BEAST COMPLEX(ビーコン)のネタバレ解説・考察まとめ

『BEAST COMPLEX(ビースト コンプレックス)』とは、擬人化した肉食獣と草食獣が織り成す社会模様を描いた、板垣巴留(いたがき ぱる)による漫画作品。
スマホなども存在する現代風の世界。そこでは二足歩行する能力と高い知性を持った動物たちが、文明的な生活を謳歌していた。それでいて彼らは獣としての本能を捨て切れず、肉食獣は隣人たる草食獣の肉を欲してやまず、潜在的にそれを理解している草食獣は肉食獣を恐れている。危うい均衡で成立する社会の中、苦悩しながらも歩み続ける獣たちを描いた短編集。

ライオンの大学生。アコの彼氏として、『BEASTARS』にも登場している。
異種恋愛は初めてだったが、恋愛慣れしていたため「適当にイチャイチャすればいい」と軽く考えていた。しかしある時肉食獣の本能を抑えられずにアコを襲い、彼女を危うく殺しかける。事件自体は示談で片付くものの、自らの行いに驚愕と戦慄を覚える。
そのアコが復学したことを知り、「とにかく謝らなければ」と彼女の下に向かう。そこにいた彼女が自分が考えていたより遥かに深く傷つき、かつ遥かに強くもう一度這い上がろうとするさまを見て、これに本気で惚れ直すこととなる。

第19話

ナグモ

ワニの学生。父親がいないのか、経済的に恵まれない家庭で育つ。
以前兄が裏市で手に入れてきた“ブイヨン(ウシの肉から摂ったダシ)”を味わったことがあり、たまたま飲む機会に恵まれた“クラスメイトのハイゼの残り湯”を無我夢中で飲んでしまう。これをハイゼに目撃されるものの、上から目線の理由で庇われ、苛立ちと自己嫌悪を募らせていく。
最終的にハイゼの本音を聞いたことで、改めて彼に謝罪しようとするもののそれを止められ、不器用な友情を結ぶ。

ハイゼ

ウシの少年。経済的に裕福な一族の生まれで、“貧しき友には心を広くして常に施す側でいろ”という家訓を持つ。
突然の雨に降られた際、たまたま一緒に居たクラスメイトのナグモを自宅に誘うも、そこで彼が自分の入っていた風呂の残り湯を飲むところを目撃してしまう。先の家訓からこれを見なかったふりをしてナグモを庇うも、本心ではかなり衝撃を受けていた。
彼我の差に卑屈になり、上から目線で庇われることに不満を募らせたナグモの怒りを買うも、自身では彼と仲良くなりたいと願っており、この本音を打ち明けたことで不器用な友情を結ぶ。

『BEAST COMPLEX』の用語

食殺(しょくさつ)

肉食獣が草食獣を殺し、その肉を食うこと。作中の社会においては極めて重大な犯罪とされる。
一方で「肉を食べたい」というどうしようもない本能を肉食獣が抱えていることも事実であり、それを解消するために裏のルートで草食獣の肉が売買されているという公然の秘密もまた存在する。

自分では直接殺さずに、なんらかの方法で手に入れた草食獣の肉を食う場合は「食肉(しょくにく)」と呼ばれ、これも犯罪として扱われる。

『BEASTARS』

板垣巴留による漫画作品。本作とは世界観を完全に共有しており、一部登場人物は双方の作品に登場している。

ハイイロオオカミのレゴシを主人公に、ヒロインのハル、尊敬する先輩で恋敵でもあるアカシカのルイなど、様々な獣たちが織り成す複雑で繊細な青春模様を描いている。この作品は国内外で高い評価を受け、漫画家としての板垣巴留の才能を広く世界に知らしめるものとなった。

『BEAST COMPLEX』の名言・名セリフ/名シーン・名場面

アズモ「お前はきっと良いライオンになる。そう信じてる」

初めて出会った日、ラウルに掴みかかられた時に怖くて仕方が無かったこと、「生きたい」と望む気持ちがまだ自分の中にあることに気付かされたというアズモ。続けて彼が放った「今日これから街を出ていく」という言葉に、ラウルは戸惑い、狼狽し、それでも「なぜ」とも「待て」とも言わずに「先生たちには俺から言っておく」とだけ伝えて彼を送り出す。短い交流ながら友人となったラウルに向けて、アズモが言い残したのが見出しのセリフである。

かつてライオンに両親を食い殺されたアズモが言うからこそ意味も味もある、彼からラウルに贈られたこれ以上ない称賛の言葉である。飛び立つアズモと、それを何も言わずに送り出すラウルの姿は、あたかも厳かな儀式のような情感に溢れている。
この話は板垣巴留のデビュー作であり、彼女のストーリーテラーとしての実力が当時から抜きん出たものだったことが見て取れる。『BEAST COMPLEX』という作品の、あるいは世界観を共有する『BEASTARS』の方向性の全てがここから読み取れる、珠玉の名シーンである。

モグ「全然悲しいことじゃないよ」

協力して上級生のイジメっ子を出し抜き、イジメられっ子を助けたゴンとモグ。完全に納得する決着ではなかったものの、一応の勝利を収めたはずの二匹は、しかしその大立ち回りの中で感じた彼我の“種としての違い”を改めて認識する。
いずれ訪れるだろう別離を、何も考えずにただ一緒にいることが楽しい今の関係の終焉を思い困惑するゴンの肩を抱き締め、モグが告げたのが見出しのセリフである。

どんな関係であれ、どれほど親しい仲であれ、別離は必ずやってくる。それを「悲しいことではない」と言い切るモグの心のしなやかさには感嘆するしかない。この時彼らが予感したように、その後のゴンとモグの友人関係が終わったのかどうかは定かではないが、一定の距離を置いたのだとしても親しい間柄のままでいてほしいと思わず願ってしまう、優しさと切なさ溢れる名場面である。

レゴシからハルへのキスシーン

ハルがレゴシを牙落式に誘ったのは、かつて彼につけられた傷を清めるためなどではなく、“一緒に和服を着て何かする”ことが「なんだか結婚式みたいで嬉しい」という理由からだった。彼女はレゴシにつけられた古傷を、自分たちを出会わせてくれた大切な思い出の一部として捉え、それすらも慈しんでいたのである。ハルの自分への想いを感じ、レゴシは思わず彼女の古傷にキスをする。

『BEASTARS』から続くレゴシとハルの関係がクローズアップされた、ファンには堪らない名シーンである。

YAMAKUZIRA
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@YAMAKUZIRA

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