リウーを待ちながら(漫画)のネタバレ解説・考察まとめ

『リウーを待ちながら』とは、朱戸アオにより『イブニング』にて2017年から2018年まで連載された全3巻の医療サスペンス漫画である。主人公の玉木涼穂は富士の見える町、横走市にある病院で働く内科医である。ある日、駐屯している自衛隊員が吐血し昏倒したことから始まり、同じ症状の患者が相次いで死亡する。病院には患者が詰めかけ、抗生剤は不足していく。原因はわからないまま事態は悪化の一途をたどり横走市は封鎖されてしまう。静かに死にゆく街で懸命に生きようとする人々の姿を描く物語である。

『リウーを待ちながら』の概要

『リウーを待ちながら』とは、テレビドラマ化された『インハンド』の作者、朱戸アオが描く医療サスペンス漫画である。『イブニング』にて2017年から2018年まで連載された全3巻の漫画。主人公の玉木涼穂は富士の見える町、横走市にある病院で働く内科医である。ある日、駐屯する自衛隊の隊員である滝原と老人の2人が重篤な状態で立て続けに担ぎ込まれる。 2人は似たような病状であったが、滝原は安定するも老人は死亡してしまう。何の病気だったのだろうかと原因を探る暇もなく、風邪を訴える大勢の外来者の診察に追われることになる。そうした中、前週まで元気そうに働いていた女性看護師が来なくなり、高校生の娘によってベッドで亡くなっている姿が発見される。何かが起こり始めていると考えた玉木の懸念は現実のものとなり、横走市で肺ペストが流行り始めていることが判明する。中央アジアで流行していたものを、派遣されていた自衛隊員が持ち帰り、駐屯地のある横走市に広めてしまったことが原因だった。現代版『ペスト』として、現代日本で新型ペストが発生したらどうなるのかを生活感溢れる緻密な描写で描いた警告的作品である。作中では、日用品が不足し物品を密輸する小悪党も登場するなどリアルな描写が多々見受けられ、限界の中での人間の誠実さを問う物語にもなっている。

『リウーを待ちながら』のあらすじ・ストーリー

横走へようこそ

朝7時、自衛隊の演習の音で玉木涼穂は起きた。玉木は普段は寝坊して車を飛ばさなければ遅刻してしまうが、自衛隊の公開演習が近いこの時期には大きな音で目が覚め、遅刻せずにすんだ。病院に着くと看護師の鮎澤に話しかけられ、娘の為に作ったが持っていくのを断られたという弁当を貰った。鮎澤の娘は反抗期でなかなか困っているようだったが玉木は鮎澤の弁当が大好きなので娘の反抗期を応援したくなった。午前の診療時間が終わり、楽しみにしていた弁当を食べようとしていると、病院で掃除の仕事をしているカルロスが駆込んできて倒れている人がいると知らせてきた。玉木は急いで患者を運び、鮎澤と共に治療を開始した。

自衛隊員だと思われる患者の男性は滝原という名で、一命をとりとめたが予断を許さない状態だ。玉木は一休みして今度こそ弁当を食べようとしたが、急患が運ばれてきてまたお預けになってしまった。先ほどの滝原と似たような症状の患者は中畑精肉店の中畑明雄だったが、高齢の為か治療の甲斐無く亡くなってしまう。立て続けに運ばれてきた2人の症状が似ていたことから玉木は国立疫病研究所にサンプルを送り家へと帰った。家への帰り道で救急車と自衛隊の車とすれ違いになりなにか不穏なものを感じた玉木だったが、家に帰って鮎澤の弁当を食べるとすっかり忘れて床で寝てしまったのだった。
次の日、入院しているはずの滝原がいなくなっていた。昨夜玉木が帰った後、主治医の玉木に無断で自衛隊病院に転院されたと聞き、院長の川島田に抗議するが、川島田は大事な客の自衛隊の要請だからと取り合わなかった。川島田の「愛想が悪いと腕が良くてもお客さんがつかない」という言葉に何も言い返せなかった玉木は診察を始めることにしたところで、鮎澤は体調が悪く休んでいると聞いた。滝原の治療中、滝原の体液が顔にかかっていた鮎澤のことが気になり、看護師に鮎澤に連絡を取るように言ったが鮎澤は電話に出なかった。鮎澤のことが気になった玉木は診察中にもかかわらず鮎澤にもう一度電話を掛けるように看護師に言いながら、診察中の患者から同じような症状で亡くなった老人が駐屯地に出入りしている肉屋だと言うことを聞いた。同じような症状だった2人に繋がりがある事がわかり、何かが起こっているのではと疑念を持った玉木は急いで鮎澤の家に向かい様子を見てきてくれる人を探すため歩き出した。道中、滝原が移送された自衛隊新富士病院に電話をかけ滝原の事を聞こうとしたが電話を切られてしまう。怪しさを感じた玉木はカルロスを見つけて仕事が終わり次第鮎澤の家に行って様子を見に来て欲しいと頼んだ。鮎澤の家に着き、鮎澤の娘に家に入れてもらったカルロスは倒れている鮎澤を見つけて救急車を呼ぶ。鮎澤は玉木の元に運ばれ、呆然とする娘を残して治療室へ運んだが亡くなってしまう。鮎澤の娘の名前は潤月と言った。誰もいなくなった待合室で玉木は潤月と鮎澤の事を話した。潤月も玉木も、もっとこうしていればもっと早く気づければと考えて後悔したのだった。一人になった玉木はロッカーに残る鮎澤の弁当箱を見てもう後悔するようなことはしないと誓った。

新しい患者

鮎澤が亡くなったことで院内感染の調査をすることを提案した玉木だったが、川島田は昔のように客足が遠のき病院が潰れたら困ると言ってなかなか動かない。もう後悔しないようにと誓った玉木は代わりに国立疫病研究所の検査結果が出るまで医療スタッフに注意喚起を行う事と、自衛隊新富士病院に電話を掛けるように言った。川島田は自衛隊新富士病院に電話を掛けたが病院長からも何も聞き出せなかった。玉木は潤月の体温を測ると熱が37.4度あり、鮎澤と一緒に暮らしていたこともあって入院させることにした。カルロスも入院させたかったが熱はなく費用も出せないようなので見送った。いくら何でもやりすぎだと言う川島田に玉木は死亡した2人と同じ疾患だったらどうするのかと強く訴える。すると川島田は玉木に「具体的な治療計画があるのか」と聞かれ国立疫病研究所の検査結果も出ておらず杞憂かもしれない玉木は何も言えなくなってしまうのだった。潤月が心配で夜も病院に残っていた玉木が夜食を買いに外へ出ると、自衛隊新富士病院の車が目の前を通る。

玉木は急いで車を追い、信号で止まっていた車のドアを無理やり開け何の患者を運んでいるのか問いただした。すると車から滝原の担当医だと聞いていた駒野が降りてきたので新しい患者について話をしようとしたが素気無くあしらわれてしまう。病院に戻った玉木が潤月の様子を見に行くと体温は38度を超えていた。そこへ急患のふりをした駒野が現れ死亡した患者のカルテが見たいと言い出した。何かの手掛かりになればと玉木は駒野にカルテを見せた。何かを知っている様子の駒野に玉木はこれは何なのか質問したが、駒野は入院中の患者に抗生物質を投与することと患者と接触のあった者と医療関係者に抗生物質に予防内服させるようにと言うだけだった。いきなりそんなことを言われてもできるはずがない。玉木は「できない」と言ったが駒野は強い口調で「やるんだ!」と言って中央アジアで対応を間違え地獄を見たと言って帰って行ったのだった。そのころ市街では同じような症状の人達が増えてきていた。玉木の元に国立疫病研究所ウイルス第一部の原神から電話があり、検査の結果、病原体は「ペスト」だと告げられたのだった。

タルバガンの病

時は遡り滝野が横走中央病院で発見された日。駒野は滝原を探すと同時に他に感染しているものがいないか医務室のカルテを見る為、自衛隊駐屯地に来ていた。駐屯地内を案内する衛生課所属の二曹、仁杉に滝原を探させカルテを確認していると、滝原は昨日の時点で発熱があり部屋にいないことが発覚する。焦る駒野は滝原を診た者を呼び出させた。そこへ症状の出た隊員が出始め隔離に追われることになる。自衛隊では会議が開かれそこで駒野はペストの可能性を訴え、横走市内で滝原が誰かに感染させているかもしれないので調査と公表が必要だと言う。だが駒野の先走った発言に上司は怒り、今の任務に集中するように言った。このままだと横走市でキルギスで起きたような大惨事が起こってしまう。駒野はまた何もできない自分を不甲斐なく思った。そこへ自衛隊の車を追いかけてきた玉木と出会い、せめて出来ることをしようと玉木に抗生物質の投与を促したのだった。
一方、原神は玉木から送られてきたサンプルが、中央アジアに多く生息しているシベリア・マーモット(モンゴル名タルバガン)からばら撒かれた肺ペストだと確信していた。
奇しくも防衛省が感染症の隊員が出たことを発表したのと玉木から送られてきたサンプルがペスト菌だと判定結果が出たのは同じ日の事だった。そして原神はペスト患者の出た横走に赴くべく新幹線の切符を買ったのだった。

アウトブレイク

始発の電車で横走に来た原神は、玉木の働く横走中央病院に行こうとして渋滞にはまっていた。渋滞の原因は横走中央病院に患者が押し寄せていたからだった。横走中央病院では玉木が押し寄せる患者に対応するため不安がる看護師をなだめながら診察を開始しようとしていた。混乱する中、原神が病院に到着し、感染拡大を防ぐアドバイスをしていると、自衛隊員を連れた駒野が偵察と称して手助けに来た。自衛隊の派遣命令が出ていなかったため、駒野の独断での行動だった。交通整理などの目処が立ち、玉木は楽しそうにしている原神に呆れながらも病院を開けたのだった。
病院に着いた川島田が見たのは普段の様子とは全く違った病院の姿だった。許可もなく一般診療をやめ、ペストにかかっているかもしれない患者を診ている玉木に川島田は怒りを覚えた。事態の深刻さに気付いていない川島田に原神が近寄り仕事をするように言ったのだった。

今日を耐えきる

潤月は熱にうなされながら母親につらく当たってしまった日の事を思い出していた。両親が離婚した潤月は、彼氏のコウタにたしなめられても頑なに母親を受け入れられずにいた。母親が亡くなった日も家に着く前に電話があったが出なかった。そして家に着きカルロスと出会い冷たくなった母親を見つけたのだ。薬を投与しに来た玉木は熱が下がってきた潤月にほっとした。鮎澤が亡くなった日、感染源があるかもしれない部屋に潤月を帰したことを後悔していたのだ。謝る玉木に潤月は、触るなと言われていた母親が作ったお弁当を食べていたことを話した。潤月は今まで母親にしてきた事を後悔して泣いたのだった。

病院には人工呼吸器や抗生物質が沢山届き、一息ついた原神は楽しそうに山を眺めていた。自衛隊の協力も決まり、応援の医師団も明日には来る予定となり何とか今日を耐えきったのだ。川島田は打って変わって不機嫌そうに玉木と原神に向かって以前サルモネラ菌の院内感染を起こしたことで多額の損失を出し、今回もまたそうなるだろうと愚痴をこぼした。原神は抗生物質が一切効かないサルモネラ菌の院内感染の事を知ってはいたが、病院名が違ったため横走中央病院のことだとは思っていなかった。原神は顔色を変え抗生剤投与に関して見直すため部屋を飛び出し玉木は後を追う。現在確認されているほとんど抗生物質が効かないペストの多剤耐性株の性質は多剤耐性のサルモネラ菌から受け渡されたものだった。もしもそのサルモネラ菌が生き残っていたとしたら抗生物質の効かないペストが蔓延することになる。原神と玉木は急いで感染ルートを再検証することにしたのだった。

100%

病院では抗生物質が効いていない患者が出始めていた。川島田は信じたくないようだったが、高齢でない患者も亡くなっており、その中には畜産業者とふれあいサルモネラ菌と出会った可能性のある患者もいた。玉木と原神は多剤耐性のサルモネラ菌とペスト菌が出会ったと仮説を立て畜産業者と触れ合う機会のあった者を入院させることにした。最初の頃、ペストにかかって亡くなった中畑明雄は精肉店を営んでいた。その後、家族の正子や智美も入院したが亡くなっている。玉木と原神は正子を病院に運んだ配送業者を探すため市中を走り回っていた。やっと見つけたドライバーを病院に運んだが亡くなってしまい、ドライバーの働いていた運送会社の職員達も亡くなってしまう。
中畑精肉店と関わりのあった人達は抗生物質が効かず亡くなってしまった。悪夢のような事態に川島田はまだ何か効く抗生物質があるはずだと半ば現実逃避していた。そんな川島田を横目に見ながら原神は現実に目を向け、ありったけの防護服と死体袋を発注したのだった。

敗北

玉木は病院の外に作られた患者用テントを走り回っていた。患者に使う医療機器が足らず手も回っていなかった。感染者が出てから10日ほど経ち、死者の数は100人を超えていた。

火葬場まで汚染地域にしない為、仮埋葬をしてお坊さんにお経をあげてもらう。まだなにか打つ手がないかとペストと戦う気力を見せる玉木に原神は諦めたように「僕らはもう負けた」と言った。原神は横走市を封鎖させるため、わざとラジオでペスト菌の怖さを説明し住人がパニックを起こすんじゃないかと政府に思わせた。過去の災害時、住民がパニックを起こした例はない。原神の思惑通り、政府は住民のパニックを恐れ横走市を封鎖することを決定したのだった。

シヲフウサセヨ

政府の要請により横走市は封鎖された。封鎖された横走市では配送が止まりコンビニやスーパーでは商品が品薄になっていた。世間では閉鎖された横走市の様子を撮影するためにドローンを飛ばす民間人も現れていた。横走市が封鎖され、隔離されたことをニュースで知った玉木は原神元へ走って行き、「住人を閉じ込めて殺す気か」と憤った。原神はそれに対して「中世と同じなら全員じゃなく3分の2だ。ペストを横走市にとどめておければ死者は6万人ですむ」と言う。日本全土に広がれば8千万人、世界に広がれば50億人の犠牲者が出ると予想される。玉木は原神が勝手に命の選別をしたことに怒りを隠しきれなかった。

リウーを待ちながら

横走市の外では、横走市から逃げる人を脱走(だつばしり)と呼んで面白半分で捕まえる自警団ができ、勘違いで無関係の人を追い回すなどの被害が出ていた。ペストの広まる前に市外に引っ越していた元横走市民も病原菌扱いされ、横走市民は差別の対象となっていた。そんな中、潤月はインターネットを通じて授業を受け、変わらず接してくれるクラスメートたちに励まされていた。だがある日、クラスのSNSで潤月への悪口が書き込まれる。1人が言えばまた1人と増えていき、潤月への誹謗中傷はエスカレートしていった。潤月の彼氏コウタはクラスメイト達に怒り抗議したが、潤月はコウタからの電話もメールも無視して一方的に自分とは別れた方がいいとメールをしたのだった。潤月は鳴り続ける電話から逃げるように家を出て、横走中央病院に行きカルロスと世間話をしていた。そこへ人手を探していた原神が現れ、患者の住所のマッピングを手伝うことになった。原神は暗くなる前に家へ帰るようにと言うが潤月は一人の家でやることもなく帰りたくなかった。そこで原神はアルベールカミュの代表作『ペスト』を勧めた。原神は『ペスト』に出てくる医師ベルナール・リウーのようになりたかったが、自分には無理だったのでリウーのような先生をずっと待っていると言った。次の日、潤月が横走中央病院に行くと原神と駒野が話しているのが見えて潤月は咄嗟に隠れた。駒野は原神に滝原の意識が戻ったことを伝えに来ていた。駒野は最初に発症した患者だったので原神は話が聞きたいと駒野に言った。駒野が帰り、原神は隠れている潤月に声をかけて隠れた理由を聞く。潤月は感染の原因である自衛隊の人と話をしたくなかった。横走市の外の人間はみんな潤月たち横走市住民を病原菌扱いし、死んだ方が世界の為だと言われていた。潤月はそのことを理不尽に感じて怒りを覚えた。

潤月は自衛隊員が病気を持ってこなければ母親も死なずこんな辛い思いをしなくてもよかったと泣いた。泣く潤月に原神は、多くの人も潤月も安い肉を求め購入する。安い肉を求める人間の為に劣悪な飼育環境で肉が作られ、その中で病気は生まれるのだと安い肉を例に出して話をした。本当に悪いのは病気を持ち込んだ人ではなく求めた人間の方かもしれないと言った。今回の件の原因も複雑で、元々自衛隊がキルギスに派遣された理由は大震災の救援という人助けのためだった。原神は「世界はもっと複雑だ。本当に問題を解決したいからいろいろな方面から調べて答えを探すんだ」と言った。
その頃自衛隊新富士病院では滝原が他の自衛隊員に暴行を受けていた。滝原は意識を取り戻した後、自分のせいで感染が広がったと自分を責め、暴力を受けても仕方がないと思って黙って受け入れていた。駒野に誰にやられたのか問い詰められた時も「悪いのは自分だ」と言って何も言わなかった。
原神から話を聞いていた潤月はコウタから呼び出されて横走市の封鎖されている境界まで来ていた。コウタは封鎖線の警備員に止められながらも潤月に「好きだ」と叫んだ。

潤月もコウタに自分も好きだと伝えて思いを確かめ合ったのだった。
一方、自衛隊新富士病院では自責の念に囚われた滝原が自殺してしまった。駒野は必死に蘇生を試みるが甲斐無く亡くなってしまう。横走中央病院でも玉木が必死に患者の蘇生をしていたがこちらでも死者が増えるばかりであった。元気のない玉木に潤月が母親の真似をして弁当を作って持ってきたのだがほとんど口にせずに患者の元へと戻って行ってしまう。住人も玉木も絶望に慣れ始め、状況は一層悪くなっていた。玉木は薬も機械もある状況で患者を治せない状況に医者とは何なのか、自分に何ができるのか考えていた。そんな時、患者の小倉真結が息子を探しているのを見つける。患者の数が多く別々の部屋になってしまっていたのだ。玉木は治せない患者を診る事よりひと時でも患者を安心させることを選んだ。玉木が小倉の元へ息子の由翔を探して連れていき、親子は最後の時を一緒に過ごすことができたのだった。

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