ほのぼのだけど深いSF漫画、川原泉の『ブレーメンⅡ(ツー)』

おっとり、ほのぼの、そしてまったり。そんな形容が似合いそうな絵柄とは裏腹の、哲学的かつ計算されつくしたストーリー。深いのに重くなりすぎない川原泉氏のSF漫画、『ブレーメンⅡ』という作品について。「人間並みの知性を持った動物とお仕事」というある種メルヘンチックな題材の裏には、やはり深いものがありました。

ポーとの出会い

それでも、辺境ともいえる星になると「餌」と称した食事を恩着せがましく渡す、名前で呼ばない、遂には所有しているだけで罪となる電撃鞭を使用しての「お仕置き」を加えるなどの「人権無視」的な扱いが横行。実際ブレーメンの法的権利はしっかりとした規定が作られておらず、虐待を受けても訴えようがない状態。

耐え切れなくなったブレーメン達はポーという黒猫に博士に虐待の事実を訴えることを託しました。従順な性格のブレーメンですが、ポーは人間不信となっており、人間の乗組員であるキラ船長、ナッシュとは口を利かず、ブレーメンの乗組員としか話をしない状態。ブレーメンと長く接し彼らを「仲間」として見るキラ船長たちはポーと食事。一流レストラン並みのカッシーニでの食事や、懐柔目的ではない、真の温かい言葉にようやくポーも心を開き、虐待の真相を話しました。

そして最後は

それまで登場した人間たちが総出でブレーメンの権利を主張。ナッシュも大企業の社長であるため「やろうと思えば何でもできる」立場です。結果会議が開かれて、思った以上に早くブレーメン達の権利規約が制定。反対者数ゼロ、まさに満場一致の大団円でした。

救いようのない悪党と、その被害者

救いようがない「悪党」も登場します。彼の元にいたアベルと、兄弟のカインはともに被害者でした。
【エルンスト・ヘルツォーク博士】天才的頭脳を持ちながら、精神がその頭脳に追いついていないという「幼稚な天才」。お約束のように周囲を見下します。麻薬の類やナノマシンを開発。自分を慕うカインの肉体を取り込むなどしますが、シャキールの方に興味を抱き「もう黒ヤギはいらない」と本音を述べました。カイン曰く「見たいものしか見えず、聞きたいことしか聞こえない」性分。徐々に怪物のような容姿(ブレーメン曰く「変な顔」)となり、最終的にはナノマシンの暴走で死亡。

【アベル】ブレーメンⅡの図書館司書の白ヤギ。本好きで聡明。一方通行のテレパシー能力でカインの考えていることが分かると言う能力を持ちます。

【カイン】アベルとはクローンにして、双子。しかし黒ヤギ。学問肌のアベルと違い、スポーツマン型。アベルは彼の思考を読み取れますが、カインにその能力はなく「訳の分からないことを言っている」と見下した態度をとっていました。ヘルツォーク博士を慕い、それが為利用された挙句「いらない」とされ初めて己の立場を悟ります。シャキールの相棒、アレンにヘルツォークの開発していた新たな凶薬「天国の門」に関する知識を与え、消滅しました。

まとめ・重いだけではない

人体実験、潜入捜査、動物虐待、偏見など重いテーマを扱ってはいますが、乗組員同士の掛け合いやキラ船長、ナッシュ社長の気取らない、飾らない性格等も楽しく読める上、宇宙航行の知識を始め、地球での宇宙開発の歴史、それにまつわるストーリーも語られます。どこか切なく、優しい視点で。普段のほのぼのさがあってこそのシリアスシーンの緊迫感。各章の初めには、テーマとなる日本神話や童話などの物語が語られます。「オマケ要素」的に「いんたぁみっしょん」という、小宇宙人が登場する物語もあります。白泉社文庫で全4巻。読んで損はない作品ですので、ご一読を。

彼らは「チネチッタ星人」といいます。

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