きみと、波にのれたら(映画)のネタバレ解説・考察まとめ

『きみと、波にのれたら』とは湯浅政明が監督を務め、2019年に公開されたラブロマンスアニメ映画。サーフィンが大好きな向水ひな子は、マンションで起こった火事をきっかけに消防士の雛罌粟港(ひなげしみなと)と知り合い、恋に落ちる。デートを重ね楽しく過ごす二人だったが、ある日港は海で溺れた人を助けようとして命を落としてしまう。海が見られなくなり、落ち込んだ日々を送るひな子だったが、ひな子が二人の思い出の歌を口ずさむと水の中から突然港が現れた。

『きみと、波にのれたら』の概要

『きみと、波にのれたら』とは湯浅政明が監督を務める、海辺の町を舞台に繰り広げられるラブストーリーを描いた2019年に公開されたラブロマンスアニメ映画。
2019年度、アヌシー国際アニメーション映画祭 長編コンペティション部門正式出品作品や第23回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門審査委員会推薦作品にも選ばれている。
また、第22回上海国際映画祭 金爵賞アニメーション最優秀作品賞、第23回ファンタジア国際映画祭今敏賞、第52回シッチェス・カタロニア国際映画祭長編アニメーション部門最優秀賞、2019年スコットランド・ラブズ・アニメーション審査員賞を受賞している。
湯浅政明とは、アニメ『四畳半神話大系』や『夜は短し歩けよ乙女』で高い評価を受けた監督である。脚本は『映画 聲の形』などを手がけた吉田玲子。声優は「GENERATIONS from EXILE TRIBE」の片寄涼太や女優の川栄李奈、俳優の伊藤健太郎らが担当している。
また、同年に豊田美加の執筆による『小説 きみと、波に乗れたら』が小学館文庫から発売され、キアチマチの作画による漫画版が、同年にフラワーコミックスより刊行されている。
サーフィンが大好きな向水ひな子は、マンションで起こった火事をきっかけに消防士の雛罌粟港(ひなげしみなと)と知り合い、恋に落ちる。デートを重ね楽しく過ごす二人だったが、ある日港は海で溺れた人を助けようとして命を落としてしまう。海が見られなくなり、落ち込んだ日々を送るひな子だったが、ひな子が二人の思い出の歌を口ずさむと水の中から突然港が現れた。

『きみと、波にのれたら』のあらすじ・ストーリー

火事の中の出会い

海とサーフィンが大好きな向水ひな子(むかいみずひなこ)は、大学進学を機に海の近いマンションで一人暮らしを始めた。引越し当日、早速海に出てサーフィンを始めるひな子。それを消防士である雛罌粟港(ひなげしみなと)は消防署の屋上から笑顔で意味深に見つめていた。
ある日消防署で放水訓練をしていた港の後輩である川村山葵(かわむらわさび)は、ホースの手を離してしまいあちこちに水を撒いてしまう。たまたま通りかかったひな子はその水を思い切りかぶってしまった。山葵は慌てて謝罪をし、二人は知り合いとなるのだった。
帰宅したひな子が部屋で寝ていると、隣の建築途中のビルで花火をしている若者たちがいた。その花火がひな子の住むマンションへと飛び火して、マンションは一気に燃え上がってしまう。眠っていて気づくのが遅れたひな子は大事にしているサーフボードを持ってオロオロしながら避難するが、下は煙が充満しており、仕方なく屋上へと向かった。そこでは引火した打ち上げ花火が大量に上がり、火の玉が飛んでおり戸惑うひな子。そんな中屋上から避難はしごに乗って港が現れた。優しく笑う港にひな子は思わず見惚れてしまう。サーフボードごと避難はしごに乗せてもらったひな子は一命をとりとめ、港に感謝する。
この一件でひな子と知り合いとなった港は、ひな子からサーフィンを教えてもらうこととなり、二人は距離を縮めていく。ドライブ中『Brand New Story』という曲が二人のお気に入りの曲だとわかり、一気に距離が縮まる。ある日、ひな子がなぜ消防士になったのかと問うと、「小さいころに溺れたことがあったんだけど。その時に、同じくらいの年の女の子に助けられたことがあって。それで人を助ける仕事に就きたいと思ったんです」と語った。

突然の港の死

デートを重ねる港(右)とひな子(左)

港とひな子は正式に付き合うこととなった。二人はカーラジオから流れる『Brand New Story』を一緒に歌ったり、港はひな子のために料理を作ったり、サーフィンをしたりと楽しい日々を過ごしていた。ある日、港はお気に入りのカフェで妹の雛罌粟洋子(ひなげしようこ)にひな子を紹介した。洋子は素直になれず口が悪いので、港から「ヒョウモンダコ」と呼ばれている。二人のラブラブっぷりを見せつけられ、「あんたらが甘すぎるわ」と洋子は呆れるのだった。
それから時は経ちクリスマスの日、二人はポートタワーへと来ていた。そこは恋人の聖地といわれており、二人はハート型の南京錠に名前を書き、鍵をかける。雪の降る夜景を眺めながらひな子は、「雪の降った後にエアリバースを決めると願いが叶う伝説がある」という話をした。エアリバースとはサーフィンの技で、スピードに乗ったライディングから空中へ飛び出し、岸川に回転して着水する華やかなテクニックのことである。

冬のある日、一人で波に乗ってくると港からメッセージを受けたひな子。花屋でバイト中だったひな子はバイトが終わると急いで港のいる浜辺へと向かった。ところがそこにはパトカーが並んでおり、人だかりの中に山葵がいた。
港は溺れた人を助けるため海へ飛び込み、亡くなってしまったのだ。
ひな子はすっかり塞ぎ込んでしまい、大好きなサーフィンもやめてしまった。そんなある日、山葵と洋子がひな子の元へ訪れ、ひな子に港の遺品を渡す。そして山葵は自分の連絡先を渡し、何かあったら連絡するようにとひな子に言った。

戻ってきた港

塞ぎ込みつつも少しずつ元の生活に戻っていくひな子。そんなある日、ふと二人の思い出の曲『Brand New Story』を口ずさむと、亡くなったはずの港がコップの中に姿を現した。驚くひな子に港は「必要な時にはいつでも呼んで」と言うのだった。
それからひな子は水筒や水を入れた大きなスナメリ人形に港を呼び出して共に行動するとになる。しかし港の姿はひな子にしか見えず、周りの人たちは怪訝そうにし、山葵や洋子は幻想を見ているのだと思い心配していた。
ある時大きなスナメリ人形の中に港を呼び、街をデートしているとひな子は男性とぶつかって転んでしまう。男性は手をとりひな子を持ち上げる中、なにもできない港は少し絶望を感じてしまうのだった。
そんな中港の後輩である山葵はひな子のバイト先である花屋に突然訪れた。そしてひな子が好きだと山葵は伝える。ひな子は戸惑い、その気持ちに答えられないことを告げる。そして山葵は去り際に、ひな子に新しい一歩を踏み出してほしいと諭した。
その日の晩、ひな子と山葵は交通事故に偶然出くわす。ぶつかった衝撃で炎上した車を目の前に、助けようとするひな子を必死で止める山葵。ひな子は港なら助けてくれると思い出の曲を歌った。すると港が現れ、自身の力を使って近くの川の水を車へと撒き、見事消火に成功した。しかしそれ以降は港の力が少しずつ弱まってしまうのだった。

幼い頃の記憶

ある日ひな子は洋子に頼み、港と洋子の実家へと訪れる。港の部屋にあった幼い頃のアルバムを見ると、そこには港が幼い頃海で溺れた日の写真があった。それを見てひな子は思い出す。生前港が言っていた、子供だった頃に海で溺れそうになり、同年代の少女に助けられたという少女のこととは、ひな子自身のことだったのだ。
そしてその港を助けた年月日を入力すると、遺品の中にあった港のスマホのパスワードが解ける。そこにはひな子に向けた書きかけのメッセージが残っていた。港は亡くなる前に、雪の降った後の波でエアリバースを決めたことが書かれていた。以前、ひな子が雪の降った後の波でエアリバースを決めると願いが叶うと言ったことを港はずっと覚えており、いつか達成させようと思っていたのだ。
そしてメッセージの続きには、「僕の願いはひなこが自分の波に乗れること。それから、ずっとずっとひなこのそばにいられること」とあった。
ひな子はそのメッセージを読み、緩む涙腺を必死でこらえた。そして、人を助ける仕事をしたいと考え、ライフセーバーになろうと決意する。
一方、山葵は一人前の消防士になろうと休みの日にジョギングをしていた。途中浜辺で洋子に呼び止められ、洋子は山葵にコーヒーを淹れる。港のように立派な消防士になりたいがまだまだ程遠いと落ち込む山葵に、洋子は「兄ちゃんみたいになる必要はないんだよ。山葵は山葵らしく頑張ればいいんだよ!」と激励した。驚く山葵に洋子は続けて「ばーか、これ山葵が私に言った言葉なんだよ」と言った。昔洋子が不登校だった時期があり、「お兄ちゃんと違ってこの子は…」という洋子の母親に対し、山葵は「洋子ちゃんは洋子ちゃんでいいんですよ」と笑顔で言った。出来の良い兄と比べられ荒んでいた洋子は、ありのままの自分でいいんだと思えるようになり、そして学校へも行けるようになった。洋子は山葵の言葉で救われたと言い、山葵はその言葉をもらい再び頑張る気力が出た。そして洋子はカフェのバイトへ行くと言い去ろうとする途中、あの日から山葵のことを好きだと言って走っていった。
一方ひな子は浜辺で人命救助の訓練をしていた。しかし人命救助の人形に港を重ねてしまい、ひな子は思わず逃げ出してしまう。

港の最期の力

ある日、洋子のバイト先のカフェにガラの悪い若者たちがいた。洋子が聞き耳を立てると、彼らは以前ひな子の向かいのビルで花火をして飛び火させ、マンションを火事にさせた犯人だったのだ。彼らの一人は捕まったが、逃れた若者たちは再びビルで派手に花火をしようと話していた。たまたまカフェへとやってきたひな子を連れ、洋子はバイトを早退して若者たちを追いかけることにした。バスを乗り継ぎ辿り着いたのは、昔世界一のクリスマスツリーがあった廃墟ビルだった。洋子は山葵に連絡をいれるが、仕事中なのか連絡がとれない。警察を呼ぼうとひな子は言うが、洋子は証拠の写真を撮る必要があると廃墟ビルの中へと入っていく。中には枯れてしまった巨大な木やプールがあり、さらに上へとあがっていくと、大量の十数人の若者がいた。そして始まった打上げ花火。盛り上がる若者だったが、花火は四方八方打ち上がり、ビルの中にあった枯れた巨木に飛び火し、一気に燃え上がってしまった。
逃げる若者たちだったが、飛び火が足へとあたってしまい、足が動かなくなってしまった洋子。ひな子は消防に通報し、洋子を担いで逃げようとするが、その頃にはもう火の手が回っており逃げられない状況となっていた。
山葵を含め消防車がやってくるが、巨木が燃え広がる火の勢いに手が出せない状況だった。
一方、港を呼ぼうかと考えるひな子だったが、港が消えてしまう恐ろしさから呼べずにいた。しかし怯える洋子を見て、ひな子は「必要なときはいつでも呼んで」という言葉を思い出す。そしてあの思い出の曲を歌うと、「呼んでくれてありがとう」という港の声が聞こえた。
港は最期の力を振りしぼって、廃墟ビルにあったプールに残った水を使い、下から上へと一気に火を消した。そして水の中から現れた港が、水が屋上へと辿り着いたらそこから波に乗るようにひな子に言う。ひな子は付近にあったサーフボード程の大きさの板に洋子を乗せ、その上に乗ったひな子が板を動かし、バランスをとって屋上へと進んでいく。そして屋上へ辿り着いたひな子たちは落ちる水の勢いを使って波に乗り、地上へと辿り着いた。そしてそのまま港も天へと上り消えていくのだった。

それから数ヶ月、ひな子はクリスマスの日に洋子と山葵と一緒にいた。ひな子のライフセーバーの合格祝いでレストランへと来ていたのだ。洋子と山葵はあれから付き合うことになり、お互い幸せそうな姿を見てひな子も嬉しくなる。レストランを出た時、少し先にポートタワーが見えた。ひな子はそこには恋人たちの聖地があるから言ってきたらと促し、ポートタワーへ向かう二人と別れた。
一人になったひな子はふとあの思い出の曲を口ずさむが勿論港は現れない。すると突然ポートタワーがクリスマスツリーの形に光り、「雛罌粟港さんから向水ひな子さんへのメッセージです。投稿は一年前ですね」とラジオパーソナリティの声が聞こえた。昨年のクリスマス、港はひな子にメッセージを残していたのだ。「ひな子、メリークリスマス!これからのクリスマスはずっと一緒に過ごそう。ずっと、ずっと、ずっと」その言葉を聞き、ひな子は声をあげて泣き崩れた。
それから夏になり、ライフセーバーとなったひな子は相変わらずサーフボードに乗って楽しそうに波に乗っているのだった。

『きみと、波にのれたら』の登場人物・キャラクター

雛罌粟家

雛罌粟 港(ひなげし みなと)

CV:片寄涼太・山崎智史(子供時代)
真面目で努力家の消防士の青年。仕事もしっかりこなし、誰からも慕われている性格。共働きの両親に代わり妹の面倒をよく見ていた。サーフィンをする時はスナメリが描かれているサーフボードをよく使っていた。少年時代、波打ち際で海に出ようとする亀の子供の懸命な姿を見てから何事にも一生懸命に取り組むようになった。

雛罌粟 洋子(ひなげし ようこ)

CV:松本穂香
港の妹で高校二年生。ぶっきらぼうで口が悪く、最初はひな子を快く思っていなかった。兄からは口の悪さから毒を持つヒョウモンダコと呼ばれている。不登校だったが、山葵から優しい言葉をもらい、学校に通うようになる。正義感は強いが無茶なことをする。港の死から1年、山葵と恋人同士となる。

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