リウーを待ちながら(漫画)のネタバレ解説・考察まとめ

『リウーを待ちながら』とは、朱戸アオにより『イブニング』にて2017年から2018年まで連載された全3巻の医療サスペンス漫画である。主人公の玉木涼穂は富士の見える町、横走市にある病院で働く内科医である。ある日、駐屯している自衛隊員が吐血し昏倒したことから始まり、同じ症状の患者が相次いで死亡する。病院には患者が詰めかけ、抗生剤は不足していく。原因はわからないまま事態は悪化の一途をたどり横走市は封鎖されてしまう。静かに死にゆく街で懸命に生きようとする人々の姿を描く物語である。

横走中央病院

物語の中心となる病院。玉木の働く病院。5年前にサルモネラ騒動を起こしたことで1億円近い損失を出した。元は東麓病院という名前だったが市町村合併に伴い3年前に今の名前に変わった。

国立疫病研究所

通称「疫研」
原神の働いているところ。作中で玉木がサンプルを送った場所。

ペスト

世界で3回大流行しており世界で2億人の人間を殺している。
1回目は6世紀の東ローマ帝国、2回目は中世のヨーロッパ、3回目は19~20世紀の中国とインド。
一番有名な中世ヨーロッパの流行では全世界で8千500万人が亡くなった。これは当時のヨーロッパの人口の3分の1~3分の2であった。
ペストはほとんどの場合ペスト菌を持ったノミに噛まれると感染する。マーモットやスナネズミ、ホリネズミなどのげっ歯類は自然の中でペストと同居しており、世界に広く分布している為ペストを根絶させることは難しいとされている。
作中で流行したのは「肺ペスト」と言われるもので、咳などを介してヒトからヒトに直接感染すると言われている。肺ペストは突然の高熱から始まって頭痛、呼吸困難、胸痛、咳、血痰、消化器症状を伴う。治療を行わなければ1~2日ほどで100%の患者が死亡する。抗生物質がよく効くが、治療は発症後18時間以内に始めなければ予後が悪いとされている。

多剤耐性菌

多剤耐性菌とは、多くの抗生物質に耐性を獲得した菌のこと。感染症にかかってもその治療薬として抗生物質を使うことができれば、菌は死んでしまい、その後症状も回復する。菌がひとつの抗生物質に耐性を獲得してしまい治療に使えなくなったとしても、抗生物質は多くの種類があるので他の抗生物質を使って治療することができる。しかし、多剤耐性の菌に感染してしまった場合、使える抗生物質の種類はかなり限定されるので、耐性でない菌に比べれば治療が困難になる。本作のペストは、ほとんど抗生物質が効かないサルモネラ菌から性質を受け渡されたペストである。

タルバガン

シベリア=マーモットのモンゴル名。
世界で唯一ノミを介さず肺ペストをばら撒くことができると言われている。中央アジアに多く生息している。

『リウーを待ちながら』の名言・名セリフ/名シーン・名場面

イチロウ「この世界にはコントロールできる事とできない事があるんだ。もっとあきらめながら頑張らないと続かないぞ」

子どもの頃玉木がイチロウに言われた言葉。子供の頃イチロウとドライブ中に山奥の林道で車が故障した時、希望を捨てずにいた玉木に向かってイチロウは「この世界にはコントロールできる事とできない事があるんだ。もっとあきらめながら頑張らないと続かないぞ」と言って世界に期待しすぎないように諭した。ポジティブの塊だと思っていたイチロウから言われて玉木は驚いた。期待しすぎず、しかし悲観せず根気強く頑張る玉木をつくったひと言である。

潤月「うん…許さない…」

新型ペストに感染し、孤独と恐怖に襲われている時に父親が現れ今まで放っておいた事を謝られる。仕事を辞めて側にいてくれようとする父親に潤月は「うん…許さない…」と言って安心した顔をしたのだった。潤月は母親と潤月を残して東京に行ってしまった父親が嫌いだった。一人で生きていかなければと思い周りには強がって頑張っていたが、ペストに感染してしまう。孤独と恐怖に襲われ諦めかけた時に駆けつけてくれたことで潤月は一人ではなくなり安心したのだった。

『リウーを待ちながら』の裏話・トリビア・小ネタ/エピソード・逸話

タイトルの「リウー」とはカミュの小説に出てくる医師の名前

タイトルにある「リウー」は、本作と同様にパンデミックを描いたアルベールカミュの代表作『ペスト』の中で病と格闘する医師の名と条理演劇として知られるサミュエルベケットの『ゴドーを待ちながら』をかけたもの。作中では原神が『ペスト』に出てくる先生になりたかったと潤月に本を勧めている。作者はインタビューで「リウーは、ある種の理想像。あんな人になれるよう、みんなで頑張ろうという意味を込めた」と語っている。

新型コロナウイルスによって再注目

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、感染症を扱った漫画『リウーを待ちながら』が話題となった。日本の現実と重なる描写のリアルさが注目され、2020年5月には緊急重版された。政府は緊急事態宣言を出し、横走市を封鎖する。SNSや風評で悪意が拡散し、横走の関係者が苦しむ様子は、現実世界で起きた新型コロナ感染者への差別的対応や、感染を広めた人に行われたインターネット上での非難や中傷といった動きと重なっている。作者の朱戸アオは「今がつらいことの裏返しでもあり、複雑だが、次の日常をどう過ごすか考えるきっかけになれば」とインタビューで話している。

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