地球へ…(テラへ)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『地球へ…』とは、竹宮惠子による日本のSF漫画作品、およびこれを原作とした派生作品。新人類ミュウの長・ジョミーと旧人類の国家元首キース、二人の少年の孤独と葛藤を描いた作品である。
派生作品は1980年4月公開の劇場版アニメ、2007年4月から同年9月放送のテレビアニメ(全24話)、ラジオドラマ、スピン・オフ漫画。
第9回星雲賞コミック部門、第25回小学館漫画賞少年少女部門を受賞。

成人検査に合格した子供が送られる教育施設。 原作では2年、テレビアニメでは3年間就学する。 エリートコースと一般コースがそれぞれ別のコロニーに在籍し、一月一日だけコロニーがランデブーして生徒間の交流、飲酒、ギャンブル、異性間交友が許可される。

マザーイライザ

教育ステーションを管理する人工AI。 生徒たちの健全な育成をフォローする。 生徒がネガティブな感情にとらわれたら「カウンセリング」と称した心理療法を施す。 症状が重い場合は記憶を改ざんしてでも障害を取り除く。 生徒たちにとって最も大切な女性(母親か恋人)の姿をホログラフィに投影させる。

ナスカの子

テレビアニメではナスカチルドレンと呼ばれる。 ミュウが一時的に移住した惑星ナスカで、女性の子宮を介して生まれた子供たちの総称。 肉体も精神も普通のミュウより強靭で普通のミュウ以上の超能力を持ち、3歳の子供でさえ大人以上のサイコキネシスを扱える。 原作では生殖能力がない。

コンピュータ・テラ

ミュウを保護したい学者が作らせたコンピュータ。 ミュウ保護を優先とし、男性型の思考を持つ。 グランドマザーでさえできなかった地球全てのマグマ流のコントロールも担っていた。 テレビアニメ版には登場しない。

SD以前の政治家、軍人たちにとって新人類の存在は社会の混乱をもたらす対象であるため、新たにSD体制が発足される際にはミュウの排除をプログラムしたグランドマザーに全権を委任するが、ミュウの生みの親ともいえる学者たちはコンピュータ・テラをつくり、グランドマザーの采配に介入させた。
こうして人類とミュウ、二つの種族のどちらが新しい時代を生き抜くかという実験、生存競争を人為的に引き起こすために一方はミュウの排除、一方はミュウの保護という矛盾したプログラムにより管理された社会システム、SD体制が誕生した。

普段は何もしないが、人々が「マザー以上」の存在を求めた時だけマザーに介入する。 キースがグランドマザーにミュウ因子を排除しない理由を問いただした時に聞こえた男の声が、それにあたる。

この仕掛けられた宿命によってミュウという種族は否応がなく独立心を叩き込まれ、人類は訳の分からない外敵ミュウの存在を突き付けられ安穏とした生活を送ることを許されず、最終的には全面戦争を強いられる結果となった。 社会システムの大破壊を切り抜けたのは、コンピュータを作った偉い人が思っているような人類やミュウという「種族」ではなく、「生き残りたい」「誰かを助けたい」という「意志の強い者」だった。

カナリア

テレビアニメ版のみの設定。 グランドマザーが地球で育てていた人類の子供たち。 彼らが地上に出て生きることができれば地球環境は正常化した証となる。 いわば人造人間ではない「無垢なるもの」(後述)である。 カナリアを見たジョミーは「なんて澄んだ目をしているんだ」と驚いたことから、グランドマザーのカナリアへの教育は偏向したものではないと思われる。 地球大破壊の際には長老たちによってフィシスとともに脱出し、その後フィシスによって育てられる。

「無垢なるもの」

人類のリーダーとなるべく人材を生み出すため、グランドマザーが優秀な卵子を摘出し、卵子だけで細胞分裂を施して作った人造人間。 テレビアニメ版ではグランドマザーがゼロから細胞を作って組成している。

新生児となってからは教育ステーションの水槽の中で13年間教育を受け、成人検査を受けないままステーションの生徒として世に送り出される。
外見も内面も普通の人間と変わらないが、その遺伝子には地球に忠誠を尽くすためのコード「ME505-C」が刻まれている。 テレパシーを通すとそのコードは、キースとフィシスの中にある地球の映像となる。
なおその地球の映像は原作のジョミーによれば、現在の人類の生活圏よりはるか彼方から映されたものである。

原作では10年ごとに一人ずつ、キース、フィシスを含め11人が生み出された。 キース以外は失敗作なので処分したとグランドマザーは言ったが、フィシスの脱走に関しては語らなかった。
劇場版での人数は不明。
テレビアニメ版も人数は不明だが、ステーションにキースとフィシスのクローンが複数いた。

『地球へ…(Toward the Terra)』のあらすじ・ストーリー

第一部

「成人検査」中にミュウの能力が開花したジョミー

地球から遠く離れた育英惑星アタラクシアに住むジョミー・マーキス・シンは、もうすぐ14歳の誕生日「目覚めの日」を迎える。 「目覚めの日」を境に子供は親(政府から派遣された養父母)の元を巣立ち、コンピュータによる「成人検査」を受けてそれぞれの進路に進んでいくのだ。 だがジョミーはそんなシステムに納得がいかず、大人になりたくないと思っていた。

それに最近毎晩おかしな夢を見るようにもなっていた。 宮殿のような広間で青年と盲目の美少女が語り合い、少女がテレパシーを使って自分の中にある地球の映像を青年に見せていた。 青年は人類発祥の地、地球(テラ)に対して燃え盛るばかりの慕情を語るも自分は地球へ行くまで生きられない、だれか自分の遺志を継いでくれる人物がいれば、と語る内容だった。

そんなもやもやした心境のまま「目覚めの日」を迎え「成人検査」を受けているそのさなか、ミュウの長(おさ)ソルジャー・ブルーにより検査を妨害される。 わけのわからないまま家に帰ろうとするが、ジョミーはなぜか政府から射殺されそうになる。 その危機を救ったのがソルジャー・ブルーの部下リオだった。

リオから、実はジョミーもミュウなのだといわれ衝撃を受けるジョミー。 ミュウについては、おかしな能力を持つ反社会的な存在という情報しか知らないジョミーは、自分がそのミュウだといわれてもその事実を受け入れることができず、暴力沙汰を起こしたり荒れた行動をとり続けていた。 それでもしばらく生活をしていくうちに、ミュウへの迫害は幼い子供にまで及んでおり、地下に潜む母艦に逃げ込むしかないことを理解し、ほかのミュウにも心を開いていった。

ジョミーは夢で見た広間にいる青年と盲目の美少女=ソルジャー・ブルーと占い師フィシスに出会う。
ブルーはSD体制の本拠地でもあり人類やミュウの故郷でもある地球へ行くのがミュウの悲願なのだと語るが、ジョミーを選んだ理由には触れないままジョミーに自分の記憶や知識などを継承させようとする。 ジョミーは勝手に異質なもの(ブルー)が自分の中に介入することへの恐怖と怒りによってブルーの申し出を拒否する。
なおも食い下がるソルジャー・ブルーを完全に拒否しようとしたその時、ジョミーはミュウとして覚醒した。 その未知数の能力によって生身のままアタラクシアの大気圏までジャンプしたジョミーを追い、ブルーは最後の力を振り絞ってジョミーを母艦に連れ戻した。

ジョミーの覚醒と引き換えにソルジャー・ブルーは命を落とす。 ブルーが死ぬ直前、ジョミーはテレパシーによって彼の悲しみを知った。 ジョミーは新たなソルジャーとしての宿命を背負う決意を固め、最初の命令を下した。

アタラクシアを出て、地球へ向かう、と。

第二部

ジョミーがミュウとして覚醒したそのころ。

教育ステーションE-1077には、始まって以来の秀才と評されたキース・アニアンがいた。 親友サム・ヒューストンとなれ合う毎日を過ごしながら彼もまた、満たされた現状に物足りなさを感じていた。 そんな中キースは下級生セキ・レイ・シロエと出会う。 シロエは下級生でも筆頭の成績を持つエリートであるにもかかわらず、堂々とSD体制やコンピュータによる管理に対する批判を口にするいわば反逆児だった。

今まで他人や周囲に関心を払わなかったキースだったが、徐々にキースにも体制に対する不信感が芽生え始めてくる。 そのきっかけであるシロエを危険視するとともに興味を持つキースだった。
そんな彼を見守るのは、教育ステーションを管理する人工AIマザー・イライザ。 イライザは常にキースの行動を肯定し、将来人類を先導する存在として成長するよう教育を施していた。

シロエが体制批判をするには理由があった。
何も知らずに両親と楽しく過ごしていた日々を取り上げ、ステーションで管理しては記憶改ざんすら平気で実行する、そんな機械(コンピュータ)を憎むからだ。 実際シロエは何度も「カウンセリング」という名の記憶改ざんを受けており、今では両親の顔も名前もおぼろげにしか覚えていない。 シロエがキースに接近したのも、「機械の申し子」と呼ばれるくらいイライザの寵愛を受けている彼を叩きのめすことでSD体制へ復讐するためだ。

ある日キースは自分には故郷や家族の思い出が「全くない」ことを知った。 生徒たちが見ているイライザのグラフィックは本人にとって最も大切な女性のものであり、たいていは母親か恋人だという。 では自分が今まで見てきたイライザは一体だれなのか?
そのことを知ったシロエはさっそく独自で調査を開始するが、イライザに発見され深層心理検査(拷問に近いほどの心理テスト)を受ける。

一方キースは、戦闘機の飛行訓練中に「ミュウの長 ジョミー・マーキス・シン」と名乗る人物から精神波攻撃(ミュウにとってはテレパシー通信)を受け、キース以外の全員が昏倒する。 孤軍奮闘して全員の救助に当たったキースは英雄としてあがめられるようになる。キースとともに攻撃を受けたサムはそのジョミーという人物が自分の幼馴染かもしれない、その幼馴染がミュウの長だと名乗ったことにショックを隠せないでいた。 サムにとってミュウは化け物でしかなかったからだ。

普段は「機械の申し子」などと言って遠巻きにしているくせに、今回のような大衆受けする事件を解決すると手のひらを変えて英雄視してくる。 そんな自分勝手な大衆心理にいらだつキースをあざ笑うのはシロエだった。 今のシロエは深層心理検査での肉体的、精神的ダメージのせいでろくに歩けない体になっていた。

初めてキースとシロエは自分の意思を隠すことなくさらけ出す。 キースはあくまで体制は厳守しなければならない、の一点張り。 シロエは体制のせいでボロボロにされ、絶対に許せないの一点張り。 最後まで二人の会話はかみ合わないままだった。 ただ、シロエが拘束される直前に言った「フロア001に行け」の言葉は、キースのアイデンティティを揺るがした。 その理由は今のキースにはわからなかったが、ミュウやフロア001についてイライザに聞けば道が開けるのではないかと思い詰問する。 イライザは、ミュウに関する答えを聞くのは時期尚早だとはねつけた。

翌日、イライザによりキース以外の生徒や職員たちは、ミュウに関する記憶を消去されていた。 精神波攻撃事件とフロア001に侵入して情報を入手したシロエに関する記憶だ。

イライザの手の中から逃れられないと愕然とするキースにさらに追い打ちをかけるように、再びジョミーからテレパシー通信が送られてきた。 今度もキース以外の全員が精神を支配され、昏倒する。 キースはなんとかジョミーのテレパシーを遮断するも、自分だけがなぜ平気なのかその理由を知りたくなり、イライザに詰問した。 イライザはフロア001へ行けと言った。

フロア001へ行ったキースは、人造人間の入った水槽を発見する。 イライザによって、キースもこのステーションで生み出された人造人間「無垢なるもの」であり、進化の袋小路に陥った人類を導くために生み出された救世主なのだと教えられた。
自分は人間ではない。 全てを知り抵抗しても無駄だと諦観したキースにイライザは、シロエがステーションより脱走したことを報告し、「処分しろ」と命ずる。 キースはイライザの命令ではなく、自分の意志でその指示に従った。 キースはシロエの乗った練習艇をレーザーで破壊し、生まれて初めて涙を流した。 その意味するものを誰も知らない。

その時遠く離れた空域にいたジョミーに、ソルジャー・ブルーに似た切ない思いが触れた。
それが誰のものだったかはジョミーにはわからなかった。

第三部

ジョミーたちがアタラクシアから脱出して10年が経過した。
今はナスカと呼ばれる打ち捨てられた惑星でひっそりと農耕生活を営んでいたが、新天地での生活に満足する若者たちと、ソルジャー・ブルーの意志を実現すべく地球へ行けと責め立てる長老たちとの間でジョミーは苦しんでいた。

そこへかつてのジョミーの幼馴染、サムの乗ったパトロール艇が接近してきた。 身柄を拘束したサムの記憶を消去しろと長老たちに進言されるが、ジョミーは時間をくれといってサムと二人きりになる。 目が覚めたサムはジョミーが10年前と変わらぬ姿なのに恐怖し、ジョミーをナイフで刺した。 ジョミーはサムの中に何か(原作では不明なまま、テレビアニメではグランドマザーの電波)がいることを察し、それを取り除くためパワーを発した結果パトロール艇ごと吹き飛ばしてしまった。 自分の力の制御ができてないと長老たちにダメ出しをされるジョミー。

そんな中ミュウの少女カリナが、自分の体で子供を産むという画期的な試みを実現させていた。
SD体制下の子供は人工子宮の中で人工授精を用いて生み出される。 つまり彼女の妊娠出産はSD体制からの脱却につながる大いなる一歩なのだ。 カリナはトォニィと名付けられた元気な男の子を生み、ナスカの若者たちは大いに歓喜した。 だがジョミーは、理由のわからない不安を感じるのだった。

その不安が的中したのかナスカの若者たちは地球へ行くことを拒否し、ナスカへの定住を希望した。 長老たちは激怒しジョミーが若者を甘やかすから、ソルジャー・ブルーの意志を忘れたからこうなったのだと激しく弾劾した。 仲間割れの責任を感じたジョミーは意識を閉ざし、仮死状態となってしまった。 ジョミーを追い詰めたことを後悔するミュウの面々。 彼らの無責任さを叱責し、ジョミーの復活を試みたのがフィシスだった。 ほかのミュウにはない「同化」能力を持つフィシスは、ジョミーの肉体から精神を滑り込ませ、深層心理の奥までジョミーの意識を追いかけたが失敗に終わる。

一方キースは軍人の最高峰メンバーズ・エリートとしてのキャリアを順当に積み上げていた。 そこへ舞い込んできた任務は、ナスカ付近で頻繁に起こる遭難事故だった。 その被害者の中にサムの名を見つけたキースはかつてステーションで起こった精神波攻撃事件を思い出し、二つ返事で任務を引き受けた。 彼にとって、サムがミュウに攻撃されそのせいで記憶改ざんを受けたことや、体制により抹殺されたシロエの存在は過去のものではなかった。 グランドマザーならばミュウに関する答えを与えてくれるだろうと信じ、ミュウの何たるかを知るために出世をしてきたのだ。

その任務遂行の足場とするべく訪れたペセトラ基地で、キースはジョナ・マツカという少年と出会う。 彼は自覚のないミュウだった。 キースは通報することなく彼を自分のボディーガードとして引き抜き、ナスカ調査に同行させた。 なぜキースはそうしたのか。 「機械のような」鉄壁のガードがかかった彼の心を、マツカは読むことができなかった。

ナスカの大気圏外にマツカを残し、独りでナスカ上陸を試みるキース。 ミュウたちはいつものように精神波攻撃をかける。 これが一連の事故の原因だったと気づいたキースは、裸の配線を直接手で握った電気ショックで精神波攻撃を乗り切り、ナスカ侵入に成功した。

ジョミー不在のまま初めての侵入者に対応できないミュウたち。 再びフィシスがジョミーの覚醒を試みた。 だがジョミーは自らの意志でキースを「敵」として認識し、復活を遂げた。 ジョミーとキースは、超能力と肉体の戦闘力を激しくぶつけ合い格闘した。 戦ううちにジョミーはキースを殺してはいけないという気になり、増援として駆け付けたリオに「殺すな」と命じた。 リオは麻酔銃をキースに撃った。

その様子を見ていたフィシスだったがリオの攻撃を受けたキースが意識を失う直前、自分が見せる地球と全く同じ映像をキースの中に見つけ、動揺する。 あの地球の映像は自分しか持っていないはずなのになぜ、と。 フィシスはその理由をどうしても知りたくなり、ジョミーを差し置いてキースを捕虜にしようと指示した。

キースはそのままミュウの捕虜となり事情聴取が行われたが、彼の頑なな態度がミュウと人類の和解はあり得ないという絶望的な結論を突き付けた。 ただ、その場にいた3歳になったトォニィがキースに対して異常なおびえ方をした。 キースはミュウにとって生かしておいてはならない存在だと察知した故の怯えだったが、 ジョミーどころか母親のカリナでさえそれに気づかなかった。

連絡の取れないキースを案じたマツカは一人でナスカに向かう。 ミュウであるマツカに精神波攻撃は全く通用しなかった。 新たな侵入者の対応に追われるミュウたちをしり目にトォニィは一人、キースの暗殺を試みるも失敗、返り討ちにあってしまう。 息子の危機を察したカリナは狂乱し、精神波を爆発させながら徘徊する。 この騒ぎの中フィシスはキースを案じて監禁室に向かったがトォニィともどもキースの人質となり、ともに脱走することになる。 キースは、フィシスの中にマザー・イライザの面影を見ていた。

何とかカリナを鎮めようと奮闘するジョミーだったが万策尽き、心を鬼にして精神波でカリナの心臓を止めた。 ジョミーは自分の甘さを認識し、フィシスやトォニィを人質にしてカリナをこんな目に合わせたキースを殺そうと決意する。 自らキースたちの乗った移動艇をテレキネシスで攻撃、フィシスとトォニィを救出した。 キースはマツカが放ったバリヤーにより命は助かった。

第四部

キースからの報告を受けたスーパーコンピュータ「グランドマザー」は、ナスカへの攻撃を命令した。 命令されたソレイド軍事基地は「徹底的にナスカを攻撃せよ」と解釈し、ソル・ベーム弾頭ミサイルを容赦なくナスカに発射させた。 ソレイドの軍人たちにとっては普段の演習と大差ない、ボタンを押すだけの行為だった。

一方ナスカでは、仮死状態だったトォニィをはじめとした「ナスカの子」が急激に成長し、10歳くらいの子供になるという異常事態が起こっていた。 トォニィ本人は気にする風でもなく「カリナが死んだのはフィシスのせい」「フィシスはミュウではない」「ナスカが燃える」というメッセージをミュウたちに与える。
トォニィからすれば、フィシスがキースを捕虜にしようと言い出さなければ自分も暗殺に行かなかったし、カリナが錯乱することもなかったという理屈だ。 キースを殺すなと命じたのはジョミーだという事実を無視しているのは、トォニィは自分たちを生んだのはカリナではなくジョミーだと思っており、絶対の服従を誓っているからだ。 ジョミーがカリナの妊娠、出産を許可したから自分たちは生まれたのだと言い切り、カリナの死について何の動揺も見せなかった。

トォニィの態度と屁理屈に唖然とするミュウたちだったが、まもなく本当にミサイルが接近してきた。 ジョミーは全員脱出を命じるが、一部の同胞はナスカに残った。 「時間が…ないのだから」と彼らを説得できないままジョミーたちはナスカを離れる。 そしてナスカは火の海と化した。 ジョミーはナスカの炎に焼かれる同胞たちの叫びを体中に浴びて錯乱する。 ナスカは壊滅し、ジョミーの精神は安定したが、代わりに五感すべてを失った。
急成長したナスカの子は、理由はわからないが元から戦闘力が異常に高いことが判明した。 今まで手にできなかった圧倒的な攻撃力を手にしたジョミーは本格的に地球帰還を決意、その手始めとしてアタラクシアへ戻り圧倒的戦闘力で時間をかけず占拠、システムの根幹テラズナンバー5を破壊してSD体制への反逆ののろしとした。

テラズナンバー5を破壊したことでフィシス出生の秘密が明らかになる。 フィシスもキースと同じ「無垢なるもの」だった。 ソルジャー・ブルーがフィシスの中にある地球の映像に惹かれ救出し、盲目で生殖機能のない彼女にミュウとしての能力(占いと同化能力)と「女神」としての役割を与えたのだという。 その一方、キースは自分の出生に対し執着するようになっていた。 ナスカから精神崩壊して帰還したサムを見舞っていたが、サムはキースを思い出せないまま死亡したのがきっかけだ。

自分の出自、ミュウという存在の秘密を確かめるために出世し、メンバーズ・エリートの頂点に立ったキースは、グランドマザーと直接対話できる権利を手にした。 そうしてマザー(正確にはマザーに介入したコンピュータ・テラ)から得た答えは、ミュウ因子を受精卵の時点で排除してはならないというプログラムが最優先事項であること、「無垢なるもの」とは優秀な卵子をグランドマザーが遺伝子操作して生み出された、これだけだった。 愕然とするも、キースは自分の卵子提供者はフィシスだと思った。 フィシスがマザーイライザに似ているのは、イライザが母親=フィシスのイメージを投影しているからだと思い込んだのだ。

そして10年が経過した。 人類とミュウとの戦争は泥沼化し、人類もミュウも疲弊しきっていた。 アタラクシア侵攻以降全戦全勝だったミュウ陣営だったが、虎の子だったナスカの子の中に戦死者を出すほどだった。 ケリをつけたのはミュウの、ジョミーの、ソルジャー・ブルーの「地球へ行く」その意志だけだった。 ジョミーの力強い言葉によって奮起したミュウは、火事場のバカ力によって地球側最終防衛線である冥王星を陥落させた。 グランドマザーはミュウ側との和平交渉を承諾した。 泥沼の戦争はあっけなく始まり、終わり方もあっけないものだった。

初めて見る青い星地球に感動するミュウたち。 そこにソルジャー・ブルーの意志をジョミーは感じ取っていた。
和平交渉の前夜、トォニィは独断で再びキース暗殺を試みたがマツカがトォニィの攻撃からキースをかばったため再び失敗した。 マツカは左半身を吹き飛ばされつつも、仮死状態となったキースを思念波で復活させて死んでいった。 マツカの死を目の当たりにしたキースの脳裏に、美しい思い出となっていたステーション時代の記憶、唯一心を許した存在サムとシロエの姿が走馬灯のように駆け巡った。 キースは涙を見せなかったが、その翌日は大雨だった。 キースは、目に見えるよりどころをすべて失ったのだ。

和平交渉は遅々として進まず、ジョミーはグランドマザーとの直接「会見」に挑む。 グランドマザーが和平交渉に応じたのは、ジョミーをおびき寄せ抹殺するための罠だったと承知のうえ、キースとともにグランドマザーと対峙しラストバトルに挑んだ。

キースが見守る中コンピュータの生む思念波とジョミーの思念波との戦いが繰り広げられ、結果ジョミーに軍配が上がった。 だがグランドマザーは最後の切り札としてキースの意識を操り、ジョミーを射殺させた。 キースはこの時初めてグランドマザーに反抗、グランドマザーはその言葉をトリガーにしたかのように爆発、完全に消滅した。

その余波で地下に落とされるキースは、グランドマザーの後ろにいたもう一つのスーパーコンピュータ、コンピュータ・テラに出会う。 コンピュータ・テラは、SD体制以前から旧人類はミュウの存在を把握しており、旧人類とミュウ、どちらが進化の果て生き残るかを実験するため、旧人類側思考のグランドマザーとミュウを保護する学者側思考のコンピュータ・テラを作ったのだと語った。

グランドマザー亡き後も地球を管理するというコンピュータ・テラ。 キースはその機能を永久停止させた。 今まで抑圧されていた地球の火山活動が一気に再開し、各地で爆発を起こす。 この世に未練はなかったキースはそばにいたジョミーの残留思念に「俺を殺せ」と言った。 キースは 生まれて初めて自分自身の意志で命令、もしくはお願いをした。 ジョミーの思念はキースに苦痛を与えず心臓を止めた。 キースの死に顔は安らかだった。

地球上すべてのメガロポリスは壊滅、人類ミュウ問わず多数の死傷者であふれた。 会見場にいた長老たちは地球市民とともに炎に焼かれ、ジョミー救出に向かったリオは人類の少女の身代わりに岩の下敷きになった。 ジョミーに後を託されたナスカの子の一人ツェーレンは、ミュウも人類も関係なく救助活動にいそしむ。 フィシスは地上に残った人々から死の恐怖を取り除きつつ、最期の時を共に過ごそうとしていた。 ソルジャー・ブルーの与えた「女神」としての役割を果たしたのだ。

そしてトォニィはジョミーを探すうちに力尽き、宇宙空間に漂っていた。 彼を迎えに来たのは、ツェーレン以外のナスカの子だった。 悲しみに打ちひしがれたトォニィとともに、地球から離れていく。

そして…時は流れた。

エピローグ

地球崩壊からどのくらいの時が流れたか定かではないある時、ある空間で、二隻の宇宙船がランデブーした。 お互い別の星系からやってきて外見も言葉も違う一家二組だったが、目的は同じだった。 はるかかなたにある幻の故郷「地球」へ向かうこと。 片方の家族には、ジョミーにそっくりな少年と、かつてリオが助けた少女にそっくりな母親がいた。 大人たちが地球について熱く語り合う中、少年は一人艦内探索を始めた。 そこでフィシスそっくりな少女と出会い、その手をつかんだ。

少年と少女は同じ映像を見る。
地球を懐かしみ涙を流すソルジャー・ブルーと見守るフィシス。
ステーション時代のキース、サム、シロエ。

そして気づく。
二人は同じ記憶を持ち、ずっと互いを求めあっていたことに。

二人はもう二度と離れないと誓った。

そのかなたには、悠久の美しさを放つ青い星が輝いていた。

『地球へ…(Toward the Terra)』の登場人物・キャラクター

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