風と木の詩(アニメ・漫画)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『風と木の詩』とは、1976年から82年まで『週刊少女コミック』『プチフラワー』にて連載された竹宮惠子による日本の漫画作品。
BL界のバイブル的存在として、知識人たちからも高い評価を得ている。
舞台は19世紀末のフランス。 自由奔放なジルベールと誠実で純粋なセルジュ、二人の少年を中心として繰り広げられるはかなくも激しい青春物語である。

『風と木の詩』の概要

19世紀末のフランス、アルルにある全寮制の男子校ラコンブラード学院で繰り広げられる、思春期の多感な少年達の青春と挫折の物語。 運命に翻弄される2人の主人公、ジルベールとセルジュの切ない愛憎劇が描かれる。
竹宮惠子による少女漫画作品。 1976年『週刊少女コミック』(小学館)10号から連載開始。 1982年7月号から連載誌を『プチフラワー』(小学館)に変えて1984年6月号まで連載された。 第25回小学館漫画賞少年少女部門受賞。
派生作品は外伝「幸福の鳩」、ビデオアニメ、スピン・オフ小説「神の子羊」。

少年同士の性行為、レイプ、父と息子の近親相姦といった描写は当時センセーショナルな衝撃を読者に与え、萩尾望都作「ポーの一族」とともに「やおい」「ボーイズラブ」と呼ばれるジャンルを生み出すきっかけを作った。
当時はセックスシーンを少年、少女漫画の中に描くのはタブー中のタブーだった。 原作者の竹宮はそのタブーを破壊するため、男女でダメなら男同士で描こうと決め、この話を考え付いたという。 愛を語るのに性行為抜きではいけないという思想のためである。

漫画界に革命を起こした作品だが、漫画界以外の有名人からの評価も高い。 とくに有名なのが、アングラ劇団「天井桟敷」の主催者で「あしたのジョー」の主題歌作詞も手掛けた寺山修司である。 「これからのコミックは、風と木の詩以降という言い方で語られることとなるだろう」という彼の言葉通り、この作品は少女漫画界、少年愛作品の金字塔となっていく。

少年愛以外の特徴が、主人公ジルベールとセルジュの過去を描くためにその父親であるオーギュとアスランの過去にも触れている点だ。
ジルベールが奔放に、セルジュが堅実に育ったのは、その親であるオーギュが奔放に、アスランが堅実に育ったからであり、子は親の鑑だという表現がされている。 主人公以外のキャラが引き立て役ではなく、一人の人間として群像劇を成立させている点も特徴の一つである。

『風と木の詩』のあらすじ・ストーリー

出会い

フランス、アルル地方にある全寮制の男子校、ラコンブラード学院に主人公の一人セルジュが転入するところから物語は始まる。
14歳でフランスの名家バトゥール子爵家の後継者になったこと、母親がジプシー出身であること、肌が「とび色(トンビのような茶色)」であることを気にしていたセルジュだが学院ではパスカルやカールなどすぐ友達ができ、有意義に暮らせると思っていた。

セルジュはもう一人の主人公、ジルベールと同室になった。 ジルベールは学院一の問題児で、授業にも出ず放浪しては複数の生徒や教師と肉体関係を結んでいるという、セルジュが今まで知らなかった素行の持ち主だった。 だが、ジルベールは美しかった。 彼に触れれば虜にならずにいられないほど、美しかったのだ。 その美しさを武器にジルベールは好き勝手にふるまう。 セルジュもジルベールに振り回されそうになるが、持ち前の誇りと意志の強さでかろうじてその誘惑をはねのけつつ共同生活を送っていた。

初めはジルベールのことが全く理解できなかったセルジュだが、共に暮らすうちに彼の中の孤独や繊細さを知る。 ジルベールと仲良くしようと試みるセルジュだが、ジルベールは優しく誇り高いセルジュに興味を持ちつつも、自分のテリトリーに安易に入ってこようとする彼を拒否し続けていた。 ジルベールが不特定多数の相手と体だけの関係を求めるのと比例するかのように、セルジュは父親譲りのピアノの才能を父アスランの親友であった教師、ワッツとルイ・レネたちに買われ、パスカルをはじめとする友人もたくさん増やしていく。

そうして季節はクリスマスを迎え、生徒たちはほとんどが自宅に帰省していった。 セルジュはジルベールを気にしつつもパスカルの実家に世話になるため寮を出た。 その途中ジルベールの姿を見かけたが何をしているのか確認できないまま旅立った。 そのころジルベールは、待ち人であるオーギュからの手紙に「今年も帰れない」と書かれていることにショックを受け、雪の中を泣きながらさまよっていた。

ジルベールが気になりつつもパスカルの実家で休暇を楽しむセルジュ。 彼の実家は10人以上の兄弟に囲まれたにぎやかな家庭で、親子三人暮らしと、多くの使用人だけに囲まれた生活しか知らなかったセルジュにとって初めて見る「普通の家庭」だった。
ある日パスカルたちが外で遊んでいる間パスカルの部屋で昼寝をしていると、そこへパスカルの妹パットが忍び込み、持ち込んだキャンバスに自分の裸体を描き始める。 秘密裏に絵を描こうとするなら男の部屋にいればみつからないと思っていたが、この時は運悪くセルジュがいた。
驚くセルジュをよそにパットは開き直り、自分はきれいかどうか言ってくれと迫る。 なぜか裸体のパットがジルベールに見えてしまい戸惑うセルジュ。 私をきれいだと思うならキスして、となおも迫るパットにあらがえずキスをする。
この一件以来パットはセルジュを誠実だと敬愛するようになるが、セルジュはなぜパットがジルベールに見えてしまったのかわからないままだった。

休暇を終えて戻ってきたセルジュを待っていたのは、いつにも増して自堕落になっていたジルベールだった。 同僚の話では毎年こうだと言うが、一人でいるのは嫌だと助けを乞うジルベールを放っておけず、セルジュはジルベールと肌を合わせて一緒に眠った。 初めて感じる人のぬくもり。 ジルベールが求めているのはこれなのだろうか、と初めて知ったセルジュだった。

彼らの住むラコンブラード学院は、ジルベールの待ち人であるオーギュが多額の寄付をして実質上の支配者となっていた。 ジルベールとセルジュが仲良くなりつつあることを知ったオーギュは、二人の仲を裂くためわざとジルベールに冷たく接してセルジュに優しくした。 嫉妬に狂ったジルベールはセルジュに対し、タバコの火を押し付け、水差しを投げつけ、グラスの破片を向けながら「僕の部屋に帰ってくるつもりなら…わすれるな。お前を憎むものが同じ部屋の中にいることを」と、宣戦布告をする。 セルジュもジルベールのすべてを受け止めるため、その申し出を受け入れた。

物語はここでいったん過去に戻り、オーギュとアスランの物語に移行する。

オーギュの過去、そしてジルベール

孤児院育ちのオーギュは、フランスでも指折りの名士コクトー家の跡取りペールの小姓(という名の性奴隷)として身も心も弄ばれ続けてきた。 時が過ぎペールは政略結婚をするが、オーギュへの偏愛は変わらぬままだった。 ペールの妻アンヌマリーはオーギュを誘惑し、不義を結ぶ。 怒ったペールはオーギュのわき腹に焼き串を当ててやけどを負わせ、ラコンブラード学院に追放した。 戸籍上オーギュはコクトー家の養子(ペールの弟)だったので、学校に入れる必要があったからだ。
オーギュが去る前にアンヌマリーは男の子を生む。 彼女は子供を産む前から神に懺悔し「この子を殺して!」と叫び続けたが、子供は無事に生まれた。 オーギュが様子を見に行くと、アンヌマリーは子供を見もしないで泣くばかりだった。 「誰の子です?」とオーギュに聞かれたアンヌマリーは泣きながら子供を殺そうとしたのをペールが慌ててとりなし、彼女の静養のためと称してオーギュや生まれた子供から逃げるかのように東南アジアに去っていった。

オーギュは学院の中で人心掌握術の才能に目覚め、生徒総監という役職を作って生徒の監視を強化していく。 卒業後は新進気鋭の詩人として社交界の花となり、コクトー家を頼らず自分の力で富と名誉を手にした。

オーギュがコクトー家から追放されて5年後。
東南アジアからペール夫妻が戻っていない現在、コクトー家は当主不在のはずだった。 そのつもりでマルセイユにあるコクトー家の別荘に帰ってきたオーギュは5歳のジルベールと出会う。 彼こそ、オーギュとアンヌマリーの不義によって生まれた子供だったのだ。
ジルベールは戸籍上ペールの息子、つまり現時点でのコクトー家の当主であったが、食事や身の回りの世話を召使に事務的にされるだけで愛情を全く与えられずに育ったという。 だが、他者から情緒を干渉されなかったからこそのまっすぐな感情と感性を持っていた。 その奇跡に驚いたオーギュは、実の息子であるジルベールを自分の思うがままに操りたいという野心を抱き、DVまがいのスパルタ教育を施していく。

ジルベールはその暴力的な愛情を受け止め、肉体の暴力を受けるたびにその痛みを凌駕する精神的強さを増していく。 そしてオーギュの持っている知性と教養をそのまま受け入れることで学校に通わずとも自らの知性と感性を磨いていった。 純粋な知性と教養は生まれ持った肉体の美しさを引き立たせ、10歳にもならない子供とは思えぬ色香をも生み出していた。 その色香は女性以上に男性を魅了する。 ジルベールはオーギュが必要以上にかまってくれないことへの当てつけで、オーギュを訪ねてくる社交界の住人を相手に遊んでいた。

ある日、ジルベールのうわさを聞き付けたソドミアン(男色家)の彫刻家、ボナールがオーギュを訪ねた。 オーギュがソドミアンを嫌っている理由(性奴隷だった過去)を知らないボナールは、オーギュの不遜な態度を我慢してジルベールを引き取りたいと談判する。 オーギュは問答無用で断ったためボナールは本気になった。 非合法であろうと気にせず麻薬を使ってジルベールを誘拐、拉致し、レイプした。

初めてのセックスに自我を失ったジルベールはボナールのもとから去り、入水自殺しようとしたところを助けられるがジルベールの放心は治らない。 オーギュはジルベールの受けた行為以上の行為で心の傷を上書きしなければジルベールは精神崩壊すると思った。 それはつまり、実の息子であるジルベールを、実の父親である自分が抱くということに他ならなかった。 オーギュは躊躇することなくジルベールを抱き、ジルベールはその行為に泣きながらもオーギュに愛されていることに喜びを感じた。

オーギュに抱かれたことによりジルベールの生命力と色香は増すばかりとなった。 その影響はオーギュの予想外であった。 使用人からもレイプされそうになったため、オーギュはジルベールをパリに移住させることにする。 ジルベールの異彩さはパリの社交界から注目を浴び、瞬く間に時代の寵児の名をほしいままにしていく。 ジルベールが世俗に染まっていくことを許さなかったオーギュは、彼に冷たくする。 絶望したジルベールは家を出た。 そんな彼を救ったのは、かつて自分をレイプしたボナールだった。 ボナールはレイプされても屈しなかったジルベールの強さに心底ほれ込み、真摯にジルベールの面倒を見る。

ジルベールの行方を心配するオーギュのもとに、東南アジアから義兄ペールが訪ねてきた。 パリに住むことになったのでオーギュとジルベールにパリから離れてほしいと頼みに来たのだ。 オーギュは彼の申し出をオーギュはきっぱりとはねつけ、 逆にジルベールは不義の子だとばらすと脅す。 その返事を待つ間にジルベールの居場所が判明したので、オーギュはボナールの館へ引き取りに行く。

オーギュがジルベールの実の父親であることに感づいていたボナールは、ジルベールにもっと優しくしろと詰め寄るがオーギュは聞く耳を持たない。 お前は自由を武器とするジルベールに嫉妬しているんだ、と図星を突かれたオーギュはジルベールをかけた決闘を申し込む。
翌日、決闘に向かったボナールを追ったジルベールは、ジルベールの行方を捜していたオーギュの執事と合流して決闘場に向かう。 ジルベールが現場に到着したとき既に決闘は始まっており、ジルベールはオーギュに駆け寄った。 オーギュの真後ろにジルベールの姿を見つけたボナールは銃を撃つことができず、その隙をオーギュに突かれた。 オーギュの一撃は致命傷には至らず、ボナールが弟子たちに助けられているところを確認した後、オーギュはジルベールとともに去っていった。

その翌日オーギュはジルベール同伴で、ジルベールの扱いに対する返答を聞くためペール夫妻を訪れた。 初めて見る実母アンヌマリーにあこがれるジルベールだが不義の子を受け入れず、ペールとの間に生まれた弟ばかりをかばう母の姿にショックを受ける。 ジルベールの衝撃に追い打ちをかけるようにオーギュは、そろそろ自分も結婚してもいい年だしジルベールを学校に入れたいと切り出す。 ジルベールを普通の子供に育てるためには不義の関係を清算し、学校で社会生活を学ばせる必要があると思ったが故だった。

オーギュは、「ジルベールをラコンブラード学院に編入させ、その素行をオーギュが監視すること」「学費をコクトー家が全面援助すること」「マルセイユの別荘をオーギュ名義にすること」を条件にペールたちと縁を切ると切り出す。 なすすべなく条件を飲むしかないペールに、オーギュは永遠の別れの証として口づけをした。 実母アンヌマリーにもオーギュにもすがることのできなくなったジルベールもまた、オーギュの思惑通りに学院に行くしかなかった。

そこで運命を変える出会いが待っていることも知らずに。

アスランの過去、そしてセルジュ

オーギュがコクトー家で性奴隷として飼われていたころ、バトゥール子爵家の跡取り息子であるアスランは順風満帆な人生を歩んでいた。 持病の結核と、ピアノの勉強を父から反対されていたこと以外は。

飛び級で大学に入るほどの成績をとったため一年間自由を与えられたアスランは、親友ワッツ、ルイ・レネとともにパリで暮らすことになった。 ワッツとともにオペラ「椿姫」を見に行った時、偶然見かけた「とび色」の肌の美少女、パイヴァに一目ぼれをする。 ワッツに相談したら彼女は高級娼婦で、しかもパリの財界を牛耳るガルジェレ侯爵の愛人なのであきらめるよう言われた。
必然ともいえる偶然は、アスランとパイヴァを引き離そうとはしなかった。 周囲が反対すればするほど二人の愛は燃え上がり、アスランは身分も地位も家族も友も捨てる決意を固めた。 パイヴァを侯爵のもとから奪い去ったアスランは、結核の静養で訪れたことのあるスイスのチロルで新しい人生を送る。

二年がたち、パイヴァとの間に生まれたセルジュと三人で貧しいながらも幸せな暮らしを営むアスラン。 だがアスランの結核が再発し、見舞いに来た父と和解して間もなく息を引き取った。 その後パイヴァも結核にかかり、アスランの父(セルジュの祖父)も死亡した。 男子がいなくなったバトゥール子爵家の後継者となったセルジュはパリに引き取られることとなり、 余命いくばくもないと悟ったパイヴァは自分がいてはセルジュのためにならないと、セルジュと別れる決心をする。 セルジュは事情も分からぬまま母と別れた。

子爵家に引き取られて数年後、セルジュは持ち前の素直さとピアノの才能を愛される貴公子になっていた。 叔母であるリザベートにいじめられる以外は順風満帆だった。
セルジュはリザベートの娘でいとこにあたるアンジェリンと出会い親しくなっていくが、彼女の情熱的な思いを受け止めきれず傷つけてしまった。 それを怒ったリザベートに折檻されそうになったのをアンジェリンがかばうが、その際彼女の顔にやけどを負わせてしまう。 セルジュは贖罪のためアンジェリンと婚約すると言うが拒否され、二度と顔を見せないでと言われてしまう。
セルジュは二度と社交界に戻らないために、全寮制である父の学んだラコンブラード学院に進学することを決意したのだった。

そこで運命を変える出会いが待っていることも知らずに。

ラ・ヴィ・アン・ローズ

再び物語はジルベールとセルジュ視点に戻る。

オーギュは生徒総監のロスマリネと不良生徒のリーダーであるジュールを使って、ジルベールに接近しつつあるセルジュを牽制しようと画策する。 ロスマリネとジュールは、あえてジルベールの乱交を無視してセルジュがジルベールに愛想をつかすよう手をまわし、オーギュはジルベールを無視してセルジュにかまう一方、アンジェリンとの婚約を発表する。 この婚約は、ジルベールにとってはオーギュとの永遠の離別、セルジュにとってはいとこを人質に取られたようなものだった。

これらの計略によってジルベールとセルジュは激しく罵りあったりお互い干渉したくないと思うようになる。 しかしセルジュはオーギュと親交を増すにつれ彼の冷酷さを肌身で感じるようになり、ジルベールもセルジュとのふれあいでオーギュ以外の人間に気を許せるようになっていた。 それに気づいたオーギュは夏休みに二人を別荘に招いた。 セルジュにわざとジルベールとのセックスを見せつけたり、セルジュに薬を飲ませレイプをして警告をするがセルジュは屈しなかった。 オーギュはセルジュだけを学院に戻すが、ジルベールは独断でセルジュを追って学院にもどった。

別荘から学校に戻った二人は、その後まもなく身も心も結ばれる。 それを知ったオーギュはロスマリネになんとしてでもジルベールとセルジュを引き離すよう命じる。 そのころにはロスマリネ自身もジルベールとセルジュに感化され、オーギュの支配から脱しようと考えつつあったがその反面、二人の自由な生き方を嫌悪する心もあった。 悩みつつも今の地位を失いたくないロスマリネはオーギュに従い、学院一の不良にジルベールを脅迫させた。 その不良たちがとった方法に関しては関知する気はなかった。

その不良たちはジルベールを呼び出し、セルジュに危害を加えられたくなかったら慰み者になれと脅迫する。 ジルベールは誰にも相談できないまま毎日レイプされ続けてきたが、不良たちの立ち話を聞いたカールからセルジュはその事実を知らされた。
セルジュはロスマリネに不良生徒を何とかしてくれと嘆願するも断られる。 ジュールは、ジルベールとセルジュは命の危険に陥ってまでもオーギュの支配から脱しようともがいているのに、未だ支配されているのかとロスマリネを責め、独断で不良たちを学院から追放する。 ロスマリネはジュールの行動を不問とした。 それ以来、ロスマリネの中にもオーギュへの叛意が芽生え始めるが、それから間もなく生徒総監をクビになる。 後任はジュールだった。

それでもオーギュの支配がある以上、このまま学院にいてはジルベールとセルジュは破滅する。 思い余ったジルベールは自殺未遂を起こす。 セルジュはジルベールとともに学院を脱走する決意をする。 ほぼ全校生徒が教師の目をかいくぐって脱走計画のためにカンパをしたり、脱走経路の確保などに協力してくれた。
決行当日。 玄関まで二人は移動に成功するが、待ち構えていたのはロスマリネだった。 今は総監ではないがいまだ権力を持つ彼に阻まれては計画は失敗だ、と絶望する二人だったがロスマリネは二人を見逃した。 二人の脱走は自分にとっても意味があることだと言い、当座の資金を持たせて二人を馬車にのせて送り出した。 ロスマリネはその帰りにジュールに会ったが、今はまだ総監ではないから余計なことはしない、と彼はうそぶいた。
そうしてジルベールとセルジュは学院を出て行った。

ジルベールの意向でパリに住むことにするセルジュだったが、生活というものを全く知らないジルベールに翻弄させられる。 ジルベールを一人にしておくと何をするかしれないので二人でできる仕事を探し、何とか見つけたのがパリの下町にあるビストロでのギャルソンのバイトだった。
セルジュのピアノとジルベールの美貌で客足が増して、これで安定した生活が送れると思ったのもつかの間、その客の中に売春斡旋組織の元締めでこの町の陰の権力者、ダルニーニがいた。 ジルベールは彼に目を付けられ、セルジュと別れさせるため仕事をクビになった。さらにダルニーニによって町中に、ジルベールとセルジュに職業を斡旋するなという圧力がかけられる。 何も知らないセルジュが懸命に仕事を探している間一人になったジルベールは、ダルニーニによってアヘン中毒にされ弄ばれる。

ジルベールが自分からアヘンを欲しがる頃合を待つかのようにダルニーニはセルジュへの仕事斡旋を解禁し、ジルベールを更にアヘン漬けにして売春をさせる。 売春、アヘンに溺れるジルベールと、それを知らず関係の破綻を感じ悩むセルジュ。 そんな二人を助けたのはボナールやパスカル、パット兄妹だった。 ボナールは二人を家へ招き、生活の面倒を見ようとするが拒否される。 パスカルやパットも、ジルベールと別れた方がいいとアドバイスをするがセルジュは聞き入れない。 パスカルたちができるのはセルジュが滞納した下宿の家賃を肩代わりくらいで、二人が町の元締めに目をつけられていることなど考えもできなかった。

ジルベールの様子がおかしくなっている理由に気付かないまま、二人の間にできた溝を自分の力だけで埋めようと意地を張るセルジュ。 パットからジルベールの様子について報告を受けており、その症状がアヘン中毒かもしれないと思ったパスカルは、ジルベールが留守にしている時にセルジュを訪ねた。 二人で部屋を探しアヘンの粉末と注射器を発見する。 パスカルはジルベールを養護施設に入れたほうがいいと進言するが、 そこへジルベールが帰ってきて話を聞いてしまう。

絶望し、さまようジルベール。 アヘン中毒患者が集まっている吹き溜まりで行き倒れているところをダルニーニの部下に見つかり、海に行きたいとねだる。 ジルベールが部下と逃亡したと知ったダルニーニは、薬漬けのジルベールのことはどうでもいいが、部下に関しては勝手に商品であるジルベールを連れ出したことの落とし前はつけねばならないとして追っ手を差し向けた。 追手はあっという間にジルベールたちの馬車を見つけ、部下は殺される。 残されたジルベールは追手の馬車にオーギュが乗っていると思って駆け寄る。 ジルベールの脳裏は、何も知らず幸せだったあの頃、オーギュと二人だけの別荘での思い出でいっぱいだった。

そしてジルベールは馬車にひかれ、短い一生を終えた。

翌日、セルジュたちは道端に転がっていたジルベールの遺体を発見する。 パスカルたちはオーギュにジルベールの死を伝えたが、ジルベールを引き取りに来たのはコクトー家からの使者だった。 使者はパスカルたちに告別式には来るなと言い、事務的にジルベールを棺に入れて早々と去った。 パスカルたちは、顔も見せないジルベールの実の親を責めた。

それから数日がたった。 パスカルやパットの励ましもむなしくセルジュは立ち直れずにいた。 パットは面識のないバトゥール子爵家に手紙を書いてセルジュの現状を知らせた。 まもなくアンジェリンがやってきてセルジュを引き取り、パットが付き添った。
実家に戻ったセルジュを、使用人たちは何も変わらないまま暖かく迎えてくれる。 そして父アスランの残したピアノと日記を見つけたセルジュは気づいた。死んだ者はいなくなりはしない、と。

久しぶりにピアノを弾くと音楽の中にジルベールを感じ、セルジュは生気を取り戻した。 セルジュが伸ばした手の先にジルベールがいた。 セルジュの後姿を見ていたパットにもそう思えた。

『風と木の詩』の用語

ラコンブラード学院

フランス、アルルにある全寮制の男子学校。 19歳から11歳までの資産家の子息が大学に進学するまで通う。
バカロレアと呼ばれる大学受験のための予備校ともいえる。 現在でもバカロレア制度は国際的教育プログラムとして存続している。
学校生活の基本概念はキリスト教の教えに則り、全校生徒によるミサや古典であるラテン語の授業も伝統的に行われている。
本来は音楽教育に重きを置いているが、アスラン、セルジュの登場までは才能のある生徒がいなかったためその事実は忘れられていた。

コクトー家

インドシナにまで販路を広げている商人の家系。 オーギュの脅迫によってラコンブラード学院に多額の寄付をしていたが、ジルベール死亡以降は手を引いた。 ジルベールが死亡しても本来の当主ペールと異父弟マルスは健在なので、家系の存続には何の影響もない。

バトゥール子爵家

フランスでも名高い名家だが、物語の時代(19世紀末)では有名無実である。
リアールの領主という設定があるが、フランスにリアールという土地は存在しない。 フランス革命以前まで使用されていた通貨としてのリアールは存在する。 なお、無一文という慣用句にリアールが使用されている。

シオン・ノーレ

オーギュが好んでつけている金木犀の香りの香水。 ジルベールとロスマリネからもその香りがすることから、オーギュに支配されている人形の代名詞といえる。 実在の香水ではない。

ココット

フランス語で牝鶏の意味だが、娼婦を表す隠語でもある。
パイヴァはそのココットの最高位である高級娼婦(クルティザーヌ)であり、本来ならば貴族の子息とはいえ容易に手の出せぬ高根の花であった。

『風と木の詩』の登場人物・キャラクター

ジルベール・コクトー

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