
『ブレーメンII』とは、白泉社の『PUTAO』にて1998年に連載を開始した川原泉によるSF漫画。遺伝子工学によって進化した「ブレーメン」と呼ばれる動物たちと宇宙を股に掛けた航海に出る大型輸送船「ブレーメンII」だったが、行く先々でトラブルに巻き込まれる。ほのぼの、まったりとした絵柄とは裏腹の、哲学的かつ計算されつくしたストーリー。深いのに重くなりすぎないSF漫画である。「人間並みの知性を持った動物とお仕事」というある種メルヘンチックな題材の裏にある深いストーリーが魅力。
『ブレーメンII』(Bremen II)の概要
『ブレーメンII』とは、白泉社の『PUTAO』にて1998年に連載を開始した川原泉によるSF漫画。1999年に同社の『メロディ』に掲載誌を移し、2004年まで連載された。単行本は白泉社ジェッツコミックス全5巻、文庫全4巻。
時は24世紀。文明は高度に進化、宇宙進出まで果たすようになっていた。植民惑星の開発、鉱山の採掘等で仕事こそ増えたものの、女性の社会進出も相まって、少子化により人手が足りない状態。そこで「遺伝子学やバイオテクノロジーの研究をしている」学者、モーゲンスターン博士により、元の動物としての能力、特性はそのままに、人間並みの知能と体格、従順な性格を持った働く動物、「ブレーメン」が生まれた。文明が進んでおり、「分解しない限り人間と区別がつかない」超A級アンドロイド(宇宙船が3隻買えるほどの値段)なるものも登場している。
正確無比な航行技術を持つ優秀な宇宙飛行士、キラ・ナルセ(通称イレブン・ナイン)。彼女は社長から貨物船「ブレーメンII」の船長に任命される。人間の乗組員は彼女だけ。後は全員ブレーメンというちょっと変わった宇宙の旅が始まった。しかし「ブレーメンII」は、行く先々でトラブルに巻き込まれる。
ほのぼの、まったりとした絵柄とは裏腹の、哲学的かつ計算されつくしたストーリー。深いのに重くなりすぎないSF漫画である。
人体実験、潜入捜査、動物虐待、偏見など重いテーマを扱っているが、乗組員同士の掛け合いやキラ船長、ナッシュ社長の気取らない、飾らない性格等も楽しく読める。また、宇宙航行の知識を始め、地球での宇宙開発の歴史、それにまつわるストーリーもどこか切なく、優しい視点で語られる。普段のほのぼのさがあってこそのシリアスシーンの緊迫感も魅力。各章の初めには、テーマとなる日本神話や童話などの物語が語られている。
『ブレーメンII』(Bremen II)のあらすじ・ストーリー
ブレーメンによる巡航の始まり
時は24世紀。文明は高度に進化、宇宙進出まで果たすようになっていた。植民惑星の開発、鉱山の採掘等で仕事こそ増えたものの、人類は少子化と宇宙進出によりかつてない人手不足に見舞われていた。そこで、遺伝子工学やバイオテクノロジーによって、「ブレーメン」と呼ばれる、「動物としての能力、特性を持ちつつも、体格を人間並みとして知性を高められた働く動物たち」が生み出された。ブレーメンのン登場により、キツくて危険な職場における人手不足は解消されつつあった。
学生に見えるほど若い女性ながら、「99.999…%」と9が11個付くほどに正確無比な航行技術を持った優秀な宇宙飛行士、キラ・ナルセ(通称イレブン・ナイン)。彼女は勤めているスカイ・アイ社の社長であるナッシュ・ユーイング・レギオンから、貨物船「ブレーメンII」の船長に任命される。
そうして、人間の乗組員は彼女だけ、後は全員ブレーメンという、ブレーメン達を船内全てにおける乗務員として雇用した初の大型輸送船「ブレーメンII」による宇宙を股に掛けた航海が始まった。
活動家による妨害
ブレーメンIIはワープ航法に入り、リラックスムードに入る乗組員たちだったが、そこに甲板員をしているカエルのマエダが撃たれたという連絡が入る。その後も次々と乗組員が撃たれていき、点検通路が怪しいということでアナコンダのチャールズが点検通路の調査に行った結果、社長であるナッシュが見つかった。ナッシュはセキュリティコンピューターを丸め込んで密航していたのだ。
乗組員達に対する船内裁判により、ナッシュに対し宇宙漂流の刑が言い渡されたところで、今度はステルス・スーツを着た人間、ジャック・王(ワン)が見つかる。動物好きのジャックは、遺伝子操作され労働力とされているブレーメンに憤り、ブレーメンIIの運行を妨害しようとしたスカイ・アイ社のライバル会社、Ωヴェリタス社から支給されたステルス・スーツを着て艦内に忍びこみ、クルーを次々と襲撃していたのだ。しかし、ステルス・スーツが厄介な異星人であるリトル・グレイの雄達を引き寄せる性質だったため、リトル・グレイの大群に集られて動けなくなり、ジャックは逮捕された。そしてナッシュは、船のオーナーでありながら下っ端甲板員として働かされることになった。
トラブルを乗り越えていくブレーメンII
その後もブレーメンIIは、立ち寄る星で次々にトラブルに見舞われる。あるとき、救難信号をキャッチしたブレーメンIIが救助へ向かうと、それは連邦司法省所属の囚人護送船で、中は死体の山だった。生き残っていたのは囚人船の刑務官を名乗るエルンスト・ヘルツォークという男だけ。実はヘルツォークは遺伝子レベルでの自己改造をおこなった犯罪者であり、囚人護送船の乗組員を虐殺した張本人だった。そして、ブレーメンIIの乗組員の一人である白ヤギのアベルの弟、カインを取り込んでいた。ブレーメンIIは知らずに保護するが、ヘルツォークはカインの気配に気づいたアベルに正体を見破られ、逃走。その後は惑星プレリアで凶悪な薬物を作り上げ、恐怖支配するものの、ブレーメンIIのクルーたちの妨害される。最後は体内に取り込んでいたナノ・マシーンの暴走により死亡した。
宇宙風水師の呂先生を乗せたブレーメンIIは惑星アスランへ向かったが、アスランでは原因不明の伝染病が発生し、惑星封鎖となっていた。呂先生はアスランが繁栄しない原因を、アスランの周りを回っているナイフの月であることを突き止めた。ブレーメンの船医であるカンガルーのアームストロング船医も、ナイフの月の謎のコケの胞子が伝染病の原因であることを疑う。
そして調査・研究の結果、アームストロングは伝染病の治療薬を完成させた。しかしアスランの研究者に、カンガルーの調査・研究だと鼻で笑われてしまう。そこでキラはコケの胞子を自ら吸い込み、発病させた。そして船内で治療薬を作り、無事に回復するまでの治療経過をアスランに向けて放送。このことにより、惑星アスランはキラ達の治療薬で救われた。ナイフの月も撤去され、アームストロング船医は統一連邦学術会議の会員に選出されたのだった。
自由と権利を得たブレーメン
さまざまなトラブルを乗り越え、ブレーメンIIは最終目的地である惑星ハップルに到着した。そこで出会った黒猫のブレーメン、ポーは、高価なハップル茸を栽培する会社で働いていたが、実はその会社はハップル茸の人工栽培に成功したのではなく、ブレーメンに命がけでキノコ狩りをさせていた。そのことを知ったキラとナッシュは会社に潜り込み、ブレーメン達が虐待され、酷使されている状況を撮影。これまでに出会った関係者たちにその動画を送信した。
すると、各方面からブレーメンの自由と権利を保障する法律を求める機運が高まり、結果、思った以上に早くブレーメン達の権利規約が制定したのだった。
『ブレーメンII』(Bremen II)の登場人物・キャラクター
ブレーメン以外の登場人物
キラ・ナルセ

スカイ・アイ社所属の女性宇宙飛行士。またの名を「イレブン・ナイン」。ブレーメンIIの船長であり、99.999999999%という正確な航行技術を誇ることから、「イレブン・ナイン」の二つ名を持つ。
本人の独白からするに日本人であると思われる。飛び級を重ね宇宙飛行士になった天才。ブレーメン達と旅をする中で、彼らが人間以上に衛生面でも精神面でも高度な存在であり、大切な仲間であると認識。偏見の目を向ける者には怒りの声を上げることも。また、相手が社長であろうと容赦のない制裁を加えるなど、たくましい性格をしている。
キラ船長、ナッシュ社長共々『アンドロイドはミスティ・ブルーの夢を見るか?』という作品に登場。こちらは『空の食欲魔人』(白泉社文庫)に収録されている。
ナッシュ・ユーイング・レギオン

スカイ・アイ社社長。黙っていれば涼しげな目元のイケメンで、幼少期からの英才教育の賜物として優秀な社長ぶりを披露する。
半面、皆と遊びたかった、就きたい職業が他にあったという内心の不満が「駄菓子好き」という子供っぽい面として発動。時折影武者である超A級アンドロイド、通称「ナッシュ・コピー(まねっことルビが振られる)」に仕事を押し付け「遠足」に行くことも。今回もブレーメンIIに密航したため、「罰として」甲板清掃員を仰せつかる。「誰から給料もらうんだろう」とブレーメン達からも呆れられるほど、社長としての威厳はなかったが、それだけ親しみやすい性格。老後の為に暮らす惑星があったが、他者に譲った。当初はそこに駄菓子屋を一軒作って毎日買い食いする夢を持っていた模様(キラ船長の推測)。
しかし、種々の星ではキラ船長共々悪事に加担させられている子供たちを救ったり、虐待を受けるブレーメンを助けるための潜入捜査を行ったりと、やる時はやる。キラ船長、ナッシュ社長共々『アンドロイドはミスティ・ブルーの夢を見るか?』という作品に登場。こちらは『空の食欲魔人』(白泉社文庫)に収録されている。
リトル・グレイ
火星人。または「くつくつ虫」。落書きのような外見に、意味不明な言動が特徴。とはいえ、言動の方は彼なりに意味のある物のようで、「訳」がついていることもあった。
キラ船長の推測では、火星にあるという巨大な人面岩は、「嫌がらせの為に置いていった」もの。性別はオス、というか男性。女性の数が極端に少ないのに一夫一婦制だそうで、「伴侶を得られる」確率は100万分の1だとか。厳密には彼は乗組員ではなく「招かれざる客」状態である。外見、火星人という設定のキャラクターは川原氏の他作品『小人たちが騒ぐので』(白泉社文庫)にも登場する。
アンブレラ
ブレーメンIIのコンピュータ。名前通り、傘のキャラクターのようなグラフィックが登場。A級アンドロイドとタメを張れるほど性能は高く、人間を軽視するA級アンドロイド、アリスが祖父と慕う所有者を失い暴走しかけた際「キミが馬鹿で軽率だという人間だって大切な人を失う悲しみを負っている。でも何とか耐えてるんだよ」と諭した。
ブレーメンIIに乗り込むブレーメン
目次 - Contents
- 『ブレーメンII』(Bremen II)の概要
- 『ブレーメンII』(Bremen II)のあらすじ・ストーリー
- ブレーメンによる巡航の始まり
- 活動家による妨害
- トラブルを乗り越えていくブレーメンII
- 自由と権利を得たブレーメン
- 『ブレーメンII』(Bremen II)の登場人物・キャラクター
- ブレーメン以外の登場人物
- キラ・ナルセ
- ナッシュ・ユーイング・レギオン
- リトル・グレイ
- アンブレラ
- ブレーメンIIに乗り込むブレーメン
- ダンテ
- シルビア
- オスカー
- 李(リー)
- アームストロング
- マエダ
- アベル
- ヨシダ
- ミーシャ
- ピピン
- その他
- エルンスト・ヘルツォーク
- カイン
- シャキール
- ポー
- 『ブレーメンII』(Bremen II)の用語
- ブレーメンII
- 『ブレーメンII』(Bremen II)の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話
- ほのぼのに隠されたブレーメン達の境遇・偏見
- 偏見により浮き彫りになる人間の「負」の面
- 本編の間に挟まれる「いんたあみしよん」