ib(インスタントバレット)のネタバレ解説・考察まとめ

『ib(インスタントバレット)』は漫画『かぐや様は告らせたい』で一躍有名になった赤坂アカによる青年漫画作品。『電撃マオウ』(KADOKAWA)にて2013年9月号から2015年8月27日発売の同年10月号まで連載された。単行本は『電撃コミックスNEXT』(KADOKAWA)レーベルから全5巻で出版され完結済み。理不尽な境遇で育ち、悪意を原動力とする超能力「ib(インスタントバレッド)」に目覚めた少年少女たちの物語。彼らは世界滅亡という確定した未来を前に、誰がどのように世界を滅ぼすのかを争い合う。

人の意識にある悪意を元にして発現する異能力のこと。主に不遇な経歴を持つ少年少女の心に発現するとされ、全世界に合計20人の能力者が存在する。100年後の地球は既に滅亡が決定されており、その滅亡を引き起こすのがインスタントバレットの能力者の誰かだということがわかっている。

カラフル

警察庁警備局「COLORFUL」と呼ばれる組織。インスタントバレットの能力者何名かが集まって立ち上げた組織であり、最も穏やかな世界滅亡の方法を模索しているようだが詳細は不明。

マリアドラッグ事件

藤波木陰が世間からあぶれてしまった人々に配った「人にやさしくなれる薬」マリアドラッグを中心に起きた事件。マリアドラッグの供給を断たれた人々は、やさしくなれないのなら死んだ方がマシだと言って集団で心中してしまった。薬が人体に毒だとは知らずに配っていた藤波木陰は、自分が人々を殺してしまったのだと罪悪感を抱くようになる。

『ib(インスタントバレット)』の名言・名セリフ/名シーン・名場面

「変わりたい そう思うだけで変われたのなら どれだけ幸せだったろう」

2巻5話でマリアドラッグについて語るサングラスの男性、ヤクザの真田(さなだ)。

マリアドラッグの中毒性から抜け出せなくなったのは、他者への共感性が希薄な人々だった。その内の一人だった真田(さなだ)は「人にやさしくなれる」ということの魅力を語る。元々誰かを傷付けたり搾取することに何も感じなかった人間が、一度人並みの共感能力を得た時、自分がそれまでに行った行為の非道さに衝撃を受けた。しかしまた薬の効果が切れてしまうと、以前のように他人に非常な行為を行ってしまう。そこに後から罪悪感を覚えるようになっても、簡単に自分の性格を変えることができずに苦しむことになる。そうしてマリアドラッグにハマって行ったのだった。それを振り返って真田が言った言葉、「変わりたい そう思うだけで変われたのなら どれだけ幸せだったろう」。この言葉は素直になれない多くの人に響く台詞である。

綾倉十色の遺言

綾倉十色が火事に巻き込まれる直前に世界の理不尽を語る場面。

深瀬黒のトラウマであり、綾倉十色といろはにとって一家離散となった火事の日の出来事。登場人物たちの重要な日として何度か回想シーンが描かれている。親からの暴力や虐待を受けた綾倉十色がある日抵抗し、父親を灰皿で殴って気絶させてしまう。隣室に住んでいた深瀬黒はその物音で異変に初めて気が付くも、その時に落ちたライターから畳に引火して火事になる。現場に現れた深瀬黒に対して綾倉十色が世界の理不尽さを並べ立て、こんな世界は無くていいと訴える。その言葉に対して深瀬黒は上手く応えることができず、彼女を置いて外へ逃げ出してしまった。絶望した綾倉十色はそのまま炎に巻かれて命を落とし、姉を助けようと燃え盛る建物の中へ駆け戻ったいろはは重症を負った。自分の不甲斐なさを深く悔いた深瀬黒にとってこの日の出来事はトラウマになり、綾倉十色の最期の言葉は一言も忘れることができなくなった。支離滅裂なようでいて、羅列された言葉には不思議と似通ったものを感じさせる。インスタントバレッドという能力の元となった世界を恨む少年少女達の心を強く描いた場面だ。

「やっと見つけた 私の敵」

5巻25話で明確な世界の敵として深瀬黒(ふかせくろ)を認識し歓喜する姫浦瀬良(ひめうらせら)

1巻で深瀬黒と出会い、獣の破壊行動を見た時と、5巻で深瀬黒からヒーローになれと迫られた時の二度、姫浦瀬良は同じ台詞を口にしている。どちらも深瀬黒の悪意に対して向けた言葉だが、それぞれ異なる表情をしているのが見所。生まれつき悪役の素質があると悲観している姫浦瀬良にとっては、自分よりも悪となる存在を見つけ出すことは希望だった。そのため漠然とした自分の敵を探していたが、なんとなく敵になりうる存在を見つけ出したと感じたのが1巻、明確に自分が世界を救うヒーローになれるのだと確信できたのが5巻の場面。

「この世界には『誰も気付かなかった悲劇』がごまんと溢れてる」

1巻4話で人工衛星が落下してくることを知らずに暮らす人々について魔女に話す姫浦瀬良

この場面での「誰も気付かなかった悲劇」というのは町に落下しようとする人工衛星の脅威のことを指しているが、物語全体としてはインスタントバレットの能力者達の身に降りかかった過去の悲劇のことも表している。親に愛されなかったり、環境に恵まれなかったり、貧しかったり、他人と上手く関われなかったり、少年少女のそれぞれが悪意に目覚める前に経験した語られない悲劇があったはずだ。そういった表には見えてこない様々な悲劇があった結果、現在があるということを読者にも考えさせる印象的な台詞になっている。

『ib(インスタントバレット)』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

コミックスの表紙カバー裏に書かれた登場人物たちの言葉

毎回コミックスの表紙をめくったところに登場人物たちの心情が吐露されている。1巻の表には姫浦瀬良、裏には深瀬黒。2巻にはいろは、3巻の表には藤波木陰、裏には諸木亮太。そして4巻には古砂夢、最終5巻には表にリーダーの言葉が書かれており、裏には作者である赤坂アカのあとがきが綴られている。漫画の中では語り切れなかった各登場人物の思いや、インスタントバレッドに目覚める経緯に関わることが触れられている。

ファンアートで作られた楽曲と動画

【IA】ib-インスタントバレット-【の人の新作漫画】

作者の赤坂アカを応援しようと様々なクリエイターが合作して作成した楽曲およびPVが2014年3月25日にニコニコ動画へ投稿された。赤坂アカがボーカロイド「IA」のキャラクターデザインを行っていたこともあり、ボーカロイド関連のアーティストを中心にして集まったメンバーだが、その中に赤坂アカ本人も混ざっている。
音楽は『赤坂アカくん大好き倶楽部』と称して田口囁一(感傷ベクトル)、じん(自然の敵P)、赤坂アカ(本人)、白神真志朗、グシミヤギヒデユキ、春川三咲が担当。動画はyama_koが製作している。

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