ルーム(Room)とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

2015年に公開されたレニー・エイブラハムソン監督のヒューマンドラマ。17歳の時に誘拐され7年間監禁され続けた女性ジョイと、監禁された“部屋”でジョイが産んだ息子ジャックが、決死の覚悟で“部屋”から脱出する様と、その後に待ち受ける数々の困難を乗り越えていく姿を描く。本作でアカデミー主演女優賞を獲得したブリー・ラーソンと、天才子役と評されたジェイコブ・トレンブレイの、魂の演技が光る。

『ルーム(Room)』の概要

『ルーム(Room)』は2015年に公開されたカナダ・アイルランド合作映画。オーストリアで父が娘を24年間監禁していたという「フリッツル事件」を元に書かれたエマ・ドナヒューの「部屋」を、アイルランド人のレニー・エイブラハムソン監督が映画化した。映画批評集積サイト「Rotten Tomatoes」では、「ここ10年で最高の一作」「この数年、これほどまでに心を動かされた映画はない」など絶賛する声が相次ぎ、批評家支持率は97%、平均点は10点満点中8.2点を記録した。

第40回トロント国際映画祭の最高賞である観客賞を皮切りに、数々の映画賞で計190のノミネート、74の賞を獲得した。第88回アカデミー賞では4部門にノミネートされ、鬼気迫る演技で母親役を務めたブリー・ラーソンが主演女優賞を受賞。息子のジャックを演じた当時8歳のジェイコブ・トレンブレイは、その繊細な演技で観るものを圧倒し、「天才子役」と呼ばれ一躍スターとなった。

『ルーム』のあらすじ・ストーリー

物置のような小さな“部屋”で目覚めた5歳のジャック。仕切りは無く、一つの空間にキッチンやバスタブ、トイレなどが置いてある。光が差し込むのは手の届かない高いところにある小さな天窓だけ。ジャックはこの狭い“部屋”で生まれ、それからずっと母親のジョイと2人で生活している。ジャックにとって“世界”はこの“部屋”の中だけだった。朝になるとジャックは電気スタンドや植木、じゅうたん、クローゼット…様々なものに「おはよう」と挨拶をしていく。ビタミン剤を飲み、歯磨きをし、ストレッチをする。そうやってジャックは5年の歳月をこの“部屋”の中だけで過ごしてきたのだ。

“部屋”には時々、2人が“オールド・ニック”と呼ぶ男がやって来る。男はジョイを監禁した人物で、定期的に食料など生活に必要なものを買ってきては、ジョイと一晩過ごしていた。そんな時ジャックはクローゼットの中で眠りにつく。ジョイは“オールド・ニック”がジャックに危害を加えることを恐れ、彼に会わせないようにしていたのだ。ある日、いつものように“オールド・ニック”がやってきた。「ジャックにもっと栄養を…」というジョイに、“オールド・ニック”は「半年前から失業していて金がない」と逆上する。さらにジャックがクローゼットから出てきてしまい、「ジャックに触らないで!」と怒鳴るジョイと、“オールド・ニック”の間で争いが起こってしまう。

翌朝、電気が切られ寒さに耐えるなかで、ジョイはある決心をする。それはこの“部屋”からの脱出だ。そのためにはまずジャックに本当のことを伝えなければならなかった。これまでジョイはジャックに、“部屋”の中が“世界”の全てで外は宇宙空間だと教えてきた。しかしそれはジャックがまだ小さく理解できないと思ってついていた嘘で、本当は外にも“世界”があり、そこには2人以外の人間や動物、植物などがあるのだと教える。そして自分は17歳の時“オールド・ニック”に誘拐され、7年間この“部屋”に監禁されていると話す。最初は混乱し、話を聞こうとしないジャックだったが、少しずつ状況を理解し始める。そしてジョイとジャックは、この“部屋”から出るためのある計画を実行する。

ジョイはお湯で熱くしたタオルをジャックの顔に当て、顔を真っ赤にさせた。電気を止められたせいで風邪をひいたことにし、ジャックを病院に運ばせるのだ。そして病院に着いたら医者に助けを求めるようにとジャックに言い聞かせる。しかしやってきた“オールド・ニック”は「明日強い薬を持ってくる」と言ってすぐに帰ってしまった。そこでジョイはジャックが死んだことにし、じゅうたんに包んで運ばせることを思いつく。トラックに載せられたら転がって逃げ出し、誰かに助けを求めるようにジャックに言う。これまで外に出たことも母親と離れたこともないジャックは泣いて嫌がるが、ジョイは何度も説得し、練習を重ねた。

そして“オールド・ニック”がやってきた。ジャックをじゅうたんに包み、死んでしまったと泣き崩れるジョイ。計画通り“オールド・ニック”はジャックをじゅうたんに包んだまま担いで外に出た。必死に体を固くし、息をひそめるジャック。そしてジャックを荷台に乗せ、トラックが走り出す。荷台で必死に転がり、じゅうたんから抜け出したジャック。トラックが止まった瞬間を見計らって飛び降りようとするが、“オールド・ニック”に見つかってしまう。それでもなんとか助けを求めたジャックは、警察に保護される。

ジャックはジョイから住所などを書いたメモを持たされていたが、それは追いかけてきた“オールド・ニック”に奪われてしまっていた。保護されたジャックはジョイのことを上手く伝えられない。しかし対応した婦人警官は、根気強くジャックに話しかけ、なんとかヒントを得ようとする。そして「天窓のある納屋」「トラックが3回目のゆっくりの時にジャンプした」というジャックの言葉から、ジャックがいた場所を推測。応援を呼び、ジャックがいた納屋を見つけ出す。パトカーの中から必死に「ママ!」と叫ぶジャック。そこへ必死の形相で走ってきたのは、ジョイだった。そして2人は泣きながら抱き合った。

病院のベッドで目覚めたジャックは、まだ自分の状況がわからない。すると医者がやってきて、外の日差しや雑菌になれていないジャックのために、サングラスや日焼け止め、マスクなどを手渡した。まもなく父と母が病院へ駆けつけ、涙の再会を果たしたジョイ。しかし父母は別居しており、父のロバートは遠い所に住んでいた。そして実家には、母ナンシーと同居しているレオという男性がいた。7年前とは変わってしまった状況に戸惑うジョイだったが、“オールド・ニック”が逮捕され、家に帰ることを決意する。

ジョイは、ジャックに話しかけるどころか、ジャックのことを見ようともしないロバートのことが気になっていた。そしてジョイはロバートに「この子を見て」と懇願するが、ロバートは娘を誘拐監禁した男の血を引くジャックを、どうしても受け入れることができなかった。ロバートの「すまない、見られないよ」という言葉に、ジョイはジャックを連れて部屋に引きこもってしまう。さらに弁護士の勧めで今後の生活のためにと取材を受けるが、インタビュアーの心無い言葉に深く傷つく。そして次第に心が不安定になっていったジョイは、自殺未遂を起こしてしまう。

ジャックは入院してしまったジョイを勇気づけるため、パワーがあるからと伸ばし続けてきた髪を切ることを決意する。そしてパワーのこもった髪をジョイに送る。ジャックの思いを知ったジョイは自宅へ戻り、二度と自殺未遂はしないと誓った。ある日ジャックが突然、ちょっとだけ“部屋”に戻ろうと言い出す。家具などが証拠品として押収され荒れ果てた“部屋”で、ジャックは残っていた植木やイス、クローゼット、そして天窓にも、かつて「おはよう」と挨拶していた時と同じように一つずつ「サヨナラ」を告げていく。「ママもサヨナラして」と言われ、小さく「サヨナラ」と呟くジョイ。そして2人は手をつなぎ、歩き出す。

『ルーム』の登場人物・キャラクター

ジョイ(演:ブリー・ラーソン)

17歳の時“オールド・ニック”に誘拐され、彼の家の納戸に監禁される。脱出を試みてトイレの蓋で“オールド・ニック”を攻撃するが、失敗し手首を傷めてしまう。2年後、ジャックを妊娠し“部屋”で自力出産する。その後はジャックを守ることだけを考えて生きてきた。

ジャックが5歳になり“部屋”から脱出する計画を立て、7年ぶりに解放される。それまではただ“部屋”からいつか出ることを希望に生きてきたが、7年前とは変わってしまった環境や、マスコミの執拗な取材に心のバランスを崩し、自殺未遂を図ってしまう。しかしナンシーやレオ、そして何よりジャックの愛に励まされ、前を向いて生きていくことを決意する。

ジャック(演:ジェイコブ・トレンブレイ)

ジョイが監禁されていた“部屋”で生まれる。一度も外に出たことがなく、“部屋”が“世界”のすべてだと思っている。5歳になり、ジョイから“部屋”の外にも世界があること、“オールド・ニック”がジョイとジャックを閉じ込めていることを聞かされ、初めは戸惑うが徐々に理解し始める。

そしてジョイを救うため、死んだふりをしてじゅうたんに包まり、部屋を脱出。“オールド・ニック”に捕まりそうになりながらも何とか助けを求め、そのおかげでジョイも“部屋”から解放される。最初は広い世界に戸惑うが、自殺未遂をしたジョイを勇気づけるため髪を切って送るなど、たくましく成長していく。

ナンシー(演:ジョアン・アレン)

ジョイの母親。ジョイが行方不明になってからは夫婦の関係も悪くなり、離婚して新しいパートナーであるレオと暮らしていた。ジョイが発見され病院に駆け付けると、ジョイを助けてくれたジャックにも感謝の言葉を伝える。

家に帰りたいというジョイとジャックを受け入れ、ジャックに対しても優しく接する。ジョイが不安定になりジャックに冷たく当たった時には「この子に優しくして」とジョイと口論になることも。ジョイが自殺未遂を図り、ジャックが髪を切って送りたいと言うと、ジャックの髪を切ってあげるなど、いつも2人のことを一番に考えて行動している。

ロバート(演:ウィリアム・H・メイシー)

ジョイの父親。ジョイの失踪後はナンシーと離婚し、家を出て遠い町で暮らしている。ジョイが発見されたという報せを受け飛行機で戻って来ると、病院で再会したジョイを抱きしめた。

ジョイとジャックが帰宅してからも家に残り、マスコミや弁護士の対応を率先して行うが、プライバシーを無視した言動に怒りを露わにすることも。さらにジャックに対し、“娘を監禁した男の子ども”という見方しかできず、話しかけることはおろか、目を合わせることも出来なかった。ジョイにそのことを責められた後、現在住む家へと帰っていった。

レオ(演:トム・マッカムス)

ジョイの母ナンシーの新しいパートナーで、ジョイの実家で犬のシェイマスとともに暮らしていた。ジョイやジャックのことも快く受け入れ、2人のことを尊重しながら一緒に住み始める。

新しい環境に戸惑い、ジョイ以外になかなか心を開こうとしないジャックに対し、特別扱いせず自然に接し、徐々に距離を縮めていく。ジョイとナンシーが声を荒げ口論になった時も、決して怒ったりせず、冷静に仲裁をする穏やかな人物。ジャックに免疫がついてからは、預けていたシェイマスを家に連れ戻し、レオやシェイマスの存在が、ジャックの心を開いていった。

オールド・ニック(ショーン・ブリジャーズ)

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@sas9791e0

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