地球へ…(テラへ)のネタバレ解説・考察まとめ
『地球へ…』とは、竹宮惠子による日本のSF漫画作品、およびこれを原作とした派生作品。新人類ミュウの長・ジョミーと旧人類の国家元首キース、二人の少年の孤独と葛藤を描いた作品である。
派生作品は1980年4月公開の劇場版アニメ、2007年4月から同年9月放送のテレビアニメ(全24話)、ラジオドラマ、スピン・オフ漫画。
第9回星雲賞コミック部門、第25回小学館漫画賞少年少女部門を受賞。
『地球へ…(Toward the Terra)』の概要
現代から3000年ほど未来、SD(Superior Dominance:特殊政府体制)時代の物語。
コンピュータによる完全管理社会の中で、テレパシー能力を持つ新人類ミュウと旧人類との間に繰り広げられる争いと憎しみの渦中に巻き込まれる二人の少年、ジョミーとキースを中心に物語は展開される。
進化とは。人とは。自分とは。
大人でも子供でもない「少年」特有の純粋さ、危うさを持つ彼らは、自分自身の存在意義、時代と人との関わりなどに翻弄されつつも成長していくのだが、彼らを待っていたのは相互理解の不備がもたらす破滅だった。
竹宮惠子によるSF漫画作品。『月刊マンガ少年』(朝日ソノラマ)に1977年1月号から1980年5月号にかけて連載された。全4部構成。1995年には文庫化し、2006年の時点では10版まで出版された。全4部構成。1995年には文庫化し、2006年の時点では10版まで出版され、2007年4月6日には新装本が出版された。
当初は3回で終了する予定でスタートし、第4話で一旦第1部が完結。 その後、断続的に第4部まで3年半にわたり連載が続いた。
人間関係やストーリー自体は単純だが、心理描写や伏線、暗喩などが複雑で、なおかつ考察する情報が作品中に多く描写されていないため解釈が難解とされる。 だが環境問題の先送り、人口減少、少子高齢化、コンピュータによる管理社会、血縁関係のない親子、テレパシーという意思伝達能力を使いこなせない新人類、顔も知らない実の母親や女性型の人工AIに過剰な感情移入をする若者たちの姿は原作発表から30年以上の時を経てた現代人の姿とオーバーラップする。
核ミサイルや原子力発電問題を解決できない現代社会、自分の進路、恋愛、子育てなどの方法に悩むも相談相手がいなくて追い詰められ他者への暴力や殺人、自殺を選択したり、携帯端末やSNSを多用して振り回される人々の姿は、作品中の登場人物と何ら変わりはない。
『地球へ…(Toward the Terra)』の世界観
SD体制
Superior Dominance(特殊政府体制)の略称。 「体制」という語句が重複するのは原作に準じる。 スーパーコンピュータ、グランドマザー(後述)による完全統治社会。 SD体制の政策の一部は以下の通り。
コンピュータによる人口統制
増えすぎた人口を統制するため、子供はテラズナンバー(後述)によって、非公開の手段で採取された精子、卵子をランダムで選別し、人工授精させて人工子宮の中で育成する。 生まれた子供は政府から派遣された養父母によって14歳になるまで育てられる。 養父母一組に対し子供は一人だけなので、兄弟姉妹という関係や血縁関係のある親子も存在しない。
ミュウへの弾圧
ミュウ(後述)に対する徹底的な弾圧行為。 ミュウの兆候がある人間は長幼の区別なく、ユニヴァーサル・コントロール(後述)の保安部隊による銃撃を受け「処分」される。
グランドマザー
SD体制において政治の全権を担うスーパーコンピュータ。 旧人類を保護し、女性型の思考を持つ。 地球に鎮座し、テラズナンバーを介して全人類を統率している。 ミュウを排除する政策をとっているのにミュウ因子を受精卵の時点で排除しない理由は、旧人類とミュウ、どちらが進化の果て生き残るかを実験するため、ミュウ因子を排除してはならないという最優先プログラムを施されているからである。
テラズナンバー
幼年育英都市(後述)を統治するグランドマザーの端末。 SD体制下の子供は全員テラズナンバーの人工子宮から生まれ、成人検査(後述)を受ける。 ジョミーの住んでいたアタラクシア担当はテラズナンバー5(ファイブ)である。
ユニヴァーサル・コントロール
テラズナンバーの指令により、実際に育英惑星を管理する組織。
主な任務は子供たちの健全な育成の管理。 具体的には生活一般や成人検査の管理運営、テラズナンバーにより非健全と認定された子供に対する心理テストの施行、ミュウ認定された子供の「処分」である。
幼年育英都市(テレビアニメ版では育英惑星)
SD体制下に生まれた子供が「目覚めの日」(後述)を迎えるまで生活する都市。 子供達は「ここは地球(テラ)」であると家庭や学校で教わるが、実際は地球から離れた育英都市用にテラフォーミングされた惑星に存在する都市。
ミュウ
SD体制以前から発生していた(正確には化学者により生み出された)新人類。 能力の高いものはサイコキネシスやテレポートなどの俗にいうESPを使えるが、基本はテレパシー能力と身体障碍、虚弱体質を先天的に保有しているだけの人間である。
ソルジャー・ブルーが「300年分の記憶」を持つという原作の記述から旧人類の3倍の寿命を持ち、外見の老化も緩急であるため年をとらないとされるが、ソルジャー・ブルーが本当に史上最初のミュウで、300年前に生まれたという明確な記述は原作、アニメともに存在しない。
目覚めの日
幼年育英都市に育つ子供が14歳の誕生日、あるいはその前後一年内に施行される成人検査を受けるため、養父母の元から巣立つ日。 いわゆる成人の日に当たる。
成人検査
「目覚めの日」を迎えた子供が受ける検査。子供が散策している間にテラズナンバーから思考テストの電波を脳に直接送られ、解析される。 試験に合格すると、エリートコースと一般コースに振り分けられ、それぞれ教育ステーション(後述)に送られる。
教育ステーション
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目次 - Contents
- 『地球へ…(Toward the Terra)』の概要
- 『地球へ…(Toward the Terra)』の世界観
- SD体制
- コンピュータによる人口統制
- ミュウへの弾圧
- グランドマザー
- テラズナンバー
- ユニヴァーサル・コントロール
- 幼年育英都市(テレビアニメ版では育英惑星)
- ミュウ
- 目覚めの日
- 成人検査
- 教育ステーション
- マザーイライザ
- ナスカの子
- コンピュータ・テラ
- カナリア
- 「無垢なるもの」
- 『地球へ…(Toward the Terra)』のあらすじ・ストーリー
- 第一部
- 第二部
- 第三部
- 第四部
- エピローグ
- 『地球へ…(Toward the Terra)』の登場人物・キャラクター
- ジョミー・マーキス・シン
- ソルジャー・ブルー
- 占い師フィシス
- キース・アニアン
- ジョナ・マツカ
- サム・ヒューストン
- セキ・レイ・シロエ
- トォニィ
- アルテラ
- スウェナ(テレビアニメ版:スウェナ・ダールトン)
- リオ
- キャプテン・ハーレイ
- カリナ
- 『地球へ…(Toward the Terra)』の名言・名セリフ/名シーン・名場面
- 地中眠れる獅子 永遠(とわ)の時のかなたに目覚め 目覚め百億のひかり超えて 地球へ来たらむ
- そうだジョミー。 動物を檻に入れることこそがいけないとは誰も教えない。 将来社会という檻に入ったとき「檻」が意識されては困るからだ。 ジョミー 疑問は持ちたまえ。 いくつもいくつも…できるだけ多くの疑問を!(原作第一部)
- ああ…静かだ ゆっくりと…ぼくは眠ろう。 宇宙(あま)の潮騒 悲しいまでに広がる星の海 一粒の真珠…地球よ(原作第一部)
- ぼくが…まだ何も知らず人工羊水の中で眠っている間に勝手に選び出し 人工惑星へ運び そしてまた成人検査で力づくで押さえつけた! 絶対に忘れない!! …機械に与えられた屈辱を! 僕は絶対に忘れない(原作第二部)
- 人間の精神(こころ)はもろいものです 真実に直面する勇気と知性に欠けていて… 時には感情に振り回されて砕け散る だから禁(タブー)によって弱い精神を守ってやろうというのになぜあなたがた人間はそう愚かしくわがままなのです?(原作第二部)
- 時が過ぎてゆく中で ぼくはひとり …ただ一度の存在…(原作第二部)
- …太陽がまぶしい(原作第二部)
- …お母さん…ぼくの覚えているあなたは これほどまでに理想的です…(原作第三部)
- 人間には 人間以上はいらない(原作第四部)
- 人間がミュウを忌み嫌うように 仲間は君たちを恐れるだろう。 だが 君たちは働け。 闘いに…ミュウのために力尽きるまで(原作第四部)
- 邪悪です! 人間は邪悪な生き物です また地球を滅びへ導くつもりか!? せっかく統制された社会を築いてきたのに! 人類はもう二度と同じ道を歩くことはなりません!!(原作第四部)
- ああ! 無論だとも! 人間は二度と道を誤ってはならぬ。 我ら一人一人 土と水と太陽と…植物を育て 動物を飼い 古代の人々のように地球とともに生きるのだ! …地球との 自然とのバランスを保つためのみに 機械は使われなくてはならぬ。 機械は考えてはならぬ! 人間になってはならぬ! もう二度と(原作第四部)
- フィシスは人造細胞から生まれたものだ 親も子もない。 そのうえ目も開かない 生殖力のない女性体で 失敗作だった。 ブルーはそんなフィシスを 人間とミュウとの間の女神として見た。 優しい考えだったのだ(原作第四部)
- 感じないかアルテラ。 自分が宇宙に漂う際限ない力(エネルギー)の中のひとかたまりだと(原作第四部)
- 彼についてきてよかったのだ 満足だ(原作第四部)
- 人間はマザーにあやされ 育てられた意志のない子供。 目も耳も口もふさがれながら それを知らない不幸な子供だ…だが反逆児ミュウたちにはそれが見える。 敵の姿として…だからここまで来た お前を壊すために!(原作第四部)
- わめくのをやめろーっ機械(コンピュータ)!! 二度と俺の意志に触れるな! もう二度と…(原作第四部)
- 『地球へ…(Toward the Terra)』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
- ストーリー展開の違い
- キャラクターの性格の違い
- キースとフィシスの関係
- ナスカの子の構成と行く末
- 地球環境について
- 劇場版の小ネタ
- 実験的試みの数々
- 史上初! コスプレアテレコ
- テレビアニメ版の小ネタ
- スターシステム導入
- ミュウの制服
- 聞き覚えのあるセリフ
- 見覚えのあるオープニング、エンディングアニメ
- 『地球へ…(Toward the Terra)』の主題歌
- 劇場版オープニングテーマ 『地球へ…(Coming Home To Terra)』 歌 - ダ・カーポ
- 劇場版エンディングテーマ 『愛の惑星(All We Need is Love)』 歌 - ダ・カーポ
- テレビアニメ版オープニングテーマ (第1話 - 第13話)『endscape』 歌・演奏ー UVERworld
- テレビアニメ版オープニングテーマ (第14話 - 第24話)『JET BOY JET GIRL』 歌 - 高橋瞳
- テレビアニメ版エンディングテーマ (第1話 - 第13話)『Love is...』歌 - 加藤ミリヤ
- テレビアニメ版エンディングテーマ (第14話 - 第24話)『This Night』 歌 - CHEMISTRY