寄生獣とは【ネタバレ解説・考察まとめ】

『寄生獣』とは、岩明均による漫画作品、及びそれを原作とするアニメ、実写映画。人間に寄生し、人間を食らう寄生生物。そんな生物(ミギー)が右手に寄生してしまったため、数奇な運命に翻弄されることになった泉新一。単なるモンスター物、ホラー物ではなく高度な哲学性、テーマ性が物語を彩っており、今なお根強い人気を誇っています。

『寄生獣』の概要

当初は全3話の中編作品として、『モーニングオープン増刊』のF号からH号まで連載。その後『月刊アフタヌーン』にて続きである4話以降が連載開始されました。全10巻(アフタヌーンKC)、64話。期間で言えば1990年1月号から95年2月号まで。カラーページをそのまま再現した完全版全8巻がKCデラックスで2003年に発売。2014年から15年にかけアニメ化、実写映画化(2部構成)されました。映像化まで実に20年近く経ったのは、権利上の問題です。

物語の特徴

設定上死者、死体や殺害の描写が多く、人肉を食らうパラサイトや変形するパラサイトといった絵面でのグロテスクさがまず目立ちます。その一方でミギーの目から見た人間、新一の目から見たパラサイト、果ては家族、恋愛といったごく身近な関係、問題を描いており、リアクション等の描写も非常にリアル。自然環境問題だけにとどまらない、人間のあり方についても一考させる作品です。

『寄生獣』のあらすじ・ストーリー

ミギーとの出会い

新一(右)と、普段は彼の右腕に擬態しているミギー(左)。異なる種の生命体である2人は時に衝突し、時に協力しながら、絆を深めていく。

環境問題が盛んに取りざたされるようになった、20世紀末の地球。ある時、謎の寄生生物の卵が地上に降下する。ここから孵化したヘビのような寄生生物は、近くにいる人間の体内へと密かに侵入し、その脳を食らって頭部に擬態。そのまま肉体と立場を奪ってしまう。
日本で暮らす高校生の泉新一(いずみ しんいち)もこの寄生生物に襲われ、右腕から体の中に入り込まれるが、腕の根元を慌てて縛り付けることでそれ以上の侵入を妨害。脳を食われることを免れる。騒ぎを聞いた両親が様子を見に来るも、「小さなヘビが腕の中に入って来た」という新一の言葉を本気だとは受け取ってもらえず、寝惚けていたのだろうと片付けられる。

ヘビに襲われた際の右腕の傷もなぜか消えており、新一は納得できないながらも眠りにつく。しかし実際に新一の右腕には寄生生物が入り込んだままであり、傷口は彼が密かに消していたのだった。腕を縛り付けられたことで脳まで移動できなかった寄生生物は、やむなく痛覚を麻痺させてから新一の右腕を内側から食い尽くし、頭部の代わりに腕に擬態する。
朝になって目覚めた新一は、自分の右腕が勝手に動き回り、いくつもの細い触手や目を作って部屋の中の本を読み漁っていることに気づいて仰天する。寄生生物は意外にも非常に高い知性を有しており、「自分が生まれる前のことは分からないが、君の脳を奪うことに失敗した。こうなった以上は君の右腕として生きていく。君も右腕を失うのは嫌だろうし、普段はこれまで通り君の脳の指示に従い動くようにするから構わないだろう」と新一に提案してくる。気味が悪いとは思いつつ、右腕を失いたくもない新一は、自分の右腕に擬態した寄生生物に「ミギー」と名付けて共同生活を送り始める。

田宮良子の接触

ミギーと同じ寄生生物は、大半がどこかで人間の頭部の捕食に成功しており、その顔の立場を奪取して生活しながら本能に従って人を襲うことを繰り返していた。右腕を食べて成長したミギーはそういった本能から解放されていたが、「自分の身を守る」ためであれば同属殺しさえも厭わない冷徹さと合理性を発揮し、新一を「人を食わないだけで、コイツもしょせんは人間とは違う怪物だ」と戦慄させる。
そんなある日、新一の高校に田宮良子(たみや りょうこ)という新任教師がやっている。新一とミギーは彼女が寄生生物に頭部を奪われた存在であることに気づくが、それは田宮の側も同様で、新一たちに興味を持って接触してくる。

田宮は寄生生物の中でも特に知力が高く、ミギー以上に好奇心旺盛で、自分自身をも使って様々な実験と研究を繰り返していた。自分と同じく人間の頭部を奪った寄生生物と性交渉し、自身の体内に宿った新たな命が「完全な人間」であることを知った彼女は、「私たちは完全に人間に依存した生命体で、子孫を増やすこともできない。ならばなんのために生まれたのか」との疑問を感じ、新一とミギーも新たな研究対象として注目していく。
しかし田宮の赤ん坊の父親である寄生生物は、「新一たちのような異質な存在は危険だ」と本能的に判断し、学校を襲撃。ミギーは「自分たちには関係ない、犠牲は出るだろうが警官隊が到着すれば始末される」として逃げることを提案するが、新一は想いを寄せる同級生の村野里美(むらの さとみ)が逃げられたかどうか分からないとして校舎に留まり、ミギーと協力して寄生生物を撃退する。致命傷を負った寄生生物は田宮によってトドメを刺されるも、「名前も知らない相手との間に子を作った」ことが教師たちの間で問題視されたことで、田宮は新一たちの前から姿を消す。

母の死

田宮が姿を消してからしばらくして、新一の両親が夫婦水入らずの旅行に出かける。この時、新一の母親が寄生生物に襲われて命を落とし、その肉体を奪われてしまう。寄生生物は自分の正体を知る者を全て排除するために新一の父を襲い、これを取り逃がすと今度は居場所のはっきりしている新一を殺そうとする。
母と同じ顔をしている相手を殺すことができず、新一は為す術もなく心臓を貫かれる。力無く崩れ落ちた新一を救うため、ミギーは「自分の細胞で新一の傷口を塞ぎ、心臓を修復する」という一か八かの治療を敢行。これにより新一は息を吹き返す。

「母の顔をした、母の体と命を奪った寄生生物を野放しにするわけにはいかない」との決意の下、新一は取り逃がした父を狙うだろう母の片霧寄生生物を追う。そんな中、ミギーは新一の治療のために彼の体の中に自分の細胞を散らばらせた結果、「1日に一定の時間、完全に無力化してしまう」こと、「寄生生物の細胞の影響で、新一が人間離れした身体能力を得た」ことに気づく。ミギーにとってこれを新一に伝えることは「無力化している時に切り落とされるかもしれない」危険なことだったが、新一は「お前は命の恩人だ」と言って彼に感謝する。2人は少しずつ、同じ体を使って生きるパートナーとしての絆を築きつつあった。
やがて新一は母の仇を見つけ、自分同様に寄生生物に脳以外の場所に寄生された人物の力を借りてこれを倒すのだった。

流れない涙

寄生生物との戦いを経験し、母の死を乗り越えた新一は精悍さを増し、同時に同級生たちから「なんか変わった」と噂されるようになる。里美からも「別人のようだ」と疑われる中、隣町の不良の加奈(かな)という少女が面白がって新一に接近。加奈はどういうわけか寄生生物を大雑把に感知する超常的な感覚を持ち、新一(とミギー)を「どうしてか居場所が分かる、私の運命の相手なのかもしれない」と考えていた。
この頃、寄生生物の存在は政府高官などの間では認知されるに至っており、「パラサイト」と名付けられて研究が進められていた。新一は自分とミギーを守るためにより一層慎重に立ち回るが、そんな中で「寄生生物が肉体を奪った人間が市長選に立候補する」という驚愕の事態が発生する。

その舞台となったのは隣町で、ここに寄生生物たちが次々と乗り込む。「このままでは加奈がうっかり寄生生物と鉢合わせかねない」と考えた新一は、反対するミギーが無力化している間に加奈に寄生生物について教えるが、「里美のことが好きだから、自分が邪魔なんだろう」と取り合ってもらえずに終わる。
それから間もなくして、寄生生物の存在を感知した加奈は、「新一がいる」とそこに近づいて殺される。加奈の仇を討つことには成功するも、彼女の葬式に出た新一は、多くの者が涙する中で自分だけが全く泣いていないことに気づいて「俺は心まで寄生生物と同じ怪物になってしまったのでは」と苦悩する。

「母」との再会

寄生生物たちは、巧みな選挙戦術を駆使して市長選挙に立候補した仲間の広川剛志(ひろかわ たけし)を見事に当選させる。これには出産し、田村玲子(たむら れいこ)と名を変えて活動するようになった田宮も深く関わっており、ミギーは「寄生生物たちは人間を襲う単なる怪物から、より巧妙に人間社会を利用する上位存在になろうとしている」と興味津々で注目する。
田宮は新一のことも継続して調べており、そのために倉森(くらもり)という探偵を利用するようになっていた。これに気づいた新一とミギーは、自ら倉森に接触して事情を明かし、田宮に関わり続ければ命が危ないと彼に助言する。ところがこの頃、田宮は広川を巡る一連の活動の中で仲間の寄生生物たちから危険視されるようになっており、その“関係者”として倉森の家族も襲撃され彼の妻と幼い娘が命を落とす。

これに怒り狂った倉森は、「命に代えても田宮を殺す」と決意し、彼女が産み落とした赤ん坊を拉致。赤ん坊を取り返すために田宮は倉森の呼び出しに応じ、パラサイト対策で武装した警官が大挙する公園へと向かう。
この時、新一もまた田宮に呼び出されて同じ公園に赴いていた。赤ん坊を殺そうとした倉森を咄嗟に殺害し、我が子を取り戻した田宮だったが、これを察した警官たちに銃撃される。赤ん坊を守るために反撃できない彼女は、銃撃に驚いて逃げようとする新一を留めるために彼の母親の顔に化けて近づき、「人間の手で育ててくれ」と我が子を託して息を引き取る。田宮の模倣とはいえ死んだはずの母と再会し、純粋な母性を発揮して散っていった彼女の姿を見た新一は、「田宮が何を思って自分に我が子を託したのか」を思い、ずっと忘れていた涙を流すのだった。

市役所の攻防

広川以下、市役所に潜伏する隣町の寄生生物たちを一掃するため、警察と自衛隊が合同で討伐作戦を開始。加奈のそれに似た超常的な感覚を持つ服役中の凶悪犯・浦上(うらがみ)も「何かの役に立つかもしれない」と投入する力の入れようだった。「これまで幾度もパラサイト絡みの事件の現場に居合わせた」ことで、パラサイトに対して有効な見識を持つと見なされた新一も、頼み込まれる形でこれに参加することとなる。
しかし、警察と自衛隊の計画は2つの誤算により失敗に終わる。広川は寄生生物ではなく、「寄生生物こそは増え過ぎた人間を効率的に減らすために地球が生み出した救世主」だと考えるただの人間だったのである。さらに寄生生物の中の1体だと思われていた後藤(ごとう)は、1人分の体に5体の寄生生物を宿した怪物であり、自衛隊の精鋭部隊を返り討ちにするほどの恐るべき戦闘能力を有していた。

後藤は「田宮の計画も広川という人間も興味深いものだったが、どちらも死んでしまった以上は自分の強さがどれほどのものか試したい」と考え、これまで何体もの寄生生物を破ってきた新一とミギーを次の相手と定める。後藤の圧倒的な戦闘能力の前には新一とミギーもまるで歯が立たず、2人は必死に逃げ回る。
やがて新一は「いつまでも逃げられないし、父や里美を巻き込むわけにはいかない」と考え、死をも覚悟で後藤と戦うことを決意。これを聞いたミギーは、「死にたくはないが、いつまでも逃げられないというのは同感だ」と同調し、後藤を相手に大きな賭けに出る。

生きる者のエゴ

後藤を森林地帯に誘い出した新一とミギーは、ここで“ミギーを切り離す”という奇策に出る。後藤も視覚は通常のものに頼っている以上、障害物の多い森林で身体能力の高い新一が動き回れば追うのに必死で、その隙をついて分離したミギーが不意打ちで仕留めるという手はずだ。新一と分離したままではミギーは数分で死んでしまうため、文字通り命懸けの計画だった。
しかし後藤の底力の前にこれは失敗。新一はなんとかミギーを回収しようとするが、「君まで死ぬつもりか」とのミギーの叱咤を受けて1人撤退。「ミギーを、命の恩人を、大切な友人を見殺しにした」と新一は悔やむが、今さら戻って後藤に殺されるわけにもいかず、どことも知れぬ山道を歩き続ける。

やがて新一は山の麓の村へと辿り着き、そこで美津代(みつよ)という老婆に怪我をしていることを気遣われて世話になる。命を懸けるはずが自分だけ生き残ったことに安堵とも罪悪感ともつかぬ想いを抱く中、新一は後藤がまだ近くの森の中にいることを知り、「このままではこの村にも来るかもしれない、美津代たちが殺されるかもしれない」と戦慄。ミギーの仇討ちのため、再び後藤と戦うことを決意する。
「何をするのか知らないが死にに行くつもりか」と案じる美津代を説き伏せて森へと戻った新一は、不法投棄された産業廃棄物の中から拾った鉄柵を不意打ちによって後藤に突き刺すことに成功する。新一自身も知らないことだったが、この柵には猛毒の化学物質が付着しており、これによって後藤は肉体の機能を維持できなくなる。死ぬ直前に後藤の一部として取り込まれて支配されていたミギーがここで意識を回復し、後藤の体内を切り刻んだ上で新一の右腕へと復帰し、彼らの戦いは決着する。

しかし、それでも後藤はまだ生きていた。完全に行動不能となり、仮に生き延びたとしてもそれまでの戦闘能力を失うことは確実だと思われた後藤を前に、ミギーは「自分にとって特に意味はないが、同族を殺すのはやめておく」と戦闘を放棄。判断を委ねられた新一は、1度は「後藤だって生きているんだ」と見逃そうとする。しかし「後藤もまた何人もの人間を殺してきた怪物である」ことを思い出し、“他の命を傷つけてでも自分たちを守る人間のエゴ”として後藤にトドメを刺す。

ミギーとの別れ

後藤との戦いが終わった後、新一はミギーから「しばらく休むことにする」と唐突に告げられる。好奇心旺盛なミギーだったが、新一と共に過ごした中で様々なことを学び、彼の人生に自分は必要のない存在であることにも気づいていた。このまま右腕としては残り続けるが、数年か数十年か休眠に近い状態となり、新一の内側で考察に耽りたいと一方的に告げて物言わなくなったミギーに、新一は涙ながらに「どれだけお前に助けてもらったと思ってるんだ、薄情者」と別れを惜しむ言葉をかける。
その後寄生生物たちは「人間を襲って食うより、人間として人間社会に紛れて生きる方が殺されにくい」ことに気づき、ほとんどがその生態を大きく変えていった。新一は高校を卒業し、浪人生となる。一足早く大学に入学した里美との交際も順調で、普通の青年として青春を謳歌していた。しかし、市役所の攻防で密かに脱走していた浦上が彼の前に突然現れ、里美を拉致していく。

浦上は何人もの人間を面白半分に殺した猟奇殺人犯で、人間を捕食する寄生生物たちに異常な興味を抱くようになっていた。その寄生生物たちがおとなしくなってしまった今、彼は次なる興味の対象を「人間と寄生生物の間」の存在である新一に移し、彼が大事なものを奪われてなお人間性を維持できるのか試そうとしたのである。
新一は里美を助けようとビルの屋上に乗り込むも、邪魔しようとする浦上を殴り倒したために一瞬動きが遅れ、彼女が地面へと落ちていく様を目の当たりにする。「また大切な人を失った」と絶望した新一は、走馬燈のごとくミギーと出会ってからの出来事を想起する。夢か幻か、その中でひょっこり顔を出したミギーに「人間とは心に暇のある生き物であり、それは素晴らしいことだ。君がそれを教えてくれた。いつまでもメソメソしてないで、疲れるから1人で持てよ」と言われて目を開けた新一が見たものは、ビルから落ちたはずの里美が自分の右手の中にいる光景だった。

「ミギーが咄嗟に触手を伸ばして助けてくれたのだ」と気づき、新一は感謝と安堵に涙する。「里美に見られてしまったかもしれない」と思う一方、「彼女になら見られてもいい、いつか自分の一番の親友のことを教えよう」と心に決めつつ、新一は愛する里美を抱きしめるのだった。

『寄生獣』の用語

えどまち
えどまち
@edono78

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