涙が止まらない感動作
京都アニメーションでは「涼宮ハルヒの憂鬱」「らき☆すた」等、数々のヒットアニメを打ち出してきていますが、中でも「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」は特に人を愛する事を知るために作られたアニメといっても過言ではありません。
戦場で告げられた「君を愛している」という一言。
物語の主人公は戦闘のみを教えられ、命令に従い戦場を駆け巡る少女でした。彼女は共に戦ってきた上官の最後の一言、「君を愛している」が何の意味を持っているのか解らなかったのです。この少女は喜怒哀楽の感情が希薄だったため、愛という言葉を初めて聞いて戸惑い残された返答時間も無く、上官と生き別れてしまいます。
戦争終結後、上官の友人に紹介され付いた仕事は人々の想いを手紙に代筆(自動手記人形サービス)することでした。同じ職場で働く代筆の仕事を見てお客様が望んでいた言葉「愛している」という言葉を聞いた事から物語は進み始めます。
物語の冒頭から始まった「愛している」という言葉に対して少女が本気で向き合った瞬間は、初めて心の感情が揺れ動くモノとなったと考えます。感情を知らない少女は手紙を代筆する仕事を通じて様々な人と出会うも、その人の想いを理解できず、勘違いや食い違いの日々が続くがそんな戸惑いの中で生まれる感情は少しづつ彼女を成長させます。
他人の命令で行動を決めていた1人の少女が自分自身で求める姿は、成長する子供のようであり、共感できるでしょう。
さらに作品の魅力を紹介していきます。
まずは手紙という媒体が持つ魅力について。ヴァイオレット・エバーガーデンで重要な鍵を握っているのが手紙です。人々がこのアニメを見て感動する理由は何なのか、近年はメールやLine等のモバイル連絡ツールにより、恋人や家族との連絡手段が誰でも簡単にボタン1つで想いを伝える事ができる時代です。
簡単だからこそ想いが重く感じない事もあります。
作中では文字を書けない人が多く存在し、電話等の連絡手段がありません。そんな中での代筆による想いを伝える仕事が存在している事が大きな要因となっていると考えます。
今の時代、手紙は(作中はタイプライターを使用しています)筆で書き手の想いを文字で起こし、相手に届ける事で感動を生むモノであります。相手の存在が解り、好意をもって手書きの手紙を送ってくれば否定する人はまず居ないでしょう。
次に、視聴者から「TV神回」と呼ばれる第10話の話をしましょう。
第10話は亡くなった母親から毎年誕生日に届く手紙の話。この回はある意味娘に対する愛情の深さがにじみ出ている話となっています。
母親は残された時間が少ない事が解っていました。自分が死んだ後に母親が生きているかのように毎年誕生日に届く手紙を主人公に依頼するのです。娘は誰に対して手紙を書いていたかその時解らず、時代は流れていきます。突然、誕生日に亡くなった母親からの手紙が届き、それを読む娘の気持ちは母親の愛に包まれていた事にその時に気づくのです。
「お母さんはずっとそばで見続けていますよ」。成長と共に届く手紙はその時代の娘に対して書いた手紙だった。その数は50枚。
今の現代でこんな想いが詰まった手紙が書ける人がいるでしょうか。母親の深い愛情を感じる話となっています。
さらに主人公は母親の状況を理解しながら手紙を代筆していた。そして、娘の前では泣かなかった。同僚の前で必死に自分の感情を抑えて涙を流して仕事をしてきたと話します。
主人公にも抑えられない感情が爆発する瞬間は視聴者に大きな感動を与えたと言ってもよいです。
このアニメは、愛という言葉が重要視されています。母親から子供への愛。大切な人への愛。形は様々だが、直接的な訴えが人々の心の琴線に触れる事で感動を生んでいると考えます。現代ではメール、LINE、Facebook、SNS等、想いを伝える手段が多く存在し、簡単に人とのつながりを持つ事ができてしまうでしょう。つながりやすい環境では話題が無ければ飽きやすく感情が浮き沈みしにくく、感動も長続きがしないのではないでしょうか。