

ライオンのラウルは、自身の種族に強い誇りを持つ男子学生。完璧な優等生として振る舞う彼は、ある時教師から「引きこもりのコウモリのアズモの様子を見てきてほしい」と頼まれる。
これを引き受け、彼の家を訪れたラウルは、「外面を取り繕うことに汲々としている」とアズモに嘲笑されて激昂。牙を剥き出しにしてつかみかかったラウルに、アズモは自分の両親が去年“ライオンに食い殺された”ことを打ち明ける。この悲惨な経験が、アズモが不登校となるきっかけだったのである。

あまりの衝撃に、何も言えずにアズモの前から立ち去るラウル。あの時暴力に訴えようとした自分は、結局はアズモの両親を殺したライオンの犯罪者と何も変わらないのではないか。悩んだあげく、ラウルは再びアズモの下を訪れて先日のことを詫びた上で、彼がいつでも学校に復帰できるよう一緒に勉強するようになる。
ある日ラウルは、かつてアズモにつかみかかった際、自分に潜む凶暴さに戦慄したことを打ち明ける。しかしアズモは、「震えていたのは自分の方だ」と言葉を返し、あの時強烈に「生きたい」と願い、まだ自分の中にそんな気持ちがあることに気付かされたと語る。

続けてアズモは、「今夜この街を出ていく」と唐突に言い出す。彼がどのような思いの中でその結論に達したのか察したラウルは、友との別れを言葉少なに受け入れ、アズモを静かに送り出す。

第2話「トラとビーバー」

肉食獣と草食獣は、10歳以降から体格差が顕著になっていく。そのためとある全寮制の学校では、10歳になると肉食獣と草食獣を別々の寮に入れることとなっていた。トラのゴンは、そんな理由で幼馴染のビーバーのモグと別々に暮らすことになるのが我慢ならないでいた。
教師の目を盗んで一緒に遊んでいたゴンとモグは、上級生の肉食獣が草食獣の生徒をイジメている現場を目撃する。彼を助けようとしたゴンが証拠となる写真を撮影するも、肉食獣の上級生たちに気付かれてしまい、2匹は慌てて逃げ出す。

写真を奪おうとする肉食獣の上級生たちの追跡から逃れて、ゴンは並みならぬ気迫を発揮してモグを叱咤し、ギリギリで校長室へと逃げ込む。こうして上級生たちのイジメの件は学校側に知られることとなり、草食獣の生徒は救われる。
一方、モグは上級生から逃れる中でゴンが見せた迫力の中に、“肉食獣としての強さ”を感じ、同時にそれが自分の中にはないことも理解していた。やはり自分たちは違う生き物なのか、これ以上友達ではいられないのかと嘆くゴンに、モグは「それは全然悲しいことじゃない」と語りかけるのだった。

第3話「ラクダとオオカミ」

ラクダのガロムは、自分の仕事に限界を感じていた。「草食獣の肉を食べたがる肉食獣の気持ちが知りたい」という一心で記者の仕事を続けてきたが、それが理解できるとっかかりも見つからないままもう10年。激務に疲れ果てた彼は、今の記事を自分の記者としての最後の仕事にしようと決めて喫茶店で作業を進めていた。
そんな彼の前に、白い毛並みをした美しいオオカミが現れる。アビーと名乗ったその若い女に心惹かれたガロムは、彼女に乞われるまま一夜限りのデートを楽しむ。その最後に、アビーは「あなたのことを食べたくなった」と言い出し、ガロムは驚きつつもこれを了承する。

さらに10年後、ガロムはまだ記者を続けていた。アビーとのデートの記憶は夢のように曖昧なものとなっていたが、「全部もらうのは悪いから」と言って彼女が食べていった失われた自分の小指が、あの夜の出来事は真実なのだと語っていた。
後輩の記者に「どうして会ったばかりのオオカミに指を食べさせたのか」と尋ねられたガロムは、「“食われたくない”なんて平凡な本能に従うには彼女は魅力的過ぎた」と答える。あの幻想のような思い出を胸に、ガロムは今日も仕事に励むのだった。

第4話「カンガルーとクロヒョウ」

とある郊外地域は最近すっかり治安が悪くなり、観光業が軒並み大きなダメージを受けていた。安ホテルの管理をしているカンガルーの男にとってもそれは深刻な問題で、近々開催される花火大会が状況を変えるきっかけになってくれればいいと同業者と愚痴り合うのが常となっていた。
そんなある日、ホテルにクロヒョウのメグという少女が大荷物を抱えてやってくる。どう見ても10代半ば程度にしか見えない彼女が1匹で宿を取ろうとしていることを訝しむカンガルーだったが、客も少ない今背に腹は代えられないとしてメグを受け入れる。

メグはホテルの部屋に籠ったまま過ごし、暇なのかカンガルーにたびたび話しかけてくるようになる。彼女との会話の中で、男はメグが見た目通りの無邪気な少女でしかないことを理解していく。
しかしある日、郊外を荒らし回っていた“草食獣の肉の密売”を主な収入源とする犯罪組織が一斉逮捕されるというニュースが出回る。それを聞いて呆然とするメグを見て、カンガルーは彼女が犯罪組織の関係者であることに気付いてしまう。彼女の大荷物の中には、草食獣の肉が入っていたのだ。

護身用の拳銃を突きつけ、「草食獣を殺した連中の仲間だったのか」と詰問するカンガルー。恐怖に涙しながら「やりたくてやってるわけじゃない」と答えるメグ。その時、空に花火の光が広がり、それに見惚れるメグを見て、カンガルーは彼女が本当に無邪気な少女でしかないことを思い出し、なんらかの事情で運び屋をやらされているだけだと察する。
2度と犯罪に関わるな、次にこんなことをしたら殺す。そう言い含めて、カンガルーはメグを見逃す。律儀にお礼を告げてホテルを後にするメグを見送りながら、どうか来年も再来年も、花火に見惚れていた無邪気なままの君でいてほしいとカンガルーは願うのだった。

第5話「ワニとガゼル」

20年の長きに渡って放送されてきた料理番組「ハピハピクッキング」。しかし最近は視聴率の低迷に悩み、メインを張っていた料理獣の引退を機に大きくテコ入れされることとなった。そのために新たな呼ばれたのか、イリエワニで料理研究家のベニーである。今まで調理助手を努めていたガゼルのルナは、それが不満で仕方がない。
肉食獣は草食獣の肉を食べる。それはこの世界の公然の秘密であり、同時に絶対のタブーだった。しかしベニーはこのタブーに関する危ういジョークを平然と口にし、伝統ある番組の気品を守ろうとするルナの心を逆撫でする。

ついには面と向かって口論を始めるも、プロ根性を発揮した2匹の手は止まらない。そうやって完成した料理は、不思議なことにかつてないほど美味しいものになっていた。意図せずして始まったこの新しいスタイルは好評となり、ルナにとっては不本意ながら、彼女とベニーのコンビは売れっ子となっていくのだった。

第6話「キツネとカメレオン」

とある中学校に、キツネの少女とカメレオンの少年がいた。2匹はクラスメイトで、配布係として一緒に作業をする間柄だった。
そうして2匹で作業している時、カメレオンの少年は擬態して透明になってしまう。キツネの少女はそれが不思議で、彼にその理由を尋ねる。カメレオンの少年はしどろもどろになりながら、「君に見られるのがなんだか恥ずかしい」と答える。

そのキツネ少女は、教室で同じキツネの生徒たちからイジメを受けていた。キツネには「気性が荒くやさぐれている」というイメージがあり、それに迎合しようとしない彼女は爪弾き者にされたあげく「攻撃してもいい存在」として認識されてしまったのである。
そこに“姿の見えない誰か”が割って入って彼女を救う。イジメっ子たちが退散していった後、姿を消したカメレオンの少年が自分を助けてくれたのだと彼女は悟る。好きな女の子を堂々と助けることもできない自分を卑下するカメレオンの少年に、キツネの少女は「あんたらしくてサイコー」だと捻くれたお礼を言うのだった。

第7話「ブタとクジャク」

ブタのオイゲンは、死者の遺体を剥製にすることを生業としていた。そんな彼の店を、ある日ガーベラというクジャクの警官が来訪する。オイゲンの仕事は合法的なものではあったが、死体の扱いはグレーゾーンなところもあり、ガーベラは彼を見張るために店にやってきたのだった。オイゲンはそんな彼の“生物としての美しさ”にただただ圧倒される。
その後2匹は一緒に飲みに出掛けるほどの仲となる。そんなある日、ガーベラは特に治安の悪い地域への異動が決まり、遠からずそこで自分は命を落とすことになると確信。美しい今の姿のまま、剥製にして永遠に残してほしいとオイゲンに頼み込む。

オイゲンはこれを承諾するも、約束の日に彼の店を訪れたガーベラの前に広がっていたのは、同じ“ガーベラ”の名を持つ花が店内を埋め尽くす様だった。オイゲンは異動祝いだと言ってこれをガーベラに贈り、「君にはドライフラワーではなく、手間のかかる生花でいてほしい」との言葉を伝える。
花の美しさに圧倒されたガーベラは、苦笑しながらオイゲンの願いを受け入れる。大量の生花はガーベラの異動先で配られることとなり、そこに暮らす荒んだ獣たちの心に暖かなものを残すのだった。

第8話「シバイヌとシバイヌ」

カレンダーの写真モデルとして、10年以上も活動を続けているムギ。世間ではその愛くるしさから“絶対的愛されキャラ”と呼ばれてファンも多いムギだったが、その実態は間もなく40歳にも手が届こうという中年男性だった。フリーターだったムギはある日唐突にスカウトされ、楽して儲かることから未だにモデルの仕事を続けているものの、偽りの自分を演じ続けることにすっかり嫌気が差していた。
ついに街中で肉食獣相手に暴力事件を起こしてしまい、溜まりに溜まった鬱憤を思うまま解き放つムギ。当然これは大問題となり、ムギの正体は世間に広まることとなってしまう。

「事務所や関係者に迷惑をかけてしまった」と反省するムギだったが、意外にもマネージャーは「これを機に気性の激しさを前面にした路線でもう一回やってみないか」と提案してくる。いったんは断るムギだったが、行きつけのコンビニでバイトをしているシバイヌから「自分より大きな肉食獣相手に暴力事件を起こしたあなたはカッコいい」と憧憬の眼差しを向けられ、「路線変更も悪くないかも」と口の端を緩めるのだった。

第9話「カラスとカンガルー」

0地区には、“ブライト”と呼ばれる全身が白い毛並みを持つ獣しか住んでいない。美しい白い毛並みは誰からも羨望の的で、その毛皮を狙われる事件が途切れないからである。だからブライトの獣は0地区に集い、自衛しながら暮らしていた。
白カラスのエビスは、そんな0地区で生きる獣の1匹である。ある日オリオンと呼ばれるメスカンガルーと出会ったエビスは、その美しさに心惹かれるも、彼女の素性を聞いて愕然とする。彼女の太ももにはオリオン座に似た斑点があり、「完全なブライトではない」と見なされていた。それでも命の危険を避けるためには0地区で暮らすしかなく、その代償として彼女は“乞われれば誰にでも抱かれる”日々を送っているというのだ。

「せめて自分だけはオリオンの斑点を見ない男でありたい」との想いを抱くエビス。その想いを打ち明け、少しだけ距離が縮まったかと思われた矢先、暴漢に襲われたエビスを救おうとオリオンは強烈なキックを披露。この時にエビスは彼女の太ももの斑点を見てしまう。
不可抗力の形でいきなり誓いを破ってしまったエビス。しばしバツの悪そうな顔で見詰め合った2匹は、やがて同時に笑い出し、手を取り合って夜の街へと繰り出すのだった。

第10話「オオワシとスナネズミ」

YAMAKUZIRA
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@YAMAKUZIRA

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